勇敢なる鶏 この島にはヘイヘイと呼ばれる雄鶏がいる。その鶏は美しい深緑の羽を持っている。しかし、美しい羽よりも痩せこけた体と大きな目玉の方が目立っている。その目も焦点が合わないせいか、ろくにエサもついばむことさえ出来ない。そのうえ、何度も海に入ろうとする癖がある。そのため島の民が慌てて引き戻す姿が目撃されている。
ヘイヘイがいつ頃から生きているのか誰にもわからない。この島の者たちは口を揃えて『子供の頃から既に島にいた』と話す。揃いも揃って。
ヘイヘイという名は、この島に語り継がれる神話に登場する鶏と同じ名前である。その神話によると、島の先祖はかつてモトゥヌイという島に住んでいたと伝えられている。そしてモトゥヌイの少女モアナが母なる島テ・フィティの心を返しに旅をした神話が残っている。そのモアナと一緒に旅をしたのが変幻自在の半神半人マウイ、そして鶏のヘイヘイだと言われているのだ。
神話のヘイヘイはモアナの厳しい旅についていこうとするほど勇敢な鶏だったという。しかもその道中では、凶暴な海賊カカモラ、大地と炎の悪魔テ・カァの魔の手からテ・フィティの心を奪われないよう守ったのだ。モアナを手助けした鶏は今でもこの島で讃えられている。きっと賢くて機転の利く鶏だったことだろう。
いま島にいるヘイヘイは伝説の鶏とは程遠い鶏ではある。お世辞にも賢いとはいえないとぼけた鶏だ。それでも島の民にとって身近な存在なことに変わりはない。──少なくとも海を恐れている様子はなさそうなところは神話のヘイヘイに通ずるものがある。
ヘイヘイは気まぐれに島の至る所を歩いて一日を過ごしているようだ。だが、ある期間だけ姿を消すことがある。
この島には定期的に二羽の鷹がやってくる。その鷹は神話に登場するマウイとモアナの化身と言われている。二羽は世界を旅した後にこの島に戻り羽を休めるそうだ。しかし、この二羽がやってくるときと飛び去るときは島民に目撃されているのだが、その間の様子はどの島民にもわかっていない。
そして、不思議なことにヘイヘイはこの二羽が島にいる間に姿を消すのだ。彼が再び姿を現すのは、決まって鷹たちが飛び去る前日らしい。
ヘイヘイは鷹たちを怖がって隠れているという人もいる。他には、神話のヘイヘイと同一視して昔の旅の仲間に会いに行っているという人もいる。
ヘイヘイは何を思って姿を消すのだろう。その真意はヘイヘイにしかわからない。