悪魔なガールフレンド(サスサクでエロウィン)
ハロウィンは地獄とつながる怪しいお祭り。
異界との境があいまいになってひとならざるものが地上にあふれだす。
すぐそばで笑っている魔女やモンスターの仮装のなかに、本物のクリーチャーが紛れているかもしれない。
なんてことに気がつく人間は今やどこにもいない。
「せっかくのハロウィンなのに、つまんない顔」
赤いペイントの血が滴る色男。あざのある胡乱なフランケンシュタインに仮装したサスケのほほ、そのきれいな部分を毒々しいマニキュアをした女の爪がちょんと引っ掻いた。
最大に不機嫌な顔でサスケが振り返ると、真っ赤な唇に濃い化粧、へそ出しのきわどいファッションの女がにこりと笑う。
「すっごいイケメン!」
サスケはこういう女が嫌いだ。そしてハロウィンだとか仮装なんかのバカ騒ぎは大嫌いだ。なのに悪友に誘われてこんなものに参加をしている。
募る苛立ちにむしゃくしゃして、最悪な気分をもっとひどいもので上書きしてやろうと思ったのだ。
「チッ」
舌打ちをして、「うざい離れろ」と文句を言うつもりだった。
「あら、メイクじゃないわ。ほんとの怪我?」
女の腕がするりと絡みついて乳白色の肉体が間近に迫った。
下着としか思えない黒のビキニ。蝙蝠のように尻の周りを飾るレースは半分しか臀部を隠していない。
痴女同然の格好にサスケは目を剥いた。彼も男だ。際どいラインに本能が吸い寄せられる。
剥き出しの白いふとももにぎらぎらと光るチェーンの首輪。バランスのわるさに頭がくらくらする。
そのうざい女の指がサスケの頬をこすった。
「やめろ」
「だって痛そう」
すり、と武器になりそうな爪を持つ指が離れると頬のあざが消えた。
メイクではない。叱責された末に父にやられた傷だった。
心配する母の顔が見たくなくて家を飛び出し勢いのまま仮装に参加した。破れた服も力任せに自分で裂いた。
少しでも気が紛れるかと思ったが、手当もしてない傷口は時間とともに痛みが増しただけだった。
「トリックオアトリート!」
そしてこの喧騒。最悪の気分だ。うざい女に声をかけられるなんて、もうどうにでもなれと思った。
しかし女は、黒い衣装に身を包みながらバラのような上品なピンク色の髪に、透けるような薄いグリーンの瞳でサスケの傷を見て、「大丈夫?」と聞いたのだ。
そのとたんに遠のいた痛みにサスケは思わず女の指先を握り込んだ。
グロテスクなつま先に似合わないふわりとした微笑。その顔を見て同じ年ごろの女子かもしれないとサスケは思った。
何故なら握った手を離したくないし、毒のような唇に悪魔のような黒くて異常な服を着た女が可愛く見えて仕方ないからだ。
「おまえ、なんていうんだ?」
「?」
「名前」
「サクラよ。あなたは?」
「サスケ」
「サスケくん」
おかしい。この女がサスケくん、と呼ぶ声が特別に聞こえた。
「サクラ」
名前を呼ぶとますます気分が良くなる。痛みは消えて頭痛もない。いや、やはり最悪だ。
女の唇からはサスケの嫌いな甘い味がして、こんなものを口にするなんてばかげている。ハロウィンなんてもの、楽しむやつの気が知れない。
そう思いながらサスケは女の唇を何度も吸ってむしゃぶりついた。食らい尽くすように味わって、脳みそが痺れるほどに舌と唾液を絡ませ合う。
「んっ、むちゅっ、んはぁ…う…ぅう…んっ…!」
まぬけだ。
とんでもないウスラトンカチだ。こんなことは絶対におかしい。見ず知らずの女とオレは何をしているんだ……!
それでもサスケは赤い唇を吸い続けた。口紅が見苦しく移っても構わないと思った。だってサクラの唇はひとを狂わす毒より甘い。
生まれて初めてホテルに泊まり、サスケはその夜童貞を捨てた。
翌朝、無味乾燥なふとんのなかで眼を覚ましたとき、サスケが見たものは昨夜の女とは全く別の生き物だった。
「おい……」
「ふぇ?」
黒くて赤くてぎらぎらした衣装に身を包みサスケを誘惑したはずの女は化粧けのない素顔をさらして、すよすよのんきに眠っている。
赤かったはずの唇は可愛いらしいピンクだ。
寝ぼけまなこの女の顔は昨夜のサスケよりもまぬけで、夜にきらめく劇薬のような妖艶さより百倍も可愛い顔をして、サスケの胸を再び叩いた。
「やだーー、せっかくの魔力がほとんど抜けてる!」
飛び起きた女は恥じらいもしない。首に巻いてたチェーンもなく、裸の体は信じられない乳白色。そしてサスケがつけた赤い花が散っている。
「サスケくんがあんまりかっこいいから、見惚れてたら魔力が弱くなっちゃった! 羽の色も黒くなくなっちゃったの。どうしよう」
そういってくるりと背を向けたところに鳥のような白い羽に、ところどころにじんだような黒がある。
仮装なんかじゃねえ。本物の羽が生えている。
「なんだ、それ…」
うちはサスケ、ハロウィンパーティで人生初の軟派に成功。
勢いにのって好みの女の子と仲良くなったところ、どうやら悪魔のガールフレンド(ただし魔力にムラあり)ができました。
結論、一目惚れした女は悪魔のように可愛い。
魔力があってもなくても、だ。