お誕生日のプレゼント【リョ菊】 誕生日なんだから、期待しないわけがない。
そもそもおチビってば意外とイベントが好きらしくって、何かにかこつけてはプレゼントをくれるんだから、俺の誕生日に期待しない方がおかしいだろ?
つきあいはじめて最初に迎える俺の誕生日だし、前からおチビにしつこいくらいに1日空けておけって言われてたし。
そんなわけで丸1日、朝からどころか前日の夜からおチビとべったり一緒にいた。すごく楽しくて幸せで、あー、俺ってばおチビにすっごく愛されてるんだなあと実感した。
そしてその日の最後におチビから受け取ったのは、細長い箱だった。
「はい、先輩」
「ん?」
「誕生日プレゼントです」
俺の部屋に戻ってコーヒー飲んで一息ついて、俺が1日楽しかったなあなんて思いながらふわふわしてたところに差し出された。
それなりのレストランでコース料理をごちそうしてくれたのに、まだあったんだ。
おチビが全部俺のためにしてくれたことだから、もちろん俺はありがたく受け取る。
「サンキュー。で、これは今開けろってやつかにゃ?」
箱の形で中身の予想はなんとなくつく。
「もちろん」
おチビがにこやかに笑う。
その顔、少しは取材の人に見せてやったら、なんて思ったけど、おチビだもんなぁ。
まぁ無理だろう。
俺専用ってのもいいけど、もうちょっとオトナになりなよって俺はひそかに思ってる。言わないけど。
「んじゃ、開けるよん」
「どうぞ」
綺麗にラッピングされた箱を開けたら、予想通りにネックレスが入っていた。
シンプルで細身の、俺が普段つけてても気にならないようなデザインをしたネックレス。
シルバーかな。もしかしたらチタンかもしれないけど。
俺が黙ってそれを見てたら、気に入らなかったのかと勘違いしたおチビが言い訳みたいなことを口にする。
「ほんとは、指輪にしたかったんです」
「にゃ? べっつに、俺は指輪じゃなくてがっかりしてるわけじゃにゃいけど」
「……だって、俺が指輪をあげるんじゃないかって予想してたでしょ、先輩」
そりゃするだろ、と俺は思いっきり大きくうなずいた。
イベント大好きで、恋人になった今でも俺を独占したがってるおチビちゃんが、指輪を渡すタイミングを図ってるのはなんとなくわかってた。時々しつこいくらいに俺の指を触ってたし。それも、サイズ測ってんだなあって丸わかりの触り方。
「で? 指輪にしなかったわけがあんだろ? なんで?」
とりあえずネックレスから視線を外してリョーマの顔を俺は見る。
伸びた前髪の間から見える瞳はまっすぐ俺を見つめてた。
ほんと、いつ見ても俺の好きな顔。
「指輪にしたら、俺が試合中つけらんないんで、やめました」
「あー、そっか」
左利きのおチビは左手に指輪なんてつけられない。
じゃあ右手にすればいいかっていうと、相手次第じゃ右手も使うリョーマには難しい。
つけられなくはないけど、細かなところでプレーに影響するからしたくないんだろう。それはとてもよくわかる。
納得してうなずきかけた俺は途中で首を傾げた。
あれ。ネックレスなら指輪とか関係ないんじゃないの?
俺の反応に気づいたおチビが自分の首元に手を置いた。
「……マジか」
シャツの中からおチビが引っ張り出したのは、俺が持ってる箱に収まってるネックレスと同じデザインのネックレス。
「指輪の代わりなわけ?」
意味がわかったら笑えてきた。指輪よりもネックレスのがよっぽど拘束したいって感じじゃんね。
「試合んときは外しときゃいいじゃん」
「外したら英二先輩を置き去りにしてるみたいでいやなんスよ」
「かわいいなー、おチビは!」
そんなこと、俺はちっとも気にしないのにね。まあおチビが嫌なのはわかってるから、俺はおチビの髪の毛をぐしゃぐしゃとかきまぜてから頬にキスしてやった。
「ったく、いつの間にそーゆーキザなこと言えるようになったわけ?」
「ちょっと、やめてください」
俺の手を払いのけながらおチビがいやそうな顔をした。
おチビの髪に触るの、俺は大好きなんだけどこういう触り方はおチビは好きじゃないんだよね。
残念。
でもやめないけど。
またやられないように俺の手首を掴んだままおチビがぼそぼそっと言った。
「いつの間にっていうか……他の誰にもこんな言葉は言わないっスよ。そもそも浮かばないし。……英二先輩にだけ、言いたくなります。でも、先輩がいやなら、なるべく言わないようにしますけど」
にゃんだよそれ。
言われた俺が恥ずかしくなってくる。ああ、今の俺ってば絶対顔赤い。なんてこと言うんだよ、おチビ。
けど、言ったおチビも照れてるらしくって、俺の手首を握ったまんまうつむいてる。
やっぱ、デカくなってもおチビはかわいい。
ゆるんだ隙に手を振りほどき、ぎゅっとおチビを抱きしめた。
ぐえ、って小さな声が聞こえてきたけど気にしない。
だって、めちゃくちゃ嬉しいんだ。
「いやなわけないだろ。すっげー嬉しい。そりゃ、恥ずかしいは恥ずかしいけど、イヤなわけじゃなくってさ。こーんなかっこいい俺の恋人に、そーゆーキザっていうか、甘いコト言われたら照れるってだけ。ほんとだかんな?」
「はい」
おチビは素直にうなずいた。肩におチビのあごがちょこっとだけ触れる。抱きしめてるおチビの身体があったかい。
「おチビが俺のことどんだけ好きか、言ってくれるたびに教えてもらってる気がする。だから恥ずかしいけど、嬉しいよ」
頬にキスしたらクレームが来た。
「先輩」
「にゃに?」
「キスならこっちにしてよ」
顔を離したおチビが唇を軽く突き出す。
「ワガママなやつだにゃー」
苦笑いするけど、おチビのリクエストには応えてやりたい。
とりあえず身体を離したらまた文句が来た。
「先輩」
わかってるよ。逆だって言いたいんだろ? 知ってるよ。
でも、俺にはキスより先にやりたいことがある。
「こっちが先。ね、つけてよ、リョーマ」
名前で呼んで、もらったネックレスを差し出した。
指輪の代わりなら、俺の恋人がつけてくれなくちゃダメだろ。
おチビが嬉しそうに笑う。
その顔も好き。
俺だけが見られるおチビの笑顔。
ふわっふわで、ゆっるゆるのおチビを見ていいのは俺だけだもんね。
「ほい」
おチビに首をさらけだす。
ネックレスを持っておチビが手を伸ばしてくる。首に触れるネックレスはひやりと冷たい。
でもすぐにおチビのあったかい指先が触れるから大丈夫。
金具を止めたのを確認して、すぐにおチビへ抱きついた。
「愛してる、リョーマ」
欲しがっていた唇へキスをする。
「俺もです。誕生日おめでとう、先輩」
同じ強さで抱きしめられて、またキスをする。
今年の誕生日は最高。
去年も同じこと思ったけど、でもやっぱり今年が最高だって俺はおチビの腕の中で思うんだ。
「愛してます」
そう言って俺のことだけ見て、俺のことだけ愛してくれるリョーマが一緒にいてくれるから。だから俺は今年が、じゃなくて、今年も最高って感じられるんだ。
ありがと、リョーマ。
誕生日に指輪代わりのネックレスをもらったはいいけど、でも結局はおチビにもらわれてるんだから、どっちの誕生日かわかんなくなった。
来月もきっと同じことしてるけど。
でも2ヶ月連続でお互いをプレゼントできるのって、俺にとっては幸せだよ。