パスワード名古屋支所でもツイッターというものを使って宣伝をしてみようという事になった。
「ツイッターってなんだ?新しいお菓子か?」
「違います、新世代のコミュニケーションツールです」
春子はツイッターが何かわかっていない東海林に早口で説明する。
「なるほど、つまりブログよりもっと短い文章で発信するということだな」
「ということで早速アカウントを作りますので、IDとパスワードを考えてください」
春子はメモとペンを渡して東海林に考えさせる。
「乗っ取りなどないようしっかりとしたパスワードにしてくださいね」
「うるせー、わかったよ」
東海林は頭を捻りながら一文字ずつ書いていく。
「ほら、出来たぞ」
そうして受け取ったものには
ID kurukuru&tokkuri
パスワード takeshiharuko
と、書かれていた。
春子は東海林を睨みつけ
「やり直し!!IDは会社に関する言葉にして下さい!!パスワードも個人名だとすぐに特定されます!!」
そう言って紙を突っ返す。
「えーいいじゃん、くるくるととっくりで」
「しかも&は使用できません!!」
危機管理の無さを注意しようとおもわず言葉が出てしまう春子。
「あなたのパソコンのパスワードも単純過ぎます!どうせ子犬とかいうパスワードもあなたが考えたんじゃないですか?」
そう言って、一瞬ハッとなり口を手で抑える。
数秒間、沈黙が流れたあと先に口を開いたのは東海林だった。
「え…?賢ちゃんのパスワード、なんでとっくりが知って……………ああ!!!!思い出した!!」
東海林は声を張り上げて春子を指差す。
「まさか、お前あの時森美幸になりすましてたのか!!」
春子は黙ったまま俯いている。
「どうりでいつもと違うと思ったんだよ、何だお前…まさかあのメール見たんじゃないだろうな」
「…見ました」
「うわあああああ!!!!!お前だけには見られたくなかったのに!!おい、勝手に人のパソコンに送られてきたメールをハケンが見てんじゃねーぞ!!!いいか、あれはちょっと寂しくてつい送っただけで…」
「ですが!!!!」
興奮気味に絶叫する東海林を静止するように
春子も大声を出して反論した。
「あのメールを見なければ、ここに来ることはありませんでした。」
その言葉で、東海林は息を呑んだ。
そんなことを言われてしまうと、どう言っていいのかわからない。あの頃の弱っている自分を知ったからこそ、俺を助けに来てくれたのだとしたら。
「…っていうか、つまりお前…あの頃から俺のこと気になってたのか?」
恐る恐る春子に問いかける。
「そうですが、それが何か?つまり、結果オーライということです」
そうはっきり言い切ると、春子は立ち上がり
「それでは配送へ行ってきます。県内なので夕方には帰ってきますからそれまでにはちゃんとしたのを考えておいてください。」
そそくさと事務所を後にした。
事務所に残された東海林はしばらく考えながらまた紙にパスワードを書き起こす。
「とっくりめ…自分のことは棚に上げやがって。他人のフリしてまで俺と話がしたかったとか、俺のメールが気になって仕方ないとかめちゃくちゃ俺のこと好きじゃねーか」
その答えは、春子に聞かなければわからない。
でもきっと春子の口から「好きです」と言わせるのはかなり至難の技だと思う。
新しいパスワードは
「tokkuriwa_kurukuruni_LOVE」