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    【K】セプ4で艦これパロ『砲首回頭! 撃ち方始め!! そこっ隊列乱すな! 道明寺!! てめぇのことだよ前出過ぎだっつってんだ聞こえねぇのか!? 日高! 大破したならとっとと下がれ!! パンいちでウロウロしてんじゃねぇよ! 楠原! 航空戦艦かばう必要なんかねぇだろ!! 紙装甲の駆逐艦が沈みたいのか!?』
    『おや、酷い言われようですね』
    『アンタは仕事しろ! 旗艦がなに傍観してんだ!? 艦載機飛ばしてはいお終いとかふざけんな!!』
    『弾幕張ります』

    「──えー……、以上が先の模擬戦の様子なワケだが、俺の言いたいことはわかるよなぁ?」
     ポチリ、とリモコンの停止ボタンを押し、ぐるり、着席している者を見回した伏見のこめかみには、紛うことなく青筋が浮かんでいる。
    「道明寺は反省文十枚提出。日高はその趣味の悪いトランクスをどうにかしろ。楠原はむやみやたらと庇うのをやめろ。駆逐艦はその機動性を活かす戦い方を考えろ」
    「えーッ!? なんで俺だけぇ!?」
    「ちょっ、趣味が悪いとかひどいっすよ!」
    「どの口がそれを言いやがる」
     ぎゃーぎゃー、と抗議の声を上げる二人の頬を、ガッ、と掴み、伏見が低く漏らしつつ口角を吊り上げれば、その不穏な笑みに道明寺と日高は、ひっ、と身を竦ませた。
     そんな二人と並んで録画映像を視聴していた楠原は、困ったように後ろ頭を掻きながら「善処します」と小さく答えた。
    「あのなぁ……確かに旗艦を沈められたら話にならねぇけどな、おまえだって戦艦クラスの一撃がどんだけデカイか知ってるだろ。現に今回の模擬戦で敵戦艦の一撃喰らってウチの戦艦は中破だ」
     そう言って伏見は、チラ、と最後列の席に着いている善条を見やり、「まぁ、ウチのは特殊だけどな」と小さく漏らす。隻腕の善条は通常時も小破状態の特殊艦だ。左腕に装備を積めないため火力はやや落ちるが、他の戦艦に後れを取ることはない。
    「今回、出撃しなかったヤツも他人事じゃねぇからな」
    「まぁまぁ、それくらいで良いではありませんか伏見君」
    「……俺が一番文句言いたいのはアンタだってわかってます?」
     半眼で睨め付けてくる伏見の絶対零度の視線を、さらり、と流し、宗像はゆうるりと立ち上がると、ぱん、とひとつ手を打ち鳴らした。
    「明日も模擬戦があります。参加メンバーは追って通達しますので、今日はゆっくり休んでください。では解散」
     その一言で、ガタガタ、と椅子を引く音が室内に響き、それぞれが隣り合った者と先の映像について何事か口にしながら退室していく。
    「秋山、弁財、加茂。おまえたちの模擬戦参加は決定してるからな」
    「明日の旗艦は淡島君ですからね、中破させないようお願いしますよ」
     退室しようとした三人を呼び止めた伏見に続いて宗像が口を開けば、表情こそ変わらなかったが三人は内心で「貧乏くじを引いた!」と悲鳴を上げた。
    「今日の編成が、宗像(航空戦艦)・善条(戦艦)・伏見(重巡洋艦)・道明寺(軽巡洋艦)・日高(駆逐艦)楠原(駆逐艦)だったから、明日は戦艦抜きで回避に重点を置いた編成でいくからな」
    「淡島(重巡洋艦)・秋山(軽巡洋艦)・弁財(軽巡洋艦)・加茂(軽巡洋艦)は決定ですから、あとは榎本(駆逐艦)・布施(駆逐艦)・五島(駆逐艦)から選ぶってところですか」
     やっぱり貧乏くじだ、と思いながら弁財が名前を挙げれば、加茂が「だが」と口を挟んでくる。
    「それではやはり火力に不安が残る。重巡ふたりは欲しいだろう」
    「そうは言っても塩津さんは新米艦の指導で忙しいし、無理じゃないか?」
     艦数は百近いが、その殆どを占めているのが軽巡洋艦と駆逐艦であるのが現状だ。即戦力となりうる古強者の名を口にして、秋山は緩く首を振った。
     頭を悩ます三人に「人選は任せますよ」と軽く言ってのけ、宗像はそのまま振り返ることなく部屋を後にしたのだった。


     待機部屋へと戻る前に装備修理のために入渠ドックにいる淡島の様子を見ておこうと、少々回り道をした宗像は即座にその行動を後悔した。先ほど一戦交えた相手が壁に凭れて、気怠く煙草を燻らせていたのだ。
    「ここは喫煙所ではありませんよ」
     通り過ぎ様に一瞥と共に言葉を投げれば、返されたのは「うるせぇな」と予想通りのもので、宗像は呆れたように軽く肩を竦める。そのまま何事もなく通り過ぎたかと思いきや、ぐい、と腕を後方に強く引かれ、突然のことに宗像は声も出なかった。
    「そんなに急いでどこ行くんだ」
    「貴方には関係ないでしょう」
     放しなさい、と少々乱暴に腕を振れば意外にもあっさりと解放され、宗像は肩透かしを食らった気分になる。
    「さっきの模擬戦……」
     咥え煙草のまま、ぼそり、と口にした周防に「なんですか」と静かに問えば、ふぅー、と緩く、だが、宗像の顔にかかるようわざと紫煙を吐き出した。
    「ぬるすぎて物足りねぇんだよ」
    「善条さんを中破させておいてよく言う」
     不快さを隠しもせず片眉を上げれば、周防は、くつり、と喉奥で低く笑う。
    「てめぇに一発喰らわせてやるつもりだったのにな」
     とんだ邪魔が入ったと、そう言う割にはどこか楽しげな周防を見据え、宗像は「それは残念でしたね」と涼しい顔で返す。
    「ですが貴方の戯れ言に付き合っていられるほど私は暇ではありません」
     失礼しますよ、とフレームを押し上げ踵を返せば、先と同様、腕を強く引かれ、宗像は怒りよりも呆れの勝った溜め息をついた。
    「まだなにか……」
    「言っただろ。『物足りねぇ』って」
     振り返れば予想以上に近い位置で周防の金色の瞳が煌めいており、それが捕食者の放つ煌めきであると気づいてしまった宗像は思わず息を飲む。
     その一瞬が宗像の退路を断った。
     有無を言わせぬ力で、ぐいぐい、と腕を引かれ、前のめりになった体勢を立て直すことも出来ぬまま、トイレの個室へと押し込められる。
    「すお……」
     非難を込めて名を口にするも、それは途中で相手の口中へと消えた。


    「なー、エノ。そんなに俺のパンツ趣味悪いか?」
    「そうだね。悪いね。あっ、僕のパソコンにヘンなブックマーク残さないでよ」
    「えー、なんでだよー。あの店のパンツ、超おすすめだぜ?」
     伏見に趣味が悪いと言われたのが余程ショックだったのか、解散してから延々とパンツについて言及してくる日高に、榎本は正直げんなりしていた。
     どうにかして違う話に持って行きたいと、苦し紛れに、つと、視線を逸らした先にいた人物に榎本は軽く目を見張った。
    「あれ? 室長と……」
     日高も気づいたのかなんとなく足を止め、どこか険悪な空気の二人を見やる。見られていることなど知らぬ二人は、二言三言、言葉を交わしたと思いきや、周防が引き摺るように宗像をトイレへ連れ込んだのだった。
    「今の……」
     なんかとんでもないものを見てしまった、と顔を強張らせている榎本の隣で、日高も動転しているのかとんでもないことを口にした。
    「燃料わけてもらうんじゃねぇの……?」
    「やめて日高やめて」
     なにも見てない、なにも聞いてない、と耳を塞いで顔を背けるも、榎本は、はっ、と何かに気づいたように日高を見上げる。
    「ど、どうしよう。清掃中の札、出しておいた方がいいのかな」
     なにも知らずに用を足しに来た者が悲惨な目に合うのではないかと危惧する榎本に、「既に俺達が悲惨な目に合っている」とはさすがに言えず、日高は「いっそ通路自体封鎖した方がいいんじゃねぇの」と目が遠い。
     周防はともかく宗像がこのことを知ったら、46cm三連装砲をぶっ放しかねない。せめて九一式徹甲弾にしてくれないか、などと見当違いなことを思った矢先、二人が籠もったトイレから、パーン、と小気味よい音が響いた。
     固唾を呑んで見守る中、肩を怒らせた宗像が大股に姿を現し、幸いなことに日高達の居る方とは逆へ歩き去った。心なし着衣が乱れていた気もするが、それは些末なことだと、二人は胸を撫で下ろす。
     やや間をおいて、ぬっ、と姿を見せた周防はいつも通り姿勢は良くないが、そんなことは問題ではなかった。
    「あれ、小破してない……?」
     ごくり、と喉を鳴らした榎本の言う通り、周防のゲージは確かに減っていた。
    「ビンタ一発で戦艦小破させるって、どんだけ威力あるんだよ室長のビンタは」
     俺達駆逐艦が喰らったら大破ないしは轟沈だろ、と青ざめ、日高と榎本は互いの肩を抱いて、ガクガク、と震えたのだった。

    ::::::::::

    2013.09.19
     演習から戻ってきた五島に日高が、お疲れ、と声をかければ、もー隊服ボロボロだよ、と煤に汚れた顔で苦笑された。
     普段露わになっている額は乱れた前髪で隠れており、共に戻ってきた加茂も出撃前はきっちりと結われていた髪が解け、額を隠している。
    「おー、なんか新鮮だなぁ」
     煩わしそうに髪を掻き上げる加茂を見た日高が感嘆の声を上げれば、無言で、じろり、と睨まれた。
    「んふふ、この仕草がセクシーだよね」
    「冗談でもそういうこと言うのはやめろ」
     嫌そうに五島を見やってから、はー、と深く息を吐けば動きに合わせて、はらはら、と髪が零れ落ち、加茂は苛立たしげに両手を使って、ぐい、と後ろへと流した。
    「今なら入渠ドック空いてるから行ってきた方がいいですよ。そろそろ警備任務にあたっている隊が戻ってきますし」
     約百名が所属しているが上の都合で入渠ドック増設が先延ばしになっており、タイミングを逃すと三時間、四時間待ちはザラであった。そのため入渠ドックは第二の戦場と秘かに呼ばれている。
     榎本の言葉に軽く頷いて入渠ドックへと足を向けた加茂と五島に並んで、何故か日高も共に移動する。
    「なに?」
     こてん、と首を傾げる五島に顔を寄せ、日高はやや潜めた声で「どうだった?」と問うた。
    「なにが?」
    「今日のお相手の空母だよ。おまえ結構近くまで寄ってただろ」
    「あー、うん。美人だったね」
     髪を耳に掛けながら応じれば、そうじゃなくて! と日高は無駄に力強く拳を固める。
    「あの空母もおっぱいでかかったよな」
     やや遅れてきた布施が、うりゃ、と組み付くように五島の肩に腕を回し話に加わった。
    「スカート短めだけど、なにがポイント高いって、白衣だよ。白衣。あの白衣がさり気なくパンチラ防止で、こうなんてーの? とにかくいいんだよ」
     見せすぎないのがイイ、とこちらも無駄に拳を固めて力説する布施に、五島は同意か相槌か、んふふ、と笑うにとどめた。
    「残念ながら戦艦に阻まれて着弾しなかったけどね」
    「すっげぇチート艦だよな。あの重装備で高速戦艦とかマジありえねぇし。駆逐艦の機動力に劣らないってどんだけ」
     先の模擬戦は厄介な艦載機を先に潰そうと大元を叩くつもりが、相手にはお見通しであったかことごとく戦艦に割り込まれ、その影から放たれた艦載機に爆撃されるという有様であった。
    「あれじゃね? ドイツの科学力は世界一ィィィ的な?」
    「どんなタービンとボイラー積んでるんだろうね」
     見学組であった日高と榎本がそれぞれ口を開いたその時、「あ、さっきのおでこちゃんたちだー」とどこか緩い声が前方から届いた。
    「こら、ヴァイスマン。失礼だろう」
     さすがに小突かれることはなかったが國常路の固い声音にヴァイスマンは首を竦め、ばつの悪い顔で目の前の駆逐艦たちに「ごめんねー」と軽く手を合わせる。
    「いえ、お気になさらず」
     おでこちゃんと呼ばれるのは非常に微妙なところではあるが、加茂はおくびにも出さず涼しい顔で受け流した。
    「礼儀知らずで申し訳ない。先の模擬戦、お見事でした」
     きっちりと、まるで分度器をあてたかのような角度で頭を下げ、賞賛の言葉を口にする國常路に一瞬、度肝を抜かれるも、直ぐさま気を取り直すや加茂も頭を下げ「こちらこそ大変勉強になりました」と言葉を返す。
    「もー、相変わらず堅苦しいなぁ中尉は。『おつかれさま』でいいじゃない」
     ねぇー? と同意を求めるようにヴァイスマンが日高に、にこり、と微笑みかければ、「そっそっスね!」とどこか上擦った声が返され、ヴァイスマンは、ほらぁ、といわんばかりに國常路に顔を向けた。
    「中尉がぼっこぼこにしちゃって姉さんが心配してたけど、大したことなさそうで良かったね」
    「あ、あぁ、そうだな」
     それまで険しい顔でヴァイスマンを見ていた國常路だが、不意に眉尻を下げ少々力無い声を漏らす。
    「良かったら今度、遊びにおいで。姉さんお手製のシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテをご馳走するよ」
     どこかしょげている風の國常路をよそにヴァイスマンは日高達に向かってにこやかにお誘いの言葉を投げると、強引に國常路の腕を取りそのまま廊下の向こうへ消えたのだった。
    「姉弟なのかぁ。男ってわかっててもちょっとドキッとしたぜ」
     姉と同じく白衣を身に纏ったヴァイスマンの笑顔を思い出し、日高は、はー、と胸を撫で下ろす。
    「戦艦は雰囲気からしてすごいね。そこにいるだけで気圧されるというか」
     日高とは違った意味で、はー、と胸を撫で下ろした榎本に、布施が「あれに突っ込んでいった俺達を褒めろ」と戯けたように胸を張った。
     國常路は話してみれば堅物ではあるが決して好戦的ではなく、先の鬼神の如き戦い振りが嘘のようだ。
    「あの戦艦、機関部が焼け付くんじゃないかってくらい必死になってたよ。よほどポロリさせたくなかったんだねぇ」
    「まぁ、気持ちはわからんでもないがな」
     模擬戦時を思い出したか加茂が相槌を打てば、榎本が軽く眉尻を提げて、そうですね、と力無く同意する。
    「淡島副長が中破したときは、その、なんというか、居たたまれなかったですし」
    「でも、世理ちゃんは普段から半ケツで飛び回ってるから、あんまありがたみねぇんだよなぁ」
     本人に聞かれたら罰走を言い渡されそうなことを口にする布施に、榎本だけが、あわわ、と慌てふためく。
    「そうそう。中破したときだけ恥じらわれても、こっちもどうしていいか困るっつーかなんつーか」
     腕を組んで尤もらしく、うんうん、と大きく頷く日高に、五島が、んふふ、と笑い、「ウチのお色気担当はある意味、日高だよねぇ」と言い放った。
    「前から不思議だったんだが、なんでおまえだけ中破、大破の二段階で隊服が全壊するんだ?」
    「そんなの俺が聞きたいですよ!? むしろなんでみんな大破でパンいちにならないのか不思議なくらいっす!」
     加茂の問いに噛みつくように反論し、こんな仕様いらねぇー! と天を仰いで嘆く日高の姿に、ははは、と苦笑していた布施だが、ふと、真顔になり顎に手を当てる。
    「なぁ、室長が中破したとこ、見たことあるか?」
     投げかけられた問いに全員が一斉に布施を見た。
    「室長の中破……?」
    「そう言われてみれば見たことねぇな」
     榎本と日高は顔を見合わせて頷き合い、五島は「小破もないかも」と緩く首を傾げる。
    「常に楠原か善条さんを連れているからだろう」
     悩むことなく、ずばり、その理由を口にした加茂に、あぁ、と駆逐艦達の口から納得の声が漏れた。
    「タケルはなぁ、ほんと、あっ、と思ったときにはもう飛び出してて、どかーん、だもんな」
     言葉に合わせて緩く握った掌を上に向けて、ぱっ、と開く日高に、「演習だからまだいいけどね」と榎本は心配顔を隠しもしない。
    「善条さんのことは心配しないわけじゃねぇけど、あの人なら大丈夫って思っちまうんだよなぁ」
    「大破一歩手前までいっちゃった時は塩津さんに、チクリ、となにか言われたみたいだけどね」
     布施が、だって強ぇし、と付け加えれば、五島が、んふふ、と笑って自分が見たことを口にする。
    「うーん、見てみたいなぁ。室長の中破」
     誰も見たことがないとなると、是が非でも知りたくなるのが人の性というもので。日高の率直な言葉にその場にいた全員が、こくり、と頷いたのだった。


    「おや、夜戦もですか……」
     演習内容に目を通した宗像が確認するように小さく声に出したそれに、日高は「これは天の采配か!」と内心で歓喜の声を上げた。昼間の戦闘では駆逐艦の火力で戦艦に大ダメージは望めないが、夜戦とくれば話は別だ。ただし、宗像が出撃するとは限らず、固唾を呑んで成り行きを見守る。
     提督から全幅の信頼を寄せられている……と言えば聞こえはいいが、要は丸投げをされている秘書艦である宗像はそれに不満を漏らすでもなく、むしろ嬉々として隊の指揮を執っている。
     すっかり宗像好みに模様替えされた提督の部屋は、畳に床の間だけでは飽き足らず檜風呂まで設えられ、彼は第二の戦場とは無縁であった。
     文机を前に正座をしている宗像の左手側では伏見が胡座をかいており、宗像の正面に座する他の隊員たちはそこまで神経が太くないため正座をしている。
    「燃料と弾薬をケチって滅多にやらないのに、一体どういう風の吹き回しなんだか」
     チッ、と面倒臭さからあからさまに舌打ちをする伏見を宗像は薄い笑みを浮かべたまま見やり、「夜戦でしたら駆逐艦メインに編成しますから、今回、伏見君はお休みですよ」と言い放った。
    「とはいえ、相手に戦艦が居ては夜戦に突入前に戦闘不能になる可能性も否めません」
     さてどうしたものか、と軽く顎に指をあて考え込む宗像に伏見は胡乱な目を向け、だるそうに口を開く。
    「旗艦は室長、他は加茂、弁財、五島、布施、日高でいいんじゃないですか」
    「私が旗艦ですか?」
    「たまには真面目に働いてください。ウチには戦艦がアンタと善条さんしか居ないんですから」
     人材不足も甚だしい、と伏見が隠すことなく唇を歪めるも、宗像は全く気にした様子もなく「少数精鋭ですよ、伏見君」と涼しい顔だ。
    「そういや、タケルと善条さんはどうしたんだ?」
     こそり、と日高が隣の榎本に問いかければ、聞かれた方もそのふたりが居ないことに今気づいたようで、ゆるり、と顔を巡らせてから「秋山さんと道明寺さん、副長も居ないね」と囁き返した。
    「その五人なら大事を取って休ませてる」
    「うぉ、聞かれてた!」
     思わぬ所から返された答えに日高が派手に驚けば、宗像の相手をしつつ隊員達に目を光らせていた伏見が盛大な舌打ちをする。
    「警備任務の際に手違いがあって、他司令部の艦隊と交戦になったんだ」
    「今朝は霧が濃かったですからね。発光信号も届きにくかったのでしょう」
    「あいつら、発光信号が理解できなかったんじゃないですか」
     はっ、と鼻で笑う伏見の様子から、あぁ相手は吠舞羅か、と榎本は内心でごちる。好戦的な者が多く、中破、大破も気にせず突っ込んでいくため、あちらの司令部は資材が常にカツカツだと漏れ聞こえてくるほどだ。
    「正式な抗議文書は送りましたが、そうですね。直接ガツンとやるのもよいかもしれませんね」
     涼やかな笑みとは裏腹に発せられた内容は大層物騒な物で、表面上の変化はないが宗像は想像以上にご立腹であったと知る。
    「室長がやる気を出したところで解散。演習はヒトハチサンマル開始だ。遅れるなよ」
     出入り口に近い者から順次退室していく姿を横目に、日高は「あの……」と彼にしては珍しく遠慮がちに声を上げた。
    「タケルたち、大丈夫なんですか」
     宗像に直接聞くのは躊躇われたか伏見に顔を向けている日高同様、気になっていたか榎本、布施、五島もその場に残り問いの答えを待つ。
    「あぁ、砲塔に傷ひとつついちゃいねぇよ」
     伏見のぶっきらぼうな返答にも関わらず日高達は、ほっ、と安心した顔を見せた。
    「善条さん以外は、ですが」
     だが、付け足された宗像の言葉に一瞬にして場の空気が変わる。物言いたげに半眼を向けてくる伏見に宗像は薄い笑みを返し「情報は正確に伝えなければいけませんよ」と平坦な声音で告げた。
    「こちらからの砲撃は一切するなと、皆を下がらせて盾になったそうです。そのおかげでこちらは優位に立てました」
     さっき言ってた抗議文のことだな、と小声で五島に囁いている布施自身もだが、聞いている五島もどこか困ったような中途半端な顔をしている。
    「使えるモンは使うアンタらしいですが、嘘でも心配してる素振りくらい見せたらどうです? 一応部下なんですし」
    「おや心外ですね。感謝と共にとても心配していますよ」
     常と変わらぬ薄い笑みと共に寄越された言葉に伏見は胡乱な眼差しを向けた後、チッ、と舌打ちと共に顔をそらした。
    「警備任務に戦艦使うとか、ありえねぇし……」
     こうなることを見越していたのではないかと勘ぐっている伏見の思考などお見通しであるのか、宗像は「演習だけでは折角の腕が錆び付いてしまうからと、善条さんに無理を言っただけですよ」とあくまでも偶然であると言い切ったのだった。


     海原を赤く染める夕陽を見つめる日高達の目はどこか遠い。
    「世理ちゃんは鬼か……」
    「んふふ、負けなければいいんだし、大丈夫でしょ」
     布施の嘆きに五島が慰めか本気かわからぬ言葉を返し、榎本は今回も見学組とはいえ出撃前の淡島の言葉を脳内で反芻してしまったか微妙に青ざめている。
    『負けたら「通商破壊作戦」に行ってもらいます』
     これが淡島の激励の言葉であった。
    「今朝のことが相当腹に据えかねてんのはわかるけど、40時間とか冗談じゃねぇよ……」
     遠征任務は15分程度で完了するものから、80時間もの長きに渡る物まで様々だ。当然、時間の掛かる任務は骨の折れる物が多く過酷である。
     演習相手が吠舞羅だと知った途端、淡島は般若に変わった。表情はいつも通りの凛々しいものであったが、日高達は確かに淡島の背後に般若を見たのだった。
    「でも、ほら、室長の中破が見られるかもしれないし、仮に負けても悪いことばかりじゃないんじゃないかなぁ」
     んふふ、と相変わらずなにを考えているかわからない五島に頷きかけるも、日高は「いやいやいや! 室長の中破を見つつ勝負にも勝つ!!」と無駄に前向きだ。日高につられたか布施達もどうにか気力を奮い立たせたところで、そんな彼らを黙って見ていた弁財が軽く手を上げ「準備整いました」と宗像に告げる。
    「……室長の中破は確かに気になるが、遠征はごめんだ」
     ぼそり、と漏らされた弁財の言葉に、あぁやっぱり気になるよなぁ、と加茂は内心で大きく頷くに留めた。
    「では行きますよ。『我らが大儀に曇りなし』」
     宗像の宣誓を合図に戦いの火ぶたは切って落とされた。
     いざ戦闘が始まれば余計なことを考える余裕もなく、ただひたすらに飛び交う弾を避け、照準を合わせ、敵を狙い撃つ。
     海面に着弾し派手に上がる水飛沫に伏見ではないが舌打ちをし、日高は再度狙いを定める。その間にも敵の砲撃は当然のことながら止むことはなく、回避行動を余儀なくされなかなか決め手が撃てないでいる。
    「焦るな! 陽が落ちてからが本番だ!!」
     側面から飛んできた弁財の言葉に日高だけではなく、他の駆逐艦も、はっ、となった。そうだ今日は夜戦ありだ、と気持ちを落ち着けつつ表情を引き締める。
     だが、相手にも駆逐艦がいる以上、夜戦になったところでこちらが一方的に有利になるわけではない。
    「相手の編成は空母1、重巡1、軽巡1、駆逐3だ。空母は室長に任せて他を叩くぞ」
     一隻でもいいから減らせ、と弁財が言い終わるか終わらないかの時点で加茂は既に飛び出しており、援護射撃をしながら布施と五島がそれに続く。
    「室長も航空戦艦のくせに高速艦とか、とんだチートだよな」
    「そうだねぇ」
     規格外ばかりだよね、と呑気に笑いながら加茂が一撃を食らわせた相手にトドメをさし、五島は直ぐさま反転するや別の艦に狙いを定める。
    「MVPとったら新しい装備欲しいなぁ」
     んふふ、と緩く笑って放たれた弾は惜しくも艦体を掠めただけで、ダメージを与えることは出来なかった。
    「ざーんねん」
     高く上がった水柱に、あーあ、と眉尻を下げ、それを横目に隊列を組み直すべく移動する。
    「さぁて、お待ちかねの夜戦だ!」
    「てっめぇ、なにやられてんだ! 沈めんぞ!?」
     腕まくりせんばかりに意気込んでいる日高に負けないくらいの声が相手方から聞こえてきたが、それは先ほど五島にトドメを刺された板東に対する八田の怒声であった。
     大破した板東に思い切り拳骨を振り下ろす八田を窘めたと思しき鎌本が容赦のない蹴りを食らい「砲塔逝っちゃうからマジ蹴りすんのやめてくださいよー!」と悲鳴が上がった。
    「あそこに一発ぶち込んでいいっスかねぇ」
    「無駄弾撃つのはやめろ」
     折角入れた気合いが削がれ、どこか疲れたように前方を指さす日高に、加茂が同様に疲れた声で制止をかける。
    「おまえらジャレとらんと、真面目にドンパチせぇや!」
     夜戦ではそこに居ることしかできない空母が声を張ったのが合図になったか、瞬時に場の空気が変わった。
     夜目が利く方とはいえ昼間のように全てが見えるわけではない。同士討ちをせぬよう、また味方同士の接触事故を起こさないためにも、派手な回避行動で隊列を崩すわけにはいかない。
     辛くも直撃は避けているがいつまで保つかと思った矢先、相手空母の放った艦載機にじわじわと削られていた宗像に運悪く一発が命中した。
    「室長に着弾! 被害の程は不明!! 弾幕張れ! 全艦、ってぇー!!」
     もうもうと上がる煙に遮られ宗像の様子は窺えない。これを好機と攻められるよりも早く弁財が指示を飛ばし、間髪入れずに一斉射撃を開始する。
    「いい判断です。弁財君」
     黒煙の中から姿を見せた宗像はダメージなど一切負っていないかのような涼しげな声音であったが、よくよく見ればその顔にはあるべき物がなかった。
    「やれやれ、これではよく見えませんね」
     眉間に皺を寄せつつも砲身の角度を調整し、躊躇うことなく放たれた46cm三連装砲はまるで吸い込まれるかのように重巡洋艦を一撃で大破させたのだった。


     宗像が被弾したがどうにか勝利を収めた日高達は40時間の遠征から逃れられ、ほっ、と胸を撫で下ろすも、日高は「あれは納得がいかねぇー!」と待機部屋でごろごろと転げ回る。
    「狭いんだから危ないよ」
     二人一部屋の待機部屋に今は六人も居る。言わずと知れた宗像を除く先の演習組と榎本だ。二段ベッドの下段におさまっている榎本が部屋の主の日高を止めようとするも、「気持ちはわかる」と上段から布施にしみじみと言われてしまっては、はは、と苦笑するしかない。
    「でも室長の中破が見られたことには変わりないんだし、いいじゃない」
     布施の隣で、んふふ、と笑う同室者の五島を見上げ、日高は「でもよぉ」と不満顔だ。
     そう。先の演習で宗像はあの一発で中破したのだ。
    「あれが中破って詐欺だろー!」
     うわぁぁぁ、と再び、ごろんごろん、と転がりだした日高を、書き物机におさめられていた椅子に腰掛けた加茂が無造作に足で止める。
    「確かにな」
     演習後にまじまじと見た宗像の姿を思い出し、加茂も、むむ、と眉間に皺を寄せた。
     煤汚れもなく髪も乱れていない。唯一の変化と言えば眼鏡が吹っ飛んだくらいだ。
     否、もう一カ所あるにはあった。
    「眼鏡はなくすし隊服は破れるし。いや参りました」
     その発言で、え? どこ? どこが破れたって!? と全員が目をこらせば、掌で覆えば隠れてしまう程度の穴が脇腹の辺りに、慎ましやかに開いていたのだった。
    「あれだけかよ!? なんだあの鉄壁のガード! 中破で上半身ほぼ露出の俺に謝れ!!」
     うわぁぁぁぁぁ! と更に転がるスピードを上げた日高を、加茂の向かいで同じように椅子に座った弁財がやはり足で踏みつけるようにして止めた。
    「なんていうか、日高イキロ」
     慰めの言葉が見つからなかったか、明後日の方向を見ながら弁財はただ一言で終わらせたのだった。

    ::::::::::

    2013.10.20
    「重大なことに気づいた」
     代わり映えしない食堂のメニューをつつきながら不意に深刻な声を出した日高を、向かいに座った榎本が首を傾げて見やる。
    「なに? ネギ大盛りにし忘れたこと?」
    「そうじゃねぇよ。いや、確かに忘れたけどそうじゃなくて!」
     いつもならば蕎麦が見えないくらい、こんもり、とネギが盛られているが、今日は榎本の指摘通り日高の前にあるのは普通のかけそばだ。
    「メシのことじゃねぇってんなら、なんだよ?」
     なるとやるから元気出せ、と自分のラーメンの器からなるとを移し替えながら布施が問い、その向かいからは「じゃあ僕はトマトあげる~」と五島がサラダの皿から摘み上げたトマトを蕎麦の上に落とそうと手を伸ばしたが、それは辛くも寸前で阻止された。
    「なにに気づいたんです?」
     このままでは話が進まないと思ったか、布施とは反対側の日高の隣に腰を下ろしていた楠原が改めて問えば、日高は、ぐるり、全員の顔を見回してから「いいか、心して聞けよ?」と告げた後、たっぷりの間をもってから真剣な面持ちで口を開いた。
    「セプター4には空母が居ない」
     それを聞いた四人は即座に言葉が出てこない。今更と言えば今更な事柄ではあるが、改めて考えれば確かに不思議なことではあった。
    「でも空母は懐に入られたら弱いし……」
    「そのために護衛艦がつくんだろうが。この間の戦艦みたいに」
    「まぁ、普通は駆逐艦とか足回りの早いのがつくんだけどね」
    「あれはチート艦だったからアリだろ」
     榎本の一言に日高、五島、布施が畳み掛けるように続き、楠原は若干出遅れた感があるも、じゃあ、と口を開いた。
    「その辺り、誰かに聞いてみたらいいんじゃないですか? 昔からそうなのかって。昔から居ないならそういう体制なんだなー、で済む話でしょう?」
    「それはそうだけどよぉ……」
     もご、とどこか歯切れの悪い布施の物言いに、榎本はなにかピンときたか、あぁ、と小さく頷いてから困ったように笑う。
    「吠舞羅にいてウチにいないから、ちょっと負けた気になってるんでしょ、布施は」
    「そっ、そんなこと、ねーし……」
    「意外と気にしぃだよね」
     んふふ、と笑う五島に「だからちげーって言ってんだろ!」と箸を握り締めて叫ぶ布施をよそに、意外にも日高はひとり思案顔だ。
    「聞くこと自体はいいとして、誰に聞けばいいんだ? 旧体制の頃から居る人とは俺らほとんど面識ねぇぞ」
    「そもそも話しをしようにも物資運搬とか遠征任務が主で、僕たちと顔を合わせることが稀だしね」
     時折、報告書を持って提督室を訪れる塩津とそれに随伴する湊兄弟の姿を見かけるくらいで、直接言葉を交わしたことはない。
    「秋山さんたちなら俺らよりも接する機会は多いだろうけど、やっぱ親しいってわけじゃないだろうし、それで口利いて貰うのもアレだよなぁ」
     話に夢中で気がつけば伸びかけていたラーメンに箸をつけながら、うーん、と難しい声を出す布施の言葉を受けて、いつの間にか食器を空にしていた五島が「伏見さんと副長にはもっと頼みにくいよねぇ」と困ったように漏らした。
    「善条さんに聞けばいいじゃないですか」
     悩む四人を不思議そうに見ていた楠原が、こてん、と首を傾げながら提案すれば、どういうわけか四人は途端に気まずい顔になり、各々、目線を僅かに下げる。なにか不味いことを言っただろうか、とひとり焦る楠原に気づいたか、日高は「お前が悪いワケじゃねーよ」と自分より低い位置にある黒髪を、ぐしゃぐしゃ、と掻き回した。
    「まぁそのなんだ。あんま昔のことには触れて欲しくないんじゃないかって思ってよ。腕のこともあるし」
     実戦から離れ善条がつい最近まで隠遁していたことを考えれば、そうおいそれと触れていいことではないとの察しはつく。
    「あ、そうだ! 名簿、隊員名簿を見ればいいんじゃないかな!!」
     しゅん、と項垂れてしまった楠原の姿に、これではいけない、と懸命に頭を働かせた榎本は、ぱっ、と閃いたことを即座に音にした。
    「お、でかしたエノ! それでいこう!!」
    「……資料室の管理責任者、善条さんですよね」
     善は急げと言わんばかりに立ち上がった日高の動きを止めるには、充分過ぎる楠原の一言であった。
    「空母で思い出したけど」
     止まってしまった時を動かしたのは五島の緩い声だ。
    「先の海域には夜戦でも艦載機飛ばしてくる敵空母が出るって、ちょっと噂になってるよ」
    「げ、なんだそれ!? シャレになんねーよ!」
     反射的に声を上げた日高に苦笑しつつ、榎本が眼鏡のブリッジを押し上げる。
    「斥候部隊が持ち帰った情報全てが僕たちに開示されるわけじゃないからね」
    「そもそも敵の正体もよくわかってねぇもんなぁ」
    『ストレイン』との総称が便宜上つけられているが、侵攻の目的は全く不明である。
    「交戦記録とか、ないのかな。文書とか、映像とか……」
    「ありますよ」
     楠原のふとした疑問に思わぬ人物から答えが返ってきた。思わず、ガタッ、と椅子を鳴らしてしまった日高をにこやかにやり過ごし、宗像はトレイを手にしたまま五人の顔を順に見やる。
    「ですが、最高機密に属する物ですので、閲覧許可は簡単にはおりませんよ」
    「じゃあ一生見られないってことですか」
     臆することなく問いかけてきた楠原に目を細め、ふふ、と柔く笑んだ宗像に驚いたか、五人は反射的に背筋をピンと伸ばした。
    「今はその時ではないというだけです。機が熟せばイヤでも見せてあげますから安心してください」
     宗像の面に浮かんでいる薄い笑みはいつも通りであるが、その声音には臓腑を冷えさせるなにかが確かにあり、日高達は無意識に背筋を震わせた。
    「そろそろ休憩時間も終わりますよ。私は構いませんが淡島君は厳しいですからね」
    「うわ、やっべぇ! では室長、失礼します!!」
     物の三秒で器の中身を掻き込み、トレイ片手にバタバタと駆けていく部下の背中をのんびり見送ってから、さて、と宗像も止めていた足を目的地へと向けたのだった。


     カーテンの引かれた薄暗い資料室で、モニタに映し出されてる映像を見つめる男の顔は常にも増して険しい。
    「何度見てもぞくりとする映像です」
     食事を終えた器を脇へ寄せた宗像とは対照的に、善条は全く箸を付けていない。
     後方に控えていた部隊が録画したそれには、爆発を幾度も繰り返す艦とその艦に真っ直ぐに突き進む艦の姿が二隻映っていた。最大望遠のそれは画像も荒く、現場の混乱も相まってか画面の揺れも酷い有様だ。
     一際大きな爆発音が上がり、救援に駆けつけた一隻がそれに巻き込まれる。僅かに遅れたもう一隻は爆発の煽りを喰らい均衡を崩した。
    「……あぁ、この時ですか」
     顔色ひとつ変えることなく淡々と言葉を押し出す宗像の隣で、善条は中身のない袖をきつく握り締めている。
    「覚えていますか善条さん」
     柔い声音とは裏腹に画面を見つめる宗像の眼差しは鋭い。
    「『ストレイン』の正体は戦闘で轟沈した艦なのではないかとお話ししたことを」
     沈黙を肯定と受け取り宗像は話を続ける。
    「仮に彼が、羽張迅が目の前に現れた時、貴方はどうしますか」
     波間に沈む二隻を、じっ、と凝視したまま、善条はカサカサに乾ききった唇を開いた。
    「討ちます」
     毛の先ほどの躊躇もなく言い放たれた言葉に、宗像は瞠目することなく、ふふ、と小さく笑みを漏らす。
    「それを聞いて安心しました。やはり恐ろしい人ですね貴方は」
    「わざわざその話を蒸し返すためにいらしたのですか」
     低く、呻くように言葉を押し出す善条は、ぎらり、と獰猛な眼差しを宗像に向けるも、それは瞬きひとつの間もなかった。一瞬にして全てを飲み込んだ男に賞賛を胸中で送り、宗像は先の問いに、ゆるり、と頭を振った。
    「いえ、食堂で日高君達が空母の話をしていたので、ふと思い出しただけです。セプター4唯一の正規空母のことをね」
     先の二隻に続いて沈みつつある艦の姿は、不意にカメラが上下左右問わず無秩序に大きく揺れたことによりフレームアウトし、撮影者と思しき艦の「善条ッ!」との叫びを最後に、ぶつり、と唐突に途切れた。
    「続きはまた今度にします」
     長居をしてしまいました、とトレイを手に立ち上がった宗像を見ることなく、善条はカーテンの隙間から差し込む光に踊る細かな埃を、まるで誰かの代わりであるかのように睨み据えている。
    「そうそう、明日の演習は楠原君たち駆逐艦を率いていただきます」
     よろしくお願いします、と言い置いて宗像は振り返ることなく資料室を後にし、残された善条は唇を引き結び目元を掌で覆ったのだった。


    「あー空母、やっぱウチにも空母欲しくね?」
    「まだ考えてたんだソレ」
     夕飯のカツ丼を掻き込んでいた布施が不意に箸を止めたかと思えば漏らされたのがソレで、榎本は既に終わった話題だと思っていたせいでどこか呆れたような口調になってしまった。
    「欲しいつったって、適性ってもんがあるし無理だろ」
    「そうだねぇ、まずはあの室長のお眼鏡にかなわないと入隊すら無理だしねぇ」
     生姜焼き定食をやっつけながら会話に加わる日高と、牛丼についていた生卵をトレイの上で、くるくる、回しながら、んふふ、と笑う五島に、布施は「それはわかってるけど、欲しいモンは欲しいだろ」と唇を尖らせる。
    「空母かぁ……伏見さんは欲しいですか?」
     カレースプーンを咥えて、うーん、と何気なく視線を横へと流した楠原は、丁度通りかかった伏見が目に入り、思わず問いの言葉を投げてしまった。
    「は? いきなりなんだ」
     コーヒーしか載っていないトレイ片手に片眉を跳ね上げた伏見だが、律儀にも足を止めてくれた所を見ると答える気はあるらしい。
    「ウチには空母が居ないって話をしててですね……」
    「ンなモンいらねーだろ」
     最後まで聞かずに、ばっさり、と斬り捨てる伏見に、デスヨネー……、と日高は隠すことなく苦笑いをする。
    「えー!? 居た方が良くないですか?」
     それでもめげずに布施が食い下がれば、チッ、とお約束の舌打ちを返され、榎本が、びゃっ! と肩を跳ねさせる。
     五人の視線を一身に受け、伏見は心底嫌そうに唇を奇妙な形に歪めるや、渋々と言った体で口を開いた。
    「室長が居りゃ充分だろ。あの人、その気になれば流星だろうが烈風だろうがなんでも積めるんだからな」
     クソチートが、と吐き捨て、最後に盛大な舌打ちを披露してから伏見は「くだらねーこと言ってねぇで飯食ったらとっとと寝ろ。明日は早朝から演習だろうがお前ら」と特大の釘を刺し、足早に食堂を出て行ったのだった。
    「伏見さんはアレ、徹夜コースかな」
    「演習とか遠征のデータ全部まとめてるんだっけ? 大変だよなぁ」
     ようやっと、ぱかり、と卵を割った五島の言葉に布施が相槌を打つ。
    「俺、室長は装備換装で潜水も可能って言われても驚かねぇかも」
     日高が漬け物を、ぼりぼり、と食みながら大真面目に呟けば、全員、一瞬ではあったが動きを止め、誰からともなく、はは……、と力無い笑いが漏れた。
    「否定しきれないのがこわいよ僕は」
    「んふふ、そうだとしたらほんとに規格外ばかりだね」
    「俺らフツーの駆逐艦とは次元が違うってか」
    「潜水タイプになったら室長はどんな水着着るんでしょうね。あっ、水着で中破したら大変なことになっちゃうんじゃ!?」
    「いやタケル、問題はそこじゃねぇからな」
     キレのない日高のツッコミに楠原は、なにかおかしなことを言ったかな? と言わんばかりの不思議顔で、こてん、と首を傾げたのだった。

    ::::::::::

    2013.11.03
    茶田智吉 Link Message Mute
    2018/08/27 0:24:06

    【K】セプ4で艦これパロ

    #K #善条剛毅 #楠原剛 #宗像礼司 #腐向け ##K
    1ページ目に尊礼要素があるので苦手な方は回避でよろ。
    宗像(航空戦艦)・淡島(重巡洋艦)・伏見(重巡洋艦)・秋山(軽巡洋艦)・弁財(軽巡洋艦)・加茂(軽巡洋艦)・道明寺(軽巡洋艦)・榎本(駆逐艦)・布施(駆逐艦)・五島(駆逐艦)・日高(駆逐艦)・楠原(駆逐艦)・善条(戦艦)でお送りします。
    (約1万6千字)

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