7月10日【7月10日】
どこかの施設に閉じ込められていた。
数時間ほど、のんびりと檻の中に収容されていた。そして今ちょうど助けが来たところである。無理矢理に壊された頑丈な檻の破片が、床一面に散らばっている。檻を無惨な姿にした張本人と私、そしてもうひとりの黒髪の男を残して、他は全員脱出が済んだ。
この状況も監視されていたのだろう。檻の天井に生えていた棘が、ゆっくり、焦らすように下へと降りてきている。明確な殺意を感じる。
逃げ道は確保できている。
あとは走り出すだけだと言うのに、檻の奥に座り込んだ男は動かない。
「何してるんですか」
「出る気がないだけだ」
「ここにいたら死にますよ」
強気にそう言ったものの、鼻で笑われる。
「それがどうした」
「死んでもいいんですか」
「大して気にしてないんでな」
埒があかない。そもそも相手が考えていることが一つとして読み取れない。こうしている間にも、棘はじりじりと近づいてきている。
檻を壊した人は何も言わず微笑んでいた。白く輝く刀を携えたまま、静かに問答を聞いていた。
私が動かさなければ、彼は死ぬだろう。大きく息を吸った。そして、彼を動かすための、意表を突くための一手を口から放つ。
「あんたのことが好きなんですよ」
だから、生きてもらわないと困ります。
彼が目を見開いた。今だ。勢いに任せて引っ張りあげると、頑なだった彼の体を立ち上がらせることができた。
後ろで見ていた彼に目で合図をして、三人で走り出した。立ち止まれば死ぬ。そんな気がして、絶対に手は離さなかった。
先を走っていた彼が突然抜刀した。そして、前方の窓を一閃、切りつけた。ガラスの割れる音が響く。
刀を持った彼はこちらを振り返ったあと、窓から飛び降りた。手本を見せるような仕草だった。下からすとんと軽い音がして、彼が着地したことが分かった。
今まで引きずられていた黒髪の男が、立ちすくむ私を抱き上げた。咄嗟に彼の服にしがみつく。そしてそのまま、窓から飛んだ。
落下する感覚は一瞬で、次の瞬間には地上だった。私も男も、どちらも無事だった。ありがとうと一言だけ残して、疲労に飲み込まれるままに目を閉じた。