明後日の方向まだ日も昇っていない夜明け前。モアナは何か落ちた音で目を覚ました。彼女は恐る恐る音のする方向へ顔を向ける。彼女の目には見慣れた鮮やかな色の雄鶏の姿と小石が映る。彼女の旅についてきた雄鶏、ヘイヘイだ。
「……ヘイヘイ?」
故郷のモトゥヌイに戻ってからというもの、ヘイヘイは彼女の前で口から小石を吐き出すようになっていた。
石を飲み込んで吐き出す行動は前々からあった。だが、近頃は彼女の知らない場所で小石を飲み込んでいるようだ。まるで胃袋を使って彼女の元へ運んでいるかのように。
「最近は小石が好きなの?」
モアナは毎日欠かさず小石を置く鶏を見つめる。そして彼が吐き出した小石を拾い上げた。
「ん?」
モアナは拾い上げた小石とペンダントの貝殻を見比べてみた。ちょうど、その小石は貝殻に仕舞える大きさだ。近頃ヘイヘイが吐き出していた小石もテ・フィティの心と同じぐらいの大きさだった気がする。
モアナは彼を見つめて口角を上げた。
「……また、旅に出たい?」
彼女がそう聞くと彼は短く鳴いた。相も変わらず彼の目の焦点は明後日の方向を向いたままである。
「もう少し待ってね」
冒険が終わった後、モアナは村人たち、そして両親を引き連れて、あの洞窟へ行った。洞窟の船の帆や船体は一部傷んでいた。船の修理にはまだ少し時間がかかるだろう。
それにプアがまだ海を怖がったままかもしれない。友達であるプアとも航海ができるといいのだが。
モアナはどんどん船が完成したときの想像を膨らませていく。船の修理が終わったら、先祖たちの航海の姿を村の人たちにも見せたい。
あの素晴らしい光景を目の当たりにしたときの興奮がモアナの胸に湧き上がった。しかし、あの洞窟で船体を鳴らしたのは自分一人だけだった。果たして自分が見たあの光景は、船体を叩いて鳴らした者以外も見えるだろうか。人間以外にも。
「ヘイヘイ」
モアナはヘイヘイに呼びかける。すると、ヘイヘイの体はモアナの方を向いた。あの光景は鶏にも見えるだろうか。彼女は思い立ってヘイヘイの小さな体を腕に抱えた。まだ洞窟に誰もいないだろう。
「あなたの目にも映るといいな」
モアナは両親を起こさないように静かに家を出た。一人と一羽は先祖の船のある洞窟へと向かった。