真紅の暴君 母への忠実なる思い 第一節※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・FFシリーズとクロノクロスの良いとこ取りでできたようなパロディ
・ユウ呼びあり
・ゲームの中では皆監督生に優しい
・ヘイトの意味はありませんが、ゲーム中のリドルくんの扱いが少し酷いです。
それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
いつものように仕事をし、時折、城の通路から見えるエースやデュースの訓練姿や見回りをしている姿に手を振って、ユウは何気ない日常を過ごす。そうして、昼過ぎになると、漸くユウ達の昼食だ。場所はいつもと同じ城の裏にあるあまり使われていない出入口。その階段に座って弁当を広げるのが常だ。本当は食堂で食べた方が良いのだが、食堂に弁当を持って行くと嫌な顔をされる。主に料理人にだが。だから、あまり人が通らないここで食べるのが、いつの間にか暗黙の了解となっていった。
「今日のおかずはなーにっかな~」
「エース、手洗ったか?」
「洗ったっつの。お前はオレの母ちゃんかっ」
「洗っても手で食べないでよ、エース」
「へいへい」
そんな調子で弁当を食べながらも、三人の会話は止まらない。話題はエースとデュースが近々赴くことになった新しい任務のことだ。「二人共、出世してから初任務だね! 頑張ってね」と激励するユウに、二人は少々照れくさそうに笑った。
「隙ありっ」
「あっ、ちょっと――エース!」
照れ隠しにユウが取ろうとした卵焼きをエースが横から攫っていった。
「リドル、あの件はどうなっているのですか?」
時は少し遡って、リドルは母である女王と向かい合わせになり、昼食を摂っている。向かい合わせといっても、料理を載せているテーブルがかなり長いので、リドルは実質一人で食事をしているように感じていた。一度、手にしていたナイフとフォークを静かに置いてからリドルは口を開く。
「あの件ですか。…………お母様、ぼ……私は、正直、気が進みません」
訓練の時とは対照的に、自信が無い様子のリドルを女王は厳しく叱責する。
「気が進まないなどと、お前の気持ちを訊いているのではありません。どうなっているのか訊いたのですよ。二度は言わせないように。それと、もう子供ではないのだから、『お母様』は止めなさい」
「…………はい、母上。今の所、手掛かりは何も……」
「はぁ…………そうですか。とにかく、一刻も早く召喚獣を手に入れておかねばなりません。いつ他国に攻め入られるか分かりませんからね。誰か、あの男を。フェローをここに」
女王の一言で側近が恭しく礼をし、食堂を出て行く。「またか」とリドルは思った。ここのところ、母は流れ者の怪しい男に夢中だ。
ある時、城を出入りするようになり、何をしているのか、母とはどういう関係なのかも全く分からない。しかも、狐の獣人だ。獣人族の中でも一際、信用ならない。昔は厳格だった母がどこの生まれなのかも分からない、素性の知れない男を城に出入りさせている。リドルはその事実に対して心底軽蔑し、我慢ならないせいでフェローを嫌っていた。
側近と共に入室してきた件の男は、一礼してにこりと胡散臭い笑みを浮かべる。相変わらず芝居がかった所作にリドルは明らかに嫌悪感を示した。
「女王陛下がお呼びだそうで――ややっ!? これはこれは麗しい陛下。今日のお召し物は以前仰っていた孔雀を模したという、あのドレスでは!? いやぁ、俺にはそんな豪華なドレスの価値なんてものはこれっぽっちも分かりゃしませんが、女王陛下がお召しになると、貫禄ってモンがありますねぇ~! 全く立派なお仕着せだ!」
フェローの妙な言葉使いにリドルは頭が痛くなったが、母はそれが面白かったらしく、「まぁ、相変わらずおかしな人ね。こちらにいらっしゃい」とあろうことか、息子の前で手招きをする。それに笑みで応え、腰を低くした姿勢のままフェローは女王のすぐ傍まで近寄り、その手にキスをする。
「女王陛下のドレスに対して『お仕着せ』ってなんだいっ!? バカにしているのかっ!」と言ってやりたい気持ちを必死に抑え、リドルは無感情に食事を再開した。母も以前はあんなけばけばしいドレスなんて着たことは無いのに、とリドルは思わずにはいられない。去年、母の誕生日にリドルが贈った深紅のドレスの方が似合うのにとは思うが、あの男が来てから母があのドレスを着ているところを見たことが無い。これからも着られず、クローゼットの中で静かに傷んでいくのかと思うと、まるで今の自分のようだなとリドルは考えつつ、冷え切ったスープを一匙口に入れた。
弁当箱を元通りにして、どれが美味かっただとか、午後の仕事サボりたいだとか話していると、あっという間に時間は過ぎていく。午後の仕事開始のベルが鳴る前に、三人は持ち場に戻って行った。
持ち場に戻るにはこっちから行った方が早いことを知っているエースとデュースは、客用食堂を抜け、エントランスホールから二階への階段を上る。その途中でエースの帽子の上に何か生き物が乗った。
「え? なに……」
「ぶな……ここにもいないんだゾ」
エースの帽子ごと落ちたその姿に、二人は驚愕し、警戒する。床に落ちた帽子の上には真っ黒い体毛に覆われた猫のようなモンスターがいた。尖った耳に青い炎を灯していることから、エースは懐に隠していたナイフを構え、デュースは腰に提げた剣の柄を掴む。
「なんでモンスターがこんなところに?」
「分からない。けど、侵入者だ。捕まえて報告しないと」
こちらを振り返ったモンスターは二人の殺気に驚いたのか、「ふなっ!? 何なんだゾ、お前ら!?」と帽子から退いた。言葉を喋るモンスターなど珍しいと思いつつも構わず、二人は一歩近付いた。
逃げようとしたモンスターの動きに合わせて、デュースが素早く背後に回る。それに反射的に反応したモンスターは迷わず、デュースに向かって青い炎を吐き出した。
「くっ……!」
最低限の武装しかしていない今のデュースでは、炎を防ぐ術は無い。しかし、エースに対して背を向けているモンスターに向かって、今度はエースが魔法を放った。
「凍てつく息吹を! ブリザド!」
「ぶなっ!? いてぇっ! つめてぇ……!」
横殴りのように放たれた氷の魔法を避けられず、モンスターは壁に向かって吹き飛ばされた。気絶したのか、動かなくなったモンスターを見て、二人は武器をしまい、エースは自分の帽子を拾って形を整え、被り直す。
「よし、確保できるな」
「ま、こんなもんでしょ。どっから入って来たのか分かんないけど、捕まえて調べれば――」
「う……お、オレ様は……捕まる訳にはいかないんだゾ……ッ!」
よろよろと起き上がったモンスターは二人には目もくれず、四足で駆け出した。易々と逃がしてしまった二人は「あっ、待て!」と同じように追いかける。
元来た道筋を戻るようにして逃げ続けるモンスターをどこかに追い詰めようと時折、魔法を放ちながらエース達が追いかけていると、いつの間にか図書館まで来ていた。ここは王子の自室も近い。あのモンスターが王子に見付かったらと思うと、エースは気が気じゃなかった。早く捕まえなければと焦れば焦るほど、却って魔法は当たらない。モンスターは時折、こちらに炎を吐きつけてくるので、それを避けるのにも神経を使う。そうやって追いかけっこを続けていると、唐突に終わりは訪れた。
「えっ!?」
「おわぁああっ!?」
「うわぁっ! ユウ!?」
並んでいるもののうち、ある本棚の角を曲がると、そこにはユウがいて二人が漸く認識した頃には、既に派手にぶつかっていた。床に強かに倒れる三人。体を襲う鈍痛にそれぞれ呻き声を上げ、エースとデュースは顔を上げてモンスターの姿を捉えようとした。しかし、その頃には窓から外へ逃げるモンスターの後ろ姿しか捉えられず、二人は落胆した。
「いたた…………もう、何してんの? 二人共」
「いや、済まない。今退く」
ゆっくりお互いの体勢を確認し、二次被害に遭わないように立ち上がる。服に付いた埃を叩き落としつつ、エースとデュースは訊いた。
「大丈夫か? ユウ。ケガは?」
「ううん、大丈夫」
「なんでユウがここにいんの? 今日の担当、厨房じゃなかった?」
「その筈だったんだけど、掃除担当の子が急に体調崩しちゃって。だから、私が代わったの。それより、二人は? 何か慌ててたみたいだけど……」
「あー! そうだよ。くっそ。逃がした……!」
あのモンスターと出会った経緯を簡単に説明すると、ユウは納得してくれたようで、「なるほどね」と頷いた。しかし、事態はそれだけで収まらない。
「これは一体、どういうことだいっ!?」
図書館に響く怒号。次いで迷い無く、こちらに向かって来る聞き覚えのある足音に、三人はあわあわと慌てるが、慌てたところで何も解決にはならない。足音の主リドル王子殿下がお怒りの原因は十中八九、この図書館の有様だろう。モンスターが吐いた炎によって、周りの本や本棚は所々焼け焦げ、煤臭い。中には貴重な魔導書もある。そこで漸く自分達がしでかしたことの重大さに気付いたエースとデュースはさああ、と血の気が引いた。
ゲーム中のリドルの声で再生された「訓練開始!」の掛け声でミニゲームが始まった。リドルが提示するマークのボタンをリズム良く押してエースとデュースにスクワットをさせるだけの簡単なルールだが、これが程々に難しい。ワンゲーム終わると、リドルの評価が出るのだが、エースはどうしても判定『A』以上取れない。
「だぁーっ! また『A』! なんで!? 『A』なんで!?」
「頑張れ、エースちゃん!」
「これは反射神経が鍛えられそうだね」
「難しそうだな? エース」
「ムズいんスよ、これ! しかも、絶妙に! ――あっ、えっ? くっそ、間違えた! つーか、魔導士にスクワットって必要っ!?」
『〇』のところを間違えて『×』を押してしまい、また結果は『A』。悔しさとやるせなさで「くぉおお――っ!!」と頭を抱えるエースを見て、自分もやってみたくなったのか、ケイトが「エースちゃん。オレ、やってみてもいい?」と手を差し出す。若干疲れた様子のエースは「良いッスよ。判定『A』以上、頑張ってください……」と託す。
「おけおけ! けーくんに任しといて!」
しかし、ケイトも結果は『A』。彼もエースと同じように頭を抱え始めたところで、デュースに代わる。三ゲーム後、デュースも頭を抱えることになったので、コントローラーはリドルに渡った。
「ふん。ミニゲームなら、以前イデア先輩の実家で何度かやったからね。ミスなしでクリアしてみせようか!」
しかし、それからリドルは食い下がりに食い下がり、十ゲームやったが、判定はいつも『A』。遂には集中力が切れてきたのか、判定『B』をもらった時は「うぎぃいいいいいっ!!」とブチ切れ、トレイに宥められる。
彼の余裕のある態度に腹を立てたのか、「じゃあ、トレイもやってごらんよっ!」とコントローラーを押し付けるリドル。普段の彼からは予想できない行動にトレイは驚き、「オレはこういうのは得意じゃないんだが……」と遠回しに断ろうとする。しかし、それを許すリドルではなかった。
「いいから、やって見せておくれよっ! 絶対トレイだって『A』以上はいかないよっ!」
「分かった、分かった。やるよ」
敗れ去った四人が背後で見守る中、トレイは内心、適当なところでわざとミスをして場を収めるつもりだった。自分も含めて判定『A』以上を貰わなければ、先に進めるしかない。リズム良く、ポチポチとボタンを押していくトレイ。そろそろ終わりかと思い、ミスをしようとしたその時、ミニゲームが終わってしまった。
「あ」
そんな声が漏れる。後ろの四人が食い入るように画面を見つめる中、判定は『S』。リドルの怒りが爆発した。
それから揉めに揉めたが、報酬は一番良い物だし、後でリドルのデータも作ろうということになり、トレイは責任を持ってその場を収めた。
その後もストーリー通りにゲームを進めると、女王とリドルの会話シーンで久しぶりに見る顔にエース、トレイ、ケイトは驚いた。
「えっ!? フェローさん!?」
「ええっ!? これ、フェローくんも参加してたのっ!?」
「……これ、本人にちゃんと許可取ってあるのか?」
「知り合いなんですか? クローバー先輩」
「ああ、ちょっとな」
トレイが細かいことを気にしている間に話は進み、寂しげなリドルの背中で場面が切り替わった。そのシーンに皆少しだけセンチメンタルな雰囲気になる。
「この世界の僕は……随分と、その――寂しい思いをしてるんだね」
「――そうだな。でも、大丈夫だろう。このゲームの中でもオレやケイト、エース達もいる。何かあっても対処は出来るようになってるからな」
「そうそう。リドルくんはゲームの中だって一人じゃないよ!」
一瞬、ケイトの発言で妙な空気になったが、それもすぐに「クサいこと言っちゃった。ごめんね」と彼が謝ったので、霧散する。次に映ったエースとデュース、グリムのイベント戦闘を見て、グリムに対して容赦の無い二人に戦慄する。普段の一年生達を見ているリドル達は余計にゲーム中の彼らが非道に見えた。
「え、エース、デュース、いくらグリムに日頃から煩わされているからと言って……」
「これはちょっとやり過ぎなんじゃないか……?」
「大丈夫? 何か悩みとかあったら話、聞くよ?」
「これはオレらだけど、オレらじゃないんでっ!!」
「大丈夫ですっ! この僕達はただ仕事をしているだけですっ! 押忍ッ!」
心の底から心配する三人にエースとデュースは必死にフォローする。きっとこれから仲良くなっていくから! と弁解し、イベント戦闘を終えるとグリムが逃げ、ゲームの中の二人はそれを追いかける。所構わず魔法を放ちながら追いかけていく姿に、リドル達は「なんだ、いつもの流れか」とでも言いたげに突然落ち着く。正直、ここで落ち着かれるのは大変遺憾だったが、ずっと取り乱されているのも面倒なので、エースとデュースは少し不満げな顔をするだけに留まった。
意外にもグリムを追いかける時はミニゲームではなく、普通にフィールドを歩き回る形で進むらしい。何度か寄り道をすると、またリドルに叱られたが、RPGのお約束を知っているエースは「あれ~? 寮長、知らないんスかぁ~?」とこれまたお決まりの煽り文句で説明した。
「RPGでは一見、何も無さそうなところにアイテムが隠されていることが多々あるんですよ」
「え? そ、そうなのかい?」
「そうそう。だから、寮長も次やる時は隅々まで調べた方が良いですよ」
そして、あわよくば自分が先に進めて何気ないタイミングでネタバレをしてもいいかもしれない、とエースは命知らずなことを考えていた。
粗方近場のアイテムを全て回収し、やっとグリムが向かった図書館へ向かう。エントランスホールから図書館までの道のりは結構な距離があり、そこまで行く道すがらアイテムを探しては手に入れていく。作り込まれたゴシックなローザ城の内装に感動を覚えたケイトは「この内装、今度の何でもない日のパーティで再現してみてもいい?」とリドルに確認し、「ま、まぁ、そうだね。なかなか良い出来だから、特別に許可しよう」とお許しを貰っていた。しかし、物語がこれからどう転ぶのか分からないため、取り敢えず、リドルと女王のシーンにあった食堂は候補から外すことになった。
その後、何だかんだリドルに怒られた三人の姿を見て、上級生三人は「やっぱりいつも通りじゃないか」と言いたげに頷いた。