5749年、9月 小さな鉄塊に貫かれ、「熱い」と思ったら、すぐに体が冷えていった。
本能的な防衛反応なのだろうか。失血に伴う意識の後退とも違う気がする。急な痛みに、脳が感覚を遮断しようとしているようにも思えた。
恐怖はなかった。千空の科学がすべてを取り戻すことに、疑いはない。私たちは必ず勝利する。……その勝利の場に私自身がいるかは、分からないけれど。
それなら、今の私がすべきは、なるべくよい状態で在ることだ。少しでも、一呼吸でも、一秒でも、長く、生きて、この身体を、保たせる。
頼んだぞ、信じて、いるぞ、千、空。
そう考えて意識を手放そうとした瞬間に、「パン」という薄い破裂音がして、視界が光に包まれた。
……青空だ。
撃たれたときは夜だった。どのくらいかは分からないが、時間は経っているらしい。少しぼやけた視界の先に、細い手が見えた。女のものだ。千空じゃないのか。ひょろひょろと細長く、ボロボロに荒れている。
チェルシーだろうか、と思ったら、私のものに近い金色の髪と、蜜のような色の瞳があった。
「コハク」
「スイカ……」……なのか。
身長が伸びている。でも、小さい。何より細い。……栄養状態が悪いのだ。
決戦のとき、スイカは十二歳だった。もともと小柄な子だったけれど、今は……十五、六歳くらいだろうか。では、千空も石化し、スイカだけが生き延びて、復活液を作ったのか。スイカが真っ先に起こすなら、私か千空のはずだ。千空であれば、復活液はすぐに量産できるだろう。
そこまで思考が回ってようやく、思い至った。スイカは、こんな姿になるまで、何年もかけて、たった一人で、千空の科学をたどって、自分だけで……復活液を作ったのだ。
ああ。私は本当に頭が悪い。なぜ思い至らなかったのか。
役割を担ったのは、スイカだったのか。いちばん小さかったから、凶弾や厄災から逃れる可能性は、たしかに一番高かった。いちばん小さかったから……いちばん、小さかったというのに。
私はなんということを。私たちはなんということをしたのだ。
身体の変化も、心の変化も大きな時期に。日本から遠く離れたこんな場所で、ひとりぼっちにさせた。
寂しかったろう、怖かったろう、心細かっただろう。
可哀想なことを、した。
謝りたいと思ったが、できなかった。スイカの、優しい、甘えたがりの瞳の奥に、たしかな光が見えたためだ。
この光は知っている。千空やクロムが持つ、叡智の輝きだ。千空が村に来てから知った「科学」という人類の武器を、スイカも手に入れたのだ。
スイカはもう、科学王国の戦士なのだ。
謝っては、失礼になる。そう思うと、何を言えばいいのかが分からなくなってしまった。スイカは、ほんの少しだけもじもじとして(ああ、あの頃のスイカそのものだ)、それから口を開いた。
「スイカはね、コハクとおんなじくらいの歳になったんだよ」
同じくらい。では、十七か八になるのか。こんなに小さいのに!!
「もうギュってしてとかは、お願いできなくなっちゃったんだよ」
十二歳のころのままの、ためらうような、甘えるような声。
たまらなくなって抱きしめると、スイカは声をあげて泣いた。私も泣いていたと思う。
抱きしめた背は、とても薄くて小さくて。
でも、しっかりと強かった。