或る弓兵の話 3※※ご注意※※
・オリジナルキャラとオリジナル設定の海
・キャラ崩壊
・夢ちゃんの扱いが酷い
・クジャさんがド外道
それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
「またお前かっ! ルカ!!」
「失礼します」と言って入って来たスタイナーに、ルカは何故か叱られている。まず一つ目は持ち場を離れたこと。これはルカにも分かる。本来なら彼女は兵士なのだから、いつなんどきも不測の事態に対処できるようにしなければならない。自分の持ち場を離れてしまったのは軽率だったなと反省した。しかし、二つ目の理由に彼女は納得していなかった。それはガーネット姫に余計なことを教えたと決め付けられたことだった。
「以前から気になっていたが、お前はどうにも軽率過ぎる! 姫様のような高貴なお方に庶民の所作を教えるなど、言語道断だっ!」
「スタイナー、それはわたくしがルカに教えてくださいと頼んだのです。彼女は何も悪くありません」
「いいんです、姫様。……スタイナー隊長の言う通り、私に軽率なところがあるのは、事実ですから」
半分は納得していなかったルカだが、もう半分はその通りだと思った為、少しだけ沈んだ表情で正直に言う。スタイナーは何を勘違いしたのか、満足そうにうんうんと頷いて聞いていたが、次の彼女の言葉にまた眉間に皺を寄せた。
「でも、姫様に私の所作をお教えすることについては、私は余計なことだとは思いません。ガーネット姫様だって、一人の人間です。ご自身が興味を持ったことに関して知りたいとお考えになるのは当たり前ではないでしょうか?」
「むう……。お前はまたそうやって屁理屈を……!」
内心で言いたいことは言ったと思ったルカだったが、スタイナーも一歩も引かなかった。
「知ったような口を利くな! そのようなことはお前が決めることではない!」
「スタイナー!」
スタイナーの態度が目に余ったのか、ガーネット姫が諫める。その声に直ぐさま跪いて応じたスタイナーだったが、姫の言葉に困った表情になった。
「一兵士と言えど、今の言葉はルカに対して失礼ではないですか?」
「は……。で、ですが、姫様――」
「スタイナー」
念押しのようにきっぱりとした口調で諫められ、スタイナーはしゅんと肩を落とす。アレクサンドリア城で唯一、男性のみで構成された部隊プルート隊隊長として彼は尊敬できる人物だが、如何せん堅物過ぎるきらいがあるのが玉に瑕だとルカは思っている。スタイナーは未だ納得いかないという顔をしながらも、ルカに向き直って「すまなかった」と謝る。その謝り方が厭に重い空気を醸し出していたので、ルカは却って恐縮した。そこでふと、目に入った時計を見ると、姫の部屋に招かれてから一時間は経っていることに気付いた。はっと自分の仕事を思い出して、ルカはガーネット姫に向き直り、敬礼する。
「も、申し訳ありません、姫様っ。私は業務に戻らねばなりませんので、これで失礼致しますっ」
非常に慌て出すルカにガーネット姫は「まぁ」と少し驚きつつも、彼女を送り出す。去り際に「またこのようなことを教えて下さいね」と言われたルカは、一瞬、スタイナーを気にしつつも「はいっ」と元気良く返事をして部屋を出て行った。
扉をしっかり閉めてルカは持ち場に戻る。と言っても、王女の間からすぐの女王の間の前なので、慌てる必要は無かったといえば、無かったのだが、万が一クジャが早く切り上げてこないとも限らない。その時に定位置にいないルカを見たら、彼は何と言うか、既に彼女には予想ができていた。慌てて隣に戻ってきたルカを見て、カミラが可笑しそうに笑む。それに軽く微笑み返してからルカは定位置に就いた。
それから何時間経ったのか、唐突に女王の間の扉が開き、クジャが戻ってきた。口元に微笑を湛えた彼はそのままの表情で一瞬、ルカの方へ振り向く。偶然、彼と目が合ったルカはやはり、その麗しい微笑みに微かに頬を染める。しかし、それも一瞬のことで不意に視線を逸らした彼は最後に部屋の中にいる女王へ恭しく一礼すると、扉をゆっくり閉じた。
「はあ~……行くよ」
「はい」
重く、深い溜め息を吐いてからクジャは賓客の間へ向かう。その後ろからカミラとルカも付いて行く。賓客の間までずっと無言だったクジャは部屋に帰るなり、すぐに入浴の準備をしろと命令してきた。機嫌が悪いようで一つ一つの所作が苛々と忙しない。カミラに付いて来るよう言われて、ルカは奥の間へ案内される。浴室に入り、浴槽にお湯を溜める。次に彼が使っている寝室のクローゼットから彼の服と下着を出してきて、脱衣所の決まった場所に丁寧に置いたところで、クジャから鋭い声が飛んで来た。
「遅いよ! いつまでやってるんだっ!」
彼の怒気を含んだ声を聞くと、カミラはさっと彼の許へ行って「申し訳ありません」と謝り、今、浴槽にお湯を溜めていると言った。それを聞くと、クジャは徐に立ち上がる。
「へぇ、そうかい。なら――」
そこで彼は何を思ったのか、カミラの頬を平手で叩き、その勢いで床に倒れた彼女の足をブーツの踵で踏みつける。痛みに悲痛な声を上げたカミラに気が付いたルカが慌てて二人の間に入った。
「なっ、何をしてるんですかっ!?」
「ルカ……! 来ちゃダメっ……!」
クジャの足を退かして、ルカはカミラを抱えて彼から引き離す。その行動が気に入らなかったのか、クジャは今度はルカの髪をむんずと掴んで吊し上げるように引っ張る。冷たく目を眇めた彼は痛がるルカに顔を寄せて言った。
「見て分からないかい? 僕に口答えをしたこの女を躾けてるんだよ。ついでにキミのことも躾けてあげようか? 犬みたいにね」
「い……いたい……っ。やめて、くださいっ」
「キミ達みたいに弱い者はすぐそうやって群れるんだ。一人じゃ何にもできないからね。代わりなんていくらでもいるのにいちいち騒いで、喚いて、見苦しいったら無いよ。見苦しいといえば、あの象女もそうだねぇ。あの女もキミ達も、所詮は取るに足らない駒でしかないのに。そんな心底どうでもいい存在のキミ達が、僕に……この僕に逆らう権利があると思っているのかい? 生意気だねぇっ!!」
出し抜けにクジャは彼女の髪を掴んでいる手を放して、右腕を足蹴にする。カミラにぶつかって倒れたルカは、彼女を庇おうとすぐに上体を起こして、尚もクジャとカミラの間に割って入った。
「っ……! いくらブラネ様のお客様といえど、許容できませんっ! これ以上、先輩に手を出すなら私も剣を抜きますよっ!」
「抜けばいいじゃないか。虫けら同然のキミに刃向かわれたって、僕は指先一つでその命を散らせることができるんだからねぇ」
『抜けばいい』と言われてしまってはルカも引っ込みが付かなくなってしまい、腰に提げている剣の柄に手を添えて抜こうかどうしようか逡巡する。その隙を突いて、クジャは指先に魔力を集めて爪弾いた。その途端、ルカの体を紫色の光が包み込み、それが消えると突如、彼女の体を異常な熱さと痛み、息苦しさが襲った。剣を抜き損ね、その場に膝を付くルカ。隣のカミラが「ルカッ!?」と悲鳴を上げる中、彼女は何とか立ち上がろうと顔を上げるも、呼吸ができない苦しみとじわじわと蝕む痛みと熱さに倒れそうになる体をカミラに支えられて、ルカは何とか意識を保っていた。
「クジャ様っ、この子に何を……!?」
「いちいち煩いねぇ。はぁ…………その子にバイオを掛けてやったのさ。生意気な新人にはこのくらいで丁度良いだろう?」
そこで屈んだクジャは、荒い呼吸のルカの顎を指で掴んで顔がよく見えるように上げる。熱と痛みに浮かされた彼女の目には涙が滲み、時折歯を食いしばって耐えている。その苦しそうな表情を眺めていたかと思うと、彼は不意に満足そうにサディスティックな笑みを浮かべて言った。
「へぇ? キミ、なかなかそそる顔をするじゃないか」
ばしっ、とカミラの手によってクジャの手は振り払われる。「この子に触らないで」と拒絶し、クジャを睨み付けた彼女は、そのままルカに肩を貸して部屋を出て行った。残されたクジャは暫くの間、彼女達が消えた扉を睨んでいたが、蛇口から出ている水音を認識するとそちらを一瞥し、また指先の魔法で止めた。