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    【刀剣】典鬼ワンライまとめ【第61回「チョコレート」】
     正直、期待をしていなかったと言えば嘘になる。
     だが、こうもあっさりと「なんの話だ」と言われては返す言葉もなかった。
     内番があるから、と去って行く鬼丸の背を見送る大典太の顔は、狐につままれたとも、茫然自失ともとれる、彼にしては珍しくも感情が露わになった物であった。
     確かに彼自身の口からその話が出た訳ではなかった。
     勘違いや早とちりだと言われれば、まさにその通りだと頷くしかない。
     それでも、厨使用一覧に粟田口の名があり、短刀たちと共に中に消えた姿を見れば、勘違いをしてもおかしくはないだろうと、大典太は自分自身を慰める。
     人の世で言うところの『バレンタインデー』は、この本丸でも一行事として馴染みのある物となっている。
     数日前から日々の食事の支度に支障が出ないよう厨の使用時間が割り振られ、申請者はその時間内で慌ただしくも楽しげにチョコ作りに勤しむのだ。
     個人で申請する者も居れば、粟田口のように大所帯の刀派は人数分まとめて申請をする。その分使用出来る時間も増える為、役割分担をし効率よく作業をしているようであった。
     粟田口の長兄が弟たちから渡されたいくつもの包みを抱え、嬉しそうに笑っている姿は大変微笑ましい。見るともなしにその光景を眺めていれば、大典太に気づいた前田が、どうぞ、と小さな包みを笑顔と共に差し出してくる。
     厚意は素直に受け取り、ありがとう、と大典太は礼を述べるも、聡い短刀は相手のどこか浮かない様子を悟ったか、気遣わしげに、どうかなさいましたか、と緩く首を傾げた。
     大した事ではないのだが、と言いつつもそれでもやはりはっきりさせておきたいと、大典太は恥を忍んで前田に事の次第を告げたのだった。

    「手伝いだけならそうと言ってくれ」
    「いきなりなんだ」
     内番から戻るなり恨めしげに吐かれた言葉に、鬼丸は隠す事無く眉間に深いしわを刻む。
    「いや、早とちりした俺も悪いが、思わせぶりなことをするあんたも悪いと思う」
    「だから、なんの話だと言っている」
     身に覚えのないことで一方的に不満を漏らされ、鬼丸の声に険が滲み出す。
    「この時期に粟田口の短刀たちと厨を使っていたら、期待するなと言う方が無理だと思うんだが……」
    「……あぁ、そういうことか」
     じと……、と不満と恥ずかしさと自戒がない交ぜになった眼差しを向けられ、大典太なりに折り合いをつけようとしているのだな、と鬼丸も苛立ちをどうにか引っ込め、代わりに呆れを多分に含んだ息を大きく吐いた。
    「そういうお前はおれに用意したのか」
     まさかの切り返しに大典太の目が点になる。
    「どうして『貰う側』だと思ったのかは知らんが、お前もおれに渡す物がないのならば、この件はおあいこと言うことでいいな」
    「そう、だな……」
     言われてみればその通りだと、あまりよろしくない思い込みがあったことを自覚したか、大典太の返答には覇気が無い。
    「ただでさえも陰気だというのに、そんな景気の悪い顔をするな」
     酒のつまみにと乾物が入った棚をなにやら漁っていた鬼丸が、大典太に向かって後ろ手に、ぽん、となにかを放って寄越す。
     反射的に受け取ったそれは、この時期に出回る事の多い、手作りチョコには欠かせない割チョコの袋であった。
    「余ったのを持たされたが、おれひとりでは消費しきれないんでな」
     手伝ってくれ、と口端を上げる鬼丸に大典太は笑うしかなかった。

    2022.02.03

    【第61回「雪」】
     ほたり、ほたり、と滴り落ちては、その足下を染める朱に小さく舌打ちする。
     腹部を押さえる掌を無視して流れ出る朱。
    『完全にやられたな……』
     防具など既にあってないような物だ。胸の内で悪態を吐くのと同時に、口許に歪んだ笑みが浮かぶ。
     偽情報にまんまと踊らされ、罠にはまったのだと気がついたときには既に遅く、情報を制するものが優位に立つのは至極当然で。
     だが黙って全滅する気などさらさら無かった。
     勝算はあると言い切り、鬼丸ひとりが敵を食い止めるべくその場に残った。無論、その言葉を仲間達は信じたわけではなく、各々思うところはあれどそれらを、ぐっ、と飲み込んだのだ。
     戦う為に人の器を得た。
     皆、常に心のどこかで戦場で倒れることを覚悟しているのだ。
     追いすがる敵を斬りつけ、屠り、積もった雪を蹴散らしながら無心に刃を振るった。そして、ふと周りを見渡せば既に動くものは無く、目の前に広がる景色は赤と白のみであった。
     短く忙しない息を吐きながら背にした大樹にもたれるも、ずるずる、と力無く腰が落ちていく。
     言うことを聞かない己の脚に一発、忌々しげに拳を叩き付け、鬼丸は静かに舞い降りる白いモノをぼんやりと見つめる。
     徐々に視界が暗くなっていき、もう日暮れか……、と頭の片隅で思いながら、ゆっくりと瞼が下りていく。
     もう、雪が冷たいとは思わなかった。

    「まだ逝くには早いぞ」
     頬を平手で二度三度と張りながら淡々と発せられた言葉に、鬼丸は重い瞼を無理矢理に持ち上げ、うっそりと笑む。
    「……よく、見つけたな……」
     敵を引き離すことを第一に動き、暫くは逃げに徹していた為、仲間たちと別れた場所からは相当離れたはずだ。
     足跡も降り続ける雪で隠されてしまったはずだ。
    「導があったからな」
     それでも大典太は事も無げに言い、静かに差し出してきたのは雪の花であった。
     目にも鮮やかな赤い花は掌の熱で形を変え、彼の手を滴り落ち、その先で再び赤い花を咲かせた。
     だが、足跡同様ここに至るまでに鬼丸が流した血は、新たな雪に覆い隠されてしまったはずだ。
    「……目に見える物だけが全てではないぞ」
     投げかけられる胡乱な視線で問われている事を察したか、大典太は鬼丸の腹に強く掌を押し当てながら、やはり淡々と言葉を押し出す。
     たとえ痕跡が雪の下に消えようとも、残留霊力まで隠すことは出来ないのだと、他でもない鬼丸の霊力を感知出来ないわけがないのだと、大典太は伏し目がちに告げてくる。
    「……もしかしなくても、怒ってるな」
    「当たり前だ」
     即座に寄越された抑揚のない返答に鬼丸は、くっ、と口角を上げた。
    「我ながら柄にもないことをしたと、思っている」
    「……わかっているなら、二度とするなよ」
     赤い花と化した分を補うかのように腹に霊力を注ぎ込まれ、その暴力的とも言える熱さに鬼丸の目が一瞬見開かれるも、引き結ばれた唇が開くことはなかった。

    2022.02.10

    【第61回「鬼」】
     コンロの前に椅子を置き、ぺらり、ぺらり、とページを繰っている鬼丸が、ふと、顔を上げたのと同時に、宵闇色の頭が、のそり、と厨の戸をくぐった。
    「……先客か」
    「なに、そこまで時間はかからない」
     すぐに出て行くから安心しろ、と続けられた鬼丸の言葉に、大典太は隠すことなく短く形の良い眉を寄せる。
     この本丸に来た当初は事あるごとに「鬼を探しに行ってはだめか」と、悪気無く口にして審神者を困らせていた太刀だ。最近はなくなったが他意のない言葉だとわかっていても、このようにふとした瞬間に鬼丸自身の口から聞いてしまうと若干の不安が過るのだ。
    「何を作っているんだ」
     空気を変えようというのか大典太がコンロに掛けられているフライパンに、ちら、と目を走らせてから、すい、と鬼丸に顔を戻せば、目の前に一枚の紙が突きつけられた。
     それが冷蔵庫に張られたレシピの一枚であることは、確認するまでもなく明らかだった。
     ここは大所帯の本丸だ。日々の食事の際、どうしても半端に余る食材という物が出てくる。そういった物がある程度溜まってくると、主に厨を取り回している太刀や打刀がそれらを使った料理や菓子の比較的簡単なレシピを、クリップでまとめて冷蔵庫に貼っておくのだ。
     そのうちのひとつか、と大典太が内容に目を通す前に鬼丸の口が開かれた。
    「鬼まんじゅうだ」
     手間もそこまでかからないようだったのでな、と先んじて理由を述べる相手を前に、大典太は再度眉を寄せてしまった。
     端から見れば鬼を斬る事に固執している鬼丸に『鬼絡み』の事を言うのは少々憚られる、ないしはタブーと思いがちだが、彼とて無差別に反応するわけではない。
     現に愛用の瓢箪には鬼を模した飾りが付いており、彼の中ではきちんと線引きがされていることが窺い知れた。
     一度、正面切って問うたことがあるが、それに対する答えは、
    「鬼を祀っている神社に殴り込むほど分別が無いわけじゃない」
     といったものであった。
     そもそも、鬼丸の言う『鬼』とはおそらく概念のような物だ。
     昔の人々が恐れた正体の不確かな物、不可解な現象を一様に『鬼』と呼び、名と形を与えることで理解出来る物へと変容させた。
     角のある異形。人々に作り上げられたその姿のみを『鬼』としている訳では無いのだ。
     そう、わかってはいても、やはり心のどこかで安易に触れていい物ではないと、大典太は思ってしまうのだ。当の鬼丸に知られれば「余計なことを」とわかりにくく顔をしかめるだろう事もわかっているのだが。
    「……そろそろだな」
     そう言いながら鬼丸は立ち上がり手中の本を椅子に置いた。布巾片手にフライパンの蓋を開ければ、湯を張られた中にいくつもの小鉢が並んでおり、蒸し上がったそれらは、つやつや、となめらかな表面を見せている。
    「できあがりか?」
    「いや、これからバターで焼く」
     さらり、と返された言葉に思わず、罪深い……、と漏らした大典太に、鬼丸の眦が、やんわり、と下がった。
    「カリカリでモチモチらしいぞ」
    「そうか……。じゃあその『鬼』を、ぺろり、と平らげるお供をさせてもらうとするか」
    「生憎と間に合っていると言いたいところだが、いいだろう」
     広げた布巾の上に小鉢を並べている鬼丸を、じぃ、と見ていた大典太は、相手の手が何も掴んでいないのを確認してから、すっ、と耳元に唇を寄せた。
    「こっちの『鬼』も一緒に、ぺろり、と頂きたいのだが」
     耳の産毛に触れるギリギリの位置で囁けば、鬼丸は反射的に身をのけぞらせ大きく目を見開くも、直ぐさま真顔になり呆れを含んだ息をこれ見よがしに吐いてみせる。
    「現世ではそういうのを『親父くさい』というのだろう?」
     品が無いとか、嫌われやすいと聞くぞ、と鬼丸が淡々と告げれば、大典太は僅かに首を傾げるも、なんだそんなことか、と事も無げに言い放った。
     見た目の威圧感に反して繊細な太刀に対して、余計な事を言ったか、と内心で反省していた鬼丸はこの反応に驚き目を丸くする。
    「親父くさくて当たり前だろう。何百年前の生まれだと思ってる」
     大典太自身は真面目に答えているのかも知れないが、まさかの切り返しに鬼丸は、ふは、と小さく笑うと、それもそうだな、と頷き、
    「ならおれもそうだな」
     と、更に愉快そうに笑ったのだった。

    2022.02.14

    【第60回「繰り返し」「居眠り」「夢」】
     ――あぁまたこの夢か、と鬼丸はめまぐるしく変わる光景を感情の伴わない表情で見やる。
     鬼が来ると告げ、実際にそうなった本丸では「お前が連れてきたのだろう!」と罵声を浴びせられ、幾月もの間平穏であった本丸では「それはいつ来るのか」と不安に駆られ疑心暗鬼になった審神者自身が鬼と成り果てた。
     ならば鬼の事は言うまいと口を噤んでいた本丸では「なぜ教えてくれなかったのか」と本丸陥落寸前に恨みと絶望とで塗り潰された呪詛を吐かれた。
     走馬灯のように巡るそれら――否、これはまさしく走馬灯なのだ。
     状況は違えども、鬼によって壊滅した本丸に居た鬼丸国綱達の記憶の片鱗。
     同じ失敗を繰り返さぬようにと積み上げられていく記憶。
     折れた数だけ蓄積されていく情報。
     次こそは、次こそはと繰り返され――
    「おい」
     不意に肩を揺さぶられ、鬼丸は僅かに身動いでから、のろり、と顔を上げた。
     突っ伏していた炬燵の天板の上はいつの間にか綺麗に片付けられており、飲んでいる最中に寝落ちたのだと知った。
    「……少し、魘されていたぞ」
    「そうか」
     だから起こしたと言外に告げてくる大典太に素っ気なく返すも、鬼丸は無意識にか緩く息を吐き出し、強張っていた首を、ゆうるり、と回す。
     数多の鬼丸国綱の行く末を見届け、自分もいつそちら側へ回るのかと考えない日はない。だが、ここでの鬼丸国綱は、これまで他の者達がしなかった事をした。
     自分が見ている物、共有しているこれまでの記憶を全て包み隠さず、目の前の陰気な刀に打ち明けたのだ。
     このような荒唐無稽な話を誰が信じるのだと内心で自嘲する鬼丸を知ってか知らずか、話を聞き終えた大典太は小さく、なるほど、と漏らしてから顔を上げた。
     そして、この先どのような未来が待っていようとも、どのような結末を迎えようとも、それは決して鬼丸のせいではないと、告げてきた言葉自体は拙い物であったが、真摯な眼差しと声音は上辺だけの物ではなかった。理解者を得られたのはこれまでを思えば幸運だと言えた。
     なによりもそれはまっすぐにまっすぐに鬼丸の胸を穿ち、貫き、ここへとどまるに値する楔となったのだ。
    「そろそろ時節的に鬼に扮した遡行軍が活動を始めるだろうな」
    「町の混乱に乗じて本丸に攻め込まれる前に片をつけるとするか」
     鬼退治としゃれ込むとするか、と互いに喉奥で低く笑い、主に進言するべく腰を上げたのだった。

    2022.01.28
    茶田智吉 Link Message Mute
    2022/11/22 0:47:38

    【刀剣】典鬼ワンライまとめ

    #刀剣乱舞 #腐向け #大典太光世 #鬼丸国綱 #典鬼 ##刀剣
    別名義で書いた典鬼ワンライまとめ。
    第61回「チョコレート」
    第61回「雪」
    第61回「鬼」
    第60回「繰り返し」「居眠り」「夢」(※本来ならば4つ全てのお題を使用しなければならないところを、3つしか使用しなかった為ツイでは削除した物)

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