サメ太朗 登米で過ごすモネちゃんに連れられてたどり着いたスガナミのおうちは、東京よりは広くなってた。モネちゃんもだいぶ勝手知ったるって感じ。おうちに入ったら、モネちゃんが発泡スチロールから牡蠣とお惣菜を取り出して冷蔵庫に入れたり、スガナミがモネちゃんの赤いバッグを寝室に置いてきますね、となんだか役割分担がとってもスムーズ。二人がおなじおうちにいるのを見るのが久しぶりで、わくわくと紙袋の中から見守っちゃう。
お惣菜の始末を終えたモネちゃんがふと顔をあげて僕を見る。紙袋ごとだっこして、おへやにつれていってくれる。
「先生、サメ太朗は組手什に乗せてあげていいですか?」
「どうぞー」
隣のおへやからのくぐもった声の返事を聞いて、モネちゃんが僕を紙袋から出して組手什の上にのせてくれた。なんだか久しぶりな感じがする。隣にいるホオジロザメのやつは相変わらず無口だけど。モネちゃんが僕の鼻先をポンポンってしてくれてたら、部屋着に着替えたスガナミがでてきた。なんか部屋着のスガナミ見るの久しぶりだなー。それにしても、なんでそんな不服そうな顔なんだ。
「サメ太朗は本当にかわいがられてますね」
「かわいいじゃないですか。腹巻きもちょうどいい季節になってきました」
「僕が預けたサメをかわいがってくれてるのはうれしいですが…」
と言いながらモネちゃんの手を取って立たせたスガナミが、僕に背を向けてモネちゃんをぎゅってハグする。
「まずは僕を構ってくれたらもっとうれしいです」
スガナミの背に邪魔されて見えないモネちゃんが回した腕が、ぽんぽんとうれしそうにスガナミの背を撫でるのが見えた。モネちゃんの、久しぶりに会えてうれしい、があふれてて、くそう、このスガナミの幸せものめ!まぁ、僕は毎日モネちゃんと一緒だけどね!あー!ちゅーした!くそう、照れってしてるモネちゃんもかわいいなぁ。
晩ご飯の支度も仲良しに息が合ってて、なんだか東京のおうちのときとは二人の空気がぐっと柔らかくって近くって。モネちゃんはとっても楽しそうだし、スガナミはもう目じりがゆるみっぱなしだし。東京のおうちにモネちゃんが来た時はまだモダモダしてたのがウソみたいだ。離れ離れになってもこうやって二人の仲良しが育ってたっていうのは、よかったなぁってしみじみしちゃう。
ほかほかのご飯が炊けて、二人で向き合って晩ごはん。なんていい景色なんだろう。というか、スガナミが人並みの物を食べてるってだけで僕は涙がでそうだよ。サメだから涙腺ないけど。東京じゃあ、不健康そうなご飯を不健康そうな顔して食べてたって言うのに。穏やかな顔で、おいしそうに食べるモネちゃんを本当に嬉しそうに見て、自分もおいしそうにごはん食べて。ごはんの間中、二人の話は止まらない。会えなかった間のあれこれがたくさん出てきて。モネちゃんが僕に聞かせてくれた話もいっぱい。やっぱり、あれはスガナミに話したかったことだったんだなぁ。それを最初に受けとめられる僕がいてよかった。あんなにいっぱいのお話、一人で持っとくにはたくさんすぎるもんね。
ご飯のあとは、のんびりコーヒー飲んで。その間もいろんなお話をして。モネちゃんもスガナミもほんとにリラックスしてて、お互いが隣同士にいるっていうのがしっくりきてるんだなぁ、って感心しちゃった。お風呂の支度はスガナミ、食後の片付けはモネちゃんっていうのもすんなり分担してて。会える時間や回数だけが問題じゃないんだなぁってしみじみ思わせてくれる。
お風呂先どうぞ、ってスガナミがモネちゃんに譲って、モネちゃんがお風呂に行った後、スガナミが僕をひょいと持ち上げて、床に胡坐で座った。両手で胸ビレをもって、僕の顔を覗き込んでくる。
「お前さん、ほんとに百音さんに大事にされてるなぁ」
エヘン!心の胸ビレで胸を叩きたい気分。
「しかし、この腹巻き、本当によくできてる」
すっかり緩んだ顔で、僕の腹巻きを矯めつ眇めつしてくる。前にモネちゃんのお部屋で見たときは、じっくり見てなかったもんんね。いーだろー。スガナミのマフラーはこれの余った毛糸と買い足した毛糸で作られたんだぞー。
「毛糸の色もこいつにぴったりだし、選んでるときの百音さんかわいかっただろうな」
選んでるときのモネちゃんは見てないけど、編んでるときのモネちゃんはかわいかったよ!僕のをしこうさくごしてるときも、スガナミのマフラーを鼻歌交じりに編んでるときも。
ふと、スガナミが立ち上がって、自分のマフラーを持ってくる。何するんだ?と思ってたら、おそろいの毛糸のそれを、僕の首や胴体にぐるぐるに巻きだした。あわわわってされるがままだったけど、巻き終わったら、なんかフードっぽくておしゃれなかんじ?なんかぐるぐる巻きにした僕を見てスガナミがご満悦な様子をしていると、お風呂から上がったモネちゃんがなにやってんですか、って笑いながらやってきた。すーちゃんとこないだ買ったっていう、淡い水色のワンピースの部屋着がかわいい。
モネちゃんが持ってたドライヤーを受け取りながら、スガナミが笑う。
「毛糸がお揃いなので、もっとモコモコにしてやろうかと」
スガナミの前にすとん、と座ったモネちゃんが、スガナミの膝から僕を救出して、ニコニコとぐるぐる巻きの僕を見る。
「ほんとにモコモコになったねぇ、サメ太朗」
スガナミがモネちゃんの髪を乾かしているあいだ、モネちゃんはずっと気持ちよさそうな顔をして、僕の背中をずっとぽんぽんってしてくれてた。
スガナミがお風呂に行ってる間、僕はずっとモネちゃんのお膝で過ごしてた。本を静かに読むモネちゃんはいつもお部屋で見てるはずなのに、今日は特別かわいくて。やっぱりスガナミと一緒にいるからなのかなぁ。スガナミはほんとにそれを分かってんのかな。自分と会ってるときのモネちゃんが特別かわいいって。いつもかわいいなぁ、なんて適当なこと思ってたら、一言いってやんなきゃ。
なんて思ってたら、スガナミがお風呂から出てくる。本を読んでいるモネちゃんの横に座り込んで、何を読んでいるんです?なんて超甘い声できいたりなんかして。モネちゃんも目許を染めながら、本の説明をしたりして。あーもー、仲いいなぁ!
ふっと二人の間に、僕の知らない空気が落ちる。なんだろ?って思ってたら、スガナミがモネちゃんの頬に手をかけてそっとキスして、モネちゃんもスガナミの髪にそっと指を滑らせて。あわわわって思ってたら、二人のあいだにいる僕に気づいたスガナミがまた不服そうな顔で僕を見てきた。その様子にくすっと笑うモネちゃんに、なんだか落ち着きませんね、とスガナミがつぶやいて、ぐるぐる巻きのマフラーをずずって僕の顔の方にずらしてきた。
うぐぐ。何も見えないし聞こえない。ふわっと体が持ち上がって、多分テーブルに乗せられちゃった。なんだよー。僕はいっつもモネちゃんの寝顔見てるんだぞー。
まぁでも、せっかく久しぶりに会えた二人の時間だもんね。
僕は歯は出てるけど、カメじゃなくてサメだし、二人のおじゃまはいたしませーん。
寝よ、寝よ。ぬいぐるみだけど。
おやすみー!