終ワルBLカプまとめ※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・ちょいちょいオリジナル設定あります
・パロディっぽいのあります
・ハデポセ?多め(キャプションに詳細あります)
以上のことを踏まえて、それでも大丈夫という方は次ページへどうぞ(目次です)
お兄ちゃんハデス様×反抗期王様ポセイドン→次ページ
お兄ちゃんハデス様×反抗期ポセイドン バレンタインVer.→2ページ
弟に死に化粧を施すハデス様→3ページ
ファンタジーパロっぽいハデ始→4ページ
年に一度の会議が終わり、ポセイドンは早々に帰路に着こうと、会場から足早に去ろうとした。そんな時に限って、背後から呼び止められる。その声に聞き覚えが無かったら、そのまま無視して帰るつもりだった彼だが、生憎そうではなかった。少し気分を害しながらも、仕方なく振り返る。
「なんだ、ハデス」
「余程、帰りたいと見える。心配せずとも、すぐ終わる。少し確認したいことがあるだけだ」
書類の束を片手にハデスはポセイドンを手招きし、彼はそれに応じる。常からハデスに反抗しているポセイドンだが、仕事に対しては真面目な彼らしく、ハデスの話を真剣に聞いていた。
ふと、近くに桜でも咲いているのか、風に乗ってひらひらと花弁が舞い落ちて来て、ふわりとポセイドンの頭に乗った。なんとベタな展開だろうと苦笑しつつ、ハデスは兄らしく取ってやることにした。弟は体格が良いせいか、ハデスよりも少し背が高い。落ちた花弁の位置をよく見ようと、ハデスが一歩近付いた時だった。
「聞いているのか、ハデス」
「動くな」
反射的にぴたりと動きを止めるポセイドンの頭にハデスは手を伸ばし、花弁を摘んで見せた。ふと、目線を少し上げると、ポセイドンの端正な顔が間近にある。その光景を目の当たりにしながらハデスは至って冷静に、我が弟ながら美しい男だと、ある種の感心に似たものを感じていた。なんとはなしにその金髪を一房指に絡める。互いの視線が交わったと直感した途端、まるで見計らったようにポセイドンが挑発的な笑みを浮かべる。
「どうした。余が女にでも見えたか? 兄上殿」
皮肉の込められた呼び名に、ハデスも仕返しとばかりに同じく笑みを返す。
「さてな。もうよい、分かった。この件は彼奴に一任するか。下がれ」
言った瞬間、視界の端から何かが物凄い勢いを伴って突き出され、反射的にハデスは避ける。見ると、それはポセイドンがいつも持っている槍だった。鋭い眼光と共に繰り出された刺突はハデスの髪の毛一本すら奪うことはできなかった。
「誰に向かってそのような口を利いている」
先程まで凪いでいたポセイドンの瞳には、暗く重苦しい色が宿り、ハデスを睨んでいた。愛弟の容赦のない言動に、ハデスは無意識に口角が上がるのをどこか他人事のように感じていた。相変わらずの態度に、胸の内から喜びが湧き上がる。彼もまたバイデントを呼び出し、上着を脱ぎ捨てて構える。
「相変わらずのじゃじゃ馬め」
「ふん。口惜しいのなら、御してみよ」
互いに構え、強く地面を蹴ると、二柱の武器が激しく打ち合い、閃光と火花を散らすのだった。
夜も更けた頃にやって来たハデスは、まだ執務机で仕事をしている愛弟の姿を見て、笑みを零した。部屋に入るよう許可を下した海神は疲れた目を休ませる暇も無いのか、時折、眉間を押さえて目を閉じる程度で済ませている。次第に書類に向けている目が据わってきていた。
「まだ仕事をしているとは珍しい」
「用があるなら、手短にしろ」
顔も上げずにそう言い放つ弟に苦笑して、ハデスはポセイドンの真ん前に近付き、ちらりと書類を覗き見る。提出期限がまだまだ先の書類に手を付けていることに、彼はやはりと頷く。
「そんなに根を詰めなくとも良いだろう」
「ここに書類が積まれているのが許せん」
それは確かに分からなくもないと思いつつ、しかし、休憩は必要だとハデスは手に持っていた小さな箱を差し出す。水色の箱に青いリボンが飾られているそれからは、微かにチョコレートの甘い香りが漂ってくる。その香りに誘われるようにして、漸く顔を上げたポセイドンは、眉一つ動かさずに言った。
「何のつもりだ」
「なに。仕事に励んでいる愛弟に、褒美を与えてやろうと思ってな。珍しい物が手に入ったというのもあるが」
「甘味はあまり好かぬと知っているだろう」
案の定、すぐに興味を失う弟に、ハデスはこれ見よがしに箱を少しだけ引っ込めて呟く。
「ディオニソスが作った物なのだが、少々強い酒を含んでいるらしい。神でも一つ食べれば、酔いに足が取られる、と聞いた。試してみるか?」
いつも冷静沈着な彼にしては珍しく、好奇心のままという様子のハデスに、ポセイドンは深い溜息を零して「くだらぬ」と一蹴する。しかし、ここで簡単に引き下がるハデスではなかった。
「そうか。海の神をも怖気づかせるとは、いよいよこれは世にも珍しい菓子だな」
「………………何が言いたい」
喉の奥でくっくっと笑うハデスに、不快そうな表情を浮かべたポセイドンは仕事の手を止めて、睨みつける。書類から意識がこちらへ向いたことで、ハデスは気を良くしたが、表情には一切出さずに箱を軽く振ってみせる。
「我が弟は臆病者だったか、と」
「そう言われる筋合いは無い。口が過ぎるぞ」
「ならば、食してみるか?」
言いながらリボンを解き、箱を開けるハデス。ぱかっと軽い音をさせて開かれた箱の中には、ワインボトルの形をしたチョコレートが整列していた。チョコレートの香りが一層濃くなり、その中に混じって芳醇な酒の香りも立ち上ってくる。
ハデスはその中の一つを摘み、ポセイドンの顔の前へ持って行く。
「余が手ずから与えてやろう」
「要らぬ。自分で……」
「早くせぬか。溶けてしまうぞ」
言葉を途中で遮られたポセイドンは、更に眉間の皺を深くしたが、逡巡した後、不遜な態度を顕に手で受け取ろうとしたが、それよりも速くハデスが自らの口に含み、そのまま口付ける。
「んっ……はで……」
何か言おうとした口を塞ぎ、チョコレートを口の中で溶かしつつ、舌を絡めて弟に渡す。噛まないように器用に舌を操るハデスに対し、ポセイドンはいきなりのことに対応し切れず、遂に兄の舌を少し噛んでしまった。びくりとハデスの肩が動き、つい離れる。
「舌を噛むとは、ひどい弟だ」
「貴様が、いきなりしてきたからだろう」
チョコレートと酒が混ざった甘苦い風味に感想など出てくる余裕は無く、それどころか、ここまでしてやられてばかりのポセイドンは、ハデスから箱を奪い取り、立ち上がる。
「ふん。今度は余が貴様に与えてやる」
「ほう。しかし、歩けるか? ポセイドン。ここまで、歩いてみせよ」
言っているうちにハデスは部屋の一番奥に設えてあるベッドに移動し、ゆったりと座る。ポセイドンはこれ以上ない程の分かりやすい挑発に乗り、箱を持ったまま、一歩踏み出そうとした。が、ふらふらと足元は覚束なく、目眩に似たものを感じているのか、机に手を付いて支えとした。
「くっ……」
「疲労している時に酒を飲めば、酔いが回りやすくなる。菓子とて同じことだ。神をも酔わせる酒なら、尚のこと」
「手助けが必要か?」と笑むハデスに、ポセイドンは強情に「要らぬ」と答える。ふらふらと何とかベッドに辿り着いた彼は、少々乱雑に箱からチョコレートを一つ取って口に含み、ハデスに口付ける。彼なりに勝つつもりの勝負を挑んできたのだと分かったハデスは、その挑戦を喜んで受けることにした。
翌朝、市販の洋酒入りチョコレートと少しの嘘で、まさかあんな絶大な効果を生み出すとはと、ハデスは心中で驚くばかりだった。
弟が死んだ。人間に殺された。
突然のことに、ハデスは神であるにも関わらず、理解できたのはそれだけだった。神と人類による最終闘争。その最中、弟である海の神ポセイドンは死んだ。最期まで退くこと無く、膝を付くことも無く、武神らしい死に様だったと。
それが何だと言うのだ? 最期まで弟は弟らしくいただけのこと。当たり前のことだ。
「ハデス」
もうあの冷たさを孕んだ奥に、彼にしか分からぬ甘さのある声はもう、無い。風に靡く、少し癖のある金の髪を揺らすことも無い。凪いだ海を想起させる碧眼が、ハデスを見つめることも、開くことも無い。雄々しく、優美な四肢が槍を持ち、振られることも、無い。二度と。ただ、それだけのことだ。
ひたり、と掌から伝う無情な冷たさに、ハデスは何も、何も思わなかった。ただ二度と開かれることの無い瞳を想起し、目の前の弟の顔に映そうとするも、上手くいかない。
弟の死化粧を望んだのは、彼自身だった。棺桶に入れられた弟は顔だけ見れば、生前と変わらず、美しい造作をしている。笑い方が似ていると、幼い頃に言われたその顔。しかし、今のハデスの顔を鏡に映したとして、この顔が果たしてどれ程、弟を思い起こさせるのか、想像に容易かった。愛弟ポセイドンは死んだのだ。彼の代わりなど、何処にもいないというのに。
葬儀は粛々と進み、滞りなく終わった。花と共に砕け散っていったポセイドンを見ても、不思議と涙は流れなかった。半ば放心状態で冥界へ戻って来たハデスは、執務机に座っているだけだ。
ただ今は胸の内に燻る焔が、今にもハデスの身を焦がさんとして、燃え上がるのを彼は静かに感じていた。居てもたってもいられず、立ち上がり、ある場所へ向かう。冥界の最北端。この世界の終わり。
「お前を殺したのは、何だ。ポセイドン」
震える拳を押さえ付け、ハデスは天界へ続く門を潜った。
朕は美しいものが好きだ。一度、好ましいものを目にすると、近付いて眺めたり、触れたいと思う。大事に大事に手元に置いて愛でたくなってしまう。だから、その神を一目見た時、朕の胸の内に爪を立て、五指の甘い傷を残すように、その姿が強烈に焼き付いたのだった。欲しい、と思った。あの銀糸のような髪に触れることができたら、あの深く静かな暗闇を思い起こされる紫の双眸に見つめられたら、どんなに良いだろうと、神の姿を目にする度に考えないではいられなかった。
「だから、監禁したと?」
「監禁ではない。其方を客人として招いたまでのことだ」
そうは言ったが、牢の格子越しとは全く説得力の欠片も無いなと、自嘲にも似た笑みが浮かぶ。朕の誘いに冥府の王は意外にも快く了承し、宮殿へ足を運んでくれたのだが、朕は間近で見るこの神の美しさに心を奪われ、様々の呪符や護符を用いて捕えた。捕えることができてしまった。神に人間が作った呪具が果たして効くのだろうかと疑問に思っていたが、こうして捕えられたのだから、多少なりとも効果はあるようだ。
「そうか。これが貴様の客に対する態度という訳か」
「……冥府の王よ、気を悪くしないでくれ。朕はただ美しい其方をずっと傍に置いておきたいだけなのだ。赦せ」
朕が正直に言うと、それきり冥府の王は口を閉ざしてしまった。今の彼奴の身体には幾重もの呪符や護符、札が貼られており、牢の格子戸はもちろん、朕の顔が見える位置以外は全て札で塞がっている。色とりどりの札で飾られた神の姿は、さながら花で造られた精巧な人形のようだった。朕がそうさせたのだが、これでは監禁と言われても仕方のないこと。しかし、そうでもしないと彼奴はあっという間に冥府へ帰ってしまう。そう思うと、どうしても手放す気にはなれなかった。
月日が経つにつれて札でがんじがらめになった彼奴の姿を見ると、朕は何とも表現のしようが無い、痛ましい気持ちになった。その度、これは朕が命じてやらせたことなのだとまざまざと思い知り、良心が痛み、冥府の王に懺悔のような戯言を口にするようになっていた。
「赦せ、冥府の王よ。どうか赦して欲しい」
「……始皇帝。何故、毎日のように余に懺悔をする?」
それまで一切の沈黙を守っていた冥府の王が初めて口を開いた。それだけで不思議と朕は胸の辺りが少し楽になり、恥じ入りながらも理由を話して聞かせた。すると、冥府の王は可笑しくて堪らないとでも言うように高らかに哄笑した。
「愚かな者だな。余は初めから気付いていたぞ。お前は矛盾している。余の美しさに魅入られたのなら、何故縛る? 何故隠す? これでは余の美しさを全く殺しているようなものだ」
ばきっ、と格子戸の辺りで何か硬い物が砕ける音がし、勢い良く格子戸がこちらに向かって倒れた。蝶番が壊れたのだ。これは全くどういうことだろう。倒れた格子戸の向こうに、自由の身になった冥府の王が佇んでいた。こつり、こつりと革靴の音が厭に響いた。
「そも、神に人間が作った呪具が効く筈も無い」
王は朕のすぐ目の前で立ち止まって見下ろした。
「余は相手が貴様だったから囚われてやったまでだ。だのに、貴様ときたら、なんだ。毎日毎日泣き言を聞かされる身にもなってみよ」
頭が高い、不敬である。そんなことも忘れて久しぶりに見る王の姿に、やはりこの神は最上の美しさを誇っていると一種の感動を覚えていた。冥府の王は屈み込むと、片腕で朕を抱き込むように寄せる。
「今度は余が貴様を拐う番だ」
「冥府の夜は永い。心せよ」と耳元で呟く王の言葉が、何故か心に染み入る。ああ、そうか。朕は初めからただ美しいものを傍に置いておきたいのではなく――。
ぎゅっと王の身体を抱き締め、その胸に頬を寄せる。とくとくと脈打つ鼓動と肌を通して感ずる温かさに、涙が溢れた。そうだ。朕は初めから、この神に恋をしていただけだった。