#5 貴様ら、ついて来い!「いいよ、ただし条件がある」
平和的思想と人望、そして何よりどんな仕事も卒なくこなす有能さで不本意な出世を続ける童顔の政府幹部は、ゲンの「千空ちゃん探すの手伝って」という端的な打診に、立板に水の勢いで返してきた。
「僕のことは外交事由のタスクフォースメンバーとして正式に特別召集すること。問題の解決後に2週間の特別休暇を設けること。特別休暇中に龍水財閥所有の船を僕個人に無償貸与すること。召集の瞬間から特別休暇の終了までは復興政府の仕事の一切から僕を解放すること。これにゲンが今すぐイエスと言うなら手伝う。譲歩はしない。後から誤魔化したら一生恨む。どう?」
「いっ!? う、うん、イエス!」
「オーケー、すぐ行く」
抑揚のない声のまま、通話は切れた。西園寺羽京はどうやら、限界が近いらしい。
ゲンは端末を持ったまま苦笑する。羽京は元来、自分のわがままは全て通すタイプだった。文明復興時期に羽京や自分が振り回される側だったのは、千空や龍水の勢いが強すぎたからだ。羽京は我欲を諦めない。それでストーンウォーズ初期の頃はずいぶんと苦労させられたし、それが勝利の決め手にもなっていた。
「バイヤー、羽京ちゃんストレス限界よ」
「はっはー! 海に出ないとそろそろ死ぬと言っていたからな!」
羽京にデスクワークの適性があったのは不幸なことだと、仲間たち皆が思っている。鋭敏な聴覚を持つぶん静けさを好み、水底の音に包まれて生きたい男が、海から離れて事務作業に追われているのは気の毒でもあった。
しかし復興政府には文明再興の初期を知る人材が必要で、その人材は政府幹部としての立ち回りの中で科学者の地位と復興初期メンバーの身辺を守る役目も兼ねる。それが出来るのは組織内でのバランス感覚と誰からでも人望を集められる人間性を持つ羽京が最適任だったし、何より初期復活者でまともにデスクワークができる人材がほとんどいない。「皆からの強い推挙」はほとんど嘆願でもあった。
羽京は基本的に、年下からの「お願い」を断れない。不本意そうに、それなりにきつそうな愚痴をこぼしながら、それでもゲンが外交官として動きやすいように陰日向にさまざまな根回しをしてくれていた。
「なんでも人並み以上にできちゃうヒトって大変だよねぇ、ジーマーで」
「羽京に必要なのは官僚型の組織と上司だろう。それなら政府幹部のキャリアが最適任だ。違うか?」
「違わないけどね〜。本人がソレ望んてないのが気の毒〜」
ケラケラと笑うゲンに、羽京より一足早く合流していた北東西南が、冷ややかに声をかける。
「そう言う君も、人のこと言えないと思うけどぉ?」
南は自他共に天職と認める記者に戻り、仲間たちの記録を残し続けていた。千空やゲン、龍水に最も近しいジャーナリストであり、世界中から情報の要と見なされているが、当の本人の機嫌は、司の海外遠征に同行できるかできないかに大きく左右される。
そして昨日、司は北米から南米にかけての視察のために、日本を発っていた。
「わ〜、南ちゃんゴイスーご機嫌悪ぅ……」
「だって二週間も離れ離れなんだから! もう司さんが足りないのよ〜!」
「貴様、それだけ言うなら無理にでも行けば良かったんじゃないか?」
「分かってるわよっ! 立場上無理は通せるけどね、それをしないから守れるものもあるのよっ! でも寂しいのは変わんないの、愚痴くらい言わせなさい!」
「はっはー! 貴様のプロ意識は良いな、欲しい!」
「やんないわよ!」
「……ねえSAIちゃん、俺、この二人って何だかんだ相性良いと思うんだよね〜……」
「そうかな? 龍水はだいたいっ誰にでもこんな感じだろう?」
「あ〜、うん。そうね……」
きゃいきゃいと言い合う二人に、ゲンは常日頃からの疑問を投げてみたのだけれど、相手が悪かったらしい。
話題の振り先を間違えたなと反省しているうちに、龍水相手に一通りの八つ当たりを済ませた南が腕を組んでゲンを見やった。
ふう、と一息つくと、もうプロの顔になっている。
「……それで? 呼び出されたのが私と羽京くんってことは、おおやけには明かされてないような情報が必要なんでしょう? 何が欲しいの?」
眼光は鋭く、声にも躊躇いはない。南の切り替えは、収録のカチンコを鳴らした時に場の空気が変わる、あの感じによく似ていた。
「いいね〜俺、そういうの好き」
「え?」
「いやメンゴ、こっちの話♪ まあ端的に言えば千空ちゃんが失踪しちゃってさ。SAIちゃんがだいぶ絞ってくれたんだけどまだ情報が足んないの」
「なるほど?」
「あ、意外にリアクション薄っ」
「ゲンがこんな動き方するのなんて、千空絡みの時だけじゃない」
うっ、詰まるゲンを、龍水が愉快そうに見ている。つくづく人の欲が好きな男だ。
「千空が絡んだ貴様のことは、仲間たち皆が分かっていると言っただろう? ……そら、もう一人が来たぞ」
龍水が目だけで促した扉が、完璧なタイミングで開く。そこには、完璧な所作の執事が立っていた。
「お待たせいたしました」
「フランソワちゃん!」
「結局、休暇中に呼び出してしまったな」
「いえ、十分に休ませていただきましたので。……羽京様、こちらへ」
フランソワに促されて、苦労性の政府幹部が姿を見せる。人好きのする童顔にまあまあ濃い隈を浮かべているが、疲労しつつもどこか晴れやかに見える。
「やあ。久しぶり」
「お久〜羽京ちゃん! ……と、それ何?」
羽京は小さなバックパックと別に、いかにもずっしりとした雰囲気の手提げ袋を持っている。ゲンのシンプルな疑問に、羽京は袋を掲げて
「エナドリ」
とだけ言った。
「えっ、何本……」
「さあね、あるだけ買ったから数えてない」
「貴様……」
「なんかメンゴ……」
「いいさ。さあ、千空探しだっけ。それが終わったら休暇だ。さっさと片付けようか。集中させてくれるんだろ?」
がしゃん、と音を立ててドーピング飲料をデスクに放り、来客用のソファにどっかりと座る。腹を括った態度に、官僚という仕事のキツさとそれにしっかり適応する羽京の強さが見えた。
「バイヤーかっこいい……」
「……はやく済ませて、羽京くんのこと休ませてあげようか?」
「そ、うだな」
「そうっだね」
◇◇◇◇
久しぶりに千空と会えたのが三日前。二年ぶりの逢瀬に、二人ともたっぷりの休暇を確保していた。とはいえ立場上、完全に仕事から離れるのは難しい。だから端末は必ず手元に置いていたが普段と比べれば業務連絡は激減しており、仕事仲間たちの大人の気遣いには感謝痛み入るななんて思いながら、甘ったるい時間を過ごすつもりでいた。
「……で、その千空ちゃんの端末が今ココ、俺の手元にアリマース」
無駄に手のひらをくるんとひるがえし、千空の通信端末を袖口から登場させる。端末は、業務用プライベート用ゲンとの連絡用の3台があった。
甘ったるい時間を過ごすつもりでいたゲンの目論見は一日で潰える。モーテルでの睦言の後に体を清めて千空の家に帰り、へろへろの家主を寝かしつけたのが、愛しい恋人を見た最後だ。
翌朝、ゲンの隣に千空の姿はなかった。家の中を引っ掻き回して痕跡を探し、持ち主不在の通信端末をあるだけ持って龍水のセーフハウスを訪れた、それが一昨日。
「フゥン、端末はこれで全部なのか?」
「正直分かんない。大樹ちゃんによれば石化前にもアホほどガジェット持ってたらしいし、端末の数なんか自力で増やせるだろうし」
「どこのギャルよ」
「俺もそう思う」
「つまり千空は、これ以外の端末を持ち歩いてる可能性もある、ってことだね」
「そういうことになるね……ねえSAIちゃん、端末のロックって外せるもの?」
「総当たりでパスワード試す? 千空のことだし、何度かミスったら端末の中身が消えるくらいのセキュリティはっ入れてると思うけど」
「だよねえ〜、やめとく」
千空が、ゲンの行動を予測しないわけがないのだ。パスワードはおそらく、すぐに推測できるものではないだろう。しかも状況的に、千空は故意に姿を消した可能性が高い。それなら、わざわざ置いていった端末に、意味のあるデータを残してはいないだろう。
そう、千空は故意に姿を消した。
ゲンとの蜜月に、わざわざタイミングを合わせて。狙いはなんだ?
その洞察力を以って五知将と呼ばれていた羽京が、ゲンと同じ結論に至った。
「……ゲン、千空は、君が見付けるのを待っているね?」
「そーみたい、だねえ?」
わざわざ恋人との逢瀬の日に、寝ているゲンの隣をそっと抜けて姿を消した。
見付けてみろ、ということなのか。
焦燥感に追われていた心に、違う刺激が走る。
ゲンは、ぐらぐらと煮え立つような衝動が湧いてくるのを感じていた。
これは、闘争心だ。十年近くも前に、南米に置いてきたつもりでいたもの。もう争いたくない、と消したつもりでいたもの。
「ふーん……面白いじゃん」
メンタリストにそういう勝負、挑んじゃう?
知らず知らずのうちに、口角が釣り上がってしまう。そんなゲンに龍水は、どこか嬉しそうに声をかけた。
「貴様、楽しそうだな」
「そーねえ〜。一度は手に入ったと思ったものを失うのって、何より悔しいもんだかんね〜?」
そう、これは楽しい楽しい追いかけっこだ。せっかくの逢瀬の日を削ってまで離れていった、世界一の恋人だ。少なくともシンプルにイチャこく日々よりも楽しませてくれるってことなんだろう? なら、受けて立とうじゃないか。
「フゥン、面白くなってきたな? SAI、調査結果を見せてくれるか?」
ゲンに共鳴したのか、龍水の笑顔も心なしか鋭い。SAIから紙の束を受け取って広げると、応接テーブルいっぱいの広さになった。龍水がテーブルの端に両手を置く。海図を前に航路を仕切る船長そのものの風格。
「世界一のパワーカップルの鬼ごっこだ。今回俺はゲンに加勢するぞ。貴様ら、ついて来い」
「Aye, Sir」
「そうっだね」
「まあ、流れ的にはそうなるよね〜」
龍水の端的な指示に、羽京は嬉しそうに、SAIはしぶしぶの顔で、南は何を今更といった声で、それぞれ応諾した。
SAIが一日で洗い出したリストには、六十二の組織名が書いてある。千空を尊敬する科学サークルを称した少人数のグループもあれば、石化そのものがドクターストーンこと石神千空の陰謀だったと主張する集団もある。石神博士のファンクラブのような集団もあった。
「羽京ちゃん南ちゃんに頼みたいのはスクリーニング。こん中で知ってる奴があったら教えて欲しいのよ。無視しても良さそうとかこいつらキナ臭いとか、どんな小さいことでも知りたい。不確かな情報とか主観が混じってても全然構わない。むしろプロの勘てやつに頼りたい。もうちょい絞れたら俺が潜入調査するつもり」
SAIには「ちょっとでも千空ちゃんに関係がありそうならリストに入れて」と頼んである。当初の想定よりは少なかったが、手当たり次第に調べるには多すぎる。そこで調査の優先順位を付けるために、羽京の官僚として、南のジャーナリストとしての知識に頼ることにした。
「OK、そういうことね」
「了解。ああ、僕ここ知ってるよ。復興政府へのロビイングに熱心でね……」
さっそく仕事に入る羽京と南に、安心感あるなあとゲンは嬉しくなってしまう。二人は順にリストを追いながら、情報を書き込んでいった。
「念のため確認しておくが羽京に南、ブロックチェーン経済圏のことは知っているな?」
龍水が話しかけても、二人とも手が止まらない。思考を止めている様子もなく、当たり前のように返答もする。
「ああ、もちろん。印刷技術が追いつかない以上、質の低いドラゴ紙幣が出回るよりも、信頼できるデータを流通させたほうが無難だろ? 素人の僕でもそう思うよ」
「そうねー、最近は新興のトークンがポコポコ出ては消えてるみたいだけど……どのみちドラゴベースだし、遠からず淘汰が済んでブランドも定着するでしょう? 第二の国境線は、その時に明確になるんじゃないかしら。あ、ここは無視して良いと思う。君たちのことアイドルみたいに追っかけてる子たちの集まりよ」
「はっはー! さすがだぜ!」
龍水は上機嫌で指を鳴らす。
政府幹部とジャーナリストなら、ブロックチェーンもDAOも知っているのは当たり前なのだろう。ゲンには特に、南の一言が刺さった。千空先生の特別講義でもない限りは新しい科学技術とそれがもたらす社会への影響について勉強する気なんかなかったのだけれど、外交官として働く以上はもう少し知っておくべきなのかもしれない。
「新興のっトークンのどれかに、千空が関係してるんじゃないかって思うんだ」
「ああ……」
「なるほどね」
前提の知識を共有しているから、SAIの端的な言葉への反応も良い。
「俺の騙りはしらみ潰しだ。千空は俺ほど数は多くないが、巧みなものが多いな。おそらくいくつかは、本気で千空に認められたと勘違いしている」
「龍水のっ騙りはすぐにボロが出るからねっ。その点千空は」
「……科学知識は、千空ちゃんの専売特許でもないものねえ」
ゲンの言葉に、全員が頷く。
千空は人類科学の集合知だ。千空自身、一貫して「自分じゃなくても科学はできる」という姿勢でいる。
石の世界で一人目覚めた時は、科学知識を持っている人間がそもそも千空しかいなかった。そして百夜の遺志を正確に理解できる人間は千空以外にいなかった。だから、千空が世界再興の起爆剤になったのは事実だ。
しかし千空は、その状況を変えていった。皆に知識を伝え、再現可能な科学の環境を再構築して、知識と技術の代替性を上げていった。「知識のスペアは多い方が良い」なんて言ってもいたが、世界の復活者の中には、スペアどころか千空以上の専門性を持つ者もいる。その典型がSAIだ。
実は今の世界にとって、千空は代替可能な存在と言える。しかし次のクラフトのためには千空自身にカリスマと資金が集まる仕組みが必要で、だからゲンはそのために、千空の凱旋に合わせてイシガミ賞を作り、千空をその第一回受賞者にしていたのだった。
……ノーベルちゃんがダイナマイトの権利でガッポガッポ稼いだお金もチリになっちったんだから、新しく資金を動かす権威が必要でしょ。そのためには千空ちゃんの名前は不可欠でしょうよ。
ゲンからそのように言われ、世界中から担ぎ上げられば千空だって断れない。
第一回イシガミ賞の受賞者、という権威は、今のところ有効に働いている。タイムマシン研究に余計な邪魔が入らないのがその証左だ。そして偽物が現れるのは、その権威を悪用するためだ。
「……千空ちゃん、見た目と振る舞いは派手だけも中身は普通の子だから、真似しやすいのかもね〜」
「司さんみたいにみんなの目の前で戦うわけでもないし?」
「龍水みたいに、積極的にメディアに出るようなタイプでもない」
「騙りが出ていることを知った上で逆手に取って、その中に紛れている可能性も十分にあるな」
何か、何かを掴みかけている気がする。コハクやスタンリーの騙りが出ないのは、最前線の人間として現場に出ているからだ。龍水と千空の騙りが出やすいのは、知識で戦うしんがりの大将だからだ。龍水と千空の違いは何だ。もっと、何かあるはずだ。
「……SAI、DAO内で、俺の騙りがすぐにバレる理由は分かるか?」
「え? それはもうっトークンだよ」
龍水の探るような問いに、SAIはさらりと答える。龍水は一瞬キョトンと目を丸くして、すぐに満面の笑顔になった。
「はっはー!! 俺を名乗りながら悋気を出すか!!!」
「そういうことっ」
「えっ何?」
「メンゴどういうこと?」
「龍水、龍水。分からないよ、僕らには」
SAIの説明不足を龍水が全て分かってしまうから、この兄弟の会話は跳躍幅が大きい。それに着いていけず、さすがの羽京と南でも手を止めて龍水を見やる。そんな三人に、龍水はそれはそれは嬉しそうに続けた。
「俺を騙る者に人が集まるのは、先行者利益を得られると思うからだ。その癖俺の偽物はドラゴを持っていないからな、メンバー報酬をドラゴに直結しないトークンの発行で済ませてしまう。何なら参加資格としてドラゴを要求しているかもしれん。現金を出し渋る七海龍水だ、怪しいだろう? それでバレるというわけだ」
「……んぇ? 龍水ちゃんを自称するのにケチってこと?」
「はははっ、それは……」
「それはねえ〜」
さすがに全員が苦笑する。「ケチな龍水」という概念は、かなり新鮮だ。
財閥トップとしての龍水は、ドラゴの価値と信頼性を保証する存在と言える。本当に龍水であれば、誰もが富む仕組みにするために大量の金を投資するはずで、末端からの搾取構造を作るはずがない。
「龍水ちゃんの財力は、ジーマーで換えが効かないもんねえ」
「なるほど、そのあたりは千空の科学知識との違いだね」
「だが千空の騙りが出るのは、千空という存在に換えの効かない価値があるからだ。違うか?」
「換えの効かない価値、ねえ……」
各々が腕を組んで、天を仰ぐ。応接室の高い天井が、全員の視線を吸い込んだ。
千空だけが持つ、換えの効かない価値。
そんなもの、ゲンには「千空が千空であること」以外にない。
そして仲間たちにとっても、それは同様であるはずだった。
「千空の科学知識は、確かに他の人も持っているけれど」と、ぽつりと羽京が言った。
「でも千空には、人を巻き込む力みたいなものがあるよね。あれは誰しもが持ってるものじゃない」と、南が続ける。
「人のほうがっ集まってくるタイプだ。龍水みたいに無理矢理っ人を巻き込むのとも違う」普段は龍水にしか興味がなさそうなSAIにも、思うところはあるらしい。
「千空が千空であること、それが千空の価値か」
「同感だね〜。科学屋は世界中にいるけど、千空ちゃんって存在の代わりになれる人間はいない」
科学知識の代替性。
千空という男の、非代替性。
「あ」
ふ、と羽京が目を丸くした。
そのまま、かぶりつきでリストの再確認を始める。
「ど、どうしたの、羽京くん」
「南ちゃん、これかも」
羽京が何事かを呟く。南もハッとなってリストに食らいついた。
「違う、違う、これも違う。……これ。これもそう。これは違う……」
先ほどとは勢いが違う。
何を掴んだのか。まだ水は差さないほうがいいか、と黙ったまま龍水とSAIを見ると、龍水も目を丸くしている。
「龍水っ? 何を……」
空気を読まずに声を出すSAIに、龍水がぽつりと返した。
「……NFTだ」
「えっ? ……ああ!! し、調べてくるっ!」
その一言で、SAIも全てをする。そのまま書斎に走っていった。
「め、メンゴ龍水ちゃん、いま何て?」
「NFTだ、非代替性トークン」
「へぁ?」
「千空はNFTの中にいる! 当たるぜ、船乗りの勘は!」
バチィン、と鋭く指が鳴る。羽京と南も、力強く頷いた。