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    #9 あ〜っもうゴイスーめんどくせえ!「確かなんだな?」
    「間違いないよ龍水ちゃん。トンデモ科学グッズの通販サイトに見せかけた、NFTポルノの販売コミュニティだったわ。フトドキ者が千空ちゃんを騙ったポルノで荒稼ぎするってゆーね」

    俺の名とおちんちんに賭けて断言するよ、と言いたいところを堪える。龍水と羽京だけが相手ならともかく、南とSAIもいる場ではちょっと憚られた。
    「フゥン、貴様がそう言うなら疑う余地はないな」
    「万が一の可能性もあったから、私たちには確かめられなかったけど……」
    「その可能性が潰れたんなら、対応ははっきりするね?」
    「そうっだね! 場所は割り出したよ!」
    ゲンの断言を疑う者はいない。嘘つき男としてはそれで良いのかとも思うが、困ったことに仲間たちからの厚い信頼というのは、すこぶる気持ちが良いものだ。

    SAIはゲンの通話中、通信量の監視をし続けていた。半導体の製造が難しくコンピュータの性能が旧世界に及ばない中でディープフェイク画像を生成するには、複数のコンピュータを並列接続して処理速度を上げる必要がある。千空が開発し、龍水の財力とSAIの技術力で敷いたネットの回線網は、通信速度だけは旧世界を凌駕していた。そして、世界中の通信状況はSAIがリアルタイムで監視している。

    つまり。

    「俺の通話中に、異常なくらい通信量が増えたロケーションにある個人所有のサーバがクロって理解で良いわけね? そんで、昔々でいうとこの、いわゆる逆探知が成功した、と」
    「そう! データっ見る?」
    「ううんありがともう充分♪」
    「国内は仙台と横浜、あとはサンフランシスコ……旧シリコンバレーだね。よし、すぐに押さえよう。国内は僕から、氷月とモズに要請するよ。北米は……」
    「視察中の司さんね! 任せて!!」

    羽京は淡々と、南は意気揚々と対応に入る。龍水がSAIに何か耳打ちすると、SAIは目を輝かせながら端末にかぶりついた。

    「……それで、ゲン。貴様はこれからどうする?」
    「どーするって?」
    「この手法はある意味汎用性が高い。大枚叩いて千空のNFTポルノを買った者は他にもいるだろう。ということは、似たケースは今後も出続ける。貴様、全てをしらみつぶしで監視し続けるつもりか?」
    「さすがにそれはリームーだねえ〜。何より俺の我慢が効かないわ、キレちゃいそ」
    「そうだろうな。今SAIが各サーバに潜入してディープフェイクの生成アルゴリズムを遡上処理している。今回のデータに限れば、千空のフェイクポルノは消せるだろう」
    「そじょうしょり?」
    「人工”知能”とはっ呼ぶけど、データ処理をしていることは変わらないからねっ! 数学的なアプローチで逆算した数式を飲ませれば情報を先祖返りさせられるんだよっ!」
    「つまり、フェイクになる前の、もとの画像に戻せるってこと!? 何ソレそんなことできんの?」
    「はっはー! SAIを甘く見るなよ!」
    「なんで龍水ちゃんがドヤんのよ」

    SAIは右手で端末を操作しながら、左手で手元の紙に見たこともない数式を書き連ねている。数式……なのだ、多分。数字がいっこも出てこなくて、なんか見たこともない記号がいっぱいあるけど、多分数式。多分。

    「……ねえSAIちゃん、こういう式ってどっかで習うもんなの? 自分で発見するもんなの?」
    「え? もちろんっ基礎学習は必要だけど……こういうのは、お告げみたいにぼんやりと見えてくるのを整えていくと辻褄が合っていくものだろっ?」
    「う〜ん、そっかあ〜」

    なんで天才ってやつはこうなんだろうなあ、と思う。そんなゲンの隣で、龍水がそれはそれは得意げに鼻を膨らませていた。

    「まあ、さほどっ複雑な計算じゃないよっ。でも、永遠のしらみつぶしはっ少し面倒だね。龍水の偽物もキリがないしっ」
    「この対応は自動化する必要があるな。SAI、考えられるか?」
    「一応はねっ、でも今の技術でどこまで再現できるかが未知かなっ。ロケットやタイムマシンみたいな一品モノじゃなくてっ量産品の品質を保つ必要があるから」
    「フゥン……今の生産能力ではきついか」

    ホワイマン対策のために世界中のリソースをロケット開発に注いでいた頃と、現在は異なる。大勢が豊かになるための技術はまだまだ未成熟で、ゲンはそのバランスを取り、龍水がインフラ整備で下支えをして(ついでにあらゆる権利を押さえて行き)、羽京は復興政府内部から不平等の解消に努めていた。仲間たちの誰もが、新しい世界のために自分の力をふるっている。それでも劇的な改善なんてものはなく、今回のような悪意に足を引っ張られることもある。
    それも含めて一歩一歩だ。石の世界で目覚めた時より歩幅がちょっと広くなっただけ。焦っても仕方ない。

    頭では分かるものの、現実の問題として「千空を騙るポルノ」の氾濫は許せない。……これはゲンの、ごく個人的な怒りによるものだけれど。
    それに付き合ってくれる仲間がいるうちは、こういうワガママも通して行こう。そう思えるくらいには、ゲンは仲間に頼るのが心地よい。
    そしてそれは、仲間たち皆の共通認識に違いなかった。

    「……できたよっ、あとは逆算処理のっ完了待ちに入る」
    「司さんはシリコンバレーに着いたって!」
    SAIと南が同時に声を上げる。羽京の表情は、まだ険しい。
    「……氷月とモズはまだみたいだ。氷月の不履行宣誓とその承認処理に時間がかかってる。それでモズがヘソ曲げて動かない」
    「えっ氷月ちゃんまだ逃亡疑惑かけられてんの!? もう逃げるわけなくない!?」
    「氷月がそれを望んでるんだよ、ちゃんとしたいって」
    「あ〜っもうゴイスーめんどくせえ!」
    「……まずいな、あまり時間がズレると勘付かれるぞ」
    「龍水っ、北米のサーバはっ、ほぼバックアップ用のストレージだっ!」
    「フゥン、なるほど! 南、司にGoを出せ。人が逃げたら追う必要はない。獅子王司が強襲した、その情報だけで充分だ」
    「オッケー!」
    「ゲン、時間稼ぎだ。コミュニティを引っかき回せ!」
    勢いづいて指示を出す龍水に、ゲンはニヤリと笑って見せた。
    「もうやってるよ~♪ 主催どうしの不信感は煽ってあったし、ちょろいもんだった♪」

    ゲンは、ダイレクトメッセージの履歴がびっしりと残る端末を仲間たちに渡した。まず司への連絡を済ませた南が覗き込み、軽くスクロールして履歴を遡る。ほどなくして、顔色を悪くしながら羽京に端末をパスした。
    続いて羽京が履歴を読み進める。南よりは多少耐えたが、やはり血の気の引いた顔で画面を伏せた。
    「ゲン、君って奴は……」
    「何なのこれ……ひどい……」

    表向きには「いいカモの金ヅル」として振る舞いながら、ダイレクトメッセージでは複数の主催の懐に入り込み、互いへの不満を吐き出させておいたものだ。全てのアカウントから「こんなのあなたにしか言えません」なんてメッセージが届いている。
    数人で使うグループメッセージ機能の中で吊るし上げられた一人がダイレクトメッセージでゲンに泣きついているが、その吊し上げがそもそもゲンの差金だ。全員に責められて謝罪する被害者に、ゲンは「俺だけは味方だから」と甘ったるいメッセージを送っていた。

    全ての私刑に、ゲンが関わっている。しかし表立って人を責めるときの実行者には、絶対にいない。ゲンの行動は丁寧で「みんなの不満を聞いて回る良い人」にすら見える。大勢の不満を整理して再定義して、誰かにヘイトが向くように仕向けているのがその「良い人」だということには、誰ひとり気付けていない。

    狭いコミュニティにはスケープゴートが必要だ。ターゲットは気まぐれに変わるように見えている方が良い。自分が標的になる恐怖と、それを避けるために人の危機を見過ごす癖を、集団に植え付ける。傍観者から「そうされても仕方ない側面もあった」という言葉を引き出せば、全体の「空気」は確定する。
    擬似的な権威を集団心理に組み込めば「善良な誰かさんたち」を煽って疑心暗鬼を募らせ、二度と人間を信じることなんてできないところまで追い詰められる。簡単なことだった。

    「これは、スタンフォード監獄実験の……」
    「こっちのは……公正世界バイアスの応用ね」
    「いつの時代もリンチの温床ってのは『閉じた共同体』なのよね〜。コンコルド効果とバンドワゴン効果なんかゴイッスー簡単よ、中学生でもできちゃう♪」
    「そんなことする中学生なんかイヤだよ」「同感だわ」
    南と羽京が、信じられないものを見る目を向けて来る。ゲンは「俺も同感~」と言いながら、集団心理実験でとんでもない事態を引き起こした黒歴史を封じ込めることにした。

    「まあ、少なくともこいつらは、顔の見えない相手との交流なんて二度とできないよ♪ このくらいは良いでしょ?」
    俺の千空ちゃんをこーゆー風に使う連中なんだから、と。
    にっこりと笑ったゲンに、龍水まで怯むような声をかける。
    「貴様……それが何を意味するのか解ってやっているな?」
    交通手段が限られる中で経済のエコシステムを構築するために大急ぎで敷いた通信技術だ。「顔が見えない相手への不信」は致命的なデバフになる。こいつらの世界は今後、ごくごく狭い「顔が見える身内」……それこそ、学校の教室で生まれる共同体の規模を越えられない。もちろん経済システムにも参加できない。それは、いまだ貧しいこの世界における、一種の地獄になるのだろう。
    「えぇ~? わっかんない♪」
    「……貴様が、味方で良かった」
    龍水の絞り出すような声に、羽京と南が青い顔のままで頷いた。

    「……龍水っ」
    端末にかぶりついていたSAIが、切羽詰まった声で龍水を呼ぶ。画面を覗き込んだ龍水が、「これは……」と呟いた。
    船長帽に遮られて表情が見えない。即断即決の男らしくない、数瞬の間を置いて振り返った龍水は、仲間たちを見回すと苦しそうに呟いた。

    「……千空のNFTポルノが、オークションに出る」

    「「は!?」」
    ゲンと羽京、南の声が揃う。衝動的に端末を操作しそうになったゲンの手首を、羽京の分厚いてのひらが掴んで止めた。

    「どういうこと、龍水。あっちの狙いは?」
    「サンフランシスコのサーバが押さえられたのに、国内の連中が気付いたようだ。主催の1人が千空のフェイクポルノデータをNFT化してダークウェブのオークションに出品している」
    「SAIちゃん、それは止めらんないの?」
    「闇オークションの通信網はっ、世界中に張り巡らされてるから……通信そのものを遮断することになるけどっ……」
    「不要な不信とパニックを誘発して、経済機能がまるごとダウンするリスクがあるな」
    「それは……まずいね」
    「ねえ龍水ちゃん。俺がこの千空ちゃんはデマで〜っす! って暴露すんのはどう思う?」
    あまり意味はないだろう、と思いながら念のために確認すると、予想通りの回答が戻る。
    「貴様が一番分かっているだろう。人は信じたいものを信じる。フェイクだろうと千空の性被害データだ。欲しがる奴がいれば……」
    「……値段はつくね」

    価値とは、大勢が信じれば出るものだ。真偽に意味はない。

    「でも不可解だ。何だってわざわざ、DAOの外にある取引媒体に?」
    「そうよ、犯人って主催の1人でしょう? もともとトークンを大量に保有してたし、ゲンからドラゴも巻き上げてたわけだし」
    「ゲンの働きでコミュニティが崩壊しかけているのだろう。沈みかけた船から金品を盗んで逃げる船員だ。……手負いは怖いぜ」

    いまだ全快せず、肩から吊ったままの左腕を庇うようにしながら、龍水が笑う。野生の鹿ですら、命の危機には狩人を攻撃するのだ。追い詰められた人間の、なりふり構わぬ悪意の怖さは、ここにいる全員が身に沁みて分かっている。

    「……じゃあ、どうすんの? 龍水ちゃんもう作戦決めてんでしょ」
    龍水が笑うのは、やるべきことを定めた時だ。先刻の焦りからさっそく何かを切り替えたらしく、ギラギラとした瞳から確信と野心の炎が燃えている。
    「はっはー! その通りだ!」
    バチィン! と、高らかなフィンガースナップが響く。

    「面白い。買おうじゃないか、千空を。欲しいぜ!」

    龍水は、歯を剥き出すように笑いながら、大声で宣言した。
    酔(@Sui_Asgn) Link Message Mute
    2023/05/15 0:13:21

    #9 あ〜っもうゴイスーめんどくせえ!

    人気作品アーカイブ入り (2023/05/16)

    闇オクNFTスリラーのR18ゲ千9話目

    世界復興に合わせて急速に拡大する経済の通貨需要を満たすために暗号資産が一般化する中で、自立分散型のコミュニティが乱立していた。サイエンスカルト系DAOが千空を利用して経済圏を拡大し、生身の千空が標的になる。

    ※色々な技術を都合よく使ってガバガバこじつけ設定を続けています。特に文中にある「加工画像から加工前の画像を作る遡上処理」なるものは完全なフィクションで、現実には存在しません。

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