どれぐらいの長さの東京で早起きの仕事をしているモネちゃんと、登米に行ってお医者さんの仕事をしているスガナミは、起きてる時間が違うから、電話をしてる時もあるけど、なんかポチポチシュッシュってソーサして文字でお話することも多いみたい。お部屋でスマホ?を操作してるモネちゃんを見てると、スガナミと何かやりとりしてるのか、そうじゃないのかはすっごく分かりやすい。
スガナミから何か来た時には、にこにこしながら見てるし、何かソーサして送ってるときも、なんだか楽しそう。そんで、たまーに「先生、まーた返信みじかーい」って、笑いながらぷんすかしてるんだ。
久しぶりにモネちゃんが登米に行くって時、また僕も登米に連れてってくれた。一緒に行けば、サメ太朗もサメのみんなに会えるし、往復寂しくないもんね、ってモネちゃん。ねー。僕が一緒だと心強いよね!僕もうれしい!
そんで、スガナミんちに着いて。いつも通り、登米夢想で持たされた、たくさんのおみやげごはんで二人の楽しい晩ごはんが終わってしばし。二人で並んでソファでコーヒー飲んで。ほんと、二人がゆったり並んでるの見るのって、涙が出るぐらいうれしい。涙腺ないけど。そんで、なんか寿命も延びる気がする。もともと長いけど。
「ねぇ、先生、ちょっと気になってたんですけど」
ん、なんかモネちゃんがスガナミに小首かしげて聞いてる。それだけでスガナミがかわいいなぁとか思ってるのが分かって、あーもー、爆発しろ!って感じ。
「はい、なんでしょう」
「時々、私、長めのメッセージ送るじゃないですか。あれ、長すぎるな、とか思ったりします?」
「え?全然思いませんよ。あぁ、いいことがあったんだなぁって知れてうれしいし、知らせてくれることもうれしいです。どうして?」
「時々、とってもお返事が短いことがあるでしょう?もちろんお仕事のこともあるから、別に、って思いつつ、長いのが邪魔になってたら控えようかなって、会った時に直接聞こうと思ってたんです」
けなげ!モネちゃんけなげ!いーよいーよ、スガナミにそこまで気を遣わなくて。
本人も言ってたけど、モネちゃんからだったらスガナミはなんでもうれしいって。なぁ、スガナミ!
「気遣ってくれてありがとう。まぁ、確かに返事が短くなってしまったりすることはあるけど、やっぱりあなたからいろいろ聞けるのはうれしいし、気にせず送ってくれたらうれしいですよ」
ほらね!
「そっか。はい。じゃあ、今まで通り、送ります」
ってモネちゃんもうれしそう!そんでうれしそうなモネちゃん見て、スガナミもうれしそう!
ん?なんかモネちゃんがいたずらっこな顔してる。なんか思い付いた?
「先生には『がんばってください』だけの前科がありますもんねぇ~」
「え?前科?」
「私が東京で仕事始めた最初の夜に、ものすっごくわくわくした長文送ったのに『がんばってください』の一言で。あれ、めちゃくちゃモヤモヤしたんですから」
「あれ?だって、あの時は…」
「あの時はなんですか?」
なんだかモネちゃんの勝ち誇った顔ー!それもまたかわいいけども、なんかスガナミはそれを愛でてる場合じゃなくなってるな?!何があったんだろ!心の胸ビレがそわっそわ動いちゃう!
「再会するとも思ってなかったですし、ましてや、こうして一緒に過ごすことになるなんて夢にも…。新天地に飛び立った元教え子…というのも今はあえて言うのも憚りもありつつ…、えっと」
うわぁ!スガナミがシドロモドロー!なんか知らんが、がんばー!
「もちろん、あなたが予報士の仕事を始められたことも、それがわくわくするものだったことも、うれしく読みましたが、だからと言って、僕が何かを言うのは違うなと思って、返事を書いては消し、書いては消しして、結局一言になったわけで…」
ん?めっちゃスイコーしたってこと?モネちゃんのために?やるじゃんスガナミー。
なんかモネちゃんも、お口むにむにしてるー。
「書いては消し、書いては消し、してくれてたんですね」
「…しましたよ。今だから白状しますけど、小一時間は」
「こいちじかん」
「50分ぐらいです」
スガナミはやけくそに白状してるけど、モネちゃんめっちゃうれしそーだし、結果オーライじゃない?
って見てたら、スガナミがうれしそーなモネちゃんのお顔見ながら、にやりってした。お、スガナミのターンきたこれ?
「あれを前科というのなら、百音さんにも大概な前科があると思いますけどね」
「えっ…?」
ほんとに心当たりがないって顔のモネちゃんを見て、スガナミが自分の本棚の特等席にいつもおいてる気象予報士のご本(モネちゃんちに行って知ったけど、おそろいのやつ!)を指さした。それでもモネちゃんは心当たりがないみたいで首をひねってる。
「最初の受験の時、試験の注意事項を5つにまとめてメッセージを送りましたよね」
「はい、もらいました。最初の時は全然何言いたいのか分かんなくて、でも3回目の時に読み返したら、あぁ、ほんとだなぁって思いました!」
「3回目の時に役に立ってたならそれはうれしいのですが、百音さん、あれ受け取ったとき、返信ゼロでしたよ」
「えっ?!ウソ?!」
あー、モネちゃん、やらかしてるねー。なんのことかはよくわかんないけど!
「えー、返信してない、ってあるかなぁ…」
「もうログをさかのぼることは難しいですが、返信がなかった、ってことは僕は覚えてて」
「あー…」
って、なんか思い出したモネちゃんが、ものすっごくきまずそーにスガナミの顔のぞきこんでる。スガナミー!モネちゃんあんまり困らせるなよー!
「受験に出発するとき、サヤカさんがお見送りしてくれてて、そんなときに先生がメッセージくれたんですけど、がんばれ、とかでもなくて試験のなっがーい心得で、そんで選択が洗濯になってて、それはりちぎーに訂正してきて、そう思ったらまたメッセージ止まらないし、で、なんなのー!って言いながらバス乗り場に向かった…かな」
って、モネちゃんも、まあまあヒドいね!スガナミもさ、そーゆーやつだから!でも、それにはガンバレの気持ちはいってたと思うよ?そこは汲んだげて?あ、汲んではいる?うん、分かってくれてるよね、スガナミのこと。ありがと!
それにしてもスガナミのチベスナっぷりよ…。でもこれ、わざとやってる顔だー。くそー、楽しんでる!
「でしたか…」
「でした…」
「要点を網羅できるようにと思って、テキストを前夜に推敲して準備して、仙台まで朝早いから、早めに送れるようにと5時半起きの目覚ましをセットして送ったんですけど、そんな扱いでしたか…」
スガナミのせりふに、モネちゃんがぺろっと舌を出してみせる。そんなモネちゃんの頭をくしゃくしゃって撫でて、スガナミが笑顔で言う。
「あの日、日曜だったでしょう?なんか東京にいるのも落ち着かないなと思って、月曜朝移動の当直勤務で調整してたんですよね。診療所で残務処理して、夜には椎の実にいたけど、やっぱりずっと落ち着かなかったな」
「そうだったんですね」
「返信がなかったからなおさら」
「うぅう…。あれ、でも、あの日、私、先生が椎の実にいるって聞いてなかった…。なのにどうして私、椎の実に行ったんでしょう。日曜夜だったのに…」
「うーん、なんか、僕もあなたが来る気はしていて…」
当時からめっちゃ仲良しじゃーん!!約束してないのに、待っちゃって、待ってるとこに来ちゃうとか、仲良しー!
そんで、再会するとも思ってなかったとか、スガナミ何言ってんの?
「あの日、椎の実でコーヒーをいただいてました、って先生は言ってましたけど」
いたずらっこなお顔を復活させてモネちゃんが言うのを、スガナミがすまして答えてる。
「コーヒーをいただきながら、論文を読みながら、何となく待っていた、ので事実の一部ではあると思います」
「ふーん?」
ソファの上に三角すわりになって、膝に頭をもたれさせてスガナミをにこにこ見上げるモネちゃんがかわいすぎる。そんでもって、そのモネちゃんと目が合ったスガナミがデレすぎてる。やっぱり爆発しろー!
なんか、思わぬ展開でモネちゃんとスガナミのむかしの話をきいたけど、なんかずーっとふたりが仲良しだったことが分かってうれしかったな。ほら、バスで初めてモネちゃんと会った時は、スガナミも塩っしおだったからさー。まさかその後にそんなに仲良くなってたとか思わないじゃーん。そんで、一緒におうちですごすようになるのに3年ごしって、そーゆーとこマジスガナミ。ほんと、こうやって隣同士になれてほんとによかったね!これからも隣同士の時間がたくさんありますように、って僕もおいのりしとく!え、どこのだれに?…うーん、たぶん、サメの神様!シャークゴッド!いるか知らんけど!