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    最終話 これが、信用なき通貨の末路だ七海の歴史は江戸時代、一艘の船で小さな川の渡しをしていた小僧から始まる。

    大切な荷ほど人に任せず自分で運んでいた当時の商人にとって、荷運びの渡しなんぞは盗人のようなものだった。小僧はそれを、誠意と機転と複雑な権利関係の管理で乗り切り、信頼を勝ち取っていったらしい。

    「ねえ旦那、旦那はもっとやるべきことがあるンじゃねえの? 何を後生大事に抱えこんでンだよ。荷運びの人足も対等な商売相手だぜ?」
    「旦那のお店は大福帳の項目が足りねェんだよ。荷ィの値打ちは置いてある場所によって変わるだろ? この値段の差ァが本来の俺の取り分だし、荷ィに傷がつくような事故が起きたら損するのは俺だ。そういう取り決めにしといたほうがスッキリするだろ?」
    「人足をナメちゃいけねェよ、船乗り全員にそっぽ向かれたら旦那の荷なんかただの塵だぜ?」
    「俺は世界中の荷ィを運びてェな。運んでる間は全て俺のモノになってるってことじゃねえか。とんでもねェ欲張りもんだぜ」

    名もない渡しの小僧はやがて、その機転で江戸の一角に水運の店を構える。江戸の川から外海へ出て、僻地の資材や貴重品を運び、物流網を広げていったという。先に生まれて寺に棄てられたという兄を見つけ出し、2人で七海の姓を名乗って海運の保険業でさらなる財を成した。
    そうやって引いた海運の物流網が、江戸後期の大災害で活きる。西から襲った暴風雨とその後の火災で焦土と化した一帯を七海の船が駆け回り、いるものを届けいらぬものを運び出していった。被害の算出とその補填、権利の整理は兄の算学が役に立った。皆が無一文になった中で、いち早くひとを取りまとめて経済の仕組みを敷き直した成果から、海船問屋の七海の名は不動のものになった。

    明治維新や戦後の財閥解体、他国の戦争特需によるバブル経済やその後の崩壊の度に巨額の資産を失い、あるいは放出しながら、七海は何度でも財を成していった。他国の資源産出地の権利を押さえる総合商社が母体となって都市開発や重工業で莫大な利益を上げ、ロジは七海海運が一手に引き受けている。

    その仕組みを支えるのは、歴史に基づく七海への信頼だ。信頼とは、カネを生み出す打出の小槌である。

    「世界が石化して全ての権利が霧散しても、信じる心は消えん。通貨とは、信任の共有で皆が富む仕組みのことだ。そして通貨に価値があるのは、人が通貨の価値を信じるからだ」
    「でー、その龍水ちゃんがあんなことゆっちゃったもんだから、今暗号資産界隈のお金の価値がえらいことになってるってワケだけど……」
    「はっはー! ここまで過熱するとはな! 正直なところ俺も驚いているぜ?」
    「SAIちゃんは……話しかけちゃいけないやつだよね、今んとこ」
    「貴様が千空を守りたいのであればな!」
    「オッケ〜……」

    北米のサーバを急襲した司が、証拠を持って帰国するという。南はそれを迎えるため、フランソワと共に龍水のプライベートエアポートに向かっていた。羽京は国内の鈍い動きに痺れを切らして「なんとか調整して来るよ」の一言と共に隣室にこもっている。血走った目はまあまあキレており、官僚の言う「調整」というものの恐ろしさが垣間見えた。

    部屋に残された三人のうち、SAIは瞬きも惜しむような形相でモニターにかじりつき、ダカダカと音を立てて端末に何かしらを打ち込んでいる。天才が集中してる時に邪魔をしてはいけない。それはゲンも龍水も身に染みて理解していることだった。

    「……しかし、凄まじいな。これではもうダークウェブとも呼べん」
    千空のプライベート映像がNFTオークションに出ることが知られてからゲンが買い集めていたトークンに投機マネーが集まり始め、半日ほどで従来の価値の数倍になっていた。オークションに参加するノウハウもどこからかリークしたらしく、すでに世界中からアクセスが集中している。

    「あのDAOにいた連中の動きは……ないね」
    「貴様が植え付けたトラウマのせいだろう」
    「えへへ〜、ま、今んとこ手持ちのトークンだけで億万長者が確定してるわけだし? いいんじゃないの?」
    「換金のモチベーションを丸ごと奪っておいてか?」
    「それ聞いたことあるね〜、持ってても無意味なお宝の話……千両の苺だかリンゴだか……」
    「ミカンだな」
    「それそれ〜♪」
    「フゥン。つまり残る敵は、いま『千空』を出品しているコイツだけ、ということだな」

    ゲンが壊したDAOの中から抜け出し、千空の……正確には、AIで生成した偽の千空の……エロ動画を、オークションに出している奴がいる。

    世界にとって、真偽はこの際どうでもいい。月に飛び、三千七百年前の厄災を解いた美貌の天才科学者……その最もプライベートな尊厳に関わるコンテンツだ。そんなものが存在するというだけで、世界の価値観すらひっくり返りかねない。さまざまな思惑で、支払い対象となるトークンにカネが集まり続けていた。

    そしてカネの集中に合わせて龍水が出した宣言が、さらに熱狂を加速させた。

    「通信ベースの経済網をエコシステム化するために、多様化しすぎた暗号資産を統合する。七海龍水の名の下に、ドラゴと並ぶ基軸通貨のブランドトークンを指定する」

    ドラゴの下位互換にすぎなかったトークンたちのどれかに、ドラゴと同等の価値を持たせる。それを他ならぬ経済の守護神、七海龍水が断言した。
    七海であれば「最も勢力のあるトークン」を選ぶだろう。それを世界中が信じているからこそ、投機はますます過熱した。結果的に、世界中が千空のオークションに金を注ぎ込む図式になっている。モニターに表示される通信量や取引額の数値も、爆発的に増えていた。

    「龍水ちゃんさ〜、昔、お小遣いを投資で膨らませたっつってたじゃない?」
    「そうだな、月末百万まで減らされて参ったんだぜ? 船一隻買えやしない」
    「うーん、まあいいや。そん時もこうやって殖やしたってワケ?」
    「そうだな。七海が買えば皆が買う、金が集まれば事業は大きくなる。それで皆が豊かになる。シンプルな話だ」
    「うわーゴイスーにシンプル」
    「その前例も知れ渡っているようだな……俺の指名を期待して、共通のトークンを採用していたサイエンスカルト系のDAOが噴き上がっている」
    「んで、そのうちのいくつかは自壊してるねえ。注目度が上がったぶん、嘘やら詐欺やらが炙り出されてるっぽい」

    重力波を操って石化を予防する指輪だとか、空気を浄化する磁石だとかを持ち上げるコミュニティが勝手に崩壊している。誰かが誰かを出し抜こうとして全員で足を引き合い、結局船がまるごと沈んだのだろう。

    「我欲だけでつながる集団が崩壊するのは必然。時間の問題でしかないぜ。違うか?」
    「違わないね〜。……でもさ、この後コレ、どーすんの?」
    千空ちゃんを買うって言ってなかったっけ? とゲンが続ける前に、龍水が指を鳴らした。
    「時計を速める!」
    「え?」
    「龍水っ! 準備OKだ、いつでもっいける!」
    爛々と目を輝かせるSAIが、こちらを向いている。龍水は躊躇いなく意志を下した。
    「いいぜSAI! すぐに実行だ!!」
    SAIの指が、勢いよくエンターキーを押す。高らかな音と共に、通信量と取引額の数値がまた跳ね上がった。

    「……なにこれ。ジーマーで、全然読めない」
    数値の増加が速すぎて、目視ができない。
    数秒で桁が増えるから、総額が分からない。桁数も数えられない。

    個人が持つトークンの価値も、秒刻みで桁が変わる。
    呆然とするゲンの隣で、龍水はぽつりと呟いた。
    「来たぜ……ハイパーインフレーションだ」

    ゲンの持つトークンの単価は、確か1日前には20ドラゴ相当だった。さっき確認したときは、5000ドラゴ相当になっていたはずだ。
    じゃあ、今はどうだ? と思い、ゲンは自分の端末を起動させる。
    「龍水ちゃん、俺の持ってるトークンの単価、80万ドラゴ相当になってる」
    「もう一度、データ再読み込みで確認してみろ」
    「……1200万ドラゴ、だってさ」
    「10秒ほどで15倍か。……充分だ」
    「ハイパーインフレ……初めて見るわ」
    「俺も、自分の手で引き起こしたのは初めてだな」
    龍水の声は、少しだけ震えているようにも聞こえた。

    ハイパーインフレーション。資本主義経済の構造的欠陥にして致命的な弱点。信用を失った通貨の暴走的な価値の下落と、それに伴う発行額の爆増だ。それを龍水が人為的に引き起こした……ということらしい。

    「ねえ、これ……龍水ちゃん1人で起こせるもんなの?」
    「フゥン。過去のハイパーインフレーションの多くが、経済に疎い愚かな統治者によって引き起こされているぜ? しかも今回は、金との兌換性もなければ、現金の印刷という物理的な制約もない。通信ベースの経済圏で起きる暴走だ。……速いぜ、これは」
    「SAIちゃんは何したのよ」
    「同時多発での自動取引だ。レバレッジをかけた巨額の空売りが世界中で同時に実行されている。それに乗って自ら資本をなげうつ者もいるようだな。こうなればもう、出所は誰にも分からん」
    「トークンの価値だけが暴騰してるってことは、ドラゴが暴落してるってことだよね?」
    「今はな。そしてトークンの発行権はDAOを主催する個人が持っている。ゲン、貴様が発行者だったらどうする?」
    「え、新規発行してさらに流通量を増やすって話? ……いやあ、普通に考えればこのタイミングで新規発行はしないよね。パニックが起きて価値が下がりかねないし」
    「普通に考えればな。……だが、爆発的な新規発行が実行されたら?」
    「そんなことって……っあ、SAIちゃんが乗っ取った主催アカウント!!」
    「そしてゲンが情報を聞き出した何人かのアカウントも、すでに乗っ取ってある。奴らを使って、一斉にトークンの新規発行をする」
    ゲンの暗躍で、すっかりネットが怖くなっているはずの幾人かだ。アカウントが乗っ取られていることにすら気付いていない可能性もあるし、たとえ気付けても、もうそれを取り返そうとはしてこないだろう。そんな気力は、ゲンが根こそぎ折り取っている。

    「ブロックチェーンは大丈夫なの? 確か分散保存された取引情報の信頼性ってのが、トークンの価値を保証するって話だったよね?」
    「その仕組みを作ったのはSAIだ。分散保存されているなら全てを同時に書き換えれば良い。システム上の違和はなく、人の心にのみ不信が残るようにするだけだ」
    「いや、そんなんリームーでしょ、普通に考えて」
    「はっはー! 石化前の世界では不可能だっただろうな!」
    「ねえ、俺のトークンの単価が一億ドラゴ超えたよ。昨日まで20ドラゴだったのに。これ、どこまで上がるの?」
    「さあな。だが、もう意味はないだろう」
    「そうだね。コレもう……」
    もう、生活に直結するお金としての価値は、無い。
    「これから、トークンの新規発行を始める。投機額を超える勢いで流通量を増やし、トークンそのものの価値を暴落させるぞ」
    「それで、このトークンとドラゴの価値のひも付けを断ち切るわけね」
    「そういうことだな。増加する数字でしかなくなったデータはもはや誰も貨幣と見なさない」

    見ていろ、と龍水は静かに続ける。
    「これが、信用なき通貨の末路だ」

    SAIのモニターには、いくつかのシステムがダウンし始めている様子が、映し出されていた。

    ……

    「金融システム、止まっちゃったじゃん」
    「いくつかの近しいトークンも、巻き添えを喰らっているようだな」
    「僕たちもっ総資産の4割近くを失ってるね」
    「俺は……一文無しになったっぽいね、ジーマーで」

    取引額と時価と発行総数の全てが同時に暴騰し、世界中に置いたいくつかのシステムが桁あふれでストップして、その他のシステムに処理が集中してまた負荷に耐えきれずダウンする。それを繰り返して、サイエンスカルト界隈で流通していたトークンの大部分が信用を失い、価値を失った。
    ゲンが買い集めたトークンの価値も、もはや無い。

    「焦土だな、まるで」
    「石化よりはヌルいけどね〜♪」
    「そうだな。だからこそ、まだ油断はできんぞ」
    「そーね、敵さんがどう出る……か……」
    「……龍水っ、来たよ。発信……いや、配信だ。場所は横浜」

    SAIが、通信量の変化に気付く。配信元にアクセスすると、半日ほど前にゲンが見ていた「ニセ千空ちゃんの部屋」と、千空の姿が映った。

    「……ヤケクソの配信ってとこかね、これは」
    「そうだろうな。自分の目論見が潰えたから、せめて千空のポルノデータを世界にばら撒いてやれ、というところだろう」

    画面の中の千空は、上半身裸でカメラに向き合っていた。頬は紅潮し、何やらもじもじと身体を震わせている。画面外からは不穏な振動音が聞こえていた。

    『聞こえる、か。俺は、石神千空、だ』

    息も荒く、裸の肩が艶かしい。
    このまま、公開オナニー配信でも始めるつもりだろう。

    「お願い、千空ちゃんを守ってくれる? ……SAIちゃん」
    「任せて」
    SAIの指が素早く動く。
    遡上処理が実行されて、画面の人物はディープフェイク画像生成前の……配信者の素顔になった。

    「こんな顔してたんだね、こいつ」
    「千空になりたかったのか、千空を名乗って詐欺をしたかったのか……あるいは、自分が千空だと本当に思い込んでいたのかもしれんが。もう、分からんな」

    SAIのデータ処理によって、配信された瞬間に、映像の加工はキャンセルされている。だから画面の中では、千空の口調を真似る男が、世界に向けて自慰を公開している。

    『あっ、あっ、……いいっ……んあっ……』

    同じ男として居た堪れないな、とも思う。こいつは自分が石神千空として自慰行為を公開し、それを世界中が見ていると思い込んでいる。本当は加工前の、他ならぬ自身の顔が晒されているとも気付かずに。
    見知らぬ男がへこへこと腰を振り、イイだのイクだのと鳴いている。きっと世界中が、これを見ている。石神千空のエロ画像を期待してアクセスしてきた世界中の連中が。

    もう消してあげようか、と思い始めたところで、画面内の部屋に「ドゴン」という破壊音が響いて、男がビクリと動きを止めた。

    『んー? なにコレ? ヤリ部屋?』
    『ヒッ!?』
    軽薄な声と共にドカドカと足音がして、画面内に長身が映り込む。
    「うーわ、モズちゃんタイミングすご」

    『えっ、キミが千空の偽物? 全然似てないじゃんウケる〜』
    『や、や、やめっ』
    『いや、やめるったって、今キミの顔、無加工で晒されてるよ?』
    『えっ……ええっ!!』
    『ほらほら〜』

    画面内のモズが、自分の端末を男に見せる。男は一目見るなり蒼白になって、身を隠そうとした。……その手を、モズが掴んで持ち上げる。男の全身は、〆られる直前の鹿みたいにぶら下がった。

    『んー、俺別にキミにはキョーミないんだけどさ。キミのせいで俺の友人が不快な手続きに巻き込まれてさー。ちょっと怒ってんだよねー』
    『や、な、なんの話』
    『え、コレ何突っ込んでんの? ああこれデンチで動くやつ。へー。キミそういう趣味』
    『やめ、やめて』
    『なんで? 自分で挿れてんじゃん。……ねえキミ、俺と遊ぶ? こんなニセモノより現物のがいーんじゃない? そーゆーのやりたくて、こーゆーことしてたんでしょ?』

    ねえ? という一言とともに、2人の姿がカメラの画角から外れる。にぶい衝撃音と短い悲鳴の直後、配信はぶつりと途絶えた。


    ………


    「羽京は?」
    「ソファで寝てる。呼んでもつついても起きそうにない。ゴイスー気持ちよさそうだったから寝かしてあげて」
    「モズを出動させて安心した、ということか」
    「SAIちゃんは?」
    「同じく寝落ちだな。さすがに疲れたようだ」
    「龍水ちゃんはどうすんの?」
    「俺も疲れた。休ませてもらうぜ。フランソワの迎えは……貴様に任せてもいいだろう?」
    「うん、俺が代わるよ」
    「羽京の特別休暇の根回しを頼む。それから、俺のクルーズ船の手配をフランソワに頼んでおいてくれ。約束は守らねばな」
    「オッケ〜♪」

    それだけの会話を交わすと、龍水はロッキングチェアに身を預けて、すぐに眠りに落ちた。落ちる、という表現そのままに、ストンと弛緩した身体が、チェアに埋もれて息が深くなる。

    「つっ……かれた」
    ぽそり、と声が溢れる。
    ゲンの疲労感も強い。徒労感かもしれない。

    「千空ちゃんのニセモノの需要が、ここまでの規模で広がってたとはねえ……」

    考えてみれば当然のことでもあった。千空が、いかにかけがえのない男であるかなんて、後から復活した者たちには分からない。世界を救った奇跡の男への憧れを「千空らしきもの」で埋めようとする奴は、これからも出てくるんだろう。

    何より千空自身が、そのことを分かっていたのだ。
    だから、身を隠すまでゲンには隠していた。……龍水の言う通り、ゲンが偽物潰しに奔走「し始めて」しまわないように。

    そして、ゲンが一番動きやすくなるタイミングで身を隠した。だからゲンは、千空を騙って詐欺を働くサイエンスカルト系のグループが扱う通貨を潰し、ほぼ無価値にできたわけだ。リアルタイムで世界中に配信されたモズの襲撃で、後追いの模倣犯も潰せただろう。あんな瞬間を見れば、千空を騙る勇気も出せまい。

    「……にしても、ドイヒー丸投げにも程があるって、ジーマーでさぁ」

    事後処理を含めてやることは多そうだ。……まあ、仕事が多いのには慣れるけどさ。

    このままでは虚脱感に埋もれてしまう気がして、ゲンは静かになった部屋を出た。最後のお出迎えはしなきゃならない。

    そろそろだろう、と思ったところで、フランソワの運転するクルマの、ごついエンジン音が聞こえてきた。

    バスンバスン、という品のない音が近づいてくる。
    世界一の召使いが運転するクルマに、世界一のナイトが乗っている。
    同じクルマには、世界一のジャーナリストが、カメラを構えて待っている。
    クルマを待つのは王子様、世界一の嘘つき男だ。
    恋人はあの日以降、世界一のナイトにしっかりと守られていた。

    バスン。
    イマイチしまらない音を上げながら、嘘つき男の目の前にクルマが横付けされた。
    ふわふわと風になびく逆髪と、触覚みたいな前髪に縁取られて、緋色の瞳がゲンを見る。
    会いたかった、ずっと会いたかった。かけがえのない、何にも代え難い男。

    「……よぉ」
    「……千空ちゃん」

    ちょっと丸投げが過ぎるんじゃないのとか。
    もう少し説明してくれても良かったんじゃないのとか。
    司ちゃんに迷惑かけるんじゃないよとか。
    龍水ちゃんゴイスー大損こいてるよとか。
    俺なんか一文無しになっちゃったよとか。

    ……そういうの、全部想定した上で、わざと俺に任せきったんだろ、とか。

    言いたい文句は山ほどあったはずなのに。
    少しだけ寂しそうに揺れた瞳に、全ての言葉が引っ込んでしまった。

    「……千、」

    千空の腕がぐんと伸びて、ゲンの襟元を引っ掴む。

    そのまま乱暴に、唇が重なった。


    fin
    酔(@Sui_Asgn) Link Message Mute
    2023/05/21 13:29:14

    最終話 これが、信用なき通貨の末路だ

    人気作品アーカイブ入り (2023/05/22)

    闇オクNFTスリラーのR18ゲ千10話目

    世界復興に合わせて急速に拡大する経済の通貨需要を満たすために暗号資産が一般化する中で、自立分散型のコミュニティが乱立していた。サイエンスカルト系DAOが千空を利用して経済圏を拡大し、生身の千空が標的になる。

    ※色々な技術を都合よく使ってガバガバこじつけ設定を続けています。現実とは異なる点が山ほどありますが雰囲気でお読みください。

    製本版にエピローグを追加します。千空が姿を消した夜のことや、仲良し極まりないめでたセめでたセッ……はそちらに収録します。6月25日の幻想千夜で頒布予定です(行けるかまだ未知だけど……)

    めちゃくちゃな設定とやりたい放題の物語にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

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