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    アタック・オブ・ザ・キラー・ココナッツ太陽がぎらりと光を放つ空。その下で赤い羽が飾られたファレに子どもたちが集まっている。このファレの赤い羽は島の長の家の証である。
    「今日は何のお話?」
    子どもの一人が質問した。質問の相手は島一番の航海士、モアナだ。彼女は声を低くして子どもたちに今日語る予定の物語を伝えた。
    「今日は、血に飢えたココナッツの海賊の話をしましょう……」
    モアナの言葉を聞いて子供たちはそれぞれ素直な反応を見せた。不安で目を見開く者、好奇心で目を輝かせる者……。反応はさまざまであったが逃げようとする子供は一人もいない。彼女は島の子供たちに物語を聞かせ始めた。みんなモアナの話に熱心に耳を傾けた。モアナはタパを次々と持ち替える。子供の大きな瞳が、物語を描いたタパを見つめた。縦に二つ折り目の入ったタパを用意した瞬間、子供たちの歓声が上がる。それにはカカモラの船が描かれていた。
    「その船は……なんと三つに分かれたの!」
    モアナがタパの折り目を展開すると一つの船が三つに分かれた。子供たちの興奮した叫び声が響く。モアナはタパを置いてせわしなくオールを振りかざす仕草を見せた。危険な旅を乗り越えた彼女の迫真の語りは子どもたちの心をとらえて離さなかった。
    「みんなも、海を渡るときにカカモラに会うかもしれないわ。気をつけてね」
    話の結びにモアナはそう言った。怯えている子供たちは恐る恐る頷く仕草を見せた。
    「早く会って戦いたい!」
    ある子どもがオールを振りかざす真似をした。
    「うーん……」
    子どもの血気盛んな言葉にモアナは苦笑いした。あの巨大な船に乗った大量のカカモラを見ても同じことを言えるだろうか。あのとき、舟に同乗していたマウイが釣り針を持っていたとしても互角に戦えただろうか。あの統率のとれた動き。マウイが釣り針を扱えても、あの海賊たちを相手にするのは厳しかったように思えた。
    「数が多いから戦うと長引いちゃうかも」
    「でもモアナは戦ったんでしょ?」
    「心を取り戻すためにね。……ちょっとだけね。心を取られてなかったら戦わなかったと思う」
    子供たちから不満の声が上がる。
    「旅の目的は『テ・フィティに心を返して島を救う』でしょ?だから戦う時間も惜しかったの」
    モアナは子供たちにも納得してもらえるように答えた。
    「仲良くなれる時間もなかったわ」
    モアナは冗談ぽく付け加えた。
    「時間があれば仲良くなれる?」
    ある子供が尋ねた。モアナの言葉を真剣に受け止めてしまったようだ。
    「場合によるかな」
    モアナは曖昧に濁した。そのとき、ファレの出入り口から村人の男性が顔を見せた。
    「モアナ、ちょっといいかい?」
    「だめ」
    ある子供がモアナの足にしがみついた。彼の子供だ。
    「大事な用なんだ」
    村人が子供をたしなめる。
    「やだ!まだ話聞く!」
    どうやらまだモアナの話を聞きたいようだ。
    「ごめんね。お父さんの悩みも解決したいの。明日もたくさんお話を用意するからね」
    モアナは子供に笑みを投げかけた。不満そうな顔であったが渋々モアナの足元から離れる。モアナはファレの柱間に下ろされたタパを全て上げた。それが終わると子供たちもファレから出て家族の手伝いをしに戻っていった。
    「何があったの?」
    モアナはファレから出て村人に尋ねた。
    「作物が荒らされた」
    彼女の問いに村人は苦々しく答えた。

    畑に到着するやいなや、モアナは畑の様子を確認する。
    「荒らされたのは昨夜だ」
    先日まではあったはずの作物の実が無くなってている。家畜や野生の生き物であればかじった作物が残っているかもしれない。モアナはあたりを見回す。食べかけの実は畑の周囲に見当たらない。次に、モアナは屈んで作物を観察した。作物を見る限り、実の付け根を道具で刈り取ったように見える。刈り取るのに苦労したのか付け根の先はいくつもの繊維に分かれている。モアナは頭を悩ませた。道具を扱えるほど器用な家畜も野生の生き物も島にはいない。かといって人間がやるようには思えなかった。モアナは顔なじみである島の人たちがやったと考えたくなかった。
    「熟しきってないのに……」
    いまはほとんどの作物が未熟な時期だ。作物泥棒が島の人間なら、むしろ作物の熟した時期を狙うのではないか?そのうえ、この畑は村から近いところにある。そもそも顔見知りしかいない島で作物を奪うのは信頼を失墜することになる。島の外から漂流してきた人間が飢えて作物を奪った可能性もある。モアナには島の人間が作物を刈り取るのは不可解に思えたのだ。ただ自分から石を飲み込んだり、焚き火や海に突っ込むような奇妙な鶏なら島にもいるので一概に断定できないが。
    「音がして探しに行ったが姿が見えなかった。すばしっこかったら罠を作っても逃げられそうだ」
    村人はため息をついた。
    「でも作った方がいいかも」
    モアナは村人を励ました。
    「今夜は寄り合いを……あ、でも被害は夜から夜明け頃ね。うーん……」
    モアナは思案を巡らせる。相手は夜目が効くのだろうか。それとも火を扱えるのだろうか。
    「とりあえず、あなたには畑を見てもらってたほうが安心かしら」
    モアナの提案に村人は安心したように息を吐いた。畑が家の近くにあるとはいえ、彼の家族は身重の妻と幼い子供だけだ。家族を置いて寄り合いに行くには抵抗があるだろう。
    「よかった、寄り合いの内容は他の奴から聞くよ」
    「ええ。私も今日の寄り合いで話したこと翌朝あなたに伝えるから」
    モアナは彼の姿を見て胸が痛くなる。原因がわからない以上、彼も落ち着かないことだろう。これ以上は被害を拡大させたくない。モアナは早く原因を突き止めたかった。
    寄り合いは夜遅くまで続いた。どのような罠をつくるかについて意見が分かれて長引いたのである。どのような罠でも、家畜がかからないように厳重な注意が必要であった。罠に家畜がかかるというリスクに難色を示す者もいた。最悪、罠にかかった家畜が作物泥棒に襲われる可能性も視野に入れなくてはならない。話し合いの末、今回は罠に仕掛けをつけることとなった。半分に割ったココナッツの殻に石を複数入れて接着する。そしてその仕掛けを罠用の縄に結びつける。何者かが罠にかかった瞬間、ココナッツの殻の中の石が音を立てる、という仕組みだ。ちょうど、祭で楽器代わりに使ったココナッツの殻があったおかげで即席の警報器をいくつかつくることができた。

    寄り合いのあと、モアナは警報器を入れたカゴと松明を携えて依頼主の村人の家に向かった。家からは賑やかな子供の声がする。
    「こんばんは」
    モアナは玄関から声をかけた。すると中から女性の声がした。依頼主の妻だ。
    「あら、こんばんは。わざわざ来てくれたの?」
    女性が嬉しそうな声をあげる。そしてゆっくりと立ち上がろうとした。大きくなったお腹で立ち上がるのが大変そうだ。
    「あっ、無理しないで」
    男性が女性に声をかけて玄関に向かった。
    「お届けものがあって」
    モアナはカゴの中から罠に必要な道具を取り出した。
    「ありがとう」
    「ええ、ただ夜中に罠が動いたらうるさいかも」
    「わかった。お腹の子にも言っとくわ」
    家の中にいる女性が軽妙に返す。すると、子供が玄関から顔をのぞかせた。
    「こんばんは」
    モアナは子供にそう言った。
    「お話は?」
    子供は期待のこもった表情でモアナを見上げた。
    「明日のお話、楽しみにしてて」
    子供の表情が途端に無表情に変わった。
    「明日、お話を聞かせてくれるって。よかったな」
    男性が子供に声をかけた。
    「うん」
    子供は不機嫌さこそ抑えたようだが明らかに暗い返事だ。
    「こら。いや、すまない。来てくれたのに」
    男性は子供に軽く注意したあとモアナに謝罪した。
    「いえ」
    モアナは子供の目線に合わせて屈んだ。
    「明日も魔物の話をしようかなって。あなたの大好きなカニさんのね。あとカヌーのおもちゃ作りも考えてる」
    「うん」
    子供はうつむきながら答えた。だが返事の声色がさっきより明るくなっていた。

    モアナは畑で罠の取り付けを手伝い、村人の家をあとにした。

    自分の家へと向かうなか、松明の火が風で揺らめく。地面を踏みしめる音もわかるほどに静かだ。大丈夫。松明がある。いざとなれば追い払える。しかし、モアナの心臓の音は大きくなる一方だ。日中なら気にならない音さえもモアナの神経をすり減らしていく。

    そのとき、横の植物の葉が大きく音を立てた。風が弱まる。それでも葉の音が聞こえる。何かが植物の陰に隠れているのでは?モアナは音の方向へ視線を動かした。生唾を飲む音さえモアナの頭の中で響く。松明をゆっくりと両手で構え、体を横に動かす。
    「グギュッ」
    植物の中から音がした。モアナは数回瞬きする。
    「……プア?」
    モアナが草陰に向かって声をかける。すると、植物の中から白地に灰色のまだら模様の豚が顔を出した。プアと呼ばれたその子豚は、申し訳なさそうにモアナを見上げた。
    「迎えに来てくれたの?」
    プアのつぶらな目を見てモアナの緊張が解ける。
    「ギュギュッ」
    プアは軽く頷いて鼻を鳴らしてみせた。
    「ありがとう」
    モアナはプアの顎を撫でる。プアはリラックスした様子で目を細めた。しかしその瞬間、プアが植物の陰に引きずり込まれた。
    「ギギッ!?」
    「プア!?」
    モアナは植物の陰に手を伸ばす。プアの叫び声が遠のきそうになる。モアナはプアの体を掴んで急いで引っ張る。そのときモアナの手の甲に鋭い痛みが走った。
    「いっ……!」
    しかしモアナは手を離さず、どうにかプアを植物の陰から引き戻した。引き戻されたプアは恐怖で目を見開いている。草陰から音がガサガサと遠のいていく。音の主を追いかけたい。もしかしたら例の作物泥棒かもしれない。しかし、モアナの思いとは裏腹に彼女の足の力は抜けてしまっていた。
    「ああ、プア……」
    モアナはプアを強く抱きしめた。プアの震える体を何度も撫でる。もし痛みで手を離していたらどうなっていたことか。危うく友達を失っていたかもしれない。
    「よかった……」
    モアナの声も震える。彼女の手の甲には真っ赤な細い筋が走っていた。
    翌日の早朝。モアナは男性の家を訪ねた。まだ作物泥棒は罠にかかっていないようだ。男性は少し眠たそうだ。やはり罠をかけていても落ち着かず眠れなかったのだろう。モアナは子供が起きないうちに男性の家を去った。

    モアナは手の甲を見つめた。昨夜できた傷はもうかさぶたになっている。この傷は何でできたものだろう。以前、植物の葉のフチで手を怪我したことがある。あのときも鋭い痛みを感じた。しかしプアを引っ張ろうとしたときはどうだろう。痛みが走る直前、手の甲に圧力がかかったような気がしたのだ。まるで武器で刺すかのように。

    作物泥棒と、昨夜の出来事の犯人は同じだろうか。それを裏付ける証拠は何一つない。だが、どちらにしても何者かが作物を奪い、大切な友達をさらおうとした。この事実は変わらない。

    モアナは意を決して昨夜通った道を確認することにした。
    「確か、この辺り……」
    モアナは草陰の周辺を見回す。
    「うーん」
    モアナはしゃがんで視点を低くした。しかし、特に新たな発見はないように思えた。モアナは立ち上がって草陰の奥を観察した。しかし奥は予想以上に日が当たらないようだ。暗くて足元が確認しづらい。松明を持ってきてもよかったかもしれない。
    「仕方ない」
    そろそろ村のみんなも起きてくるだろう。モアナは村の密集地へと戻ろうとした。
    「ん?」
    草陰の奥から葉が擦れ合う音が聞こえた。モアナは顔を草陰に近づけた。なるべく音を立てないように。武器になりそうなものは辺りにない。モアナは拳で対応できるよう祈るばかりであった。モアナは拳をつくって草陰の奥を覗き込んだ。

    その瞬間、小さなオールのような武器が草陰から突き出された。武器には複数の牙が花びらのように括り付けられている。すんでのところでモアナは武器の一撃をかわした。今度は頰に傷をつくるところだった。彼女はもう一度草陰の奥を覗いた。音の主を確かめたい。しかし音の主は既に走り去ったあとだった。
    「もう」
    モアナは顔をしかめた。その代わりに草陰からあるものを見つけた。さっきの武器と合わせ、彼女の中にある仮説が芽生えた。
    「よほど食べてないのかしら」
    モアナは短く刈り取られた作物の茎を拾って、掌に乗せた。まだ確信は持てない。だがモアナに躊躇いはなくなっていた。いよいよ対面だ。先ほどの襲撃者は作物の茎で道しるべを作ってくれていたのだ。その道しるべは洞窟へと続いていた。以前あの洞窟を調べたことがある。確かあそこの出入口はひとつだけのはずだ。
    「今日はお父さんとお母さんに村のことを任せないと」
    モアナは村に戻り、武器になりそうなものを取りに行った。両親には『あの畑の近くへ行く』と伝えた。寄り合いで同席していたこともあり、村のことも任せてもらえた。武器は何がいいだろう。あの洞窟は狭かった記憶がある。それなら小回りの効くものが便利かもしれない。考えた結果、モアナは短めのオールを手に取った。

    モアナはまた例の場所へ向かった。先ほどの道しるべは跡形もなくなっている。おそらく証拠隠滅のために隠したのだろう。
    「おあいにく様」
    モアナは道しるべを明確に覚えていた。ためらいなく洞窟へ進んでいく。奥で火を起こしているのか洞窟の中がほんのり明るい。そろそろだ。モアナはオールを構えて戦闘準備に入った。彼女の直感は当たり、洞窟の奥の壁に四つの影が現れた。

    四つの影のうち、二つがモアナに飛びかかってきた。
    「えいっ!」
    モアナは構えていたオールで二つの影を弾き飛ばした。妙に軽い音が洞窟内にこだまする。襲撃者たちは地面に倒れ、動く様子はない。
    「やっぱり」
    モアナは襲撃者の姿を確認した。ココナッツの殻を纏えるほどに小さな海賊。カカモラだ。
    「他の影は……?」
    モアナは焚き火の近くまで目を凝らす。一つの影の主はカカモラの長であった。初めて見たときとは打って変わって力なく座っている。先ほどモアナに突きつけた武器も隣に置かれている。彼はモアナに気づいていないようだ。そしてもう一つの影は──。
    「舟?」
    植物で編まれたような簡易的な舟、そして盗まれた作物と同じ種類の植物の実がまとめて置いてある。カカモラたちが起き上がる様子はない。あの好戦的で丈夫な海賊たちが。

    モアナはカカモラが起きないか確認しつつ洞窟から外に出た。
    「あの海賊たちココナッツ以外も食べるみたいね」
    そしてモアナは自分の家の蔵にある果物をとりに行った。
    モアナは洞窟へと戻り、果物をその出入り口に置いた。体の小さなカカモラなら十分満腹になるだろう。
    「よし……」
    カカモラが脱出してないといいのだが。そのときモアナの後ろから唸り声が聞こえてきた。
    「しまっ……」
    しかし背後の唸り声はすぐに消えた。モアナが後ろを振り向くとカカモラの船長が武器を持ったまま倒れ込んでいた。モアナはもう一度洞窟の方を向いた。すると、顔に何も描かれてないすっぴんのカカモラが果物を洞窟へ運ぼうとしている途中であった。

    モアナと目が合い、カカモラの一体は急いで戦闘化粧で顔を飾り立てた。
    「あ、その果物は持ってっていいよ」
    カカモラたちは微動だにしない。そういえばカカモラは人間の言葉が理解できるのだろうか。モアナはとっさに『譲る』という意思を伝えられそうなジェスチャーをしてみせた。意図が通じるといいのだけど。

    カカモラふたりは顔を見合わせる。しばらく沈黙が続く。モアナはカカモラの長の背中を押してカカモラ側に近づけた。その様子を見つめていたカカモラふたりは戦闘化粧を手でこすり落とした。食物を渡したことに加え、長をカカモラ側に引き渡したことで戦う意義がなくなったのかもしれない。

    モアナは空を指し示しながら『太陽がまた登ったら来る』、そして『食べ物をカカモラたちに渡したい』という自分なりのジェスチャーを見せた。カカモラ二体は顔を見合わせる。意味は正しく伝わっているだろうか。とりあえず襲いかかる様子はない。しばらくして二体のカカモラは軽くココナッツの鎧を拳で叩いた。モアナはカカモラたちと海で初めて遭遇した時もこんな動作をしていたことを思い出した。今回は了解の合図だろうか。
    「えっと……じゃあね。また明日」
    モアナは手を振って村に戻った。カカモラの一体は不思議そうに体を傾げ、もう一体はモアナの仕草を真似するように手を振った。
    数日後。
    「これをね……」
    モアナは小さな舟の作り方を教える日々が続いていた。教える相手は午前は村の子供たち、午後はカカモラたちだ。後者は村の子供たちと違って言葉での意思疎通が難しい。しかし舟の作り方なら手順を見せて教えられるので言葉の疎通は少なくて済む。カカモラたちは航海の基本的な知識は会得している様子であった。彼らにとっては帆の編み方もお手の物のようだ。あの連携ぶりも個々で航海の知識を得ていないと難しいのだろう。カカモラは熱心にモアナのやり方を真似していく。帆はカカモラ流のデザインが施された。舟もあっという間に完成に近づいた。舟の作り方をカカモラに教えていることが他の人にバレたら少し厄介かもしれない。気の許せるマウイにもこのことは伝えられそうにない。モアナは鷹に変身したマウイがこの辺りを飛んでないことを祈った。
    「これでどこでも行けるわ」
    舟が完成し、モアナはカカモラたちに笑いかけた。モアナの笑みを見て一体のカカモラが自分の顔に化粧をした。モアナの口元を真似したようだ。
    「ん?」
    カカモラの長がモアナの腰巻を軽く引っ張って洞窟の方を指し示した。モアナが詳しく尋ねるジェスチャーを考える間もなく長は洞窟へ入った。しばらくして長は何かを握りしめて洞窟から出てきた。

    モアナは首を傾げた。それに答えるように、カカモラの長は自分の手を開いた。カカモラが吹き矢に使っていた植物だ。長は慎重にモアナに植物を手渡した。
    「あ、ありがとう?」
    どういった意図なのかわからないが、モアナはぎこちなく微笑んだ。長は全く戦闘化粧を落とさない。モアナにはこの吹き矢の贈り物が好意なのか裏があるものなのか全く読めなかった。

    他のカカモラは泣き顔の化粧をしてモアナの足元でココナッツの鎧を叩いた。モアナはその音がいつもより小さく聞こえた。
    「じゃあね」
    モアナは舟に乗るカカモラたちに手を振った。カカモラ二体は飛び跳ねながら手を振って舟に乗った。カカモラの長は戦闘化粧を落として、最後に舟に乗った。
    カカモラが船出した数日後。モアナは久々にマウイと対面していた。
    「この前、子供たちと舟のおもちゃをつくったの」
    「本物つくった方が将来のためになるんじゃないか?」
    「検討するわ」
    モアナは子供たちとつくった舟の完成品を見せた。
    「……そういえば、ここに来る途中で奴らを見た」
    「『奴ら』?」
    「例の『ココナッツ』さ」
    「えっと、カカモラ?」
    モアナは神妙な面持ちで尋ねた。
    「ああ。またデカイ船で横行してた」
    流石に漂流したカカモラたちで数日の間に巨大な船を再建したとは思えない。分派だろうか。
    「厄介ね」
    この前船出したカカモラたちは元気だろうか。モアナはカカモラ三体のことを思い出していた。そのときマウイが予想外の言葉を口にした。
    「俺でも三つ以上になるのは初めて見たな」
    マウイの言葉を聞いてモアナの顔が引きつる。
    「運が良かった。サメやクジラになってたら、いまごろ太鼓の皮だ」
    「そ、そうね」
    モアナは自分の予想が外れていることを願った。カカモラの戦力を強化させていないといいのだが。いや既に手遅れかもしれない。モアナは先ほど心配した漂流者たちの行方を考えないようにした。
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    2018/11/05 12:09:54

    アタック・オブ・ザ・キラー・ココナッツ

    旧題:飢えた漂流者。死人は出ません。円盤のメニュー画面レベルでカカモラとモアナが仲良くなれるか考えた結果 ##二次創作 #moana #モアナと伝説の海

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