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    先生があたらしい遊戯を教えて、百音がいっしょに遊ぶお話その橋をみつけたのは散歩のたまたまだった。登米の菅波の元に百音が遊びに来て、行ったことないところに行ってみましょうか、と30分ほど適当に車を走らせた先で見つけた小さな森。散歩道が整備されているようで、せっかくだから行ってみよう、と車を停める。手を繋いで静かな森の中を行くと、落ち葉の季節のサクサクという二人の足音が心地いい。

    森の空気と繋いだ手の感触を楽しみながら無言で散歩道を歩く。秋の陽の午後、他に散歩道を歩く人はなく、秋の陽が二人をふんわりと包んでいる。しばらく進むと小川があり、散歩道のわりには立派な木造の橋が架かっていた。欄干もついていて、小川を上から覗き込むことができる。二人で橋の真ん中で欄干から覗き込むと、意外とたっぷりとした水量の小川がちゃぷちゃぷと音を立てていた。

    上流から落ち葉が数枚流れてきたのを見送った菅波が、ふと口を開いた。
    「永浦さん、『プー棒投げ』って知ってる?」
    「うぅん、知らないです。プーって、あのクマの?」
    「そう。クマのプーが考えた遊びで、橋で棒を落として遊ぶんです」
    どうやるんですか?と首をかしげる百音を見て、菅波は周囲から2本、小枝を拾い上げた。1本を百音に渡して、上流側の欄干に誘う。

    「せーの、で棒を同時に落とします。落としたら、下流側に行って、最初に棒が出てきた方の勝ち」
    フムフム、と菅波の説明を聞いて、百音はやってみましょう!と腕まくりである。腕を伸ばして、せーの、と棒をおとして、下流側に二人で数歩走る。見ていると棒が1本、またそのすぐあとに1本が流れてきた。

    「あれ、どっちのだろ…」
    菅波が首をかしげると、百音も分からない、と笑う。ちゃんと自分の枝の特徴分かってなきゃですね、と百音がうんうん、と頷いて、真剣に周囲を見渡した。その様子に相好を崩しながら、菅波は自分も『ちょうどいい枝』を探す。百音が、これにします!と葉っぱが一つついた枝を取り上げ、じゃあ僕はこれ、とまっすぐな枝を菅波が拾う。

    また上流側に二人で立って「せーの」で枝を落とす。トタトタと反対側に走ると、菅波の枝が先に現れて、遅れて百音の枝がくるくると回りながら流れてきた。
    「僕の勝ち、ですね」
    むむっと悔しそうな百音の表情が菅波にはかわいくてたまらない。
    「先生、もう一回!」

    指を立てる百音に、何回でも、と菅波が笑う。橋から少し外れたあたりまで枝の捜索範囲を広げて、枝をそれぞれ集める。百音が拾おうとした枝に菅波も手を伸ばしかけ、地面の上で手が触れ合って思わず二人で吹きだした。やっぱり、『いい枝』ってかぶるんですね、という百音に、そういうもんですね、と菅波も頷く。

    めいめい、納得いくだけ枝を集め、『プー棒投げ』に興じる。川の流れに大きな変化もなく、枝もそんなに大きさが変わるわけでもないのに、ほぼ同時の時もあれば、片方がとても速い時もあり、何が違うんだろう、と二人で首をひねる。じゃあ僕はもう少し岸よりから落としてみます、そしたら私は高めから、など、あれこれ言いながら、橋をいったりきたり覗き込んで、勝った!負けた!と他愛のない勝負を楽しむ。

    森の小川に、大人二人がせっせと枝を落としつづけて小一時間。気づけば橋の周りのめぼしい枝がなくなっている。これが最後!という勝負で、二人そろって下流を覗きこむと、百音の枝が先に出てきた。すぐ遅れて菅波の枝が出てきて、菅波が残念、と悔しがってみせると、百音が満面の笑みである。

    おどけて勝ち誇った様子に、菅波が百音の頬をむにむにと引っ張ると、百音がえへへと笑い、菅波の頬に手を伸ばして一緒にむにむにとする。むにむにが一段落したところで、百音が周囲を見渡す。

    「枝、ほとんどなくなっちゃいましたね」
    「ね」
    百音が菅波の手をするりとつないで、橋の向こうの散歩道に足を向ける。菅波も百音に並んで歩いた。

    「イギリスには『プー棒投げ』って橋がある森があるんですが、そこではみんなが『プー棒投げ』をするから橋の周りには枝がなくて。そこに行くまでに拾っていかなきゃいけないんですよ」
    菅波の話に、百音がナルホド、と頷く。二人で少し遊んだだけで、橋の周囲の枝はあらかたなくなった。本拠地とあらばさもありなん。
    「先生は行ったことあるんですか?」
    「ないですねぇ。ロンドンから距離もありますし、何かのついでに行く場所ではないから」
    「そっかー。いつか本場でやってみたいですね」

    百音のさりげない言葉に、そんな旅を百音が自分とすることを疑ってもいないことに菅波の心が温かいもので満たされる。そうですねぇ、ぜひ、と平静を装って菅波が言うと、楽しみ、と百音が笑う。その笑顔に、あぁ、と菅波の声が漏れて、ん?と百音が菅波を見上げた。

    「あなたと一緒に、また別の森にも行けるのかも、と思ったら、なんだかうれしくて」
    そういう菅波に、百音は頬を染めて、繋いでいる手にぎゅっと力を込めた。
    「いろんなところに先生と行けたらいいな」
    「ええ」
    「でも、最後に帰ってくるのは登米の森、かな」
    「最後に」

    若い百音にはまだその言葉に含みはないのだろう、と思いながら、復唱する菅波はそっと木々を振り仰ぐ。葉がほとんど落ちた木々は、また棒投げをしにおいで、ともいうように、風に枝を揺らしているのだった。
    ねじねじ Link Message Mute
    2023/01/18 19:03:59

    先生があたらしい遊戯を教えて、百音がいっしょに遊ぶお話

    #sgmn

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