ケーキとお茶と女子会トークひさしぶりの師走の帰省。初売りがあるから年末だけだとしても、島に帰れるのはうれしい。両親もこの時期に会えたことを喜んでくれてる。とんぼ返りになっちゃうけど帰っておいでよ、って言ってくれたマモちゃんはホント優しいし、分かってくれてる。
帰る日のお昼、島を出て本土に。菅波先生と結婚したけどまだ遠距離なモネが先月から本土でひとり暮らしを始めたって言うので、新居にお邪魔することになってる。気仙沼でやった私の結婚披露宴には出てくれたけど、それ以来一年ぐらい会えてなかったからゆっくり話できるのが楽しみ。
聞いてた住所に行くと、街中の鹿折川の近くで、ここら辺では珍しい部類に入る3階建ての3階。あー、これは菅波先生が出した条件だろうな、って察せれるぐらいには私も付き合いは長くなってる、と思う。モネも電話で、先生は最初しぶってたって言ってたもんな。まぁ、普段遠距離で、せっかく安心な親元にいてくれてるのに、って言う先生の気持ちもわかるっちゃ分かる。とはいえ、あの人、モネのことになっちゃあ過保護すぎるけどね。
昔からモネも私も好きだったお店のケーキを提げてピンポンしたら、すぐにモネがドアから顔を出した。わー!モネー!ひさしぶりー!
「すーちゃん、来てくれてありがとう!あがって、あがって!」
モネのお招きに応えて、おじゃましまーすって入ったら、リビングの向こうに街から海までが見晴らせた。
「いい景色!」
「でしょう。見晴らしも風通しもいいの」
うんうん、ってモネと頷き合いつつ。
「コーヒーにする?紅茶?」
「じゃあ、紅茶で」
って、汐見湯の頃みたい。モネもそんな気になったみたいで、懐かしいねって笑いながらティーバッグをふたつ、マグカップにセットしてる。買ってきたケーキをおもたせに、女子トークの時間。あ、モネの右手の薬指の。莉子さんから聞いたやつ!
「その指輪。莉子さんからも聞いた。先生からの誕生日プレゼントだったんでしょ?」
マグカップをもつモネの右手を目ざとく指摘したら、恥ずかし嬉しそうにモネが頷く。もー、それだけでかわいいったら。
「そう。結婚指輪は注文してるんだけど、結婚式のことも決まってなくて、着けるのは先になるから…って」
「それでも、何か指輪をつけて欲しい、って、先生のモネ独占欲は相変わらずさすがよね」
「先生も、私にだけ指輪つけてって言うのもいいかなって迷った、とは言ってたよ」
「でも贈るんだもんね」
私の言葉に、モネはえへへって笑いながら、その先生のしょーがなさがかわいい、みたいな顔なんだもんなぁ。
「まぁ、何指輪だか我ながら分かんないんだけど、とは言いながらだったよ」
「確かに。もう結婚してるから婚約指輪でもないし、かといって、結婚指輪でもないもんね」
「うん。だから、どの指につけるのがいいかも結構議論したんだよね。サイズは結婚指輪と同じでくれたんだけど。で、結局左手薬指は空けとこうってことになって、右手に」
…議論…。こう、何指輪かわからないまでも指輪を贈っている・贈られているって言うシチュエーションで議論になりますかね。本当、このふたりは独特だわ…。
「まだ結婚式は決めてないの?」
「うん。夏に婚姻届は出したけど、まだまだお互いバタついてるのもあって。東京と気仙沼と、後、登米もどうしようかってなるし」
「そっか」
「すーちゃんは東京と気仙沼で披露宴やったもんね。気仙沼でもやってくれたから出られてよかった」
モネが心底嬉しそうにいってくれるのがうれしい。まだまだ大きな会はしづらい頃だったけど、その分こじんまりと本当にあいさつしたい人たちに出席してもらえたからよかったな、って思う。
「あの時は出てくれてありがと。うん、あの時は、お互い年寄りを長距離移動させるわけにいかなかったしね。ドレス2着着れたからよかった、ってことにしてる」
「気仙沼でのドレスも素敵だったし、写真見せてくれた東京のもとっても似合ってた。さすがすーちゃん」
「モネの時もぜひ任せてよ」
「うん、お願い!」
幼馴染で親友のドレス選びを約束できる日が来るなんて、感無量。
「先生はお仕事柄東京でお式しなきゃ、みたいなのないの?」
「うーん、なんか、東京でやるとなるとお仕事関係でお声がけしないといけない先が増えるから、そういう点が気乗りしないみたい」
「難しいんだねぇ」
「みたいねぇ」
モネがうーんって首を傾げてみせるのが面白い。モネにとって、菅波先生がお医者さんなのは、それ以上でも以下でもないんだろうけど、世間一般的に『大学病院のお医者様』っていえば、それなりになんかありそう、なんて思いそうなもんなのに。でも、それがこの二人のいいところよね。
「すーちゃんは今年のクリスマスはお仕事だったの?」
ショートケーキにフォークを入れながらのモネの質問に、私もイチゴをつつきながら答える。
「うん。今年から店長だからさ、さすがに休めなくて。でも、その代わり前々日にマモちゃんとホテルディナーしたんだ。マモちゃんが予約してくれたの。クリスマス頑張ってね、って」
実際、うちの店はカップルがデートで来ることも多いから、クリスマスはかなり忙しかった。マモちゃんもそれを分かってて、応援してくれてるのがありがたい。
「さすが内田さん」
「モネたちは?先生も新婚だからってお休みになったんでしょ?」
なかなかクリスマスや誕生日の当日に会えなかったふたりが、数年ぶりにクリスマスを過ごせるって話を聞いて、私も思わずときめいちゃったもんね。モネが東京に来たはず。菅波先生、どんなクリスマスにしたのかな。言っちゃなんだけど、こう、なんか行事ごとをスマートに出来なさそうなイメージが…。
「そう。クリスマスも年末年始も休みで、今まで家族持ちや新婚の人たちの勤務を肩代わりした利子がまとめて返ってきたみたいだ、って先生笑ってた」
「先生っぽいね。で、どこかに行ったの?」
私の言葉に、モネがさっきとはまた違ったニコニコになった。
「私がね、おうちクリスマスしたい、って言ったの。今まで、クリスマス前後に会う時はホテルでご飯とかだったから」
「そっか。うん、結婚した年だしね」
「うん」
どんなおうちクリスマスにしたの?って聞いたら、モネがスマホを取り出してこっちにみせる体勢になった。どれどれ?
「すごい、お部屋の中、めちゃくちゃクリスマスだね。え、これ先生が用意したの?」
「うん。なんか、外出先で見かけるたびに買っちゃった、って。おうちクリスマスするには家が殺風景すぎるって思ったみたい」
「それにしても、あれこれ買ってるね。先生もよっぽど楽しみだったんだ」
嬉しそうに頷くモネがかわいいったら。で、ついって写真をスクロールしたら、次は赤いクリスマスな帽子をかぶったサメのぬいぐるみたち。
「え、サメも?」
「うん。そのほうが楽しいだろうなーって私が用意していったの」
「モネが。先生じゃなくて」
「うん」
うーん。ほんと、こーいうとこ、モネと菅波先生のお似合いっぷりというかなんというか。二人だけがかみ合う歯車なのよねぇえ。で、肝心のツーショットはないの、ツーショットは?って…うわぁ…。
「え、何このお揃いのセーター」
なんかいい感じに二人してほろ酔いで撮ったっていう素敵なツーショットなんだけど、服、これ…。
「うん、すーちゃんが教えてくれたでしょ、アグリーセーター。探したらサメのがあったから」
「へ、へぇ…」
うん、教えたよ、教えたけど、ピンポイントでサメ柄探してきて、そんでペアルックかーい!
もう、どっから突っ込んでいいのか…。
いや、二人ともいい笑顔だしね、嬉しそうだしね、いいんだけどね。
「立体のサメが飛び出してるセーターもあったんだけど、洗濯しにくいなって思って」
って、悩むとこそこじゃないでしょ!
「先生はなんて言ってたの?」
「アグリーセーターは聞いたことがある、って」
それじゃないでしょー。まぁ、あの人はモネが用意したらなんだって着るんだろうけど。いや、うん、もうほんと、ね…。
「クリスマス当日に会えるのも6年ぶりだったし、おうちクリスマスでゆっくりできて、楽しかったんだ」
ってモネがほんとにうれしそうで、もうだから全部チャラ!
ずっと遠距離だった二人が、さらに二年半一度も会えなくて。やっと婚姻届け出して。それでもやっぱり遠距離で。そんな中で過ごせたクリスマスだもんね。うん、どれだけそれがトンチキでも、二人がハッピーだったら私にもそれが一番うれしい。
気仙沼を出る高速バスに乗るまであと1時間。まだまだ女子会おしゃべりしよ!