4月8日【4月8日】
犬と弟を連れて学校に来ていた。もちろん、本来ならば連れてきてはいけないのだが、事情があって特別に取り計らってもらった結果である。
犬を抱き続けている腕が、限界を訴え始めた。弟のことを注意して見ておくように親に言いつけられてはいたが、この歳で問題を起こすこともそうないだろう。
図書館に寄ってから、妹の教室に向かう。
階段を上っている最中、私に見えている景色と実際の地形にずれが生じていることに気がついた。朝から視界が上手く働かないでいたが、それもどうにかなる範囲であった。しかし、ここまでになるといよいよ危ない。弟に犬を預けて、先に教室に向かってもらった。
さて、どうしようか。踊り場で一人、立ちすくむ。下手に動いて踏み外すなんていうのは御免である。ただでさえ朝から見えるもの全てがぼやけて、白く霞んでいたというのに。
悩んでいると、誰かに手を引かれた。
「目を閉じて。私の言う通りに歩きなさい」
言われるままに目を閉じる。誰のものかも分からない声に従って足を踏み出せば、落ちることも躓くこともしなかく歩くことが出来た。階段を半分ほど上がったところで気がついたが、声の持ち主とは違う誰かに背中を支えられている。
「着きましたよ、怪我はしていないようですね」
「ありがとうございます、助かりました」
目を開いたときに見えたのは、赤い服と茶色の服の二人組であった。白くモヤのかかった視界では色の判別すらも危うい。会釈をして別れた。しかし、随分時間が経ってしまった。
妹や弟はまだ待ってくれているだろうか。