海神と迷子? 6※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・オリジナル扱いの悪魔がいます
・最後にちょっとだけオリキャラ
・ちょっとだけえっちに見えるかもしれない描写(えっちではない)
以上のことを踏まえて、それでも大丈夫という方は次ページへどうぞ
迷宮の最深部。そこには千栄理の呪いの源である蔓が根を張り、その中心には赤く大きな蕾があった。薔薇のようでもカーネーションのようでもあるが、そのどちらでもないように見える。どちらにせよ、神々は花を咲かせるつもりは無い。この場所に足を踏み入れた時から嫌な予感を覚えているからだ。あの赤い花を咲かせてしまったら、悪いことが起きる。そんな予感と目の前に立ちはだかる悪魔の姿に、一同は緊張した面持ちで対峙する。
その悪魔の姿は正に典型的な天使と同じものだった。真っ白な肌と短い髪に真っ白な翼。ロキよりも小さく幼いように見える。しかし、その足元は炎に包まれ、彼が地面に足を付けると、そこだけが炎に焼かれた。その炎は普通のものとは性質が違うのか、背後の花や蔓を焼くことは無い。花の上から神々の前に降り立つと、その悪魔は芝居がかった動作で深々と頭を下げる。
「お久しゅうございます、ハデス様」
「まさか、此奴のコピーまでいるとはな……ベリアル」
「あぁ、来たよ。最悪のやつが」
にっこり、と天使の笑みを浮かべるベリアルに、ハデスは槍を構え、ヘルメスに言った。
「下がっていろ、ヘルメス。此奴はペン一本で倒せるような相手ではない」
「ええ、承知しました。しかし、ペンは剣よりも強しとも言いますので」
意気揚々と万年筆のキャップを外して振ってみせるヘルメスに、ハデスは笑みを含んだ溜息を一つ零す。
「愚か者め。余の足を引っ張らぬよう努めることだな」
「はい、もちろん。サポートは大得意なので」
「全然、他人の言うこと聞かないじゃん」
「皆様、ようこそお越しくださいました。最初に断っておきますと、僕は他の愚かな悪魔とは違い、自分がコピーであること、ここの守番であることを重々自覚しております」
何やら妙に丁寧な口調で語り出したベリアルに、一同は無表情のまま、聞いていた。
「ですので、皆様がもし、ここでお帰りになってくださるなら、僕といたしましても自分の役目を全うでき、大変喜ばしいことなのですが、どうでしょう? どうか、お引き取り願えませんでしょうか」
ここまで来て、帰れと宣うベリアルをハデスはせせら笑う。
「何を言っている」
「この人間はとても哀れな者です。自ら望んでもいないのに、無理矢理天界へ連れて来られて、望んでもいないのに、海神ポセイドン様の許で飽くまでも所有物として理不尽・不条理な扱いを受け、家族や友人達とも永遠に会えない。そんな人生に何の価値があるのでしょう? それでは生きているとは言えないではないですか。だから、僕が……いえ、悪魔の手によって救済を与えて差し上げねばなりません。傲慢で不条理で辛く苦しい現実より、無に身を委ねる方がずっと安楽ではないですか。ねぇ? ですから、このまま呪いを開き続け、いっそ殺して差し上げた方が幸せ、至上の喜びなのです。僕はそのお手伝いを……いえ、彼女の導き手としてこの場所を死守するのです」
口調こそ熱が籠っているが、表情は一切変わっていない。まるで感情など無く、ただ録音された音声を再生するだけの機械のようなベリアルを、今度こそハデスは嘲笑した。呆れて物も言えないと言いたげに大笑するハデスに、ロキとヘルメスもくすくす嗤った。
「……何が可笑しいのですか」
一頻り笑った後、ハデスは依然として侮蔑の眼差しを向けながら、言い放った。
「これはまた、ここまで見た中で一等陳腐な粗悪品だな。本物の彼奴が聞いたらなんと言うか」
「あいつなら、もっと煽ってくるよね。『心底どうでもいい人間一人を助ける為に命賭けるってどんな気分ですか? この世で一番不毛なことをしている無価値な神様ですね』くらいは言ってくるよ」
「流石に完全なコピーは作れなかったようですね。なんとまぁ、お粗末な出来で……おっと、すみません。この口が」
『粗悪品』、『お粗末な出来』と言われ、それまで無表情を貫いていたベリアルは、初めて表情を変えた。強烈な怒りだ。
「今、僕のこと、『粗悪品』って言いました。ひどい……。ひどいです……。僕はただ、自分の役目を果たそうとしているだけなのにっ……! どうして、そこまで言われなくちゃいけないんですか!!」
「当たり前だ。貴様は何も分かっていない。大方、千栄理の記憶を覗いた程度で、彼奴を理解した気になっている貴様には『粗悪品』が似合いだ。いや、それとも『出来損ない』の方が相応しいか。それに、千栄理は愛弟が唯一、選んだ人間だ。今更、どこにも行かせはしない」
「むしろ、記憶覗いた程度で感化されてちゃ、その辺の悪魔以下でしょ。キミの方がよっぽど可哀想じゃん。それに、今更千栄理の気持ちなんて知ったこっちゃないんだよ。ボクらもポセイドンさんも。ボクらは神様で、何でもできて、やりたい放題して良いんだ。ポセイドンさんにとって、元気なあの子を傍に置いておくことがポセイドンさんのやりたいことなんでしょ」
「おや、この流れでは私も言わなければなりませんか? そうですねぇ……正直、私は千栄理さん自身に全く興味は無いのですが、彼女と一緒にいる時のポセイドン様は大変珍しい顔をなさる時があるので、そういった意味では期待しています。ですから……ここで彼女を失ってしまうのは、とても惜しいんですよ」
人間の感情など知らない、関係ないと言い切る神々に、自分を侮辱した三柱に、ベリアルは嘆き悲しみ、怒りに燃え震えた。
「なんて、身勝手な……。傲岸不遜で、縋るにも値しない者達め……。僕を侮辱した罪をその命をもって詫びよ!!!!」
その声が合図になり、瞬きの間にロキへ肉迫したベリアルが炎を纏った蹴りを繰り出してくる。その動きに合わせて宙返りをし、鮮やかに避けるロキと横槍を入れるハデス。しかし、槍は反射的に方向を変えたベリアルの蹴りに弾かれる。その隙を狙って真っ直ぐ花に向かって走り出すヘルメスを、手に炎を纏わせたベリアルが追う。未だ天使の姿を残しているせいか、スピードは恐ろしく速い。そのまま炎で焼き尽くそうと横に振られるベリアルの手をすんでのところで躱し、尚も走り続けるヘルメスにもう一度迫ろうとしたベリアルだったが、それよりも速くロキの鎖鎌によって拘束される。
「くっ……! 放せ!」
「放す訳無いじゃん。ヘルメスさんばっかりに構い過ぎたねぇ〜」
「此奴は余とロキで抑える。行け、ヘルメス」
拘束されたベリアルの首を槍の柄で押さえ、そのまま気道を塞ぐハデス。何とか拘束から抜け出そうとするベリアルだったが、全身を鎖で縛られている上にハデスの剛力で首を絞められている為、上手く体に力が入らない。その間にも着実にヘルメスは蕾に近付いていく。その後ろ姿を視界に入れながら、ベリアルは片手を伸ばし、炎の塊を飛ばした。
「かはっ……! か、彼女に……近付くなっ……! 忌々しい、神共めっ……!!」
「ヘルメス!」
背後から迫る炎に気付いたヘルメスは一度強く地面を踏み込み、跳躍する。一度の跳躍で一気に蕾の近くへ降り立ったヘルメスは迷い無く万年筆を蕾の中に突き立てた。「ぴぎゃっ」と中から悲鳴のような声がし、痛みに悶えるようにうねうねと蔓が蠢く。その様にベリアルは泣き崩れ、悲鳴にも似た絶叫を発するが、ハデスの手でただのページに戻された。
「何かあっさり終わっちゃったね」
「……本当にこれで終わりか?」
無数の蔓が蕾を引っ込めようと中心に集まっていく中、蕾から離れたヘルメスが戻って来る。花は咲き始めていなかったかとハデスに訊かれたが、そんな気配は全く無かったとヘルメスが答えた時だった。俊敏な動きで蔓が迫り、ロキを捕らえる。反応する間も無く、ポケットや懐に蔓が入り込んでくる。
「うわっ!? キショ! 止めろ! 放せって!」
「何故、彼奴だけ捕らわれている?」
「さぁ……気に入られたのでしょうか」
暫くそうして少し絡まれていたかと思うと、ぽいとロキは地面に落とされる。「大丈夫ですか? ロキさん。お婿に行けます?」なんて悪趣味な冗談を飛ばすヘルメスを睨みつけ、「大丈夫」と言いかけた時、ロキは気付いた。
「コピーのページが無い!? あいつに全部取られた!」
見ると、蔓によって花の周りにページが集められ、蔓がそれらを包み込む。それは蔓で出来た玉となり、中から引き裂くような音がしたかと思うと、玉が割れ、蔓で造られた悪魔共が這い出てきた。悪魔共の中心、出し抜けに蕾が完全に開いた状態で花が現れた。花芯には真っ黒な闇と闇の中に浮かぶ二つの黄色い光を帯びた目玉があった。
「女の子は花が好きだよね」
「ああ、プレゼントすると、何だかんだ喜んでくれるしな」
空になったカップをゴミ箱に捨てながら、ベルゼブブがぽつりと呟き、救破も同意する。彼の上に座り直し、ベルゼブブは画面を見やる。
「だから、僕も用意してみたんだ。綺麗でしょ。予言をする花だよ」
「ふっはは。相変わらず、悪趣味な奴!」
含み笑いを零すベルゼブブに、救破は手で近くのテーブルを叩き、笑った。