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    隅々にある日の午前中。モアナは年の近い友人の手を握って励ましていた。成人の儀の若者たちの悲痛な声は島の風物詩だ。施術を受けた者はたいてい入墨職人が意地の悪い笑みを浮かべているように見えるという。
    「モアナありがとう」
    長い施術を終え、ようやく成人となった友人がモアナに礼を言った。目の前の彼女はぐったりとした様子を見せ、手の甲が炎症で赤みを帯びていた。今はスカートで隠れているが、彼女の太腿から膝にかけては細かなタトゥーが入っている。
    「私でこうだもの。男はもっと大変でしょうね」
    「そうね」
    友人は溜息をつく。モアナは彼女の様子を見て苦笑した。モアナの頭の中で以前にタトゥーを入れていた青年の姿が思い起こされる。墨が肌に入るたび、痛みに耐える声が聞こえる。今でも鮮明に覚えている。
    「おつかれさま」
    自分も近いうち成人の儀を迎える。友達を労うモアナの表情には陰りが見えた。


    夜の水辺。待ち合わせ相手を待つなかモアナは思いを巡らせた。もしタトゥーを入れるなら何がいいだろう。祖母の背中に彫られた大きなエイ、それとは対照的な母の繊細な模様のタトゥー。

    モアナは自分のそばに置いていた器の蓋を開けた。今日の午後、子供達に絵を教えるときに使って余った墨だ。彼女は蓋を草原に置いて、器のなかの墨を利き手の小指に浸した。彼女の小指が墨に染まる。そして自分の腕に墨のついた小指を載せた。だがそこから小指が進みそうにない。モアナは試しに、母の手のタトゥーを真似して描くことにした。その脳裏に浮かぶのは母の指先から手の甲だ。そこに彫られた繊細な模様を、モアナは爪で器用に描いた。指ごと墨に浸しては肌に墨を乗せていく。タトゥーが完成し、モアナは空に手をかざした。少し歪なところもある。しかし、指で描いたにしては予想以上の出来だ。母親の繊細なタトゥーもなかなか悪くない。再現率の高さにモアナは誇らしくなった。ふと彼女の脳裏に待ち合わせ相手のタトゥーが浮かぶ。それは生まれ育った島とは異なる様式のタトゥーの持ち主──半神半人マウイであった。

    モアナは湖のほうへと、さらに身を乗り出す。澄み切った水にはモアナの顔から上半身が反射している。
    「……あとで消せばいいかな」
    モアナは背中の胸当ての留め具を外した。胸当てを下ろすと墨の入れていない、つややかな肌が露わになった。水面に彼女のまばゆい素肌が反射する。墨が入ったらどんな風になるだろう。モアナは人差し指に墨を浸して胸に絵を描き始めた。水辺に映る自分の胸元が墨で輝く。ときどき爪で墨を掬いとっては形を細かく整える。おおまかな絵が次第に人の形になっていく。
    「できた」
    モアナの胸に描かれた絵が完成する。それは半神半人の体に描かれた小さな良心と同じ姿をしていた。その表情は誇らしげに可愛らしく笑っている。これもまたモアナの予想以上に良い出来だった。
    「動いたりは……しないよね」
    モアナは急に恥ずかしくなり、胸当てを付け直した。自分は何をしているのだろう。いまは本人と待ち合わせ中だ。もし描いている途中で本人と出くわしたらどうするつもりだったのだろう。モアナは自分に問いただしたくなった。
    「腕でもよかったかも」
    上手く描けたのが却ってもどかしい。消すのがもったいない。もし腕に描いていたら、本人と出くわしても問題ないだろう。出来がどうであれ、いい話のネタになる。モアナは胸当てをわずかに下にずらした。自分の胸元を見つめる。ここに描いた以上、誰にも見せられそうにない。誰にも知られることなく自然に消えるのを待つだけだ。

    「何がよかったって?」
    後ろから聞き慣れた声が聞こえ、モアナの背中が仰け反った。
    「マウイ?」
    モアナが声のした方を振り向く。そこにはヤシの木にもたれてマウイが立っていた。
    「何して……ああ。なるほどな」
    マウイはモアナの腕の模様を見つめ、合点のいったような表情をした。
    「な、なに?」
    モアナは引きつった表情を浮かべた。
    「なんだ、月日は早いな。八歳だった頃が懐かしい」
    「あ、えっ?」
    「タトゥーを入れると大人なんだろ?」
    マウイはモアナの腕のタトゥーを見つめて肩をすくめた。彼は以前モアナから聞いた『タトゥーを入れると成人になれる』という島の慣習を思い出していたのだ。マウイの言葉に対し、モアナは拍子抜けした。
    「八歳のときはあなたと会ってないけど」
    モアナはそう言って大げさに唇を尖らせた。不機嫌そうな顔つきとは裏腹に彼女は安堵していた。どうやらさっきまで自分がやっていたことは彼に見られていないようだ。
    「そうだったか?」
    マウイはわざとらしくすっとぼけた。
    「ええ。そうよ」
    とりあえずマウイにさっきのことがバレることはなさそうだ。安心して自分だけの秘密にできる。そう、自分だけの秘密に。モアナの表情に余裕が生まれた。

    「あと、これ墨で簡単に描いただけなの」
    モアナの言葉を聞いて、マウイは改めて彼女の腕を凝視した。よく見ると、墨が肌の上に乗って艶が出ている。肌を傷つけて墨を入れるタトゥーなら墨が肌の表面で輝くことはないだろう。
    「タトゥーをどんなのにしようか迷ってて」
    腕に描いた絵を見つめるモアナを見て、マウイは腕を組んだ。
    「……迷うほどには候補があるんだな?」
    「えぇ、まあ……うん」
    なぜ疑問系なのだろう。そう思いながらもモアナは頷いた。
    「よし」
    マウイは鷹に姿を変えた。すると彼は嘴を使い、自分の体から羽根を二、三本むしった。
    「え、えっ?」
    モアナが面食らってるのもお構いなしだ。彼は羽をむしるとすぐさま元の姿に戻った。変身が解けても、羽はそのままの形を保っている。

    マウイは羽根の先を器に入れていた墨に何度か浸した。
    「指よりは描きやすいはずだ」
    マウイの言葉を聞き、モアナはカマをかけられているような気分になった。自分の爪に少し視線を移動させる。その爪にはちょっとだけ墨がこびりついている。まさか見られた?モアナの背筋が張り詰める。しかし、彼女はそのことについて反応しないように振る舞った。マウイは特にそれについて気にする様子を見せなかった。
    「希望は?」
    「えっと……エイ?とか?」
    「わかった」
    マウイはそう返事を返し、モアナの腕に絵を描き始めた。
    「ふふっ……んぅ……っ」
    モアナは思わず肩が震え、身をよじらせた。羽根の根元のチクチクとしたくすぐったさが彼女を悶えさせた。羽根が幾度となく彼女の腕の上を滑る。マウイは羽根の先を墨に浸しては、筆を進めた。

    「どうだ?」
    マウイは羽根の筆を置いた。モアナの腕にはエイの絵が描かれていた。波のような渦巻きを越えるエイの姿だった。モアナは目を輝かせて歓声を上げた。美しい絵に心奪われている彼女の姿にマウイは穏やかな表情を見せる。

    「あとこんなのはどうだ?」
    マウイはモアナの背中にも何か描き始める。
    「どうって……見えないわ」
    モアナがぼやく。背中に描かれたものは一体なんだろう。筆は滑らかに進む。その線を追うのも難しい。
    「変なの描いてない?」
    「まさか」
    マウイがニタニタと笑う。
    「……他もお願いできる?見えるところで」
    モアナが視線をマウイに移した。彼女の顔は珍しく何かねだろうとしているように見えた。マウイは張り切って快諾しようと口を開く。
    「もちろ……」
    マウイの言葉が途切れた。モアナは腰巻と腰蓑をたくし上げ、太腿のあたりまで脚を晒していた。
    「ここから」
    モアナは太腿のギリギリを指で指し示す。
    「ここまで」
    そして、モアナはもう片方の手で膝を指し示した。手はそのままに、モアナは目線だけマウイの方へと見上げる。彼女は自然と上目遣いになる。だが彼女の表情はねだるようなものではなく、挑発的なものに見えた。
    「……少しは警戒心を持った方がいいんじゃないか?お嬢さん」
    ラロタイで自分を殴ったときの彼女の警戒心はどこへ行ったのだろう。
    「誰にでもそうしてるのか?」
    マウイはモアナをからかう。もう少し他に言い方があったかもしれない。からかった直後、マウイはそう思った。
    「ううん」
    モアナはマウイの耳元まで顔を近づけて囁いた。
    「私を八歳だと思ってる人だけ」
    ずいぶんと根に持たれたようだ。モアナの甘美な囁き声がマウイの理性を嬲る。しかし、入墨でできた小さな心の声がマウイの胸を小突いた。まったく。マウイは久々に相棒を指で弾いてしまいたくなった。さっきまで身を乗り出して彼女の脚を凝視するミニ・マウイの姿をマウイは見逃していなかった。真面目かと思っていたらとんでもない奴だ。その意識を読み取ったのか、ミニ・マウイはマウイ本人に冷たい視線を投げかけた。
    「じゃあ……次はどうするんだ?絵とか」
    マウイはわずかに上ずった声を誤魔化すように咳払いする。まさか自分が成人もしていない子供に振り回されるとは思わなかった。
    「腕の模様みたいな感っ……ん、ん……っ」
    リクエストする前に羽根の先端がモアナの体の曲線を伝い始めた。彼女はマウイの手の動きを止めようとした。しかしくすぐったさで笑いを堪えるのに精一杯だ。そのうえ、何度も脚が攣りそうになる。彼女の体が身悶えし、脚がもぞもぞと動く。その足指は何度か丸まって開く。
    「こんなとこか」
    マウイはそう言って羽根を置いた。
    「どうだ?」
    マウイは誇らしげにモアナの脚の絵を手で指し示した。墨の細かな装飾がモアナの脚に描かれている。
    「ばっちり」
    モアナは脚の絵を見終えると、目を見開かせてにんまりと歯を見せた。
    「あとね」
    モアナは‪大きく見開いていた目を細めた。
    「裏側もお願いしていい?」
    誘うような目つきで彼女は腰巻をたくし上げたまま、器用に体勢を変えた。うつ伏せになったことで彼女の膝裏と太腿の裏が見えた。つやつや光る彼女の肌にマウイは目を伏せた。成人してない相手だ。彼は募る雑念を追い出すように息を吐いた。
    「……わかった」
    モアナの脚に再び目線を移すと、マウイは了承して再び羽根を動かし始めた。
    「は、あっ……うっんん……」
    モアナの関節が細やかな感触に責められ、その度に脚が動きそうになる。彼女は笑いとは違う感情を堪えていた。
    「や……う、あッ……!」
    耐えきれずモアナの脚が反り上がる。彼女がうつ伏せだったおかげでマウイが蹴られる心配はなかった。モアナはそのくすぐったさが次第に快感となっていた。彼女の唇が徐々に湿りを帯びる。艶の増していく唇から漏れる小さな嬌笑にマウイは気が散るばかりだった。
    「……いッ」
    モアナの上気した顔が引き攣る。彼女はビクンと体を大きく震わせた。マウイは反射的に羽根をモアナの肌から離した。
    「どうした?」
    「攣っちゃっただけ」
    モアナは笑いながら足首を回す。そこにはマウイの足首と同じような模様が描かれていた。その太腿から膝にかけては繊細な図柄ができあがっている。
    「なかなかやるだろ?」
    マウイはモアナの脚から逸らしながら冗談めかして言った。
    「うん」
    モアナは小さな模様を指で軽くなぞる。模様は既に乾き、滲むことはなかった。

    「でも、ここまで入れるのは難しそうね」
    モアナは全身に描かれた絵を見て唇を強く結ぶ。モトゥヌイでよく見た模様、マウイのタトゥーによく似た模様が組み合わさり、どこかちぐはぐにも見える。しかし、モアナにとっては理想的なタトゥーが出来上がった。
    「できるさ。俺みたいにな」
    マウイは気取った口調で髪をなびかせた。
    「あなたみたいに自然と浮かんでくれたらね」
    モアナが困ったように眉を下げた。
    「サービスで鶏も描いといた。礼は結構だ」
    マウイはモアナの肩を指差す。彼女の肩には痩せた小さな鶏の絵があった。モアナは眉を上げて目を細めた。
    「ところで」
    マウイは肩を回した。
    「そのシミどうしたんだ?」
    「えっ?」
    モアナは胸当てのシミにようやく気付いた。胸元に描いていた絵の墨が乾いてなかったらしい。
    「あー、その、子供たちに絵を教えてたら墨をこぼしちゃって……」
    モアナは苦し紛れに誤魔化す。
    「内側から染みてるように見え……」
    「そ、そういえば!」
    モアナは大きな声でマウイの言葉を遮った。
    「背中には何を描いたの?」
    モアナは自分自身の背中を触り始める。乾いた墨のシルエットを彼女の指先が追っていく。しかし背中ということもあって上手く全体像が捉えられない。
    「……さぁて、なんだろうなぁ?」
    マウイの目にモアナの背中が映る。彼女の背中に描かれた絵に、彼は不敵な笑みを浮かべた。
    「うーん……?なんだろ……コウモリ?」
    モアナは背中を何度も撫でる。探り当てようと試行錯誤するモアナの背中には『翼を広げた鷹』の絵が描かれていた。
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    2018/06/24 4:05:44

    隅々に

    タトゥーの話2 ##二次創作 #moana #moaui #モアナと伝説の海 #マウモア #ボディペイント #R15

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