がんばれスガナミうたた寝から起きたモネちゃんとスガナミが下に降りようとして、モネちゃんが前みたいにモジャモジャになったスガナミの髪を手で整えてあげてる。スガナミが気持ちよさそうな顔してんの見るのも久しぶり。ほんとにリラックスした顔してんなぁ。よかったなぁ。
スガナミは晩ごはんにも僕を連れてって、コージが僕と晩酌してた話聞いてびっくりしてる。へへん。僕はずっと島のお家でスガナミの代わりにいろんなお仕事してたんだ。コージのことならスガナミより、何ならモネちゃんより詳しいかもしれない。それがうれしいかどうかは別にして。
お風呂上がりの二人が髪を乾かしあいっこしてるのを見るのも、いつぶりだろう。スガナミに髪を乾かしてもらってる時にリラックスしてるモネちゃんがとってもかわいい。こうやって、モネちゃんが心からくつろいでる感じ、ほんと何年ぶりだろ。二人がお布団でゴロゴロするのに僕も混ぜてくれるスガナミが優しい。
「おまえさん、僕が来れなかった間、ずっと仕事をしてくれてたんだなぁ」
しみじみと僕を見上てくるスガナミに、僕はえへんと胸を張る。スガナミのサメ代表として、恥ずかしくない仕事をしてたつもりだよ!
えらいな、サメ太郎って、スガナミが頭を撫でてくれる。スガナミもがんばってたのはモネちゃんも僕もよく知ってる。そんで、その間、僕たちもがんばった。みんなえらかったよね。
僕を撫でるスガナミを、モネちゃんがうれしそうにみてる。
そうやって二人と1匹でゴロゴロしてたら、モネちゃんはスガナミの体温があったかくって寝ちゃった見たい。
自分の腕枕で寝ちゃったモネちゃんを、そりゃもう愛おしげに見つめちゃって。しばらくそうしてた後、そっと腕を抜いて、モネちゃんを抱き上げてベッドに寝かせてあげる。ん、って身じろぎするモネちゃんを優しくトントンってしてあげて、そっと髪を撫でる。ベッドにもたれて、泣きそうな顔でモネちゃんを見つめるスガナミの感慨深い顔に、僕も涙が出そう。涙腺ないけど。
モネちゃんの額にそっと口付けしたスガナミが、僕を抱っこして布団にくるまる。目尻の涙はサメの情けで見なかったことにしてやるよ。
次の日の朝、モネちゃんがとっても優しい顔で寝てるスガナミの頭を撫でてて。もー、モネちゃんもスガナミもお互いがいるのうれしいがダダ漏れてるー。二人とも爆発しろー。しちゃ困るけど。
スガナミは朝ご飯にも僕を連れておりる。多分だけど、僕を抱っこしてたら、僕がここで過ごしてきた時間を少しでも共有できるみたいな気持ちなのかもしれない。
朝ご飯も食べ終わったら、オジーチャンがスガナミを誘いにきた。あ!ドチザメ見せてあげるのかも!スガナミきっと喜ぶぞー!ねー、モネちゃん!
モネちゃんが僕を抱っこして、オジーチャンとスガナミを追いかけたら、やっぱりドチザメ!わー、スガナミめっちゃいい笑顔!目もキラキラしてんじゃん!よかったなぁ!エサ持ってくるから着替えておいでってオジーチャンに言われて速攻着替えるスガナミの俊敏さが笑える速さで、僕の抱っこも忘れないあたり、もうただのサメ好き男児状態じゃん。サメボーイって呼ぶぞ、こら。おーい、モネちゃん置いてきぼりにしてんぞー。
楽しそーにドチザメにエサやりしてるスガナミを、モネちゃんがそりゃもううれしそうに見つめてんの。まぁ、こんなにうれしそうなスガナミ見れたら、こっちも笑顔になるしかないよね。オジーチャンにも微笑ましく見守られちゃってまぁ。
縁側でモネちゃんとスガナミがのんびり座ってるその間に僕。
スガナミが僕の背中をぽんぽんってして笑う。
「こいつがサメ太朗だとしたら、あのドチザメはサメ次朗かな、って」
サメ次朗!いい名前!スガナミ、センスいい!でも安直!
まぁ、太朗の座は渡さないけどねー。弟分ってことで、了解!
サメ次朗の話をしながら、モネちゃんとスガナミが部屋に戻りつつ、僕を抱っこしてるスガナミの気配がサメ次朗を見てた時と少し変わったのがわかる。ん、何だろ。
お部屋に入ったスガナミが、僕をベッドに置いて、モネちゃんの手をとって床に座る。いつもの猫背で、目の前に座ったモネちゃんの両手をそっと握ったまま、スガナミがさっきのほわほわの笑顔とはうってかわった切実さでモネちゃんを見つめる。モネちゃんも、そんなスガナミを茶化さずに、その様子を見守ってる。
「百音さん、ありがとう。こんな僕を待っていてくれて。百音さんだけじゃなくて、このおうちの皆さんが僕を改めて迎えてくれたこと、本当にうれしいです」
スガナミの真摯な物言いに、モネちゃんもうん、って丁寧に頷いてる。
あ!なんか、スガナミがこの後すごい大事なこと言う気がする!がんばれ、スガナミ!
「離れている間もずっと支えてもらっていました」
支られていた日々を思い出すような切ないスガナミの表情に、モネちゃんが静かに優しく首を横に振る。
「私ができていたことなんて。先生自身のがんばりです」
「あなたのところに生きて辿り着くんだって、ずっと自分に言い聞かせてた」
「うん」
「それで、会えたら、もう一回伝えようって思ってたことがある」
猫背を伸ばすようにするスガナミに合わせるように、モネちゃんもいずまいを正して。
「一緒に未来を考えても、それがままならない時に、自分に何かあったらあなたに僕のことを託したい、そう思っていました。三年前から、僕の気持ちは変わってない。今度こそ、あなたと結婚したいと思ってる」
言ったー!スガナミ、ちゃんと言い切った!えらい!
じっと自分を見つめるスガナミを、モネちゃんが真っ直ぐ受け止めてる。スガナミを真っ直ぐ見つめるモネちゃん、美しいな。
「また、って言った三年前から今まで、何回も、どうしてあの時、これからの話にしてたんだろう、って思ってました。どうして、この三年間、先生と私は『他人」なんだろう、って」
「うん」
「だから、私も先生と結婚したいと思ってます」
「うん」
モネちゃんが広げた両腕にスガナミが応えて、二人がぎゅって抱き合う。
わー!僕、二人の見届けサメになっちゃったよ!
ずっとずっと、離れ離れでも、支えあってがんばってたもんね。
こうやって、お互いの気持ちを確かめ合って、一緒に未来を考えていけたら、二人はもう最強だよ!
すごいなぁ。うれしいなぁ。
って、二人が抱き合って未来を約束した次の日。
なー、スガナミ、そろそろ気づいたほうがいい。モネちゃんがスネはじめてるって。
昨日から、ずっと僕のことおうちの中で連れてて、サメ次朗めっちゃお構いしてて、そりゃサメ的には光栄なんだけど。そんなスガナミのことをモネちゃんは微笑ましく見てるんだけども、ちょっと拗ねてる空気出てきてるよー。
いやー、モネちゃんの気持ちも分かる。だって、モネちゃんに会いにきたんでしょ、スガナミは。モネちゃんにスガナミを独占させてやりなよー。って、スガナミに連れられてる僕が言うのもなんだけど、それは不可抗力なので許してほしい。
そうやってヒヤヒヤしてたら、お昼前にモネちゃんがスガナミの手を引っ張ってサメ次朗の水槽の前からお部屋に連れてった。僕のことをスガナミの手から取り上げてベッドに置いて。おぉお?
「先生、サメ次朗めちゃくちゃかわいがってますね」
「自分でサメの世話をするなんて初めてで。龍巳さんから教えてもらうことも多くて勉強になるよ」
「それはいいんですけど」
って頬を膨らますモネちゃんがかわいい。けど、スガナミ気付いてないー。おま、マジそう言うとこ!
スガナミが気付いてないのにモネちゃんは気付いてて、ふくれっつらのまま、スガナミの顔に手を伸ばして、スガナミのほっぺをむにーって両手で引っ張った。
「私ももっと先生にかまわれたい」
モネちゃん、言い切った!その一言で、スガナミが真っ赤になってやんの。ばーか、スガナミのばーか。
おぉっと!モネちゃんがそのままスガナミの顔ぐいっと自分に寄せて、キスしたー。軽いのじゃないやつー。スガナミもちょっと戸惑いながらも、そのキスに応えてモネちゃんの頭に手を添えてる。そしたら、モネちゃんがスガナミのチェックシャツと白Tの間に手を添えて。あわわー。
いつもよりモネちゃんの気持ちがダダ漏れたキスの後、やっぱりちょっとうらめしそうにスガナミを見上げるモネちゃんに、スガナミは照れたような困ったような顔で。
「先生、橋渡って、そのへんドライブ行きません?」
「え?」
「先生を独り占めしたいので」
「それは…」
「やなんですか?そうなんですか?」
わー、モネちゃんのスネモードの破壊力ー!スガナミ、マジ今正念場よ!
「いえ、嫌なわけなくて!僕もあなたを独り占め、したい…です!」
オッケ!ちゃんと言った!モネちゃんも、やっと笑った。ヒヤヒヤしたー。
さー、もー、二人でお出かけしてきて!僕はお留守番しとくから!
コージだってもうとやかく言わないさ!
結局、その日二人が帰ってきたのは結構遅くで、晩ご飯も外で食べてきたみたい。モネちゃん、明日からはちょこちょこ仕事あるし、今日二人でゆっくりできてよかったねぇ。帰ってきたモネちゃんが、楽しそうに僕のはなっつらちょんちょんしてくれる。おかえりー!モネちゃんが楽しかったとうれしいの気持ちいっぱいの匂いがして、それが僕にはとってもうれしい。ほんと、スガナミが気ぃきかなくてごめんねー。
スガナミ、マジがんばれー。