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    身を寄せ雪虫や力がない者はことあるごとによって、常に何かを搾取されなきゃならない。
    持たざる者の不平等を知っているからこそ、あの人は力を手に入れたと。
    そんな話を自らしていた。

    持つべき者になり。
    なにか戦えるものを持っていれば、ただ悪戯に奪われることはない。

    例えばそれは
    富とか名誉とか地位とか命とか。

    尊厳とか。

    常に何かを行う時に支払うコストは弱者から発生する。
    世界がそうやって回ってきた。

    だから、弱者が搾取されるのは当たり前で。
    世界は弱者に目を向けない。

    搾取されたくなければ強くなれ。

    それすらできない弱者を救済するシステムはあっても腐るだけの無駄なもの。

    自分は、持たなかった。
    地位も名誉も富も力も。

    持たざる弱者は持たざる者に相応しく。
    ただ全なる組織のために働いて、一としての個人を持つことをやめた。

    その生き方が、在るべき弱者としての姿。

    正直なところ、自分がここにきたのはガレマルドとの膠着状態が終わった後の話なので。
    何が起こっていたのかわからない。

    ただエオルゼア同盟軍との衝突があったから、激しい戦争があったんだな。と、そのくらいのこと。

    その国の傷は、他国の人が理解してはならない。
    解決すべきは当事者であり。

    差し伸べる側が寄り添ってはならない。

    ガレマルドの夜は冷える。
    冷える上に火を起こすための青燐水が不足している。
    防寒対策としては不十分な備えだが、山の都で培ってきた防寒知識は案外ここでは役に立つ。

    「?」

    少しでも冷える床から体温が奪われぬように布を敷く。

    人の気配を感じ顔を上げる。

    「ユルス?」

    名前を呼べばその人はちょっと気まづそうに目線を逸らした。

    「青燐水。足りてるか?」
    「ん、あー…」

    ストーブの残量メーターを見る。
    残量メーターは0の数字ギリギリを示していた。

    「夜を越す前になくなりそう。」
    「そうか」

    ストーブの給油口を開け、青燐水を注ぐ。
    物資の補給が満足に行き届いてないため、満タン、は無理だったが。

    そのまま次の見回りに行くのかと思ったら隣に腰を下ろす。

    青燐水タンクの残量は0だった。

    度々こうして口実をつくってくるのは、可愛い女の子だったら多分いじらしくてかわいいと思うだろう。

    男相手にはそんな気は起こらないし、そもそも仲が悪くないんだから、理由がなくても会いにきて悪い気分にはならないのだが、相手にとっては何か遠慮があるらしい。

    会いにくるのは初めてじゃなく、過去何度かあった。
    そういう時は大抵、同郷の人間のそばより、何も事情を知らない部外者の側の方が居やすいという理由らしい。

    どちらとも話をすることなく燃える火を見続ける。

    肩に、くてっと頭を預けられた。
    相手の様子は、焦点の合わない目で、じっとストーブを見ているだけ。

    何度か会いにきたとき、たまにそんなことがある。
    けれども、何があったかは聞かない。
    聞くこと自体が悪手。
    寄り添われることは嫌い。

    本能的にそう感じてる。

    こうして、焦点の合わない目でどこかを見ている時は、絶対に誰かの名前を呼んでいる。探すように。否、探しているのか。
    もう居ないものを。

    自分は部外者だ。
    だからその気持ちに理解も、寄り添うこともできない。

    荷物から毛布をたぐり寄せ、肩にかける。


    Are you going to Scarborough Fair?
    Parsley, sage, rosemary, and thyme;
    Remember me to one who lives there,
    She once was a true love of mine.

    昔、母親に悪夢を見たことを話したことがある。
    暗闇で、炎が追いかけて、飲み込まれて。
    それを話すと母親はいつも温かいヤクの乳と毛布を持ってきて、そばで歌ってくれた。

    Are you going to Scarborough Fair?
    Parsley, sage, rosemary, and thyme;
    Remember me to one who lives there,
    She once was a true love of mine.

    Tell her to make me a cambric shirt,
    Parsley, sage, rosemary, and thyme;
    Without no seams nor needlework,
    Then she'll be a true love of mine.

    意味のないハーブの羅列は魔除けだと。
    そう聞いたのは異端尋問局に勤め始めた頃だった。

    暗闇の中で。
    灯りを灯すような。
    そんな迷信めいたおまじない。

    探している人が
    いつかきっと見つかるような。

    何があったかは聞かない。
    それに寄り添うこともしない。
    それに理解を示すことはしない。

    救わない。
    救えない。

    同じ持たぬべきものが救っても。
    それは何者にもならない。

    『あらァ、それじゃァ、あんまりにもかわいそうじゃナァイ?』

    己に手を伸ばす焼け爛れた人。
    それは、自分にだいぶ良くしてくれた店先の男で。

    自分が今持つべきもので、相手が持たぬべきものだということを示していた。

    自分はその手を
    取らずに、顔を逸らした。

    だって。
    持たざる者はどこまで行っても持つことができない。

    焼け爛れ、自分に縋り付く男の後ろに立っていた上司は。

    にんまりと笑って、こう言った。

    『正解。イイ子ネ。』

    そう。
    持たぬものは、誰かを憐れんだり、掬いあげたりする権利がない。

    けれども
    明日を。
    今を生きようとしている人に、灯りを灯すのは。


    気がついたら自分も寝ていたようで、人の喧騒で目が覚めた。

    火を灯していたストーブの残量メーターは0を示しており、口実を作って会いにきた知り合いは既に起きて活動を開始しているらしく、もぬけの殻だった。

    スローフィクスのお使いは既に終わっている。今ここにいる理由は残業に近い。

    エオルゼア同盟軍との補給物資のやり取りのリスト。
    駅構内の整理。
    つまりそういう雑務を誰に言われたわけでもなく、つい手伝ってしまっている。

    それも戦後復興の手筈が整うまでの間だが。

    口実を作ってまで会いにきた知り合いを見ると、昨日のことなどなかったようにまた大量の紙仕事を抱えていた。

    今日は適当に外を見て復興に使えそうなガラクタやちょっと遠出して植生でも調べようとしたが、あの量は一人では無理だと、異端尋問局時代の仕事量が過ぎる。

    さて、今日は、少し気難しい友人の手伝いでもするか。
    panic_pink Link Message Mute
    2022/06/19 17:28:54

    身を寄せ雪虫や

    一端の〜とおなじ時間軸になります。
    Twitterで書き散らしたもの

    相変わらず自分が見たいものを出力している

    #FF14
    #キール
    #ユルス

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