KUBO140字SSまとめ(10話分)目次
1.話の続き:
祖父に物語を語るクボの話
2.煙とともに:
姉を奪われたある妹の話
3.道中:
兜を探しに行く途中のやり取り
4.虫食らう猿:
クジラの中での場面で気になったこと
5.村の再建:
本編後の村を立て直す話
6.旅の祈り:
サルが秘密を話した後の話
7.眩い光:
船上の姉妹の戦いのときの話
8.物語を聞きに:
村人や村に訪れる人たちから見たクボ
9.家路:
村の外れの洞窟へ向かうクボと祖父の話
10.クジラの中での夜:
クジラの中でクボが寝た後のサルの話
1.話の続き
「いい着物だ」
祖父がクボの着物の家紋を見つめる。
「えっと、確か」
「クワガタ」
考え込む祖父を見てクボが答えた。
「そうだ。昨日、クワガタの侍の話をしてくれたんだった」
祖父の言葉に頷き、クボは三味線を手に取る。
「今日はその続きだよ」
クボが三味線の弦を弾く。思い出を心地よい音色に乗せて。
2.煙とともに
仮面の女が煙管から煙を吐く。目の前の男の体が煙に包まれた。軋むような音と男の苦悶の声が聞こえる。記憶を奪うだけでは足りない。その家紋に見合った姿にしてやる。姉を奪った報いだ。女の仮面に隠れた唇の端が上がる。煙と男の記憶は風に流れて失せていく。男の体はクワガタのように変形していた。
3.道中
「疲れたかい?」
「うん」
クボはサルの背に乗った。この旅で息子の新たな一面に気づく。それが嬉しくもあり申し訳なさもあった。村にいた頃は息子に不自由をさせていた。
「交代しよう」
クワガタが声をかける。だが、サルがクボを乗せてから数歩しか歩いていない。
「あと少ししたらね」
サルは微笑んだ。
4.虫食らう猿
「クジラの中で虫食べてたよね」「それは……」
クボの言葉にサルは俯く。
「何の話だ?」
クボはクワガタに耳打ちした。
「クボ!」
サルが叫ぶ。
「ほう、虫を。……虫になりたい」
クボは眉をひそめた。
「もうなってるのに?」
「『その』虫にだ」
そう言った直後、クワガタの腹に刀の柄の鈍い衝撃が走った。
5.村の再建
クボが村に戻ってからの村の再建はあっという間だった。道中に力をつけ、彼は植物も操れるようになっていた。新たな木材が用意され、クボは三味線を奏で始める。万が一を考えて村人たちには遠ざかってもらった。三味線の奏でる音とともに重そうな木材が舞い上がる。つむじ風に乗った葉のように軽々と。
6.旅の祈り
サルは寝ているクワガタを見つめた。彼は夫とどんな関係だったのだろうか。彼女は記憶を辿る。しかし夫の部下でクワガタに似た者がいたか思い出せない。だが、彼は信頼できる。クボも辛い思いをしなくて済む。むしろ彼の世話で忙しくなるだろう。
「おやすみ」
彼女はふたりの旅の生還を祈り床についた。
7.眩い光
嵐のなか、仮面の女は手負いのサルを見つめた。愛を知った裏切り者。女はけだものに変わり果てた姉を憐れんだ。止めを刺してあげなくては。女は鎖鎌を渾身の力で振り下ろした。
「違う……」
サルは刀の柄を握り締め、女に飛びかかる。妹が最後に見たのは、刃の光、そして姉の瞳に宿った眩い輝きだった。
8.物語を聞きに
折り紙と三味線を携えた少年が語りを始める。彼の軽快な語りと音色、折り紙の動きは誰しも心を奪われた。だが、鐘が鳴り響くと三味線の音が止まる。彼は何かに追われるように夕日の方へと走り去ってしまう。それでも彼の語りを聞いた者は再びあの村へ立ち寄る。英雄の物語を最後まで聞く機会を求めて。
9.家路
「君は私の孫だと言ったね」
家にしていた村の外れの洞窟へ歩く途中、祖父はクボに尋ねた。クボは頷く。祖父は俯いた。
「孫はおろか、自分の子やその子を愛してくれた相手もわからないんだ」
彼の言葉にクボは歩みを止める。
「家に着いたら話すね」
孫の微笑みを見て、祖父の強張っていた表情が和らいだ。
10.クジラの中での夜
「おやすみ、サル」
クボはサルにそう告げて目を閉じる。クボの寝つきは早く、すぐに寝息が聞こえてきた。サルの顔つきが穏やかになる。丈夫な体になったが、時間は限られている。一人でも生きていけるように導かなくては。父や妹たちに追いつかれる前に。息子の寝顔を見つめて彼女は一層決意を固めた。