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    蜃が吐いた泡沫の不思議な夢を見たような気がした。
    現実と酷く乖離したような。
    多分自分の人生のうちでそういうことはなかっただろうと言い切れるような話だが。
    あっただろうと言える話でもある。
    どこか記憶がすっぽ抜けたような。
    元からあったようなものだったか。
    ないものを作り出してあったんだと無理を押し通しているのか。
    ぼんやりとそこだけ霞がかかっている。
    幻覚。幻聴。
    妄想。捏造。

    ついに頭までやられたのか。

    香炉から立ち上る煙を片目に側の相棒に呟けば、記憶とは偽られるものですからとよくわからないことを返された。

    思い立ったら吉日。
    行動力のありすぎる主にいつも振り回されてばかりだと側の副官は思う。

    アストルティアにいく。
    たった一言。それだけだった。

    記憶の隅にこびりついた1点の汚れ。
    その意味を探しに行くと。

    六大陸を有する外界アストルティア
    そこから1つ、正解を探し出すのは途方もない苦労だと思う。

    故に留守を言い渡された副官は口を開いた。

    あなたがその話をするのは白檀の香りがする時だけだと。


    『カミハルムイ、カミハルムイ』

    無機質な音声と共に降り立った駅は白檀の香りはせずともわずかに花の香りがした。

    外界を旅するのはいつぶりか
    かつて師匠マリーンとともに旅の行商人と称してアストルティアを回った日々を思い出す。

    魔族を隠す為の旅装束。
    いつぶりか引っ張り出して腕を通してみたが、窮屈さを感じない、あの時のまま。

    白檀。
    香の種類はいくつかあれども、それを聞いて思い出したのが、エルトナ大陸でそれがよく使われていたこと。

    それだけを頼りにエルトナ大陸の大都市、カミハルムイに降り立ってみたが当てが外れたように、何一つ記憶の違和感に引っ掛かることはない。

    カミハルムイでなければエルトナ大陸にある残りの集落はアズランかツスクルか。

    「あれ?ユシュカ?」

    地図を広げて考えていると、後ろから聞き慣れた声で名前を呼ばれる。

    「…アスバル。いや、ここだとシリルと呼んだらいいのか?」

    後ろに立っていた旧友はどっちでもいいよと少し困ったように笑った。

    「珍しいね、というより、初めてかもしれない。君がそう外界に出てくることは。もしかして気分転換の旅行?」

    聞かれた質問に首を横に振る。
    普通なら適当に誤魔化すところだが、この奇妙な友人は奇妙な話にも理解がある。
    故に、ここへきた本当の理由を話した。

    幻覚のような。
    陶酔のような。
    捏造のような。
    欺瞞のような。

    ないはずなのに。
    あるように語りかける一片の記憶。

    それを茶化さず、真面目に聞いていた旧友は、ヒントになるかわからないけど、と、カミハルムイ城にある1本の桜の下に連れてきた。

    カミハルムイに咲く桜はどれも薄桃に色づいているが、これだけ色素が薄く、同じ桃色であるのだろうが、白く見える。

    「この桜の木だけ、カミハルムイの人々から特別な名前で呼ばれてるんだ。白くみえる花弁。白い桜」

    ハクオウ

    ぼんやりとした記憶の一部。
    それは嘘だったであろう。
    それは思い込みであろう。
    それは、

    ないはずのものだろう?

    そう言い聞かせた記憶が。

    「大体の人はそういう。けど、この桜の由来を昔の英雄になぞって呼んでる人もいるみたい」

    エルトナ大陸に現れし災厄の王を一人で打ち倒した英雄。

    他人を信じず
    自分を信じず
    誰も信じない
    それは烏滸がましい英雄の物語。

    たった1つ
    城内に咲く桜を見ていたら、そんなにお気に召したのなら記念にどうぞと、枝を剪定していた庭師から花のついた枝を手渡された。

    かつての英雄の名がついた桜。

    たった一人。
    単騎で戦場をかけた英雄譚は。
    賞賛を受けるべき物語。

    なのにそれを
    烏滸がましいと言えるのはなぜなのか。

    「何か思い出せた顔をしてるね。よかった。じゃあついでと言っては何だけど、」

    旧友が地図を広げてある一点を指差した。

    カミハルムイ領をさらに北上したところにある洛陽の草原。

    「その英雄は死後ここに祀られている」

    きっとその記憶がそれに関係してるなら言って損はないよ。と、言われるがままにたどり着いた場所。

    集落から程遠い場所に離れていても多少墓石は手入れされているようだ。
    エルトナ大陸の英雄となればやはりどこにあっても蔑ろにはできないのか。

    霞かかった。
    一点の違和感が少しづつ一致していく。

    単騎で戦場をかけた英雄は。
    他人を信じず。
    自分を信じず。
    誰も信じなかった。

    「人一人で世界が救えるわけないだろ」

    自分一人でも。
    世界を救えなかったんだ。

    幾多。
    無数に人を集めても。
    それでも一握りがやっとで。

    例えば、人を信じて。
    同じように人を集めて立ち向かってもきっと世界は救われなかった。

    けれども
    何か1つは変わったのだろう。

    墓石の前にもらったさくらの枝をおいて立ち去る。
    すれ違いざまに掃除道具を持った小柄なエルフの女性とすれ違った。

    「参拝者ですか?」

    そう聞かれて曖昧に頷く。

    「…そうですか。近頃はあなたのようにわざわざ遠方から訪れてお参りする方も少なくなって。」

    どうぞと渡されたのは緑色の、餅。

    「当時英雄ハクオウが陣中食として持ち歩いていたそうです。見るところどうやら異国のお方。是非お土産にどうぞ」
    「墓が場所に似つかず小綺麗なのはそうやって毎日手入れしてくれるやつがいるからか。」

    そう言えばエルフの女性は目を丸くする。

    「はい、代々の先祖、アオサ様から言いつけられたことですので。昔からこの墓石は私たちの一族が清掃してるんです。せめてもの罪滅ぼしとして」

    一度グレンに帰るためにエルトナ駅の汽車に乗る。

    「随分スッキリとしてるみたいだけど悩みは解決したのかな?」

    まあ大体なと返事を濁せば、それはよかったと笑い返された。


    答えは見つかりましたか。
    側の副官が問いかけた。

    記憶の片隅にある。
    実感のないねつ造されたような夢の話。

    それがよくわからない気味の悪い幻覚から、泡沫のような夢という認識に変わっただけで。
    はっきりこうだという答えはなかった。

    現実と乖離した夢。

    頭の隅に常にある。
    ぼんやりとした夢。

    それを話せば

    夢だというのならそうなのでしょう。と

    夢。
    あるいは蜃気楼。

    蜃の吐く夢。

    そう言えば、と、副官は思い出したように呟く。

    「あなたが不在の間、行商人が来まして、バザールでの取引品に自分の商品を取り扱って欲しいとある品を置いていきまして。
    今兵士が持ってくると思うのですが。」

    と、いい終わるとともに兵が両手で恭しく1つの包みを差し出した。
    包みをひらけば細長い金属に花をあしらった宝石。
    飾りのようについている珠は、宝石ではなくガラス玉。
    蜻蛉玉といったような。

    墓石の前に置いてきた枝がそのまま返ってきたのか。

    「アストルティアでの独自の交易ルートを持っているので仕入れた品をバザールで取り扱って欲しいと。
    エルトナ大陸で生産されているカンザシという髪の装飾に用いるようです。
    そうでなくとも見た目がこのように綺麗な為飾り物として楽しむ人もいるとか。
    王には事情を話しますがバザールの取締役はジルガモットなのでそちらにも話しておいたほうがいいとはいっておきましたが。」

    簪にあしらわれた花は色素の薄い白い桜。

    「ハクオウか」


    蜃気楼のような夢を見る。
    隣に立っている男の名前を呼ぶ。

    現実であるかどうかはっきりしないが、ここではあることがはっきりしている。

    白い
    桜の名前。

    いつものように何気ない話をしようとして、何か手に持っている感覚がある。

    細長い、簪。

    「簪ですか。ヤマカミヌに仕えていた頃は市井でよく見かけましたが、あの方にもらったのですか?」

    カミハルムイの。
    桜の枝。

    手に持っていた簪をやり方がわからないので適当に男の髪に差し込む。

    「思ったとおりだ。」

    刺した金糸に桜が揺れた。

    不思議なことにもらったはずの簪は花差しのように刺していた花瓶から綺麗さっぱり無くなっていた。

    おや、佳き人にでも差し上げたのですかと副官が揶揄うように問いかける。

    夢か
    幻覚か
    捏造された記憶か

    またあの桜が恋しくなった
    panic_pink Link Message Mute
    2025/04/23 3:07:41

    蜃が吐いた泡沫の

    アスタルジア軸とのあやふやな行き来
    カプ成分あるかどうかわかりません
    登場人物たちの奇妙な縁の話

    #DQ10
    #DQX
    #ユシュカ
    #ハクオウ

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