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    この手に静寂に包まれたリビングはやたらと広く感じる。
    普段はリビングやダイニング、キッチンに誰かしらがおり気配や話し声が聞こえてくるゆえ今日のように誰もいないのはこの一年以内では特に珍しい。
    分厚い本に視線を落としはじめて数分、テーブルの上に投げ出した懐中時計をちらりと見遣る。

    静かで落ち着いた空間。
    これまではそうだったはずだ。
    それなのに。
    何故か落ち着かない自分がいる。
    今日、アッシュはソロの仕事に
    スマイルはオタク趣味の何やらで
    そして愛しの姫君は急遽カフェに
    それぞれ出かけて行った。
    これだけ静かなのだから自分も仕事を進めれば良いのだがどうも気乗りせず
    持ち出した本を広げ始めたところだが…
    どうやらこれも今の気分ではないらしい。

    本を閉じテーブルの上に置くとソファにしっかりと身を沈め背もたれに寄りかかる。
    まるで微睡みの中に落ちていく様に。

    『アイツがどれだけの無茶を重ねているのか
    お前は日々見えて居るんだろう?

    せめてお前だけは
    【本当の意味でアイツの味方】でいて
    【本当の意味でアイツを護れ】

    …それがアイツを【選んだ】
    お前の義務だ。』

    似合わない真面目な顔をして
    恐ろしい程に真剣な声色で
    神がそう言い残したのは三日ほど前の事だ。

    「…貴様などに言われずとも…」

    元よりそのつもりだ。
    その言葉は言葉として外に出ることはなかった。
    右手を翳してじっと見つめた。
    この手が掴んできたものは
    壊してきた物よりもはるかに少ない。

    自分はいつも避けて関わらなかった。
    そして…明確な敵意を持って向かってくるものには容赦しなかった。
    時は流れ二人と出会っても
    来るもの拒まず程度にはなったとて
    率先して関わる様にはならなかった。
    必要ならば奪う事も傷付けることも厭わなかった。

    そんな自分が
    一体彼女の何を護れるのか。
    彼女に支えられ
    救われてばかりの自分が
    一体何をしてやれるというのか。

    例えば彼女が高熱に倒れ寝込んでいたとて
    自分はロティやルークのように対処する事などできない。
    アッシュのように食事を用意することも出来ない。
    なんと無力なのだろう…と何度思ったことか。

    壊すことや奪うことに特化しすぎたこの手で何かを【護る】など。
    始めから結果は見えていたであろうに。

    …嗚呼…腹が立つ…。

    翳した手を拳に握りドスンとソファに叩きつけた。
    直後背後で息を呑む微かな声が聞こえ慌てて振り返る。
    「…っ…」
    「…モエ…?」
    驚いたような怯えたような表情で固まっていた。
    「何故…」
    「…あ、あの…上がっていいよって言ってくださったので、早めに……」
    「…そう、だったか…
    いや、驚かせてしまってすまない。」
    「…い、いえ…わたしの方こそ…」

    「「………」」

    互いに黙り込み沈黙が降りる。
    直情的に怒りを顕にしてしまった所を目撃され何やらとても気まずかった。
    しかしこのまま黙っていたとて何にもならない。
    「…モエ、こちらへ。」
    ソファをぽんぽんと叩いて隣を示した。
    「は、はい…」
    彼女は素直に従い隣に腰を下ろす。
    「…少し考え事をしていてな…。
    今のは…その…見なかったことにしてはくれないか?」
    「…はい…分かりました…。」
    彼女の表情が固い。
    「…ありがとう。」
    「いえ…。」
    彼女がそんなに怯えてしまうほど自分は恐ろしかったのだろうか…。
    そう思うとなんだが少しばかり悲しく思う。



    「…ねーぇ?
    姫とユーリ、なんかあったの?」
    夕飯が終わりリビングで寛いでいるとダイニングから出できたスマイルが静かに背後に立った。こんな時の奴は妙に鋭い。
    「…特に何も無いが?」
    彼はふぅん…と呟いたあと
    「……全く、姫が絡む嘘は物凄い下手だヨネェ、君は。」
    と小さく零した。
    「聞こえているが?」
    「アララー、地獄耳ネ。」
    悪びれて居ないところがまた憎たらしい。
    「…ま、なんでもイイけどサ。
    姫を泣かせたりしないでヨネ。」
    まるで牽制する様に真面目な声色でそう零すとまたダイニングへ向かって歩き出した。

    息を吐き、右手をじっと見つめた。
    壊すことに特化したその手。
    今はまるで穢らわしい物のようにさえ思えてならない。

    「……ユーリさん…」
    か細い声で呼ばれ、弾かれたように顔を上げるとダイニングから出てきた彼女が横に立った。
    「…あの…お隣、良いですか…?」
    彼女は無理に作った笑顔を貼り付けてそう言った。
    その表情は彼女がここに来て以来度々目にするが、その度になんだが胸を鷲掴みにされたような息苦しさを覚える。
    「あ、ああ、喜んで。」
    彼女は先程のように腰を据えた。
    しばしの沈黙があったあと怖ず怖ずと口を開く。
    「…あのわたし、何かしてしまったでしょうか…?」
    思いもよらないその言葉に一瞬思考が止まる。
    「…昼間の事も…もしかしたら…と、そう思ったものですから…」
    いつもの彼女の明るさが今日はない。
    …と、言うよりここ数日…
    否、丁度3日間どこか様子がおかしかった。
    そんな変化に今さら気づくなんて…と
    嫌悪感が増していくと共に気づけば彼女を胸に抱き込んでいた。
    「…っ…ゆっ、ユーリ、さん???」
    「…すまない。」
    「…え???」
    「…すまない、モエ。」
    「あの…それは、どういう…」

    彼女の頬に手を添え顔を上げさせるとその目を覗いた。
    逃げられないように、しっかりとその目を合わせて告げる。

    「…愛している。」

    目の前でを息を呑む彼女が
    その目に涙をみるみるうちに溜め始め
    やがてその熱い涙が自分の手を濡らした。



    最早下らない事に思考を奪われている場合などではない。

    過去にこの手が何を壊そうと奪おうと…
    今、ここにこうしている彼女には何の関係もないのだから。

    月瀬 櫻姫 Link Message Mute
    2025/09/18 17:58:48

    この手に

    一気に書きなぐった
    久しぶりの突発短編

    #ポップン
    ##ユリもえ軸
    ##ユリもえ

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