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    道中の一幕テ・カァとの戦いに備え、マウイの航海術の手解きも着々と進んでいた。モアナはその教えを着実に身につけていった。

    今日、モアナは大技を学ぶ。彼女は待ちきれない様子だ。唇を噛んで興奮を隠しきれなさそうだ。
    「ちゃんと掴まったか?」
    帆柱を掴むと、モアナは大きく頷いた。彼女を見て彼は舟から高く跳び上がった。舟の上にその巨体が着地した瞬間、舟が勢いよく傾く。舟が傾くと同時に彼は移動して縄を掴んだ。そして縄を力強く引っ張って舟を旋回させた。

    モアナはその一連の動作を見て口から感嘆の溜息が漏れた。彼女の頭の中にカカモラとの戦いの記憶が呼び起こされる。彼女は早く彼の技を身につけたかった。

    「さて練習だ。やってみないとわからないだろうし」
    マウイは舟から飛び降りてサメの姿に変身した。モアナは不思議そうに海に入った彼を覗き込んだ。
    「一人でもできるようにな」
    確かにマウイが舟に乗っていると、モアナが舟を傾けさせるのは難しいだろう。鷹に変身してテ・カァと戦う間、彼女は一人になる。戦闘の火の粉が彼女に降りかかることもあり得る。それを想定しての練習だった。
    「わからなくなったらまた手本見せる」
    「わかったわ」
    マウイの見てるなかでモアナはさっそく練習を始めた。しかし、縄へ移動するのに時間がかかって舟が転覆してしまった。彼は元の姿に戻り、転覆した舟の上に乗って彼女に舟の起こし方を教えた。テ・カァが舟を攻撃する可能性は充分にある。もし避けられても、舟が転覆するかもしれない。舟を素早く起こせるに越したことはないだろう。だが、重い船体を彼女一人で素早く起こすのは難しく、時間がかかりそうだ。マウイは舟を起こすのを手伝い、回避や旋回の練習に時間を割くことを提案した。

    モアナは何度も練習を重ねた。舟はその度にひっくり返る。縄に届くようになったが、舟をギリギリのバランスで支えることができない。次第に縄を掴む手が熱を帯びる。腕も練習毎に重くなっていく。それでも彼女は彼に頼んで練習を続けた。腕力では彼に遠く及ばない。

    何かコツはないか、モアナはマウイに尋ねた。彼は少し考えるように舟の周りを泳いだ。そして、彼は口を開いて支えやすい位置があると言った。その位置は人の体格で異なるから、一概に教えるのは難しいと彼は付け加えた。引っ張り方は習得できている。あとは実践あるのみだと彼はモアナを励ました。太陽がそろそろ空から去ろうとし始めしていた。

    モアナは船体を支えられる位置を把握することを念頭に置いて練習を再開した。試行錯誤を重ね、腕が疲れにくい場所があることに気づいた。傾いた舟がおおかた海に着水する。
    「やった!」
    だが舟が完全に着水する前に、彼女は興奮のあまり縄を離してしまった。
    「油断禁物だぞ」
    マウイは海に落下したモアナに近づき、厳しく注意した。
    「ええ」
    海に掴まれて甲板に引き戻されたあと、モアナは髪を絞って力強く頷いた。次はできる。確信が彼女の目に灯る。彼女はさっきの位置を一瞥し、再び練習に挑んだ。傾いた舟が無事に海に浸かる。彼女は海に落ちることなく甲板に戻った。甲板には既にマウイが乗っていた。二人は目配せしてハイタッチを交わした。

    「できたわ!」
    モアナは両手を挙げて叫んだ。顔をくしゃくしゃにして喜ぶ彼女を見て、マウイは無意識のうちに頰が緩んでいた。
    「続きは明日にするか」
    マウイはモアナの手を見る。その手は日の落ちた暗い空でもわかるほど赤くなっていた。マウイは帆柱に登って遠くの様子を確認した。
    「いい島がある」
    テ・フィティからやや外れた方向に島が見える。テ・カァの侵食を逃れているのか、まだ緑が生い茂っている。食糧の補給も兼ねて二人と一羽を乗せた舟はその島へと向かった。

    「寝ないのか?」
    夕食を終えると、モアナは座って濃紺の空に埋め尽くされた星々を見つめていた。
    「うん」
    彼女の返答にマウイは眉をひそめる。長時間寝られる機会はもう今夜しかないだろう。

    「寝られない」
    モアナは初めてできた大技に想いを馳せた。憧れたあの技を自分のものにできた興奮が蘇る。
    「……嬉しくて」
    自分の掌を見つめ、彼女は顔を綻ばせた。そして、掌を水平線に向けて星を測った。

    「眠れないお姫様に昔話を聞かせよう」
    マウイはモアナの隣に座った。
    「お姫様はやめて」
    モアナは険しい表情でマウイをたしなめた。
    「訂正しよう、未来の航海士さん。これはある英雄の物語だ……」
    モアナはマウイの英雄譚に聞き入った。最初に会ったときよりもっと詳しい話だ。空を持ち上げた話、倒した鰻を埋めてココナッツができた話など。マウイはタトゥーを動かしたり、話に登場する魔物の姿のミニチュアサイズにも変身したりして見せた。ウナギや蛸、鳥、コウモリ、そして蟹の姿……。
    「このくらいなら、かわいいのにね」
    蟹の姿のマウイを見てモアナはタマトアのことを思い出す。あの巨大な鋏で手を掴まれたときは生きた心地がしなかった。偽のテ・フィティの心で気を引かせたときも捕まってもおかしくなかった。彼女は、ラロタイ脱出直後のマウイの注意を改めて思い出していた。
    「ココナッツの大きさの恩知らずもいるけどな」
    マウイは元の姿に戻って苦々しい表情を浮かべた。
    「そうね」
    ココナッツを作った半神の表情を見てモアナは小さく笑う。彼女の脳裏にココナッツの鎧を被った小さく残忍な海賊の姿がよぎった。


    「マウイ」
    モアナの呼びかけに彼が振り向く。
    「どうした?眠くなってきたか?」
    「……うん」
    モアナは尋ねたかったことを心に仕舞うことにした。
    「お話楽しかった。おやすみなさい」
    モアナは彼の返事を待たずに横になった。旅を終えたら、マウイはモトゥヌイに一緒に行くだろう。彼はそこではじめて厄介者から再び英雄になれる。村人たちに賞賛されて有頂天になる彼の姿を想像してモアナは危うく吹き出しかけた。

    でも、そのあとは?

    さっき尋ねたかったことが再び彼女の心をざわつかせた。岩だらけの島を離れ、釣り針を取り戻し、心を返し終えたあとの彼を縛るものはどこにもない。モアナはペンダントを握った。特訓で疲れた手が悲鳴をあげる。彼女は彼を引き止められるような賞賛の言葉を考え始めた。しかし、どの賞賛の言葉も頭の中の彼を引き止められるに値しなかった。

    モアナはもう一度ペンダントを握りしめた。手の痛みで気を紛らわせようとするために。早く寝てしまいたい。皮肉にも、手の痛みが自分の眠気を追い払っていることに彼女は気づけなかった。
    mith0log Link Message Mute
    2018/06/20 8:58:55

    道中の一幕

    修行中によぎったモアナの不安 ##二次創作 #moana #moaui #モアナと伝説の海 #マウモア

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