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    あなたを待つ アドベントキャリアのブランクのキャッチアップと長い感染症禍対応に、暦通りの生活などすっかり縁遠いものになっていた菅波にとって、12月のシフトはある意味、青天の霹靂だった。クリスマスと年末年始に人並みの休みなど、この仕事に就いて初めてかもしれない。明らかに周囲が気遣ってくれた結果だが、この10年程、同様に家族持ちや新婚ものにこうして予定を繰りまわすのにずっと協力していたのも事実で、面映ゆくまた多少の申し訳なさもあるが、そこは厚意をありがたく受け取ることにする。

    どう過ごそうか、と思いを巡らせ、それはもちろん、百音とどこでどう過ごすか、と同義である。実家の両親からは、今年の正月は釧路の兄夫婦の元に行くと聞いていたので、百音が気にするであろうその方面の問題は片付いていて、後は二人の予定次第である。

    正月は気仙沼の永浦家にも顔を出させてもらえればと思うが、そうするとクリスマスも気仙沼というのはさすがに忙しない気もする。いつかの自分が登米専従していた頃のクリスマス前後にしていたように仙台あたりで過ごすというのもいいが、いっそ、東京で過ごせないか。東京のクリスマスの雰囲気というのはやはり都会ならではの華やぎもあり、百音も楽しめるのでは。どこにどう予約ができるかも確かではないが、選択肢が多いことも事実だ。

    早速にその夜に百音とビデオ通話をして、正月は気仙沼で、クリスマスは東京で過ごすことが決まった。百音も降ってわいたような話に最初は戸惑っていて、全く自分と同じだな、という苦笑と、今までの百音の菅波の仕事に対する理解度に頭が下がる思いである。百音も東京でクリスマスを過ごすことに前向きで、とても楽しみにする様子が画面越しに伺え、菅波の口許も緩む。

    どこに行きたいか、と聞いて、『おうちクリスマス』がしたいという百音の意見が胸にぐっとくる。信仰心はなくともやはり何か特別なクリスマスという時間に大体寂しい思いをさせていたパートナーが、結婚したその年のクリスマスを、何か華美な過ごし方ではなく家族としてゆっくりとした時間を望むという事実。それを全力でかなえてあげたいと思うし、さすがにお互いの仕事になにか不慮のことがないように、と願わずにはいられない。百音が準備を考えるというが、自分ができることはしたい、と菅波はビデオ通話を終えて、殺風景なすまいをふと見渡すのだった。

    翌日、勤務を終えた菅波が普段はあまり通らないパブリックエリアを横切った時、花屋が視界に入った。見舞客が主なターゲットであろうその店もすっかりクリスマス支度で、ポインセチアや造花のクリスマス装花やツリーなどが並んでいる。東成大学付属病院では移植患者など特殊なケースを除いては見舞いの花を禁じてはおらず、ひいては菅波も花があろうがあるまいが気にしない時間を送っていて今まで全くその存在を気にもとめていなかった。ふむ、と足を止め、店頭のディスプレイを見渡す。

    パブリックエリアの自動ドアが開き、菅波が冬の気配の空気に身をすくめた時、その手には50センチほどの高さのフェイクツリーと金色の飾りが入った紙袋が提げられていた。帰宅した菅波は食事や風呂を終えると、ツリーを袋からだして部屋の片隅に置く。そして、いくつかのオーナメントをツリーに吊るし、最後に星を手に取る。一瞬、百音が来たときにつけてもらおうかとも思うが、さすがに気の長い話だ、と自分に苦笑して、ツリーの一番上にそっと東方の三博士をベツレヘムまで導いた星に自分たちへの導きの祈りも込めて飾るのであった。

    数日後。書店に立ち寄った菅波が洋書エリアを覗くと、そこもやはりクリスマス仕様であった。クリスマスの絵本や書籍に交じって、欧州の物とおぼしき小物も並べられている。百音が好みそうだな、と足を止めて見渡すとリース状の草花の上に蝋燭が置かれたものや、木でかたどられた小さなクリスマスツリーにサンタやキリスト生誕を模した人形など色とりどりである。リース状の草花の上に蝋燭が置かれたものの横には説明書きもあり、アドヴェントクランツといって4本の蝋燭にクリスマスまでの各日曜に火を灯してその日を待つものだという。クリスマスを待ちわびるその気持ちが形になったそれに無性に惹かれた菅波は、手にしていた数冊の本と共にそれを持ってレジに向かう。

    さらにその翌日。所用で小児科を覗けば、クリスマスを病院で過ごす子供たちのためのチャリティイベントが催されていて、子供たちが作ったという小さなツリーが売られていて、サメ棚に飾るのにちょうどよさそうな大きさのそれを一つ買い求めた。

    そうして、出向いた先、出向く先で見かけたクリスマス飾りをつい買ってしまい、来週百音が来る、という日曜日。気づけば、家の中には素材も様々なツリーが大小8個と、アドヴェントクランツが一つ、そしてサンタとトナカイの置物が一つ、あちこちに飾られているのであった。まだ数回しか百音と囲んでいないダイニングテーブルの上に置いたアドヴェントクランツの3本の蝋燭に火をともした菅波は、百音さんが見たら浮かれすぎって笑うかな、と揺れる炎をしばし見つめるのだった。
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    2022/12/22 23:55:40

    あなたを待つ アドベント

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