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    甘やかす百音さんとしょぼくれ先生散々な目にあったし疲れた…と思いながら処方された抗生剤などがはいった薬局のレジ袋を提げて、自分でもトボトボとしか形容しがたい歩調で帰路に就く。ただいま、とそっと玄関ドアを開けたら、百音さんがぴょんと姿を見せた。笑顔でおかえりなさい、と見上げてくるその顔は、僕の様子を注意深く観察してもいて、抱きついてもいいものかをはかってるようにも見える。ああ、こうやって気遣ってもらえるのうれしいなぁ、とスニーカーを脱ぐのも早々に百音さんに腕を広げると、ふわりと笑みを浮かべてその中に納まってくれる。思わずもたれかかるように抱き着くと、両手でぽんぽんと背中を撫でてくれた。

    「お仕事も歯医者さんもおつかれさまでした」
    「うん」
    百音さんの暖かさがしみじみ沁みる。しばらくそうやってたら、百音さんが腕の中で身じろぎするので抱擁を緩める。緩めた腕の中から僕を見上げて、そっと両手を僕の頬にのばして包み込む。ひんやりとしたその感触が気持ちいい。

    「痛みますか?」
    「んー、まぁ、切開はしてるのでそれなりには。でも痛すぎてどうこうなるというほどでも」

    切開の創そのものは大した大きさじゃない。口の中が血の味っぽいとはいえ、そんなのは想定内だし。とはいえ、親知らずに骨がかぶってたのを除去して、最後は歯を割って取り出したっていうんだから、まぁ後からなにがあるやら。

    「無理しないでくださいね?」
    って優しく頬を包んだまま、ほほ笑む百音さんのかわいさに、この後どうなるかの憂鬱も吹き飛ぶ気分だ。こうやって心配してもらえるなら、親知らずを抜くのも悪くないかも。

    +++

    しばらくハグから動かなくて、そのハグもなんだかしょんぼりしてて、もうホントにメゲて帰ってきた先生がかわいすぎる。かわいすぎるって言ったらしょんぼりしてる人にかわいそうだけど、でも。今のところはまだそんなに痛くないって言うし、そのままあんまりひどくないといいな。

    ようやっと玄関から動いた先生が、手洗いうがい着替えを済ませてる間に用意していた小田巻蒸しを湯気の上がった蒸し器にセットする。お出汁のいい香りがしてきたところで、スウェット姿の先生が寝室からのそりと出てきた。サメ棚にいるサメ太朗をだっこしてダイニングテーブルにちょこんと座ってる。サメ太朗、先生のこと支えたげてね。

    ほかほかに蒸しあがった小田巻蒸しをテーブルに運ぶと、見たことない大きさの茶碗蒸しに先生の目が丸くなる。先生がそうなると、サメ太朗も心なしかびっくりしてるみたいに見えるのが面白い。

    「いつもより大きな茶碗蒸しだけど、これは?」
    「これ、野坂さんに教わったんですけど、小田巻蒸しって言って、中におうどんが入ってるんです」
    「へぇえ。うどんの出汁が茶碗蒸しになってるんだ」
    「そう。柔らかいし、あったかいし、タンパク質とれるしいいかな、と思って。あ、おうどんも生めんのやわらかいのを短めにしたので食べやすかったらいいな、って」

    私の説明を、先生とサメ太朗はふんふんって聞きながら、興味深そうに小田巻蒸しの器を覗き込んでる。登米の木の匙とお箸を並べて、サメ太朗は一回ソファに避難して、いただきます。あつあつに仕上がった器にこわごわ触れるか触れないかに手を添えて、匙ですくった茶碗蒸しに息を吹きかけながら、それでもあったかいのを食べたくて口にいれて、あっつ、ってなる先生がかわいい。こわごわ食べてみたおうどんを、抜歯してない方で咀嚼してる。先生はいつもご飯食べる時に、頬がぷくってなるんだけど、それがいつもと違って片側なのもなんだかかわいい。うーん、滅入ってるセンセを見て、かわいいばっかり思っちゃうのもどうかなって思うけど、大型犬みたいな先生がしょぼんってしちゃってるから、やっぱりかわいい。

    私もあつあつの小田巻蒸しを楽しみながら先生の様子を堪能してたら、しばらくして先生も顔をあげて上目遣いにこっちを見たと思ったらふにゃって笑った。

    「夜勤日勤明けの抜歯の後に、こうして暖かいものを百音さんと食べるの、ほんとにほっとする。ありがとう」
    こういう言葉を惜しまない先生が素敵だなって思う。
    「よかった」
    私が笑うと、先生がテーブルに左ひじをついて、はぁってため息をついて小田巻蒸しの上にうなだれた。どしたの?
    「もう、今日の抜歯が疲れて、つかれて」
    「そんなに?」
    今日は難しい手術なんだって言って出勤した日よりも全然ヘトヘトなのが不思議。やっぱりやるのと受けるのは違うのかな。

    「そんなに。歯の大きさや形と、骨のかぶり具合とか、まぁいろいろ面倒があったらしいんだけど」
    「ふむ」
    「歯肉切開して想定が違ったっていうのは理解できるし、任せるしかないんだけどさ、抜歯中に『やべっ』とか『あっ』って言われると、まぁ、疲れたね…」

    もーってちょっとふてくされた顔になっちゃった先生が、申し訳ないけどやっぱりかわいい。歯医者さんのそんな声が聞こえた時、きっとチベットスナギツネみたいだったんだろうな、って思うとおかしい。まぁ、でも本人にとったら笑いごとじゃないよね、うん。

    「どれだけ『やべっ』とか『あっ』って思っても、それ口に出しちゃダメでしょうが…」
    ってボヤキながら、短めのおうどんをたぐってる。適温になってきた小田巻蒸しに、お箸と匙の動きも本調子になってきたっぽい。やっぱりかたっぽだけモグモグってなる先生のほっぺを見ながら、私も茶碗蒸しとおうどんのマリアージュを楽しむのだった。

    +++

    こんなにしょぼくれたスガナミ見たことないって思ってたら、どうやらモネちゃんにとっても初めてなスガナミだったみたいで、あれやこれやと世話を焼いてるモネちゃんがなんだか楽しそう。うん、なんかこんなにスガナミがしょぼくれてたら、世話焼きたく気持ちはわかる。そんでもってそれが楽しいのも。

    それにしても、モネちゃんのスガナミ甘やかし力はすごい。ごはんはスガナミの好物とか食べやすいものしかつくんないし、スガナミがモネちゃんだっことかハグとかしたがったら、全部付き合ってあげてる。スガナミはばくはつすればいい。

    歯を抜いた日も、やっぱりスガナミは寝てる間ずっとモネちゃんを抱っこしてたっぽい。もうどんなけ甘えるんだよって感じだけど、次の日の朝にモネちゃんが笑ってスガナミの頭なでなでしてるの、もうモネちゃんもばくはつしちゃうんじゃないかな。

    そんで翌々日に出勤して帰ってきたスガナミの顔をみて思わず笑っちゃった。いや、心配にもなるんだけど、めちゃくちゃ腫れてやんの。えー、そんなんになんの?!人間の歯を抜くのってそんなにタイヘンなんだねぇ。サメだったらポロリなのに。びっくりしちゃった。

    モネちゃんも帰ってきたスガナミの顔をみて、ちょっと笑いをこらえながら「だいじょぶですか」って言ってる。モネちゃんが笑いをこらえてるのもスガナミは分かって、ふふくそーに「大丈夫じゃないです」って、そりゃそーだ。モネちゃんが笑いながら、何か白いのをスガナミのほっぺに貼ってあげてる。あれなんだろ。貼ったのの上からモネちゃんがそっと手を当てて、それにスガナミの手が重なって、なんだかほっとした顔してる。

    なんかビネツもあるとか言って、ごはんのあと、モネちゃんはソファベンチでスガナミに膝枕してあげて、スガナミはそれに甘えてごろごろしてた。そんでモネちゃんはスガナミのくせっけをもしゃもしゃしてる。もー、やっぱりスガナミはばくはつしろ!!

    結局、スガナミの顔の腫れは一週間ぐらい取れなくて、朝夕にモネちゃんに甲斐甲斐しく白いのを貼り替えてもらっては、マスクをして出勤してた。三日目ぐらいに、スガナミがおフロ入ってる時にモネちゃんが僕のことをぎゅーって抱っこして「ね、サメ太朗、先生をめいっぱい甘やかせるのって楽しいね!」ってノロけてきて、もう胸やけしきりだったサメ棚のみんなと『マジか…』って心の胸ビレで頭を抱えたものだよ。なんだかんだ、長女気質のモネちゃんはスガナミをお構いしたいけど、スガナミもそういうお構いはさせてくれないもんねぇ。そりゃリキはいっちゃうよねぇ…。

    しかし、これが続くとモネちゃんとスガナミのソージョー効果で、みんなが胸やけで別のビョーキになっちゃうので、スガナミの顔はさっさと元通りになれ、というのがサメ棚一同からの願い。サメの回復力、見習え!

    <おしまい>
    ねじねじ Link Message Mute
    2022/11/12 8:51:05

    甘やかす百音さんとしょぼくれ先生

    #sgmn

    「憂鬱な先生と甘やかし百音さん」の続きの情景が浮かんだので。
    やっぱり先生は親知らず抜歯したら腫れるだろうし熱も出るだろうな、とw

    ちなみに先生のボヤキは私の実体験ですw

    +++で視点が切り替わります。
    あまりの甘やかしとしょぼくれ甘えん坊に私が耐えられなくなり、最後はつっこみを入れてくれるあの方wにも登場願いました。助かるわーw

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