5月7日【5月7日】
誰とも話したくない。誰にも会いたくもない。どうして、ここにいなければいけないのだろう。何かから逃げて、眠って、また起きて、そうしてまた逃げる。そんな際限の無い日々が嫌になってしまった。
こんな日々が続くのなら、もう生きたくない。
自暴自棄な気持ちで、自動販売機に小銭を押し込む。がたん。炭酸飲料を取り出して、一口飲みこんだ。校門を抜けて、たった一人で歩く。
死ねるのなら、もう何だっていい。仄暗い希死念慮を抱いて踏切に向かう。学校への連絡も、もうしなかった。
不意に、目の前に長い黒髪の男が現れた。一つ目の模様の描かれた布を目に巻いている。表情を判断する材料は気味の悪い笑みを浮かべる口元だけである。
「そんなに死にたいなら、殺してやる」
体が緊張した。思わず後退りする。この男の目を見てはいけない。そう思った。それなのに、目が離せない。
男は笑みをそのままに、ゆったりとした動作で此方に歩いてきた。そうして、動けないままの私の腕を掴もうと、手を伸ばしてきた。
その瞬間、後ろから引き寄せられて、大きな手で目隠しをされる。そのまま反対側へと手を引かれて、男と距離をとる。目を隠す手が外れたのを皮切りに走り出した。
視界が戻った時に、男の姿が見えた。悔しそうに口を歪める男の、目元の布が解ける。目と目が合いかけた。
「止まるな、走れ!」
前を走る男性がそう言ったのを聞いて、はっと前を向いた。もし今、あの目を見ていたらと考えてぞっとした。息が苦しくなるまで走って、走って、走り続けた。光が私達を包み込んだ。