【K】セプ4で艦これパロ『砲首回頭! 撃ち方始め!! そこっ隊列乱すな! 道明寺!! てめぇのことだよ前出過ぎだっつってんだ聞こえねぇのか!? 日高! 大破したならとっとと下がれ!! パンいちでウロウロしてんじゃねぇよ! 楠原! 航空戦艦かばう必要なんかねぇだろ!! 紙装甲の駆逐艦が沈みたいのか!?』
『おや、酷い言われようですね』
『アンタは仕事しろ! 旗艦がなに傍観してんだ!? 艦載機飛ばしてはいお終いとかふざけんな!!』
『弾幕張ります』
「──えー……、以上が先の模擬戦の様子なワケだが、俺の言いたいことはわかるよなぁ?」
ポチリ、とリモコンの停止ボタンを押し、ぐるり、着席している者を見回した伏見のこめかみには、紛うことなく青筋が浮かんでいる。
「道明寺は反省文十枚提出。日高はその趣味の悪いトランクスをどうにかしろ。楠原はむやみやたらと庇うのをやめろ。駆逐艦はその機動性を活かす戦い方を考えろ」
「えーッ!? なんで俺だけぇ!?」
「ちょっ、趣味が悪いとかひどいっすよ!」
「どの口がそれを言いやがる」
ぎゃーぎゃー、と抗議の声を上げる二人の頬を、ガッ、と掴み、伏見が低く漏らしつつ口角を吊り上げれば、その不穏な笑みに道明寺と日高は、ひっ、と身を竦ませた。
そんな二人と並んで録画映像を視聴していた楠原は、困ったように後ろ頭を掻きながら「善処します」と小さく答えた。
「あのなぁ……確かに旗艦を沈められたら話にならねぇけどな、おまえだって戦艦クラスの一撃がどんだけデカイか知ってるだろ。現に今回の模擬戦で敵戦艦の一撃喰らってウチの戦艦は中破だ」
そう言って伏見は、チラ、と最後列の席に着いている善条を見やり、「まぁ、ウチのは特殊だけどな」と小さく漏らす。隻腕の善条は通常時も小破状態の特殊艦だ。左腕に装備を積めないため火力はやや落ちるが、他の戦艦に後れを取ることはない。
「今回、出撃しなかったヤツも他人事じゃねぇからな」
「まぁまぁ、それくらいで良いではありませんか伏見君」
「……俺が一番文句言いたいのはアンタだってわかってます?」
半眼で睨め付けてくる伏見の絶対零度の視線を、さらり、と流し、宗像はゆうるりと立ち上がると、ぱん、とひとつ手を打ち鳴らした。
「明日も模擬戦があります。参加メンバーは追って通達しますので、今日はゆっくり休んでください。では解散」
その一言で、ガタガタ、と椅子を引く音が室内に響き、それぞれが隣り合った者と先の映像について何事か口にしながら退室していく。
「秋山、弁財、加茂。おまえたちの模擬戦参加は決定してるからな」
「明日の旗艦は淡島君ですからね、中破させないようお願いしますよ」
退室しようとした三人を呼び止めた伏見に続いて宗像が口を開けば、表情こそ変わらなかったが三人は内心で「貧乏くじを引いた!」と悲鳴を上げた。
「今日の編成が、宗像(航空戦艦)・善条(戦艦)・伏見(重巡洋艦)・道明寺(軽巡洋艦)・日高(駆逐艦)楠原(駆逐艦)だったから、明日は戦艦抜きで回避に重点を置いた編成でいくからな」
「淡島(重巡洋艦)・秋山(軽巡洋艦)・弁財(軽巡洋艦)・加茂(軽巡洋艦)は決定ですから、あとは榎本(駆逐艦)・布施(駆逐艦)・五島(駆逐艦)から選ぶってところですか」
やっぱり貧乏くじだ、と思いながら弁財が名前を挙げれば、加茂が「だが」と口を挟んでくる。
「それではやはり火力に不安が残る。重巡ふたりは欲しいだろう」
「そうは言っても塩津さんは新米艦の指導で忙しいし、無理じゃないか?」
艦数は百近いが、その殆どを占めているのが軽巡洋艦と駆逐艦であるのが現状だ。即戦力となりうる古強者の名を口にして、秋山は緩く首を振った。
頭を悩ます三人に「人選は任せますよ」と軽く言ってのけ、宗像はそのまま振り返ることなく部屋を後にしたのだった。
待機部屋へと戻る前に装備修理のために入渠ドックにいる淡島の様子を見ておこうと、少々回り道をした宗像は即座にその行動を後悔した。先ほど一戦交えた相手が壁に凭れて、気怠く煙草を燻らせていたのだ。
「ここは喫煙所ではありませんよ」
通り過ぎ様に一瞥と共に言葉を投げれば、返されたのは「うるせぇな」と予想通りのもので、宗像は呆れたように軽く肩を竦める。そのまま何事もなく通り過ぎたかと思いきや、ぐい、と腕を後方に強く引かれ、突然のことに宗像は声も出なかった。
「そんなに急いでどこ行くんだ」
「貴方には関係ないでしょう」
放しなさい、と少々乱暴に腕を振れば意外にもあっさりと解放され、宗像は肩透かしを食らった気分になる。
「さっきの模擬戦……」
咥え煙草のまま、ぼそり、と口にした周防に「なんですか」と静かに問えば、ふぅー、と緩く、だが、宗像の顔にかかるようわざと紫煙を吐き出した。
「ぬるすぎて物足りねぇんだよ」
「善条さんを中破させておいてよく言う」
不快さを隠しもせず片眉を上げれば、周防は、くつり、と喉奥で低く笑う。
「てめぇに一発喰らわせてやるつもりだったのにな」
とんだ邪魔が入ったと、そう言う割にはどこか楽しげな周防を見据え、宗像は「それは残念でしたね」と涼しい顔で返す。
「ですが貴方の戯れ言に付き合っていられるほど私は暇ではありません」
失礼しますよ、とフレームを押し上げ踵を返せば、先と同様、腕を強く引かれ、宗像は怒りよりも呆れの勝った溜め息をついた。
「まだなにか……」
「言っただろ。『物足りねぇ』って」
振り返れば予想以上に近い位置で周防の金色の瞳が煌めいており、それが捕食者の放つ煌めきであると気づいてしまった宗像は思わず息を飲む。
その一瞬が宗像の退路を断った。
有無を言わせぬ力で、ぐいぐい、と腕を引かれ、前のめりになった体勢を立て直すことも出来ぬまま、トイレの個室へと押し込められる。
「すお……」
非難を込めて名を口にするも、それは途中で相手の口中へと消えた。
「なー、エノ。そんなに俺のパンツ趣味悪いか?」
「そうだね。悪いね。あっ、僕のパソコンにヘンなブックマーク残さないでよ」
「えー、なんでだよー。あの店のパンツ、超おすすめだぜ?」
伏見に趣味が悪いと言われたのが余程ショックだったのか、解散してから延々とパンツについて言及してくる日高に、榎本は正直げんなりしていた。
どうにかして違う話に持って行きたいと、苦し紛れに、つと、視線を逸らした先にいた人物に榎本は軽く目を見張った。
「あれ? 室長と……」
日高も気づいたのかなんとなく足を止め、どこか険悪な空気の二人を見やる。見られていることなど知らぬ二人は、二言三言、言葉を交わしたと思いきや、周防が引き摺るように宗像をトイレへ連れ込んだのだった。
「今の……」
なんかとんでもないものを見てしまった、と顔を強張らせている榎本の隣で、日高も動転しているのかとんでもないことを口にした。
「燃料わけてもらうんじゃねぇの……?」
「やめて日高やめて」
なにも見てない、なにも聞いてない、と耳を塞いで顔を背けるも、榎本は、はっ、と何かに気づいたように日高を見上げる。
「ど、どうしよう。清掃中の札、出しておいた方がいいのかな」
なにも知らずに用を足しに来た者が悲惨な目に合うのではないかと危惧する榎本に、「既に俺達が悲惨な目に合っている」とはさすがに言えず、日高は「いっそ通路自体封鎖した方がいいんじゃねぇの」と目が遠い。
周防はともかく宗像がこのことを知ったら、46cm三連装砲をぶっ放しかねない。せめて九一式徹甲弾にしてくれないか、などと見当違いなことを思った矢先、二人が籠もったトイレから、パーン、と小気味よい音が響いた。
固唾を呑んで見守る中、肩を怒らせた宗像が大股に姿を現し、幸いなことに日高達の居る方とは逆へ歩き去った。心なし着衣が乱れていた気もするが、それは些末なことだと、二人は胸を撫で下ろす。
やや間をおいて、ぬっ、と姿を見せた周防はいつも通り姿勢は良くないが、そんなことは問題ではなかった。
「あれ、小破してない……?」
ごくり、と喉を鳴らした榎本の言う通り、周防のゲージは確かに減っていた。
「ビンタ一発で戦艦小破させるって、どんだけ威力あるんだよ室長のビンタは」
俺達駆逐艦が喰らったら大破ないしは轟沈だろ、と青ざめ、日高と榎本は互いの肩を抱いて、ガクガク、と震えたのだった。
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2013.09.19