六月珈琲王国と夏(サスサクtw短文)If June
うっとうしい長雨が止んだと思ったら照りつける太陽による気温の上昇。
空気も重く膚にまとわりつくような湿度に汗が止まらない。
暑い――。
これではもう恋人の前で見栄を張るのもばかばかしくなる。何よりも体が熱くてぼうっとする。だから、
「ねぇ、しよっか」
「外は嫌なんじゃなかったのか」
主語のない突然の誘いにも彼はすぐに応えた。
「だって暑くて、」
「暑いからなんだ」
「何も考えられないの」
「ふん」
今まで外で体を繋げたのは一度だけ。立ったまま下着だけを降ろして、まさに処理するだけの即物的な行為だった。
終わった後、彼女は二度と外でしないと息巻いていたのだが。
「いいのか」
彼女の首筋を流れる汗に欲情していた。不快な体温に辟易し、打開する術を模索していた。
「こんなに暑いなら、いっそくっついてる方が気持ち良いかもしれないよ」
非合理な提案にサスケは乗ってしまう。相手がサクラだから。
「なら服を脱げ」
許された途端に反応する下半身。
「デリカシーないなぁ」
「どっちがだ」
森にこもる大気の重さが彼らの理性を圧し潰してしまったのか。暑いからしようなどと、誘う女でも頷く男でもなかったものが。器用に服を肌蹴させ体の表面に浮かぶ汗を擦り付ける。
「ふふっ」
女の笑い声にサスケは眉を上げた。
「なんだ」
「サスケくん汗かいてる」
「おまえもだろ」
「汗に濡れたサスケくんの体、気持ちいい」
密着を助けるように、汗が二人の隙間をゼロにする。
サスケがサクラのこめかみの汗を舐める。サクラがサスケの鎖骨に歯を立てる。
「わたし達って獣みたいね」
「……」
「野性的なサスケくんも、好き」
うるさい獣だ。
「黙れ」
汗の滲む唇に吸い付く。サクラは無邪気なほどサスケの欲を煽る。
眼差しだけ、髪が揺れるだけ、流れる汗が一目視界に入るだけで欲情する。
彼の発情期は彼女と旅をしている間中ずっとだ。
「オレはいつも盛ってる」
汗と彼女の唾液が混じった味がことのほか美味で、ついサスケは本音を洩らした。不覚だ。
「えへへ」
彼女の笑い声にサスケは再び訝しんだ。
「じゃあ、わたしと一緒だ」
全くこの女ときたら、口では勝てない。
「もう黙れ」
「暑いんだもん。黙らせて?」
小悪魔。
サスケはまた彼女の口を塞ぐ。
実は口以外にも勝てる要素が全くないことは、もう少しだけ秘密にしたい。
茹だるような大気より頭が沸騰すれば他は何も気にならなくなる。
これだけ暑いのだから、二人で暑さを忘れたくなっても仕方ないだろう。こんな方法で。
この日は六月だからもしかして、サスケとサクラは流れる汗に欲情して、暑さをやり過ごすように致していたかもしれない。
これはサスケとサクラのサラダ作りの日々の、ある一日のことだ。
Coffee Break of Night
暗い廊下、灯りの漏れるドアの隙間から聞こえる声は呪文のようだった。
「―――帰りてえ。誰か癒しをくれ……。シカマルでも、サイでもいい…。この際、木の葉丸でもいいんだぞ。……誰でも、なんでもいいから、仕事の終わらないドベなオレに…、なんか癒しをくれってばよ………」
「………」
火影室から聞こえるぼやきに、彼女は行き先を変えた。
「疲れてるのねナルト。心の声が全部口に出てたわよ」
「えっ、あれっ、サクラちゃん?」
「ほら、コーヒーでも飲んで、一息つきなさいよ」
「…うわぁ」
「何よ」
「だってサクラちゃんが、オレにコーヒーとか、くぁ~~」
「何よう、あんたコーヒーやだった?」
「違うってばよ! ガキのころのオレに教えて、自慢してやりてぇなって!」
「もう、お互いイイ大人なんだから、これぐらいやってあげるわよ」
「へへっ。めっちゃ嬉しいってば!」
(コーヒー一杯でこんなに喜ぶなんて、よっぽど疲れてるのね。何日家に帰ってないのかしら、ちょっと心配だわ)
「ねえナルト、仕事がたいへんなのもわかるけど、体を壊したら意味ないんだから
ね」
「うん」
「ヒナタだって心配してるんだから、無理しないで」
「うんうん!」
「ちょっと、ヘラヘラしてんじゃないわよ。眼の隈ひどいし、火影がこんな顔してちゃダメじゃない。カップ麺だってこれじゃ食べ過ぎよ。今日はいいから、あんたは家に帰んなさい!」
「おわっ!」
力強く打ち込まれた気合い。それは久々に感じる肉体的な感覚だ。
(最初は優しかったのにサクラちゃんが怒るとやっぱおっかねえ。でもそれが嬉しいからいっか!)
彼女の手はカフェインよりも強烈な目覚めをナルトにもたらした。
「…じゃあ、ボルトの顔も見たいし、オレってば今日はもう帰るってばよ!」
「最初っからそう言えばいいのよ。気をつけて帰りなさいね」
「おっす! コーヒーありがとうなサクラちゃん。これで目も覚めたし、ちゃんと帰れそうだってば」
「ほら、カップは洗っておくわ。ヒナタのご飯ちゃんと食べるのよ。あっでもすぐ寝るんだったら軽めにね、ヒナタに任せれば大丈夫だから」
「へへっ、サンキュー!」
(サクラちゃんとはすぐいつも通りになっちまう。オレってばヒナタだけじゃなく、サクラちゃんにも心配かけてんだ。やっぱりサクラちゃんの説教が一番効くなあ)
背中に受けた、痛いほどの渇が身に染みる。
ナルトは家路を急いだ。
「…もう。ナルトもサスケくんも、仕事頑張りすぎなのよね」
(サスケくんにもコーヒー淹れてあげたいな)
シンクに置いたカップを洗い終わるとサクラは荷物を取りに戻った。
「さて、やっぱりわたしも帰ろ! 可愛い可愛いサラダがうちで待ってるんだもの! それで、うちに帰ったら、サラダと一緒にホットミルクか、ハーブティでも飲もうっと」
(帰りの遅いママでごめんねサラダ)
「ママ、おかえりなさい!」
「サラダ、ただいま!」
ああ、なんて可愛い愛娘!
サクラはいつものようにぎゅうっとサラダを抱き締めた。
「く、苦しいよ」
「ごめんごめん。あんまり可愛くて、ついね」
「もう。仕事がたいへんなのもわかるけど、体を壊したら意味ないんだからね」
「うん」
「おじいちゃん達だって心配してるんだから、無理しないで」
「うんうん!」
「ちょっと、ママなに笑ってるの?」
「サラダが可愛いから、ママ幸せだなって思って嬉しいの!」
(なかなか帰れない日があっても、パパもママもサラダのこと、大好きだからね)
「もお」
仕方ないなぁ。
サラダは母親の二度目の抱擁を甘んじて受けた。
木の葉の里の生きる伝説にも休息は必要である。
SAKURA KINGDOM
「国を作ろうごっこ」はサクラが女王様になってようやく平和の兆しが見えた。
一緒に遊ぶ仲良しの三人だが、王様役を誰がやるかで男の子二人は揉めてしまい、ナルトとサスケのどちらかが王様になると、かえって国がうまく治まらないことがわかったのだ。
ようやく訪れた平和にサクラはほっとした。
しかし二人から女王様と呼ばれてかしずかれ、サクラは何となく恥ずかしくなってきた。
違う遊びがしたいんだけどな…、と思うのに男の子二人が気付かずエスカレートしていく。
表立ってサクラを守ってあげられる理由ができて、無意識に張り切って競い出すナルトとサスケ。
二人の姿にサクラは何も言えずに見守るだけになった。
つまんないな。
二人は楽しそうでいいな。
そこに現れるカカシ。
困り始めていたサクラには救いの手に見えた。
「カカシ先生、カカシ先生、どこいくの?」
と嬉しそうに寄っていく。
カカシは何かと優しい言葉をかけてくれるので、サクラは先生と呼んで慕っているのだ。
「犬達の散歩だよ。おまえたちは……って、なんでそんな睨んでるの?」
「「………」」
邪魔者、いや不審人物を警戒するのは女王を守るナイトの仕事だ。
「じゃあカカシ先生、行ってきます!」
「気をつけてね~」
サクラはカカシに犬達の散歩をさせてもらうことにした。
カカシの犬はたくさんだから、ナイトであるナルトとサスケも一緒に行く。
案の定ナルトは犬と同じように走り回って最後はバテバテ。
サクラは可愛いわんこを担当したけれど、やっぱりたくさん走ってしまって公園に帰るころにはお疲れモードだ。
カカシに犬達をバトンタッチして、三人は藤棚の影になる公園のテーブル・ベンチでお休みする。
サスケが水を持ってきてくれると言うと、
「つかれてないの? サスケくんすごいね」
「ふん」
ナルトは張り合い、サクラはいちいち感心する。
サスケは散歩のときより力強く駆けていった。
サクラが持っていた花柄の水筒に冷たい水を入れて(散歩の途中で皆でお茶を飲み干してしまった)、急いで戻る。
なのにサクラとナルトは机にもたれかかってしまい、夢のなかだ。
「ウスラトンカチめ」
せっかく水を持ってきたのに、サクラは「ありがとう」も言わない。
つまんねえ。
二人で寝るなよ。
手持ち無沙汰のサスケは前にお兄ちゃんに、「風邪を引くといけないから、汗をかいたらふくんだよ」と言われた言葉を思い出した。
『サクラの汗をふく』
ナイト心を発揮するにはちょうど良い任務だ。
実は二人のお昼寝に乗り遅れて寂しいなんてことは秘密である。
サスケはくうくうと眠るサクラの後ろに立って、まず背中をべろんとした。
タオルでふきふき。
ちゃんとタオルを持たせてくれたお母さんに感謝だ。
やっぱりサクラの背中は汗で濡れていたから、兄には良いことを教えてもらった。
服を上まで全開にして丁寧に拭く。
相手は女の子だし、そういえば今のサクラは女王様だから、隅から隅まで丁寧にやらなくちゃ。
次は正面だ。
今度はサクラを木のベンチに倒す。
長椅子から彼女が落っこちてしまわないように気をつけて、前をぺろんとめくった。
真っ白いおなかをふきふき。
やわらかい。
サクラの汗の匂いはなんだか甘酸っぱい。
不思議だ。サスケはもっとご奉仕がしたくなった。
そうだ、きちんと汗がふけたかどうかチェックしよう。
背のついていないベンチにサクラを倒したままだと危ないから、サスケは彼女を抱っこすることにした。
ベンチの上で向かい合わせに抱き寄せて、服のなかに手を入れた。
背中をなでなでする。
ちょっとへんな感じだ。
サクラの体はびっくりするほど白い。弱そうで細っこい。なのに乾き始めたシャツのなかは、やっぱりやわらかい。
しっとりするサクラの肌をサスケは丁寧に調べた。
ぺたぺたした感触がなんだか面白い。
タオルじゃなくて、最初っから手でなでてあげれば良かったかも。
さわっているのが気持ちいいんだ。
わき腹やおっぱいのあたりもなでなでして、肌がちゃんと乾いているかを確認だ。
「ふぅっ」
サクラのラムネみたいな声が漏れた。
くすぐったいのかな。
起こす気はなかったから、サスケは彼女の頭をぽんぽんとなでた。(カカシの真似だが、サスケもこうするのが嫌いじゃない。)
サクラは眠ったままで、サスケの服を小さく握りだした。
「……」
どうしようか。
サクラもナルトもまだ当分起きそうにないみたい。
「……まぁ女王様だからとくべつだ」
サスケはサクラをずっと抱っこすることにした。
時おり頭をなでたり、背中をぽんぽんする。
これは兄の真似で、彼女の表情はサスケからはよく見えないが、絶対サクラは喜んでる。
だってサクラから、
「サスケくんだいすき」
っていう寝言が聞こえたもの。
サクラもナルトも気持ち良さそうに眠ったままなのに、サスケは頑張って起きていた。
サスケはナイト活動にとても熱心だ。
サクラは彼の大切な王国だから、この任務は一生つづくかもしれない。
もう一人のナイトが目を覚ましたら喧嘩になるかもしれないんだけど、構いはしない。
男は強くなくっちゃいけないんだ。
サスケの襟足から流れた汗がサクラの髪の先を濡らしても、二人はくっついたままだった。
日影に吹く風が子供達の頬を撫でていく。
サクラはよく眠っている。
おしまい。
春野サクラ水着祭2016
サクラは胸が小さい、と長年思われていた。
いのは完璧な美ボディーで、ヒナタは恵まれたバストにやわらかい姿態の持ち主だ。比べると、スレンダーと言えば聞こえはいいが、貧相な胸。つまり貧乳。色気がない。
それは自分でもよくわかっていた。修行中は胸なんて邪魔だからなくていいと思っていたけれど、平和になったことだし大好きな彼のために、今度は戦う体じゃなくて(筋肉の維持はある程度必要だけど、)適度な柔らかさというか女の包容力というか、少しぐらいその、女性らしさというか色気のあるメリハリなんてものを目指してみるのもわるくないんじゃないかなって。
だから今までずっときつめの胸当てをして押さえていたけど、体を柔らかくするマッサージやいのの言うきれいに見せるブラとかを着たりするようになったんだけどね。
「さ、ささささすけくん、あのっ、」
やっぱりやっぱりこんな水着、いのはこれが一番いいって絶対キレイに見えるって言ったけど、ヒナタもナルトも似合うって言ってくれたけどサスケくん変な顔してない?
っていうか怒ってない? ちょっと怖いんだけど、なんで二人っきりにならなきゃいけないの? サスケくんも一緒に海に来れるなんて嬉しくてかなり浮かれてたけど、まだだめ早いよわたし緊張する!
「おいサクラ、」
「なっ、なに?」
「おまえ、」
「……」
「……」
「……なに?」
「その……、むね…」
「ん?」
「……本物か?」
「んん? どういう意味?」
「ウスラトンカチがだな…」
サクラの胸が育ち過ぎだというのだ。
ナルトやキバでは確実にヤられるだけだが、サスケ相手なら真実を話してくれるだろう。おまえちょっと行って確かめて来いってば! そんで、サクラちゃんに自然が一番だって、オレはサクラちゃんなら胸の大きさなんか気にしないって言ってこい! などと言われてサスケは送りだされたのである。
(ナルト、あとで締める!!)
と思ったのはサクラだけではないのだが、目下二人にとって大問題なのは、非常に豊満、とは言えないが触るには十分なサイズに見えるビキニの中身。
「じゃあサスケくんは……」
つつ、と二人の視線が一点に集まる。
明るくて濃いピンクの可愛い山二つは、こんなことでもなければサスケには見つめることのできないものだ。
本音を言えば下のラインも非常に気になるが、流石にそこまで視線は落とせない。
だが気になる。ぶっちゃけ上も下もそれじゃ下着と変わらねえだろ紐とかなんだそれ引っ張ったら外れるのかよ信じらんねえ。そんな際どい格好で出歩くんじゃねえ!
サスケは他のくの一の水着を視界に入れもせず、年頃らしいもやもやを抱えて彼女の胸を熱く見つめている。サクラの瞳が困ったように潤んでいることに気づかないまま。
「その…、わたしの胸、確認するの?」
「……はっ?」
鼻息こそ荒くはないが深層心理で暴走を始めている男の何かを感じ取ったのか、サクラは核心的な質問をした。
どうするサスケ!??
①戻ってナルトを殴る。
②今すぐサクラに謝る。
③今すぐサクラの胸を揉む。
何だこの三択!? ばかか! ①と②はともかく・③はねえだろ!
しかしサクラは小さな声で、
「わたし……、サスケくんならいいよ」
恥ずかしくてたまらないと言うようにサクラはくるりと向きを変え、真っ白くて紐しかないキレイな背中をサスケに見せた。
「はぁっ?」
待て何を言ってるんだおまえ。
「……ナルトは別にいいけど、サスケくんにそんな風に思われてるぐらいなら、ちゃんと確認して欲しい」
それで、どうして背中を見せることになるんだ?
「正面からじゃ、恥ずかしいから、このまま……」
えっ、つまり後ろから、おまえの胸に手を伸ばして、オレに確認しろって言うのか……(もじもじすんな! 尻に眼が行くだろう!)(違う! オレはサクラの背中もキレイだと思ってる! ただ尻から太股最高だと思って(割愛。))
(正直胸のことはあまり考えたことはなかったんだが、今回の水着姿を見てサクラも結構さわ(割愛すれど独白止まず彼のテンションは密かに上がって行きます。))
ビーチでは、
「おいおい、サスケのやつマジでサクラに訊きに行ったみたいだぞ」
手をかざして遠方の二人を見つけるキバ。
「へえ。サスケくんてほんとムッツリスケベなんだね。というより今回は只のスケベかな?」
「サクラの胸といい股間といい、食い入るように見てたもんな~」
「気づいてねえのは本人ばかりなりってな」
サイにキバにシカマルまで笑っているのに、ナルトが真剣な顔で割って入る。
「おい、サスケのやつあんな岩場の影に隠れてサクラちゃんに何する気なんだってばよ! 止めに行かねえと、サクラちゃん、」
「待てナルト。おまえはいつまでサクラとサスケに構う気だ」
「だってよ!」
「まあな、相手はあのサスケだ。正直思い詰めてこんな昼間っからナニをする気なのかオレも信じきれないところがある。だが相手はあのサクラだぞ。サスケは信じられなくても、サクラの怪力なら大丈夫だ」
シカマルは鹿爪らしい表情で最もな言葉を並べたが、ナルトは誰よりもサクラを知っていた。
「だからこそ心配なんだってばよ。サクラちゃんはサスケが大好きだからな、」
「……」
「……」
「……その時は、大人になった親友を祝ってやれ」
「うぅ、サクラちゃーん…!」
再び岩場の影では、
「あっ、やだ、そこはだめっ」
「………」
「サスケくん、だめぇ…っ!」
彼になら、二人きりでなら、むちゃくちゃに確認されてもいい。
でも、ああん、下はダメっ! そこはほんとにまだ早いの!!
「お願いサスケくん、そこは許して……!」
その日、親友と大好きな女の子が一足先に大人の階段を上ってしまったのか。
知るも知らぬもまた青春の一ページである。