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    財ユウ 「金曜夜の可愛いあの子」 金曜日。
     仕事も早々に切り上げ、一般的に言われる定時前には会社を出た。特別な予定はなく、映画でも観て帰ろうかと思ったが、上映作品の一覧を眺めながら、気になるタイトルは財前と一緒に観る約束をしていたことを思い出し、直帰することを選んだ。
     とは言え、金曜日の夜、というのは社会人にとっては特別だ。
     ごく普通のサラリーマン、とは少し異なる働き方をしているユウジにもその感覚はあった。駅前の賑わいに流されるよう、普段は立ち寄ることのない、酒屋と呼ぶには如何せん小洒落たワインショップに入り、目についた一本を購入した。ついでに少し遠回りをして、自宅とは反対方面にある商業施設に寄り道をして、これもまた普段は買わない総菜やつまみを二、三種類買って、それでようやく夕焼け空を見上げながら帰路についた。
     早く帰った日くらいは自炊でも、と思わなかったわけでもないが、今日は金曜日だ。一週間頑張ったご褒美という名の手抜きだって許されるはずだ。それに、これが一番重要な点であったが、同居人は会社の親睦会で今夜はいない。せっかく作るのであれば、二人が一緒に食べられる日がいい。
    「明日は何か、あいつの好きなもんでも作ったろ」
     今朝、会社の飲み会に参加することを渋っていた同居人こと財前の姿を思い出す。
     まず金曜日に飲み会をやる意味がわからんとか、おっさんの話マジでつまらんとか、女の先輩や同僚に色々探られるのがめんどいとか。低血圧を絵に描いたような表情と顔色で、トーストもそもそ食べながら、「行きたくない」を繰り返していた。
    「行きたくないと言いつつ誘われたら参加するところが律儀っちゅーか……」
     マイペースと思いきや意外と真面目な性質を持つ財前の好きな食べ物を思い浮かべながら、買ってきたものをダイニングテーブルに置き、そのままベランダに出て洗濯物を取り込んだ。
     その中からティーシャツとスウェットを引っ張り出し、その場で着替えてしまう。学生時代、イギリス旅行をした時に財前と二人で買ったそのティーシャツは、当時はなかなか手を出せなかったブランドのものだが、すでにくたびれてしまっている。それをユウジも財前も部屋着にしていて、同じタイミングでそれを身に着けた日に、「ペアルックやんなあ」なんて面白がってみたら、「キモ」と吐き捨てられた。でも、その耳は赤くなっていて、ユウジを愉快な気分にさせた。
     にやけそうになる口元を一度押さえ、ズボンもユニクロのスウェットに履き替える。
     さて、金曜日。
     テーブルに並ぶ、総菜屋の袋やワインが入った長細い紙袋に満足気に見つめ、何からしようかと両手を腰にあてた。



     簡単な食事を済ませ、風呂に入りさっぱりしたところで大きなテレビの前に陣取る。
     適当に盛り付けた惣菜とワインをローテーブルに起き、ハードディスクに録画しておいたお笑い番組を再生させる。
    「おっきな画面は最高やなぁ」
     初ボーナスで購入した大型の液晶テレビをうっとりと見つめ、やがて番組が始まるのに次第に顔つきは真剣なものになる。
     お笑い番組、なのだから素直に笑って突っ込んで、をすればいいのだが、長年の癖もあり、流行りの笑いやネタの面白さを分析しようとしてしまう。
     こんなだから、財前とテレビを見ていると、いつも「ユウジ先輩と見てると笑えんわ」と呆れられてしまう。
     と言っても、しばらくすれば、二人で画面に突っ込みを入れ出して、液晶の向こうにいる芸人のマネをし合ったりと騒ぎ出して、最後は涙を流しながら笑っている。
    「アイツおらんとつい黙り込んでしまうな」
     二週間分の録画を見終えたところで、ふう、と息と一緒に緊張を吐き出しながら言う。
     並べてみたものの手をつけていなかったワインを一口飲み、無意識に左隣を見る。そこにいない財前に話しかけるよう、「つまらんのやけど」と、グラスを持ったまま宙に向かって言う。返事はない。
     テレビの横に置かれた時計の針は十時を指している。
     今頃、二次会の会場で柄にもなく気を使って上司のグラスにビールでも注いでいるところだろうか。
    「おっさんやなくて、俺に気ぃつかってや」
     先輩やぞ、と口を尖らせる。そんな風に不機嫌を装ったところで、もちろん、反応をくれる相手もいない。ますますつまらなくなってきて、テーブルにグラスを置くと、ユウジはごろんと横になった。
     すると、玄関の方からドアを開けようとするガチャガチャという音が聞こえてきた。
    「……幻聴か?財前くんはハゲ課長にビールを注いどるはずやし……」
     仰向けに寝転がったまま眉根を寄せる。
     まさか泥棒?財前が特に必要ないのに新型のパソコン買うてしもたからこの家いま金ないで、と玄関の方に顔を向ける。

    「ユウジ先輩?おらんの?」

     続けて聞こえてきた声に、勢いよく起き上がる。
    「おる!」
     条件反射のようにすくっと立ち上がり、玄関へと向かう。大した距離もないのにバタバタと部屋の中を走っていけば、今朝と同じ、スーツ姿の財前が立っていた。
    「ただいま、近所迷惑やで」
     走ってきたユウジに、財前が渋い顔をする。でも怒っている様子はない。むしろ機嫌は良さそうだった。
    「おかえり、結構のんだ?」
     その頬が、少し赤らんでいることに気づく。
     財前はそこまでアルコールが強くない。酒が全く飲めないわけではないが、飲めばすぐに顔は赤くなるし、限界値も一般的な男子よりは低い。ユウジ自身、酒は強い方ではないが、それでも財前よりは飲めるという自負がある。
    「しょっぱなテンション低いテーブルやったから暇で飲むしかすることなかったんや」
    「そうなんや、お疲れさん」
     労うよう、向かいに立つその頭をぽんぽんと撫でてみれば、急に抱きしめられた。
    「あー、疲れたわ、ほんまに」
     ぎゅうぎゅうとくっついてくるのに、笑いながら、その背中に腕を回す。
    「あはは、なんや急に……、暑いって」
     これは、結構、酔っぱらっているな。
     財前は、酔っ払うと、普段よりも可愛くなる。と、ユウジは思っている。普段のツンケンした態度はどこへやら、甘えるようベタベタとユウジに擦り寄ってくる。それを、ユウジはひそかに可愛いなと思っていて、そういう財前のことを嫌いではなかった。むしろ、こうやって甘えられて甘やかす時間は好きだった。
     ユウジ先輩、と鼻先を猫のように摺り寄せてこられれば、でろでろに甘やかしたくなる。
    「って、うわ……っ」
     体重をかけて抱きついてくるのにバランスを崩し、廊下の壁に背中を引きずらせながら尻もちをつく。床に座り込んだところで、財前もユウジに引きずられるまま床にへたり込み、ユウジから離れることはない。
    「飲み会、楽しかった?」
    「楽しくないわ」
     廊下に、抱き合ったまま座り込む。アルコールのせいか、普段よりも体温の高い財前と触れ合う部分が火照る。まだ六月の初めだというのに、玄関は少し蒸し暑くて、開きっぱなしにしていたリビングに続く扉の向こうから流れ込んでくる冷房の風が、熱を籠らせる肌に当たるのが心地よかった。
    「ハゲ課長にセクハラされなかった?心配やわあ」
    「そんなんあったら明日辞めるわ、あとハゲやない」
     フウと息を吐き出しながら財前が返してくるのに、「へえ、ハゲやなかったんやな」と、その後頭部の髪の毛をくるくると指に巻きつけて言う。
    「先輩、今日は優しいな」
     ふいに顔を持ち上げた財前が眉を顰めた。
    「財前くんがかわええからかなあ」
     拗ねたような表情を見せる財前の、その鼻先に唇を軽くくっつけながら答える。その位置で見つめ合っていれば、お返しとばかり、財前がキスをしてきた。子供同士がするみたいな幼いキスは、今の財前にピッタリだと思った。
    「池崎は?やったん?」
     一瞬で離れていく唇を見つめながら、眠たそうな財前に尋ねる。
    「やらんわ、いつの話や」
     ふあ、と欠伸まじり返してくるのに、「俺あのネタ好きやねん、今度やって」と耳元に吹き込めば、「くすぐったい」と逃げるよう頭の位置を変えた。
    「二次会は?」
     この時間に帰ってきたということは、そういうことなのだろうと聞いてみれば、「行く気なかったし」とくぐもった声が返ってきた。
    「金曜日はユウジ先輩と一緒におるって決めとるもん」
    「……決まりやったん?」
     初めて聞いたわ、と首元にある財前の頭をあやすよう撫でる。
    「もう、ほんまに、今日とかめっちゃエロいことするて決めとったし」
     財前の、どこか悔しそうな口調に小さく噴出す。
    「それも初耳やわ」
     これは明日後悔するやつやで、財前くん。心の中で呟く。この後輩は、昔から、翌日になって後悔をすることが多い。高校時代まで遡れば、セックスをした翌朝なんかは羞恥と戦うよう、いつも頭を抱えて歩いていた。(これはお互いさまなところもあったが)。
    「明日は何しような」
    「……」
    「ん?おーい、ひかるくーん?」
     肩に乗る頭が、重たくなった気がする。
    「寝ました?」
     声をかけても返事はない。もう一度声をかける代わり、眠りを誘うよう財前の背中をトントンと叩いた。
     ユウジの肩に頭を乗せたまま、穏やかな寝息を立て始める財前の耳元に唇を寄せる。そのまま、完全に寝入ってしまった様子の財前に「一週間おつかれさま」と吹き込み、その腕の中からそうっと抜け出した。
     すると、支えをなくした身体がごろんと横に倒れた。
    「あ、」
     しまった、と思い小さく声を上げたが、廊下に倒れこんだ財前が起きる気配はなかった。
    「スーツぐしゃぐしゃになるし、シャワーくらい浴びた方がいい気もするけど、叩き起こすのもなあ……」
     とは言え、このまま硬い廊下で眠らせておくわけにもいかない。
     さて、どうしたものか。ベッドに運ぶのが一番いいことは分かっているが、酔っ払って弛緩した成人男性を運ぶのは骨が折れる。
     っちゅーか、無理やろ。
    「せや!」
     少しの逡巡のあと、名案が閃いたユウジは指をパチンと鳴らした。そのまま、抜き足差し足で寝室に入り、納戸の奥にしまってある客用の布団を引っ張り出し、適当に広げた状態で廊下に持っていく。
    「リビングの扉あけっぱにしとけば大丈夫やろ」
     流れてくる冷気を感じながら、布団を廊下に敷いた。
    「よっこらせ……、と」
     それから、すっかり眠り込んでしまった財前の身体をずるずると引きずり、敷いたばかりの布団の上に転がす。
     せめてもと、ネクタイとベルトを外し、シャツのボタンもいくつか外してやった。
    「ほい、おやすみやで」
     すぐにころんと丸まる身体に、上から薄がけの布団をかけ、廊下の電気を消した。リビングの明かりもあってか、真っ暗にはならなかった。
     滅多と見られない素直で可愛い同居人の姿を、もう少しだけ楽しみたいという気持ちと、せっかくの週に一度のスペシャルな夜なのだから二人でくっついていたいという気持ちに後ろ髪を引かれる。リビングへ戻ろうとする足取りは軽くない。
    「んん、ユウ……ジ、せんぱい」
     でも、一晩中廊下に突っ立って後輩を眺め続けるわけにもいかない。今日はここまでと、リビングに戻ろうとすれば、寝ているはずの財前に呼び止められた。
    「なに?」
     振り向いたところで、呼んだ本人は夢の中だ。むにゃむにゃと何か言いながら、もぞもぞと何か探すよう動く。
    「……し、しゃーないなあ」
     何か、理由が出来た気がした。
     リビングへと進んだ分だけ後退し、廊下の幅に収まりきらず端っこが壁に沿って折れ曲がっている布団まで戻る。
    「お呼ばれされたら断るわけにもいかへん……」
     そんな言い訳を口にしながら、財前の身体を覆う薄がけの布団をひらりと捲り、「邪魔するで」と、その隣に寝転がり財前の胸のあたりに収まるよう、薄い布団の中で身体の位置をずらす。
    「んー……」
     ユウジが入り込んできたことに気づいているのか、いないのか、胸元に頭を寄せれば、その腕が伸びてきた。
    「明日はめっちゃエロいことしような」
     言いながら、笑いが漏れてしまう。
     朝になって目が覚めて、廊下に布団を敷いて寝ている状況に驚き、曖昧な記憶を頼りに後悔するであろう財前の姿を想像しながら、その腕の中、「おやすみ」と囁くよう言って、目を閉じた。
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    2019/06/08 11:17:31

    財ユウ 「金曜夜の可愛いあの子」

    #財ユウ
    金曜夜の酔っ払い財前くんとユウジ先輩がイチャイチャしてるだけ。

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