真紅の暴君 母への忠実なる思い 第二節※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・FFシリーズとクロノクロスの良いとこ取りでできたようなパロディ
・ユウ呼びあり
・ゲームの中では皆監督生に優しい
それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
図書館で大声を出すのは憚られるからと、エースとデュース、ユウは改めて謁見の間に通され、そこでしっかり怒られることになった。
「前から君達には落ち着きというものが無いとは思っていたけれど、まさかここまでとは思わなかったよ」
「……い、いや、あの、あれはなんというか、不可抗力といいますか……」
「言い訳無用! 今回ばかりは目を瞑れないっ! 図書館は焼け焦げ、床は水浸し! 貴重な魔導書も修復できるか怪しいもの!」
何故、床が水浸しなのかというと、ユウとぶつかった時に彼女が水拭きしていた時のバケツを三人でひっくり返してしまった為、絨毯の敷かれた床に水がぶちまけられてしまったのである。今現在、エース達は横一列に並ばされてトレイとケイトの前でリドルに怒られている。もごもごと言い訳をするエースにリドルは顔をずい、と近づけて暗い表情で言った。
「責任は取って貰わなければね」
「……責任、ですか」
「そう、責任だよ」
そこで厭ににっこりと不自然な笑顔を浮かべるリドルを見て、エース達はゾッと背筋を悪寒が駆け上がった。リドルは少々疲れたのか、用意しておいた椅子に腰掛け、足を組んで冷たい目で見下げた。
「そういえば、エースとデュースには近々、称号を与えて初めての任務に赴いてもらう予定だったけれど、少し予定を早めようか」
「リド……殿下、それは流石に――」
「何を迷うんだい? トレ……赤薔薇団長。この三人には失態の責任を取って貰うのが筋だろう? 図書館を滅茶苦茶にし、ここの兵士としての品格を落とし、肝心の侵入者は取り逃がすという、大失態を犯したんだっ!! その責任を僕は……私は問うているんだよっ!!!!」
がんっ! と持っていた錫杖を床に打ち付けて怒鳴るリドル。びくり、とその勢いに気圧されて五人は黙ってしまう。いつもと違う、ただならぬリドルの剣幕に流石のトレイもそれ以上、何か言うことはできない。硬直した空気に構わず、リドルはケイトに命令する。
「はぁ~……白薔薇団長、侵入者がどこに逃げたか調べろ」
「……御意」
ケイトは愛銃を取り出すと、引き金とは違うトリガーを引き、エースに近付いてその胸に照準を合わせる。撃たれるのではと慌て出すエースにケイトは「あ、心配しないで。魔力の気配を辿るだけだから」と言って大人しくなったところをすかさず、撃った。攻撃の時の光弾ではなく、赤いレーザーのような光線が出てエースの服に残った魔力痕を採取する。それが終わると、今度は窓を開けて上空へ向かってもう一度撃つと、赤い弾が撃ち出され、ある方角を示す。手元の銃で大体の距離を割り出したケイトはそのままリドルに報告した。
「ここからだとおおよそ……『火の遺跡』が近いと思われます」
「『火の遺跡』? なら、丁度良い。二人の任務と同じ目的地だ。三人で行って来るといいよ」
「え? 『火の遺跡』って、あの『火の遺跡』ですかっ!?」
デュースが驚愕に目を見開き、他の二人も同じように驚く。それもそうだろう。この国に住む者なら、誰でも知っている『火の遺跡』。あそこは何人も立ち入ってはならない禁域として幼い頃から口を酸っぱくして言われていた場所だった。
過去に、この幼馴染み三人も同じようにそれぞれの親に言われていたが、一度だけ入ろうとしたことがある。けれど、遺跡は国外にある為、そこまで辿り着けはしなかったのだった。そんなところに、しかも戦えないユウを連れて行くには何が潜んでいるのか分からない恐怖と危険がある。
「おっ――お言葉ですが、殿下……!」
「何だい? この期に及んでまだ私に意見するとでも?」
何とかユウだけでも任務から外せないかと出したデュースの声は、ぴしゃりとはねのけるリドルの鋭い声に黙らせられる。失態を犯してしまった手前、それ以上強く出ることができずにデュースはすごすごと引き下がるしかなかった。
「取り敢えず、今の貧相な装備では遺跡での行動に支障が無いかどうか分からない。これで装備を調えてから向かうと良いよ」
そう言ってトレイにいくらか金銭が入った小さな袋を渡すリドル。トレイの手を介して渡されたそれを深々と礼をしつつ受け取った三人は、「失礼します」とその場を後にした。
「あぁ~……何も言い返せなかった!」
「すまない! ユウ。本当にすまないっ!」
落胆するエースとデュースを慰め、出発する準備をしようと急かすユウ。二人はそのまま自室へと向かい、ユウは一度自宅に帰ることにした。
「何だか大変なことになっちゃったな」
誰もいない通路を歩きながらユウは少々疲れた溜め息を零した。
装備も整い、いよいよ遺跡へ向かう準備が出来た。遺跡へ向かう東門の前まで行くと、既にエースとデュースが待っていて、ユウの姿を見つけると、手を振ってくれる。
「装備って言っても、ユウは何持ってきた?」
「私、戦えないからアイテムをいっぱい用意してきたよ」
「おっ、そういうの助かるわ~。じゃあ。回復は任せてい~い?」
「エースもやってよ? アイテムにも限りがあるんだから」
「冗談だって。んじゃ、行きますか」
そんな軽口を言い合いながら、エース達は誰にも見送られること無く、門を抜けた。
東門からなら、遺跡まではそう遠くない。大人であれば、歩いて行ける距離だ。そう思っていると、誰が言い出すでもなく、話題は自然と子供の頃の話になっていた。
「そういやさ、昔一回だけ行こうとしたよな。あの遺跡」
「ああ、あったな。そんなことも」
「あの時、エースが言い出したんだよね。『度胸試しだっ!』って」
「お前、よくそんなこと覚えてるな」
「うん。だって、あの時のエース、『お前は女だから、行けないだろ~?』ってバカにしてきたから、凄く覚えてる」
「それは覚えてるじゃなくて、恨みじゃないの?」
「でも、結局、行けなかったんだよな。なんでだったかは覚えてないけど」
「あれは――って、ちょい待ち! 一旦ストップ!」
緊張したエースの声で二人は身構える。次いで茂みの中から現れたモンスターにエースとデュースは武器を構えた。
「ユウはオレらの後ろに! 絶対、離れんなよっ!」
「う、うん……!」
「エース、何体だ!?」
「こっちは二体!」
「同じか。さっさと片付けるぞ!」
「言われなくても!」
襲ってきたのは狼型モンスター・ファングが二体と鳥型モンスター・ブラックウィンド。訓練ではこいつらの的をよく撃破していた二人だが、実践は今日が初めてだ。腕に噛み付こうとしてきたファングの鼻面をエースが蹴って怯ませる。怯んでいる隙にエースは魔法で追撃した。
「炎よ、燃え盛れ!」
炎がファングを燃やし、倒れて消える。そのせいか後の三体が一歩後退る。その隙を逃さず、今度はデュースが斬りかかった。低空飛行していたブラックウィンドが斬り伏せられ、地面に落ちて消えた。しかし、大振りの攻撃をした為、隙が出来た。怯えたファングが捨て身で体当たりをし、盾が間に合わなかったデュースの体勢を崩す。
「デュース!」
「大丈夫だっ! 集中しろっ! エース!」
「分かってるっつの!」
デュースの背後を狙ったブラックウィンドをエースが燃やす。その間に体勢を立て直したデュースがユウに飛びかかろうとしたファングを寸前で切り落とした。
「デュース、ありがとう。大丈夫?」
「僕は大丈夫だ。ユウは? 怪我してないか?」
「う、うん。大丈夫。それより、デュース。さっき体当たりされたとこ、見せて」
「あ、ユウ。回復するならオレに任しといて。ぱぱっとやっちゃうから」
女の子のユウに見せるのは恥ずかしいだろうからと気を利かせたエースが少し離れて、「見せて」と言ってはだけさせる。体当たりを受けたところは広く赤くなっており、骨は折れていないが、衝撃は受けたので、触ると少し痛むようだ。「あ~、まぁ、大したこと無さそうだけど、一応掛けとくわ」と言って、エースはケアルを唱える。
「癒やしの光を。ケアル」
白い光を受けて、赤くなっていたところがみるみるうちに元の肌色を取り戻し、痛みも引いたようだった。
「悪いな、エース」
「いいって。ユウにお前の肌見せんのは流石になぁ」
何か含みのある言い方に引っかかるものを感じたが、デュースは上手く言葉に言い表せなかった為、何も言わずにいた。
「何か、この寮長、焦ってない?」
リドルに叱られているシーンを客観的に見せられているせいか、エースはいつも自分が怒られている時より周りの様子に目が行くようだ。デュースは普段からそういうことには気が回らない為、不思議そうに「そうか?」と返す。代わりにリドル本人が冷静に分析していた。
「そうだね。恐らく、前のイベントでお母様に自分ではなく、フェローを贔屓されていたから、自分が何とかして功績を積まなければと思っているんだろう。ここで成果を出せなければ、益々お母様の信頼は得られないからね」
「でも、この世界のオレ達は召喚獣とやらを探しているんだろう? それが『火の遺跡』ってところにあるのか?」
「ん~……それは遺跡を調べてみないと分からないけど、可能性は高いよね」
「……ただ、召喚獣を取って来て終わりなら、大した話じゃないけどな」
「取り敢えず、グリムがどこに逃げたのか、手掛かりを掴まないことには――」
話している間にケイトが銃を使ってグリムの魔力を辿るシーンになる。そのシーンでは皆「へぇ~」と感心する。ここのアイディアは監督生なのか、イデアなのか、オルトなのかは分からないが、魔法と機械を上手く融合させた武器の設定に「これは良いな」と頷いた。詳しい説明が無いので、詳細は不明だが、恐らく銃口から魔力痕を読み取り、または採取して探知機を撃ち出すという仕組みだろうと話しているうちに『火の遺跡』が禁域だという話題に移る。
「禁域? ってなんだ……?」
「ああ、あんまり聞いたことないけど、ニュアンス的に入っちゃいけないところ? とか?」
「そうだろうね。君達一年生は聞き慣れないだろうけれど、もう少ししたら魔法史で『禁足地』というものがあると勉強するよ」
「きんそくち?」
聞き慣れない単語に首を傾げるエースとデュースに、リドルは頷いて簡単に説明した。
「過去に実際にあった魔法に関する事件、事故が起こって人が住めなくなったり、入ると呪われると言われているような場所だよ。僕はそういうのにも詳しくはないけれどね。ここ、賢者の島にはそういった禁足地は無いから、直接生活に関係無いし」
「ああ、それならオレもちょっとだけ聞いたことあるよ。『混合魔法研究所跡』とか『マリーさんの屋敷』とか、ああいうのでしょ?」
「所謂、都市伝説で扱われているような場所のことだな」
「まぁ、禁足地自体が眉唾ものだけれど、大方はそうだね」
臨時の勉強会に「へぇー」とだけ言って、エースとデュースはそれ以上踏み込むことは無く、物語はリドルにいくらかお金を渡されて、操作に移った。渡された金額は丁度、5000ギル。まず武器屋に入ったエースは表示された武器一覧を見て、一つだけやたら高額な武器を見付けて「高っ!?」と驚いた。それはグラブと名前が付いており、価格は10000ギル。今の所持金ではとてもじゃないが、手が出ないし、エースとデュースでは装備できないようだ。一体、誰の装備なのかと首を傾げ、ただ買えないことだけを理由に口惜しそうな表情でエースは武器屋を出た。
その次に防具屋、アクセサリー屋を回ってみたが、最初の武器屋で結構高額な武器を揃えてしまったので、アクセサリーとアイテムに回せる程の所持金が無い。エースは「やっちまった」と思ったし、リドルには「お金はもっと計画的に使うものだよ」とお小言をもらったが、モンスターを倒せば勝手に貯まるので、「まぁ、いいか」とそのまま自宅へ寄ってヘソクリや隠していたアイテムを拾い、東門へ向かう。
いよいよ国外へ出たエースは、まずカメラを回して遺跡の位置を確認しようとしたが、確認するまでもなく、少し歩けばすぐの場所にそれらしいシンボルがあった。
「いや、ちっか!? こんなん子供のオレらでも十分行けただろ。逆になんで行けなかったんだよ」
「さあな。お前が遅刻したからとかじゃないか?」
「それなら、ぜってぇーデュースだろ。オレはそういう時、遅刻なんてしませーん」
「僕だってしない!」
「普段から遅刻しないように行動しないか、二人共」
遺跡に入る前にレベル上げをしておこうと、遺跡の手前でぐるぐる回り出したエースの行動に、リドルが「何をやっているんだい?」と疑問を投げかける。それに「いや、こうしないとエンカウントしないんで」と返して、出てきたモンスターを次々倒していった。
倒すと、手に入るお金の存在を知ったリドルは、「何故、モンスターを倒すとお金が手に入るのか」という議題で考え始めてしまう。エースに訊いても「そういうシステムだから」としか返ってこないし、デュースに訊いても「そんなこと、今まで考えたことも無かった」という顔をし、トレイとケイトに訊けば、「モンスターが持っていた説」と「モンスターに困っていた人が人知れず、払っているのでは説」が出てきて、どっちの説もリドルを納得させるには至らない。何しろゲームの中では倒した傍から入金されているのだから、不思議でならない。明日、監督生に会ったら訊いてみようとリドルは頭の中のメモ帳に書き付けておいた。
ふと、何気なく談話室の時計を見ると、もう夕飯に相応しい時間になっていた。つい画面に見入っていたと急に恥ずかしくなったリドルは、まだゲームをしているエースに呼びかける。
「エース、もう夕飯の時間だ。ゲームはもう終わりだよ」
「あ、待って、寮長。今良いところだから」
「良いところ……って、レベル上げをしているだけだろう? この戦闘が終わったら、止めるんだ」
「えぇ~?」
「君達、もう二時間もやってるだろう! 今日は大目に見たけど、本来ならゲームは一日一時間! 明日からはルールを守ってもらうからね! 返事はっ!?」
「はい、寮長っ」
このまま続けたら、パソコンの電源コードを抜かれかねないと思ったエースは、早々にバトルを終わらせてセーブをした。
翌日、廊下で出会った監督生にゲームの感想を報告すると、非常に喜んでくれた。その流れでリドルはあの「モンスターを倒すとお金が増えるシステム」について、監督生はどう思っているのか訊いてみる。彼女は「ああ。あれ疑問ですよね」と相槌を打って言った。
「あれ、私は空から降ってきてるって思ってるんです。ほら、バトルが終わると、凄い勢いで所持金増えるじゃないですか。きっと空から大量に降って来るから凄い勢いで増えてるんだろうなって。得体の知れない存在がいる空からお金を与えられるって、ファンタジーそのものって感じするし、突然所持金が増える現象も解決するじゃないですかっ!」
にこやかに、これまでの尤もらしい説を全て無視したまさかの回答に、リドルの思考は暫く無意味に宇宙を漂うことになった。