Mint「誰かカッター持ってない？」
東海林がダンボール箱を持ちながら誰かに訴える。
「私持ってますよ」
近くにいたハケンが東海林にカッターを手渡す。
「ああ、ありがとう」
東海林はそう言いながらビニール製の梱包テープを割いて開封する。

するとハケンの席まで行きカッターと一緒にポケットからキャンディを取り出した。
「これお礼にあげるよ、って俺が食べられないからなんだけど」
それはミントキャンディーで白い包紙にミントグリーンの水玉模様が描かれていた。
「ありがとうございます、でもこのキャンディ『紋次郎カフェ』でもらえるやつじゃないですかー」
ハケンは笑いながらキャンディを口に含んだ。
「知ってた？さっき行ってたんだよ。みんながうまいって言うと気になるじゃん」
東海林はフレンドリーに一回りも年下のハケンの女子と談笑している。



そんな姿を後ろでイライラしながら聞いている女が1人。

「私語は謹んでください！！」
振り返り春子は東海林を睨みつけながら叫んだ。
「おおっ、またとっくりか…こうやってコミュニケーションをとるのも大事なんだよ、まぁ一匹狼なお前には関係ないか？」
東海林は鼻で笑うように春子に嫌味を言うとデスクに戻ろうとした、そこですかさず
「その枯れたまりもも、この世で一匹貴重な存在ですね」
春子は嫌味をサーブでかえした。
「ど根性ガエルみたいに言うな！これはまりもじゃない、地毛だ！！」



ダンボールの中身はスリランカから届いた紅茶の葉で、その後試飲会が行われた。
しかし男性社員には味の違いがイマイチわからない。
悩みに悩んで、結果女子社員やハケンの女子を呼んで感想をもらおうと言うことになった。

「この中で1番美味しいと思うものを選んでくれるかな？1番と思った茶葉の前に紙コップを置いてほしい」
東海林は入口で説明して、中で他の社員たちが紙コップに紅茶を注ぐ。
定番のダージリンにアッサム、アールグレイにフルーツの香りが混ざったものまで15種類もある。その中から各々口にして気に入ったものを選んでいく。
「アールグレイって後味が苦手」
「マスカットティーが美味しい」
「やっぱりダージリンがスタンダードじゃない？」
女子特有のトークで盛り上がる姿を見ていると、さっきの男ばかりで黙々と飲んでいた姿がお通夜のようだった。
やっぱりこういったものは向き不向きがあるんだな、そう思いながら東海林は端の方で見守っていた。

すると、目の前を春子が通り過ぎてある場所に紙コップを置いた。気になった東海林が置かれた茶葉を、見るとそこには「ミント」と書かれていた。

「とっくり、ミント好きなのか？」
「それが何か？」
「俺ミントって苦手なんだよ、スースーして。この茶葉一口も飲めなかったし、やっぱりお前とは気が合わないな」
「そうですね、味の違いもわからないと女に頼るような人とは気が合いません」
春子は捨て台詞を吐いて、部屋を出て行った。

「何だあいつ、相変わらず可愛くねぇ…」

結果、1番票が多かったのは予想に反してウバという葉だった、次点がマスカットティー。
ウバは少し苦味があり香りも独特だったので個人的には順位は低かった。しかし上位の茶葉を見ていると女性にはやはり香りが重視されているのかもしれないと感じる。

東海林は集計を終えあと、片付けを後輩に頼むため部屋を出ようとすると、ふとミントの葉の前に一個だけ置かれたコップに気がつく。

春子の紙コップには口紅の跡がついていない、拭き取ったかほとんど目立たないのを塗っているのだろう。
何となく、いけないことはわかっていたけれどー。

ミントティーを少し注ぎ、その紙コップで一気に飲み干した。

鼻に通る清涼感と、紅茶の苦さが相まってそんなに嫌な味はしなかった。
でも飲み干した後に、口の中にミントの葉の青臭さが残っている。
やはりミントは苦手だ。
「なんであいつはこんなのが好きなんだか…」


東海林は紙コップを元に戻して部屋を出た。