真紅の暴君 母への忠実なる思い 第四節※※ご注意※※
・キャラ崩壊(引き続きリドルくんがただの小学生、トレイママ等)
・FFシリーズとクロノクロスの良いとこ取りでできたようなパロディ
・ユウ呼びあり
・ゲームの中では皆監督生に優しい
それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
目を覚ますと、ユウは薄暗い中瓦礫に囲まれていた。こうなる前のことを思い出し、体を動かそうとすると、まだ落ちた時の衝撃が抜けていないのか、少しじんじんと痛む。その痛みに声を上げると、近くにいたらしいエースが声を掛けてきた。
「いってぇ…………ユウ、大丈夫?」
「――うん、何とか。…………どこだろう? ここ」
「待って。今明かり出すわ」
エースがファイアを唱え、空中に小さな火の玉が浮かぶ。辺りを照らすと、すぐにグリムもデュースも見つかった。皆、大怪我はしていない。不幸中の幸いだと乾いた笑いを零しつつ、あの巨人はどうなったのかと辺りを探し始めた。
「…………いないな」
「倒せたってこと?」
「っていうか、何か奥に道続いてない?」
エースが示した先には確かにまだ道が続いている。しかも、人の手が入っている道で、石造りの比較的舗装された道だった。
「行ってみるんだゾ!」
「あっ、グリム待って!」
「おいおい、ユウ! あんま動くなよ! 軽傷でも危ねぇって!」
「待つんだ、二人共!」
グリムを筆頭に一同は奥へ走る。暫く道なりに走っていると唐突に道は途切れ、上と同じような広い場所に出た。そこにも同じように祭壇が鎮座している。しかし、今度の祭壇は上階で見たものよりずっと大きく立派なものだ。雨風に晒されること無く、ずっと地下にあったせいか、劣化は少なく、祭壇へ続く道には赤い炎が宿った松明が並んでいる。祭壇には獣の頭を持つ人を象った像が祀られていた。明らかに儀礼的で厳かな雰囲気を持つ場所に、畏怖に近い感情を抱いた皆はすぐには動けなかった。
「…………何、ここ」
よく来た、人の子らよ。
エースがやっと言葉を絞り出した瞬間、不意に頭の中で声がした。皆、未知の感覚にびくりと震える。声は続けた。
九百年の間、あれを退けられる者はおらなんだが、お前達は違うようだ。その強さ、我に相応しい。さあ、来い。我が力をそなたらに授けよう。
それだけ言って声は止んだ。三人と一匹は互いに顔を見合わせ、「どうする?」と言いたげに目配せした。ここまで来て帰るという選択肢は無いが、あの祭壇に近付くのも少し憚られる。結局、全員で祭壇に近付くことになり、皆そろそろと像の前まで行った。
像の前まで来ると、それを待っていたかのように重い音を立てて像の口が開き、中からごろん、と赤い宝石が転がり出てきた。
「え……? な、何……?」
「宝石なんだゾ!」
人間、突然目の前に宝石を差し出されると、どうしていいのか分からなくなるもので、ユウ達も例に漏れず、「これ、どうしよう」とまたお互いの顔を見た。
「さっき、あの声のやつ、くれるって言ってたよな?」
「ああ……まぁ、うん。確かに」
「じゃあ、貰っちまおうぜ」
グリムの提案に三人は戸惑いながらも同意する。あんなに苦労したのだから、何か見返りがあっても良いものだと思ってはいたが、いざ高価な物を出されると、本当に貰って良いのか分からなくなる。「誰も取らねぇなら、これはオレ様のモンなんだゾ!」と宝石に前足を伸ばすグリムから守ろうと、ユウが咄嗟に石を持ち上げる。それを見計らったようにまた頭の中で声が響いた。
我が力、預けたぞ。
それを最後に声は聞こえず、祭壇は静まり返ってしまった。それ以上、留まっていても特に新しい収穫は無いと判断したエースとデュースは「出口を探そう」と言い出した。それに同意したユウに連れられてグリムも付いて行く。元来た道に戻っても出口らしい道は見付かりそうもないので、一同は祭壇の周りを手分けして調べてみることにした。暫くの後、祭壇の右側の壁をよくよく調べていたエースは、あることに気付く。
「この壁、何か擦った後があるな」
よく見ると、壁のある地点で妙な傷のような、何かで擦った後にも見える痕跡があった。一旦、少し離れて壁全体を見てみると、微かにそこだけ四角く痕跡が残っている。再度、同じ場所へ近付いて今度は足で壁を蹴ってみたが、びくともしない。
「何かここだけってのが怪しいんだけどなぁ~」
独り言をぶつぶつ呟きながら、壁を調べているエースに気が付いた他の面々が何事かと集まってきた。エースが根拠を示しつつ、「ここが怪しい」と言うと、皆壁を押したり無理矢理引いてみようとしたり、彼と同じように蹴ってみたりと色々試してみたが、一向に何かが変わる気配は無い。疲れたエースは少し休もうとそのまま壁に背を預け、これからどうするか相談しようとした。
「おわあっ!?」
「エース!?」
エースが寄りかかった瞬間、ぐるんと壁が動き、一瞬にして彼の姿が消える。一瞬、何が起こったのか分からなかったユウ達は壁越しにエースの名前を呼び、壁を叩くが、さっきと同じように何も起こらない。代わりに壁の向こうからエースの声がした。
「大丈夫、大丈夫。それより、ユウ。壁の左側押してみ?」
「左側?」
エースののんびりした口調から危険な状況ではないと判断したユウは、言われるまま壁の左側を手で押してみた。またぐるんと壁が回転し、ユウは慌てて手を突っ込んで押さえる。その向こうにはやはりエースがいて、内側から押さえていてくれたので、ユウ達も通ることができた。
中に入り、壁を元に戻すと途端に真っ暗になってしまう。またエースがファイアの魔法で明かりを作ると、古い坑道のような道が先に続いていた。しかし、何かを採掘した後は無く、木の枠で壁を等間隔に囲った道が続いているだけだった。
「何だろう? この道。外に続いてるのかな?」
「さあ。もう何もかもよく分かんないけど、行ってみるしかなくない?」
「そうだな。ここでいつまでもじっとしていても、仕方ないし。行けるとこまで行ってみよう」
「うわぁ、結構でけぇ石がゴロゴロしてるんだゾ」
「皆、足元気を付けろよ。後、モンスターも出てくるかもしれないから、警戒してけよ」
「お前もな、エース」
明かりを持っているエースを先頭にユウ、グリム、デュースの順で先へ進み始める。道幅は狭くは無いが、この先に何があるのか分からない。慎重に行こうと皆前方と後方を警戒しつつ、進み始めた。
何度かモンスターと遭遇し、その度狭い道幅でも何とか魔法やグリムの炎を利用して一同はやっと洞窟を脱出することができた。真っ暗な場所から急に明るいところに出たせいか、陽光が目に刺さるように眩しい。外に出て暫く目が慣れるまで休んでいた一同は、どこも怪我が無いことと祭壇から出てきた石をちゃんと持っていることなどを確認してから、現在地を確かめようと周囲を見回した。が、すぐに王都ローザの近くであることに気が付いた。
「えっ!? ちっか!?」
「こんなところに出るのか」
「良かった。出られた……!」
「じゃ、オレ様はここでお別れなんだゾ」
ぬるりとユウの腕から逃れようとしたグリムだったが、透かさずエースに首根っこを掴まれて持ち上げられる。「ふなぁ~! 何すんだ!」と暴れるグリムにエースは「お前を連れて帰らなかったら、オレ達がヤバいの!」と言い、そんな利己的な理由でグリムはそのまま連行されることとなった。
やっと城へ帰り着いた一同は、そのまま真っ直ぐ王子の間へ向かう。捕らえた魔獣をリドル王子に見せ付ける為だ。女王の間にほど近い王子の間への扉を勢いよくエースが開く――殆ど蹴り開けていた――と、リドルは丁度午後のお茶を楽しんでいたようで、傍らにトレイが控えていた。
「ああ、帰って来たのか。それにしても、随分と騒々しい――」
そのままエースはグリムをテーブルに押さえ付けるようにしてリドルの前に差し出した。トレイが咄嗟に動いてリドルを避難させたので、彼の膝にお茶がぶちまけられることは無かった。
「いきなり、何をするんだいっ!? エース。無礼な……!」
「すいませんねぇ、お育ちが悪いもんで。でも、これで納得して頂けるでしょ? ほら、こいつが全部の不始末の犯人です!」
「ぶ、ぶなぁ……」
「エース、そんなに押さえ付けたら可哀想だよ」
自分と契約した魔獣ということもあって、ユウが咎めるが、エースは「こうでもしないと逃げるじゃん」ととりつく島もない。グリムの姿を訝しげに見つめたリドルは、「何だい? この……モンスターは?」と少々困惑している。
「だから、今回の騒動の犯人っすよ。モンスターじゃなくて、魔獣ですけど。ああ、後、遺跡を調査したら、何か変な石を見付けたんです。魔力は感じるけど、何の為に作られたのか、よく分かんなくて……」
「よく分からない石? 見せてみろ」
「ほら、ユウ」
「分かってるよ。あの、こちらです」
エースに促されてユウがポケットから魔石を取り出し、トレイに見せる。その真紅の輝きに明らかに目の色を変えたリドルがトレイを押し退けてまじまじと石を見つめた。その鬼気迫る勢いにユウは気圧されて一歩後退った。
「ど、どうしたんですか? 殿下……?」
「これは…………遺跡のどこで見付けたんだい?」
「え? ああ、何か遺跡の地下にあった祭壇みたいなとこにありましたよ?」
何気ないエースの答えにリドルは瞠目する。彼の様子がおかしいことに気付いたユウとデュースは、不思議そうに小首を傾げる。しかし、それもほんの束の間、リドルが右手を払うようにして振ると、ユウ達が入ってきたドアから何人かの衛兵が乱入して来た。リドルはその一団に叱咤することも無く、当然のように命令を下した。
「禁域に侵入したこいつらを引っ捕らえろ! 明日の朝には処刑する!!」
「――はっ!? 何だよそれっ!?」
「ぶなぁ~! は、放せぇっ! 放すんだゾ~!!」
「い、痛っ!? どうして――放してくださいっ!」
「ユウッ! ――あっ、ぐぅっ……!?」
衛兵達に拘束され、手放された魔石を拾い、連行されていくユウ達の姿から目を逸らして背を向けるリドル。主人の背を暫し見つめ、悲痛な面持ちのトレイは何も言わずに衛兵達の後に付いて行く。ユウ達が退室し、静まり返る部屋の中で一人残されたリドルは何かを決意したかのように張り詰めた表情で、ぎゅっと手の中の魔石を握った。
セーブを終えると、画面が暗転から徐々に薄明るくなっていく。トレイの作ったゼリーを食べ終わってから果たして、後輩達は無事なのかと心配そうな顔で見守るリドル。その間にトレイは器を片付け、お茶の準備をする。やっとユウ達の様子が分かる程度に明るくなった画面の中で美麗にモデリングされた彼らが互いの無事を確かめるムービーが入り、グリムが奥の方へさっさと行ってしまった。そこからまた操作はプレイヤーに戻るが、リドルは追いかけなければという気持ちから特に周囲を調べること無く、グリムが行ってしまった方へユウを動かし、祭壇の間へ出てしまった。この時の選択を彼はエースがプレイしている横で大変後悔することになるとも知らず、またムービーを経て魔石を手に入れた。
「魔石……? 何だろう? このアイテム」
初めて聞く単語に首を傾げつつ、メニュー画面を開いてアイテム欄を見てみるも、ポーション等が表示されている画面には見当たらない。よく見ると、通常のアイテムとは別に『だいじなもの』というタブがあるのに気付いた。
「こっちにあるのか? ――あ、あった。えっ?」
何となく先程手に入れた魔石にカーソルを合わせると、下に出てきた説明文に驚き、少し困惑した。そこには『召喚獣イフリートを呼べる』と書いてある。召喚獣という単語から、リドルは何か特別な意味があるように思え、丁度戻ってきたトレイに訊いてみる。
「トレイ、何だろう? この召喚獣って」
「ん? どうした? ――召喚獣? う~ん……よく分からないが、今は選択できないってことは戦闘中に使う物なんじゃないか?」
「戦闘中に、か。でも、ちょっと今後のことも考えて、一度は目を通したけど、もう一度説明書を読んでみるよ」
「そうだな。えっと、説明書は確かパソコンの脇に……あった」
トレイが持ってきた説明書にリドルはもう一度目を通す。目当ての召喚獣の項目はすぐに見付かった。使い方の説明を読むと、どうやらこの魔石は特定のキャラクターに装備して戦闘中に使う物らしい。魔石を装備した状態で『召喚』というコマンドを選び、喚べる召喚獣の一覧から『イフリート』を選べば、使えるようだ。しかし、ここまでの戦闘でエース達のコマンドに『召喚』のコマンドは無い。説明書を閉じてゲームを再開し、実際にエース達に装備させようとしても誰も装備できなかった。どうしてこんな誰も使えない物を持たせるのか、リドルにはよく分からなくて、それが少し苛立ちに繋がる。
仕方がないので、祭壇の間から地下道へ入ったリドルはそのまま外を目指して進むことにした。
「いや、もうアイテムが足りないんだよっ! デュースがっ! デュースが死にかけてるっていうのにっ!!」
「落ち着け、リドル。まだ大丈夫だ!」
地下道のダンジョンは厭に長く、リドルは弱っているデュースを見て声を荒げた。もうだいぶ奥まで来たが、後輩達可愛さに気前よくポーションを使ってきたのが仇になった。もう回復アイテムが底を尽きそうだ。更に言うと、デュースはナイトらしく『庇う』という味方に代わってダメージを受けるコマンドがあるので、殆どの攻撃をもろに受ける。盾を装備しているので構えることができるのだが、それも確率でしか防げない為、どうしてもガリガリと彼の体力ばかり減る羽目になってしまうのだった。エースも魔法攻撃と回復魔法を使い、マジックポイントを使いまくっているので、最初に王都で買い込んだ数少ない貴重なエーテルが容赦なく消費される。エーテルを使うタイミングを正に断腸の思いで決断するリドルを見て、トレイは苦笑していた。
そんなギリギリの状態で漸く地下道を抜けると、フィールドの戦闘は全て逃走する。アイテムという後ろ盾が無い今、彼にできることは後輩達の体力をこれ以上削らないように、どこかの皇帝のセリフのように無様に逃げ惑うしかできなかった。王都に辿り着き、宿屋で体力とマジックポイントを全回復してから城へ向かう。城に入るとイベントに突入し、魔石を奪われて連行されてしまう後輩達の姿を二人は呆然としながら見守る。ここでまた『セーブしますか?』という画面が出てきて、漸く一連の流れを理解したリドルは「ふぅー……」と大きな溜め息を吐き、顔の前で両手を組んで思い詰めた表情で呟いた。
「僕は……今後の展開によっては、イデア先輩と監督生の首を刎ねなければいけなくなってしまうかもしれない……」
「そ、そこまでか?」
思いの外、ゲーム世界にのめり込んでいる幼馴染みの反応に困惑するトレイ。そんな彼にリドルは心外だとでも言うかのように呆れた口調で言った。
「当たり前だろう、トレイ。僕が後輩達にこんなことをするとでも?」
「そうは思ってないが……まぁ、今日はここで止めておこう。もう約束の一時間になるしな」
そう言って時計に彼の意識を向けさせ、「ああ、確かにそうだね。今日はここまでにしようか」と話題を変えたリドルにほっとしながら、内心では「過去にやってるんだよなぁ」と余計なことを考えていた。
その後、帰ってきたエースのプレイを見ていたリドルは、落ちた直後の空間で宝箱を開け、ポーションやエーテル、フレイムタンを手に入れていくエースを見て「僕が……僕が迂闊だったばかりに……」と何故か絶望していた。それをエースから聞いた監督生は「え? そこで絶望すんの? なんで?」と不思議で堪らなかった。