7月31日【7月31日】
奇抜なアニメーション映画の縁日のような、雑然とした街の中にいた。空はもう真っ暗になったというのに、人の賑わいは絶えることを知らない。
行く宛がない。歩かなければ邪魔になるとは知っていても、どこにも行けずにひとり立ち止まっていた。
ふと誰かに手を引かれる。背の高い男性だった。
服は黒ずくめで、帽子の下から見える髪も同じような色をしていた。空と混ざらないのは、露店から盛れた橙の灯りが、彼の輪郭を照らし出しているからである。
名前を尋ねても、何処に行くかを尋ねても、何も教えては貰えなかった。足元に薄く張られた水が、歩く度にバシャバシャと跳ねる。今朝降った雨の残りだろうか。
騒々しい夜の街を抜けて、町外れにある丘に連れてこられた。長い長い階段を登る。そこには、寂れた神社があった。賽銭箱の前の階段の上に、誰かが足を組んで座っている。
「やっと来ましたか」
その瞬間、これは夢なのだと思った。確証はないが、恐らくそうだ。先程までいた黒ずくめの男はいつの間にか消えてしまった。助けを求めようとして、上手く声が出ないことに気が付いた。
「そんなに焦らないでください。危害を加えるつもりはありません」
目の前まで歩み寄ってきた男は、人の良さそうな笑みを浮かべた。
「試してみたかったんです。どうやら上手くいったようですね、これなら貴方にも僕の姿が見えるでしょうから」
「何がしたいの」
「どうせなら直接話してみたいじゃないですか」
悪意は無いようだった。男は自分の隣を指差して笑った。座れということだろう。
階段に座って夜景を眺めながら、二人で他愛もない話をした。彼と居るのは案外心地よくて、緊張は自然と解れていた。最後には、お互いの笑い声が絶えず響いていた。
気付けば空が白んでいる。隣に居たはずの彼の姿は無かった。
話したいという彼の思いに応えることはできただろうか。