5月12日【5月12日】
どうも、この街にはおかしな電話ボックスがあるらしい。
青い外装の電話ボックスに入った人が、突如として水に呑まれて、死んだのを見た。夜の街を散策しているときに、偶然見てしまった。
電話ボックスは、それぞれの色に合わせて犠牲者に降りかかる災いが決まっているようだ。紫なら毒に侵されて、黄色なら雷が降って、白なら無数の手に覆われて死んだ。
どうしてそんなことがわかるのか?
……思い出したくもない。
「ちょっと電話してくる!」
弟がそう言って走っていった。いつからいたのだろうか。顔を上げると、弟の向かう先に真っ赤な電話ボックスがあるのが見えた。
最悪だ。
叫ぼうとした声は掠れて使い物にならない。弟は飛ぶように走っていく。私の足では到底間に合わない。それでも走り出した。止めなくては、それなのに上手く動けない。心の中で自分に悪態をつく。
「これで走れます、急ぎなさい」
突然、女性の声がしたのと同時に、脚が軽くなった。先程までの体の重さが嘘のようだった。
弟が扉を閉めようとした瞬間、弟の腕を掴んで、外に引っ張り出した。独りでに扉が閉まる。荒い呼吸を整えながら、弟を抱きしめる。
「そんなに近くにいては危ないですよ」
二人揃って誰かの腕の中に収まった。電話ボックスの内側が瞬いた。
次の瞬間、電話ボックスは炎で満たされた。呆然とする私達の目を、後ろにいたその人が大きな手で塞いでくれた。
視界を返されたときには、電話ボックスはごく普通のものに戻っていた。