陽の当たる大通り誰もが鼻歌を歌いたくなるようなうららかな秋空の下。
久しぶりの日本に、春子が行幸通りをブーツを弾ませながら歩いていた。そして、目的地に着くと目の前の建物を視界に埋めていく。
笑顔を浮かべて、ポケットから携帯を取り出して電話をかけた。コールが5回鳴ってようやく通話モードに変わる。
「もしもし、とっくりか??」
「帰ってきましたよ、東海林課長」
春子は東海林に1番にただいまが言いたくて、そして1番に会いたくて、S&Fのビルの前まで来てしまった。
1年ぶりのスペインはとても楽しかったが、1週間が少し長く感じた。東海林がいないだけで心のパズルが未完成になってしまう。
もう離れてはいけない人なのだと春子は再確認した。
ほどなくして東海林がビルの前まで出てきて春子に会いに来た。
「1ヶ月って、言ってなかったか?こんなに早く帰ってきて…何かあったのかよ」
この人は私に会えなくて寂しくなかったのだろうか?いや、きっと寂しかったのだと春子は思った。なぜなら息を切らしてやってきて、今も心臓を押さえながら話している。
「あなたに会いたかったから早く帰ってきましたが何か?」
春子は人目も気にせず東海林に抱きついた。
死ぬ前にたった一度だけ、思いきり愛した人。
その後東海林は早退して春子と一緒にマンションの一室に帰った。
帰るなりトランクも開けずにベッドに倒れ込んで、バラ色のような時間を過ごす。
抱き合って、キスして、思い切り愛されて。
愛する人がいる、ここが私にとって陽の当たる場所。
隣で東海林が寝息を立てている、口元には少しだけ光るよだれが愛らしく見えた。
春子はスペインのある方角に手を伸ばして、バイバイと手を振った。