真紅の暴君 母への忠実なる思い 第三節※※ご注意※※
・キャラ崩壊(リドルくんがただの小学生、トレイママ等)
・FFシリーズとクロノクロスの良いとこ取りでできたようなパロディ
・ユウ呼びあり
・ゲームの中では皆監督生に優しい
それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
『火の遺跡』は禁域だ。あそこに入った何人かが顔に酷い火傷を負って帰って来た。中には全身黒焦げの死体が山のようにある。あそこに入ると、火の神様の怒りに触れる。
そんな噂を幼い頃から聞かされていたユウ達は、それまで軽口を叩き合っていたが、いざ遺跡の前に着いてみると、皆閉口してしまう。真っ白な石で作られた遺跡の入口は、人一人入るのがやっとくらいの狭さで、中に何が待ち受けているのか全く分からない。一度入ってしまったらただでは済まないと思うと、禁域と言われるだけのことはある。けれど、ここにさっきのモンスターが入ったという情報を得ただけでなく、自分達の汚名返上がかかっている。行かないという選択肢は無い。三人は一度、深呼吸をしてから意を決して足を踏み入れた。
中に入ると、狭いと思ったのは入口だけで、すぐに広い場所に出た。外から見てもそんなに大きくない遺跡だとは思っていたが、中は思い描いていたものよりずっとシンプルだった。
石造りの開けた広場に、古びた祭壇のようなものがぽつんと鎮座しているだけだった。祭壇には古代文字で何事か彫られているが、ここからでは遠くて読めない。そして、文字が刻まれている台座の奥には、赤く輝く玉が浮いていた。
「なんだ? あれ」
「というか、あのモンスターはどこに――」
「ふなっ!? お前ら、こんなところまで追いかけて来たんだゾ!?」
聞き慣れない声にユウは祭壇の陰を見やる。そこには隠れるようにして、黒い猫のようなモンスターがいた。首に付けているストライプ柄のリボンを見て、彼女は何だか初めて会った気がしなかった。
「あっ、いた! この黒猫! お前のせいで、わざわざオレ達がこんなところまで追いかけて来てやったんだっつの!」
「大人しく付いて来れば、痛い目には遭わせない。僕達と一緒に来て貰おうか」
エースとデュースの警告には耳を貸さず、モンスターはべーっと舌を出した。
「誰が大人しく捕まってやるか! オレ様はグリム! お前らみたいな暇なヤツらと違って、探し物をしてるんだ。邪魔すんな! ふなぁ~!!」
「あっ、おい、バカ! こんなとこで暴れんなっ!」
モンスター・グリムが口から吐いた炎から咄嗟にデュースがエースを庇うように前に出て、持っていた盾で防ぐ。軌道を逸らされた炎は、グリムのすぐ背後にあった炎の玉へ一直線に反射された。炎が玉に当たった瞬間、物凄い地響きと共に獣の咆哮のような音が辺りに響き渡った。その場にいた全員、嫌な予感に襲われ、一塊になって身構える。
「ひぃっ!? な、何なんだゾッ!?」
「ちっ! だから、暴れんなって言っただろ!」
「ここは禁域で、何が起こるか分からないんだ。静かに!」
「ふな……」
成り行きで自分の腕の中に潜り込んできたグリムをユウは抱き締める。恐怖からか、グリムはぶるぶる震えていた。辺りにモンスターらしき影は無い。しかし、警戒を怠らないエースとデュースは、起こった変化に素早く反応した。
かっ! といきなり眩い光が祭壇の玉から発せられたかと思うと、すぐにそれは止み、光が収まると、祭壇から玉は消え失せ、代わりに全身をオレンジ色の体毛で包まれた半獣人のような巨人が現れた。それは片手に棍棒のような武器を持っており、エース達を見付けると、真っ直ぐ向かって来る。
「こいつかっ! あの噂の正体……!!」
「エース! ユウを守れ! 僕が斬り込む!!」
「命令すんなってのっ!」
ただならぬ威圧感に気圧されぬよう大声を上げて、エースはブリザドを唱え、デュースは巨人へ斬り込んでいく。しかし、一撃浴びせただけでは全く効いているように見えず、無造作に振られた棍棒はデュースの頭を横殴りにし、盾を構えられなかったデュースは吹き飛ばされる。
「デュース!?」
「凍てつく息吹を! ブリザド!」
エースが唱えたブリザドも巨人が手を翳すと、降り掛かる筈の氷塊は放たれた熱で全て溶けて消えてしまう。一気に距離を詰められてしまったエースの頭上に容赦なく棍棒が振り下ろされるが、咄嗟に剣で防御するエース。しかし、巨人の力に叶わず、そのまま為す術なく地に伏すことになってしまった。
「ふなぁ……。あ、あんなの、勝てる訳無いんだゾ……ッ!」
次はお前達だ、とでも言うかのように気絶した二人には目もくれず、巨人はユウとグリムへ一歩近付いた。ユウも喉から引きつった悲鳴が漏れる。だが、ここで逃げたら、二人を見殺しにしてしまう。覚悟を決めるしかない。殆ど反射的に判断したユウは、腕の中にいるグリムと向かい合って言った。
「あなた、グリムって言ったよね?」
「お、おう……」
「お願い! 私と契約して! 二人を助けたいのっ!」
「けーやくぅ? 何なんだゾ、それ――」
ぶおんっ! と振られた棍棒をすんでのところで頭を低くし、避ける。そのまま走って距離を取りながら、ユウは「ごめんっ、説明してる暇無い! 力を貸して欲しいのっ!」と尚も懇願した。一瞬「嫌なんだゾ」と言いかけたグリムの言葉を遮るようにしてユウは「このままじゃ、全員死んじゃうんだよっ!!」と鬼気迫る剣幕で言った。それに押されたグリムは一瞬黙り、次いでほぼ自棄くそに「分かった! けーやくするんだゾ!」と承諾した。
本当だったら、相棒は慎重に選びたかったユウだが、こうなってしまってはもうなり振り構っていられない。グリムの承諾も貰えたことだしと、早速契約の手続きに入る。懐から魔力の込められた石を取り出し、グリムの首に掛けてやる。契約のやり方を巨人から逃げながらし、「分かったんだゾ!」という返事を聞いて再び距離を取ったユウは一旦、グリムを地面に下ろした。彼に向かって片手を差し出し、「私達は?」と訊く。
「相棒! なんだゾ!」
ぱしっとハイタッチをすれば、もうそれだけで契約完了だ。これで戦えると、ユウとグリムは巨人へ向き直った。
ずしずしと足音を響かせて近付いて来る巨人から今すぐ逃げ出したい衝動に駆られるも、二人を助けるという思いだけで踏み留まる。初めての相棒に加えて技の練習どころか、訓練すらまともにできていない状況。勝算は無い。でも、やるしかないんだと自分を奮い立たせて、ユウは命令を下した。
「グリム! あいつの足元に行って、とにかく避けながら周りを回って!」
「なんだゾ、その命令。何の意味が――」
「来るよ!」
振り下ろされた棍棒をギリギリで避け、訳が分からないが、言われた通りにするしかないと思ったのか、グリムは命令通りに巨人の足元をちょろちょろ回り始める。巨人がグリムに気を取られている間に、ユウは急いでエースの許へ駆け寄り、ポーションを掛ける。気が付いたエースを助け起こし、「デュースをお願い」と託した。エースがデュースの方へ駆け出したのを見て、ユウはグリムと巨人の方へ向き直った。
このまま、まともに戦っては勝てないと分かっているので、周囲に何か使える物はないかと見回す。ふと、天井に一部風化して脆くなっているところを見付けた。
「エース! グリム! あそこに魔法当てられる!?」
「お前、誰に向かって言ってんの? 下級魔導士様なめんなよっ! そらっ!」
「オレ様もやるんだゾ!」
「デュースは防御しながら、あいつの気を逸らして!」
「分かった!」
盾を構えたデュースが巨人に近付き、剣を振り上げて攻撃する素振りを見せると、巨人はつられて棍棒を振る。それを避け、時に防御するデュース。その間にエースのファイアとグリムの炎が合わさり、天井を突き抜けた。天井が崩れ、巨人の上にいくつもの瓦礫が落ちて行く。瓦礫に押し潰されるようにして巨人は倒れたが、床も崩れて皆、地面の下へ落ちて行った。
「よしっ! 課題も予習復習も終わった! やるよ、トレイ!」
「え? オレもか?」
丁度、今日の課題や予習復習が終わったところで部屋に入って来たリドルにトレイは驚いた。あれからエースに負けじとリドルは自分のセーブデータを作り、勉強が終わると、すぐゲームに取り掛かるのが日課になりつつあった。もちろん、ゲームは一日一時間の約束もしっかり守っている。早くしないと夕飯の時間になってしまうし、夕飯の後ではエースに取られてしまうので、リドルがゲームに手をつけられる時間は夕方の中途半端な時間しかない。
「今日はやっと遺跡の前まで行けたことだし、失敗したくないんだ。僕はまだゲームに不慣れだから、隣に誰かいてくれた方がやりやすいと考えてね。そういう訳で、今時間が空いた君に任命したよ」
ふふん、と得意気な顔をするリドルを見て、トレイは不覚にも微笑ましい気持ちになってしまう。ずっとゲームとは縁遠い環境にいた幼馴染が今、年相応にゲームに夢中になっている。毎日の楽しみが増えて嬉しいのだろうと思うと、まるで親になったような気持ちになるのだった。そんな感情には勝てないなと思いつつ、トレイは「分かった。じゃあ、何かつまめるものでも作って持って行くよ」と友人が家に遊びに来た時の母親みたいなことを言ってしまうのだった。
「簡単なゼリーを作ってみた。手が空いた時にでも食べてくれ」
「わざわざありがとう、トレイ。じゃあ、早速続きから始めようか」
トレイは近くのテーブルに二人分のピーチゼリーを置いておく。談話室のパソコンを点けて、ウキウキした様子でコントローラーを持ち、自分のセーブデータを選んで、リドルは始めた。今日はいよいよ遺跡の中に入る。レベル上げは充分。装備は全体的にグレードは低いが、バランス良くセットしている。エースという前例がいたからできたことだ。準備は万端。
「この前、監督生に訊いたのだけれどね」
「うん?」
「序盤はレベルを12くらいまで上げておけば、まず苦戦することは無いそうだよ」
「ああ。そういう基準みたいなものがあるんだな」
「そういうことだから、前回、僕のエース達はみんなレベル12まで満遍なく上げておいたからね! これで負ける筈は無いよ」
「そうだな。そろそろ手強い相手が出てきてもおかしくないしな」
「うん。遺跡の中には何があるのか……。慎重に行こう」
ワールドから遺跡のシンボルに近付いて決定ボタンを押すと、画面が暗転して遺跡のフィールドに入る。遺跡の前で緊張した面持ちの三人のやり取りが終わると、リドルはユウを動かして中に入った。
中には丸く赤い玉が置かれた祭壇があり、その陰からグリムが出てきてまた戦闘かと思うと、グリムの炎が当たった玉が消え、ストーリーで初めてのボスが出てきた。身に迫る危機感をそのまま表現したかのような音楽を背景に、バトル画面へと移行する。
「えっ!? も、もうボス戦闘なのかいっ!?」
「入っていきなりだな。てっきりダンジョン攻略があるのかと思ってたんだが……」
「え、ええっと、まずは……」
いきなりのボス戦に動揺し、慌ててコントローラーを落としそうになるリドルにトレイは「落ち着けリドル。バトルはターン制だから、ゆっくり考えるんだ」と声を掛ける。「あ、そっか。それもそうだね」と瞬時に落ち着きを取り戻したリドルは、まず相手のことを調べようと、エースにライブラをさせる。ライブラは敵の体力や魔力といった基本的なステータスを見られるのだが、物理攻撃力の数値を見て二人は驚いた。
「つ、強過ぎる! 何なんだいっ!? この数値は!」
「エース達の二倍近く上だな」
まだ序盤なので、味方側の物理攻撃力と比べると天と地ほどの差がある。しかも、三人の中で単純な攻撃力が一番高いのは騎士であるデュースだが、それでも届かない。魔導士のエースは更に攻撃力は低く、ユウに至っては未だに攻撃コマンドが実行できない。一瞬、バグなのではないかと思ったリドルだったが、どこも故障せずにゲームは動いている。本当にこれで戦え、ということだろう。
「………………」
試しにデュースで一発殴ってみたが、すぐに反撃され、瀕死になる。エースも同様で、放ったブリザドに対して二倍どころか三倍返しされ、残るはユウのみとなってしまった。
「いや、そうだろうねっ!? そんなに力の差があったら、こうなるだろうとは思っていたよ! むしろ、なんでギリギリ残ってるんだい!? 君達はっ!?」
一撃貰えば即死亡するであろうと思っていたが、不思議なことに二人はまだ体力が一桁の状態で膝を付き、次の指示を待っていた。非常に辛そうな体勢なので、すぐに回復をしようとしたリドルだが、そのままイベントに行かれて虚を突かれる。
「えっ? えっ? えっ? グリム?」
「ここでグリムと監督生が契約するのか」
ユウとグリムの契約シーンが終わると、二人で身構え、攻撃コマンドが使えるようになっていた。その現象にリドルは思わずトレイの方を向いて至極嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「トレイ……! 二人が……! あの二人が戦えるようになったよ!」
「良かったな、リドル」
「ただ、これで通用するかどうか――ん?」
ふと、ユウのウィンドウに見慣れない緑色のタブが付いているのが目に入った。不思議に思っていると、ウィンドウが現れ、緑色のタブについての説明が書いてあった。
曰く、このタブが出ている時は通常の戦闘には無い『特殊なコマンド』を指示することができるようだ。案内の通りに十字キーの左を押すと、『弱点を探る』というコマンドが出た。それを押すと、ユウが周囲を見回し、天井に脆い場所があると教えてくれる。
「へぇ……最近のゲームはこういうのもできるのか」
「あそこを崩して、押し潰す作戦かな」
決定ボタンを押すと、ユウの指示でエース達が連携の取れた動きをし、見事天井を崩してボスを倒すことに成功した。
「やった…………やったぁ! トレイ! 見たかいっ!? 僕、初めて一人でボスを倒したよ!」
ぱぁっと表情を輝かせるリドルを「良かったなぁ」とトレイは宥める。今、本人は大いに喜んでいるが、こんなところを寮生に見られたらと思うと、トレイは気が気じゃなかった。
天井が崩れたが、同時にエース達も巻き込まれてしまい、その様にリドルが「ああっ!? エース! デュース! 監督生! グリム!」と声を上げたところで画面が暗転し、『セーブしますか?』とウィンドウが出てきた。「するっ!」と誰に向かって言っているのか分からないが、興奮気味にいそいそとセーブするリドル。そこで一旦、落ち着かせようと、トレイは休憩がてらゼリーを勧めた。