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    1月14日【1月14日】

     別の世界の自分と入れ替わってしまった。

     気がつくと、知らないアパートの一室にいた。目の前には友人がいるが、私の知っているその子とはどこか雰囲気が違う。彼女は、突然倒れたという私のことを心配してくれていた。軽く頭を打ったらしい。

    「少し思い出せないことがあるけど、それ以外は大丈夫」
    「それは大丈夫じゃないよ」
    友人は苦笑した。

     彼女に話を聞きながら、頭の中を整理する。
     ここは、五年後の世界である。そして、この世界の自分には、なんと数週間後に入籍する予定の相手がいるのだという。
    「ここまでは理解できそう?」
    「どうにか……」
     困惑を隠しながら返答する。あまり心配をかけるのも心苦しい。昔の記憶は思い出せるけれど、最近の出来事があまり思い出せないみたいだと言っておく。
     こちらを心配しながらも帰宅する彼女を見送った。

     入れ替わるように、例の恋人がやってきた。
     短く揃えられた黒髪と、清潔感のあるシャツを纏っているのが印象的な、優しげな人であった。背は高く、すらりとしている。聞けば、会社から帰ってきたところだという。ひとまず、ここまでの経緯を説明して、忘れてしまったことについて教えてほしいと伝えた。恋人は快く引き受けてくれた。
     恋人と私はかれこれ数年間に渡っての付き合いであり、数週間後に入籍するのも事実であるらしい。また、このアパートに住むことを決めたのは、近くに私の祖母の家があることが理由なのだそうだ。今は私の母と祖父母がその家に同居していることも教えてくれた。

     この世界では、祖母がまだ生きているのか。

     勘づいてはいたが、五年後の世界である以前に、元居た世界とは別の世界線にいるようだった。やはり、情報収集をして損はなかった。
     それにしても、目を合わせて真剣に話してくれる恋人の眼差しは、どこか心地よかった。この身体の記憶がそうさせているのだろうか。何はともあれ、自分が良い相手と結ばれてくれたことは喜ばしい。自然と笑みがこぼれた。

     さて、妹達の保護者代わりとして、近くの学校へ手伝いに駆り出されることになった。学校の行事が昨日終わったばかりとのことで、椅子や大道具などがそのまま残されている。この世界の私の母校でもあるらしい。先生方の指示に従って忙しなく走り回った。
     しかし、この世界の記憶がないため、上手く仕事ができない。少々気分が落ち込んできた。逃げるように人に見られない場所を探して、座り込んだ。じっと目をつむっていると、誰かに声をかけられた。
     顔を上げると、見知らぬ女性がこちらに手を振っている。彼女は私と部活の仲間であったらしい。一緒に卒業制作の絵を描いたよね、どこどこが良い色にならなくて困ったよねと思い出話をしてくれた。そこで初めて、こちらの自分が学生時代に美術部に入っていたことを知った。
     それらしく話を合わせて、その場をやり過ごす。罪悪感はあるが、記憶がないことはあまり喋りたくはない。なんとも言えない、居心地が悪く気まずい時間であった。
     彼女と話している間に、片付けの方も終了したようだ。解散していいという声が遠くから聞こえた。

     少し時間が飛ぶ。

     気が付くと、目の前に母親がいた。アパートに来てくれていたらしい。さて、何から話していいものか。記憶が飛んだことは既に話しているようで、母は心配しつつも茶化してくれた。少し気が楽になる。私と恋人の入籍が待ち遠しい、孫の顔を見るのが楽しみだと言ってくれた。

     更に時間が飛んだ。

     今度は、最初に一緒に居た友人と話している。一週間と少しであったか。思いのほか長い時間をここで過ごしてしまった。

     元の世界に戻る時間が近づいている。

     話しておいた方がいいだろうか。
    「あのさ、話したいことがあって」
    「察しがついてるよ。どうぞ」
    「今の私の中身が、実は」
    「過去のあなたって話でしょ?」
     思わず言葉に詰まる。図星だ。表情に出てしまっていたようで、友人はけらけらと笑った。付き合い長いからそれくらい分かるよ、今のあんたも悪くないよと、彼女はけろりと言ってのけた。
    「お母さんにも話してごらんよ。分かってるだろうから」
     本当だろうか。少し怖いが、確かめておきたいと思った。

     そういうわけで、母達の暮らす家を訪ねた。偶然、他の兄弟やその子供も来ていた。二人だけで話したいことがあると母に頼み、別の部屋へ移動した。

    「こんなことを言っても信じられないと思うんだけど、今の私の中身が、今の私じゃないって言ったらさ」
    「あら、やっぱりそうなの」
     本当に気付かれていた。
    「育ててきたから、それくらい分かるに決まってるでしょう」
     何故か、無性に嬉しくなった。この世界の貴彼女に育ててもらったわけではないにせよ、それでも胸が熱くなった。
     返す言葉に悩んで黙りこくる私に、ばあちゃん、最近危ないんよ。元のとこに帰る前に最後に声をかけてあげてと母は言った。

     祖母の部屋に行くと、曾孫や孫に囲まれて布団に横になっている祖母がいた。まだ、生きている。手を握ると温かくて、思わず涙がこぼれた。
     この世界ではちゃんと看取ってあげられるんだ。

     そのまま視界がぼやけて、気付けば元の世界に戻っていた。

    縣 興夜 Link Message Mute
    2022/12/11 15:39:11

    1月14日

    1月14日の夢日記です
    #創作 #夢日記

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