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    恋の味さっきまで使っていたボールペンがなくなった。
    確かペン立てに入れたはず、東海林はその周辺をくまなく探したが見つからない。
    紺色のタッチペン付きで2000円もしたものなのに…と肩を落とす。
    「なんか、最近忘れやすいんだよなぁ…」
    そう呟き頭をかいていると、浅野が指さしながら
    「東海林課長、胸ポケットに刺さってますよ」
    そう教えてくれた、下を向くとたしかにそこにボールペンがあった。
    「こんなところに…あーっ、最近本当に忘れっぽくなってるんだよなぁ」
    この間も定期をポケットに入れたままクリーニングに出してしまった。
    年のせいか、記憶力が一気に落ちた気がする。


    「ちょっと疲れてるのかな…俺。今日は定時で帰るわ」
    東海林は残っている仕事を急いで片付け、五時に退社した。



    「おかえりなさい」
    家に帰ると、いつもの声と醤油のにおいが玄関にも広がっていた。
    今日は何だろう、東海林は心を弾ませリビングに向かう。
    「ただいま、今日の夕飯は何だ?」
    「肉じゃがとカレイの煮つけですが、何か?」
    白い割烹着を着た春子がそこに立っていた。


    「前は一年後だったのに、今度は一か月後って…早すぎるんだよ」
    「色々情勢が複雑でスペインに行けなくなったので仕方なくです」
    「まぁでも、家の事完璧にやってくれて感謝してるよ」
    2人で夕飯を食べながら話しているなか、東海林は部屋を見渡した。
    引っ越してきたままの段ボールはもうなくなり、床にはホコリ一つ落ちていない。
    そして目の前には、いなくなったと思った大前春子がいる。

    「私を雇っていただけますか?」
    春子はあの時と同じセリフを告げて東海林の家にやってきた。
    「なんで俺の家知ってるんだよ」
    「会社から尾行しました」
    「ストーカーかよ!!」
    「ハエにストーカー呼ばわりされたくありません」
    はっきり素直に好きと言わない春子に、東海林も素直になれず
    「そうか、俺の家の家政婦になるってことか…まぁ雇ってやってもいいぞ」
    そう言って雇用関係を結んだ住み込みの家政婦として
    春子と一緒に住むことになった。
    なんだか前にドラマでこんな設定あったよなと思いつつも
    春子とまた一緒に居られることに幸せをかみしめていた。
    そうだ、なんだかんだ言って自分のもとに春子はやってくる。
    だから派遣切りにあったとしてもどこか寂しくない自分がいた。

    ただ、名古屋では3か月で居なくなってしまった。
    今度はちゃんと離さないよう、しっかりつかまえていよう。
    新米のような甘さのする、白米をかみしめながら東海林は
    ふと名古屋の事を思い出す。
    「名古屋の時もさ、お前色々作ってくれたけどいつも魚が出てたよな」
    「魚はカルシウムやDHAが豊富で昔から日本食として重宝されてきました」
    「DHAかぁ…俺最近忘れっぽいんだよな」
    東海林は今日のボールペンの話をした、すると春子は顔を歪め言う。
    「あなたは昔からくるくるパーです」
    憎まれ口をたたかれ東海林もカチンとくる。
    「誰がくるくるパーだ!!くるくるパーマだろ!!」
    「あなたは大事なことも覚えていません」
    「は???何だよそれ」
    「アジフライの事も、何も覚えていない…がっかりしました」
    「は???」
    突然アジフライの話が出てきて東海林はきょとんとした顔をする。
    アジフライと言えば、春子がS&Fを派遣切りされた日に
    東海林が残りのアジフライを揚げて、ハケンに頼みポップを
    作ってもらいながら、スピーチを考えていた。
    そのことならちゃんと覚えている。
    社長に土下座してお願いしても覆すことができなかった悔しさも。

    「アジフライか…あれ旨かったな。結局コンビニも他の部署が
    担当することになったんだけどな」
    「その時ではありません」
    「じゃあどんな時だよ」
    「…本当に忘れたんですか?」
    「本当にほかに何かあったか???ちょっとだけヒントくれよ」
    「…名古屋のスーパーです」
    「名古屋のスーパー?アジフライ…???」
    東海林は必至で記憶の糸をほどいていく、確かマンションの近くに
    24時間スーパーがあった。
    春子が来るまではそこでよく総菜を買って食べていて、何度か
    アジフライも食べたような気がする。
    正直味はふつうでそこまで美味しいとは思わなかった。
    だからあまり記憶にも残っていない。
    「あの近所のスーパーのアジフライか?え…?」
    箸を置き、腕組みをして思い出す。
    少しづつ記憶がよみがえってきた気がして、春子がやってきたときの事を頭に浮かべた。

    確か、福岡までトラックを運転して疲れているかと察して
    朝早く起きて事務所で春子の帰りを待っていた。
    朝ごはんにとスーパーで総菜を買って二人で食べようと
    おにぎりとアジフライを買って―。


    「あーーーっ!!」

    東海林は大声を出して、目を見開いた。
    「そうか!!あんときのだ!!アジ!!アジフライ!!」
    のどにつまった魚の骨が取れたように、引っ掛かっていたことが
    思い出せた東海林はなぜかテンションが上がって立ち上がる。
    「食事中に立ち上がらないでください」
    春子は呆れながら東海林を見上げる。
    「あーやっと思い出せてすっきりしたわ。そうか、あの時のアジフライか」
    「遅すぎます、だからあなたは肝心な時に失敗するんです」
    「でも、それがアジフライ押しの理由か??あのアジフライそんなにうまかったか…?」
    「は?あなたは本当に馬鹿ですね」
    「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!!」
    「取り合えず早く片づけたいのでさっさと食べて下さい」
    そういわれて東海林は椅子に座って再び箸を取る。
    アジフライは思い出せたけれど、あのアジフライにそこまで思い入れがあるのは
    意外だったと東海林は思っていた。
    あのアジフライなんかより今食べているカレイの煮つけのほうが
    何倍も美味しい。


    「そういえばさ、賢ちゃんが経営学勉強しながら自分の店を立ち上げるって
    言ってたんだよな、すごいよなー賢ちゃんは」
    「そうですね、あなたも心理学を勉強したほうがいいんじゃないですか?」

    春子はふてくされながら言い返した。
    初めて一緒に食べた朝ごはんが何より一番の味だったことに気が付かないなんて
    本当に人の気持ちに気づけない鈍感な人だ、そう思いながら。

    しゅ Link Message Mute
    2021/01/04 14:57:43

    恋の味

    味の素をパロディーしたいからアジフライなんだろうとは思いますが
    東海林との思い出の味だからという理由をつけたかった。
    #ハケンの品格 #二次創作 #東春

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