海神と恋人 6※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・オリジナル設定が温帯低気圧
・ロキ夢ちゃんがいる
・ロキちゃんと夢ちゃんの仲が悪い
以上のことを踏まえて、それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
一通り話を聞き終えたヘイムダルは貴重な話を聞けたとどこかほくほくした様子でいたが、時計を見てかなり時間を費やしていたことに気づくと、千栄理に時間は大丈夫かと訊く。つられて千栄理も天井近くにある鳩時計を見ると、もう一時間近く話し込んでいたことに気づいた。
「わっ!? もうこんな時間!」
「早く行かないとねぇ〜。戦乙女達、お腹空かせて待ってるんじゃない?」
「ごめんなさい、ヘイムダルさん! お話はまた今度お願いします。ロキさん、行きましょう!」
「命令しないで」
「命令じゃないです! お願いです!」
「気を付けて行けよ」
急いでヘイムダルの注文を取り、バッグを引っ掴むようにして口を大きく開け、グレムリン達を入れる。全員入ったことを確認すると、しっかりと口を閉め、千栄理はヘイムダルにぺこりとお辞儀をして玄関へ続く階段を降りて行く。その後ろをふわふわと宙に浮いたロキが頭の後ろで腕を組み、そのまま寝てしまうのではないかと思われる格好で付いて行く。それまで静かに座っていた瞳も殆ど音も無く立ち上がり、ロキに続いた。去り際、ヘイムダルはロキを呼び止める。
「なぁ、ロキ」
「なぁに?」
「……それ、千栄理は知ってんのか?」
ヘイムダルが指す「それ」とは、瞳のことを指していた。ロキは一瞬、無表情になるが、すぐに口元に笑みを浮かべる。その表情から彼の真意を読み取ろうとしたが、同郷のヘイムダルでさえ分からなかった。
「知ってるよ」
「知ってて、あの態度か」
「そう。いつか良くなるって思ってるんだよ。ほ〜んとバカだよねぇ〜」
「……初めてなんじゃねぇか? そいつを人間扱いしてる奴」
それを聞いた瞬間、ロキははっとしたように瞠目して、ぽつりと呟いた。
「そうかも」
「ロキさーん! 行かないんですかー?」
階下から千栄理の急かす声が飛んできて、話は終わりだと言うようにヘイムダルが促す。
「ほら、千栄理が呼んでるぞ」
「分かってるよ」
「はいはい、今行くからそこでバカみたいに待っててよ」とからかうロキに、また千栄理が怒りながらも律儀に待つ。ロキを追いかけるように静かに階段へ向かう瞳。騒がしさが外へ移ると、ヘイムダルは窓の外を眺めながら独り言を放つ。
「ま、普通思わねぇよな。ロキが人間の死体を連れ歩いてるなんてよ」
次の配達先へ急ごうと、地図を取り出す千栄理の手元を覗き込むロキ。戦乙女達へ届ければ、今日の仕事は終わりだ。戦乙女達は総勢十三名の姉妹達で、住居は各地に散らばるようにしてある為、ヘスティアからは長姉のブリュンヒルデに渡せば、他の姉妹達へ配ってくれるのだという。ブリュンヒルデの家へ配達に行くとロキに伝えると、彼は興味が無さそうに「ふぅ〜ん」とだけ零した。
「それ終わったら、今日は終わり?」
「はい。今日は量が多かったので、二軒しか回れなくて」
「んじゃ、終わったらポセイドンさんとこ戻って練習ね。どうせボク暇だし」
「良いんですか?」
「ボクが良いって言ってんだから、良いの」
言いつつ、またぐいぐい宙へ引っ張るロキに千栄理はヘルメスの靴を嵌めて練習を開始した。
「随分、高いところにあるんですね。ブリュンヒルデさんのお家って」
「下界も天界も見渡しやすいようになってるし、女ばっかりだから、いざって時の為に司令塔にもなるんだよ。生意気だよねぇ〜」
「機能的なんですね」
「ま、生意気度で言ったら、キミの右に出る奴いないんじゃない?」
「なんですか、さっきから」
ここまで来る道中で二回落ちたが、千栄理は何とか高い山の上にあるブリュンヒルデの小さな城に辿り着くことができた。ロキと千栄理は宙に浮いたまま山を登り、千栄理は何度かバランスを崩しかけたが、一度も落ちること無く、城の前に降り立った。少しずつ慣れてきたのか、感覚としてこの靴の癖のようなものが分かりかけてきた。
靴の方は順調。問題はロキの方だ。元々毒舌な彼だが、ヘイムダルの家を出てからというもの、やたら喧嘩を売ってくるような言い回しをしてくる。そこを指摘すると、ロキは「別に〜? 気のせいじゃない?」と見え透いた嘘を吐いてきた。そう言われてしまうと千栄理は不満は残るが、黙っておくしかなくなる。
呼び鈴を鳴らすと、今度は涼やかな音色が辺りに響き、それはさながら天上の門が開く時のようなものだった。
「綺麗な音」
やがて奥からぱたぱたと軽い足音がして扉が開けられる。中から出てきたのは、カジュアルな服を身に纏った短髪の少女だった。
「はーい、どちら様っすか?」
「あ、こんにち……」
「こんにちは〜」
「って、ええっ!? ロキ様っ!?」
千栄理が挨拶しようとしたが、それより早くロキが一歩前に出て遮った。少女はロキの顔を見ると驚き、少し身を引く。突然の神の訪問に、何やら慌てふためいている少女を見兼ねて、千栄理が配達に来た旨を伝えると、少女ははっとして中へ招いてくれた。
「失礼じゃない? 神に対してさ」
「えあ!? ごめんなさいっす。ちょっとびっくりしちゃって……。あ、ヒルデお姉さまのお部屋はこっちっす!」
歩き出そうとした少女の背にまたロキが呼び止め、千栄理について何も訊かないのかと問うと、また少女は慌てて振り返った。
「あっ! そうだった! ごめんなさいっす。忘れてたっす。あの、そちらの人間の方は……?」
千栄理が名乗ると、少女も同じように名乗って握手を交わす。少女はゲルといい、戦乙女達十三姉妹の末っ子だそうだ。今度こそ彼女の案内でブリュンヒルデの部屋へ向かう。青みがかった大理石で造られた廊下は北欧の装飾品ヒンメリを思わせる幾何学模様が美しい。きちんと掃き清められ、整然としている様から、きっとブリュンヒルデはしっかり者のお姉さんなのだろうと、千栄理は思った。
「ここっすよ、ヒルデお姉さまのお部屋は」
そんなことを考えているうちに前を歩いていたゲルが足を止め、ある両開きの扉の前で向き直る。規則正しく配置された雪模様の扉だ。その美しさに千栄理は思わず「わぁ、綺麗」と感嘆の声を出した。
「綺麗っすよね。ヒルデ姉さまは雪模様がお好きなんすよ」
「いや、聞いてないけど」
「そ、そっすか……」
千栄理に話しかけたつもりのゲルだったが、すかさず割り込んできたロキにばっさりと会話を打ち切られ、引き下がる。千栄理は、先程からやたらロキがゲルに対して冷たい態度を取っているのが気になっていた。そのこともあり、ロキを少し窘めると、彼は不満そうに唇を尖らせて言った。
「だって、半神半人の話なんて、興味無いし〜」
「……出来損ない? なんでそんな酷いこと……」
「酷い? だって、そうじゃん。神にも人間にもなれない奴ら、出来損ないって言って何が悪いの?」
「そんな言い方しなくたっていいじゃないですか。ゲルちゃん達が何か悪いことした訳じゃないのに……!」
「い、良いっすよ! 千栄理! ぼく、慣れてるっすから!」
「でも……!」
「お前、やっぱりうざいから、一回くらい死んどく? ちょっとポセイドンさんに気に入られてるからって、調子に乗るなよ」
また重苦しい殺気を放ち、武器を取り出そうとして両手を広げるロキに、怯えたゲルが千栄理に抱きつく。しかし、今度の千栄理は一歩も退かず、ゲルを庇うようにして一歩前に出た。
「私はロキさんと争うつもりはありません。ただ、ゲルちゃん達への侮辱は止めてください」
「あぁ〜、つまり死にたいってことね」
鎖鎌を取り出し、今度こそそれが振られようとした。その時、突然ブリュンヒルデの部屋の扉が勢い良く開かれ、ロキの鎖鎌は弾かれた。