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    【刀剣】○○しないと出られない部屋系『相手の胸を揉まないとゴムを噛まされてゴムパッチンされる』から始まる出られない部屋ガバ判定な出られない部屋『相手の胸を揉まないとゴムを噛まされてゴムパッチンされる』から始まる出られない部屋「……莫迦なのか?」
    「……俺に言うな」
     窓ひとつ無い白一色の部屋の中央に設置されたテーブルに、ぽつん、と置かれた『指令書』の内容を見た鬼丸の第一声に、大典太は淡々と返すしかない。
     事の発端は政府からの通達だ。
     各本丸から二人一組が参加可能な自由参加任務が発令されるとのお達しに、審神者は「めんどくさい」と乗り気ではなかったのだが、参加本丸には資源が支給され、尚かつ成功報酬もあると知り、くるり、と掌を返したのだった。
     参加、不参加問わず任務の進行状況は配信され視聴できるようになっており、個体差の調査やらなんやらとそれっぽい理由が記載されていたが、蓋を開けてみればただの余興……というより罰ゲームに近い内容に、男士を送り出した本丸は笑ったり泣いたり悲鳴を上げたりと、むしろそちらを見ている方が愉快なことになっていた。
     改めて『指令書』に目を通し、鬼丸は部屋の四隅に設置されているカメラに向かって、高々と『指令書』を掲げる。

    『相手の胸を揉まないと、ゴムを噛まされてゴムパッチンされる』

    「……莫迦なのか?」
    「だから俺に言うな」
     さっさと終わらせるとするか、と指令書を無造作に投げ捨てた鬼丸は欠片の躊躇もなく、がっ、と指を突き立てるように大典太の左胸を鷲掴んだ。
    「紐が邪魔だな」
    「……ッ!? おま、ばかかっ!?」
     べしん、と鬼丸の手を叩き落とし、ふーっ! と毛を逆立てた猫のような反応を見せた大典太に鬼丸は、なんだ、と不満顔を向ける。
    「揉めば終わるんだろう?」
    「……『心臓を抉り出す』の間違いじゃないのか?」
     相当痛かったのか大典太は右手で左胸を押さえながら呻くように言葉を押し出しつつ、じり、と鬼丸ににじり寄る。
    「常日頃から力加減がわかっていないとは思っていたが……」
     得も言われぬ圧に思わず鬼丸の足が一歩下がった。その開いた距離を間髪入れず大典太が詰める。
     大典太が迫れば更に鬼丸が後ずさり、それを数度繰り返したところで鬼丸の背が、とん、と壁に触れた。
     これ以上、逃げ場がないというのに大典太は距離を詰めることをやめず、鬼丸の足の間に膝を割り込ませ、左手で右肩を壁に押しつけ動きを封じてくる。
    「おい……なにか、言え」
     無言のまま覆い被さるような体勢で見下ろしてくる相手に、気まずさからぶっきらぼうな言葉をぶつけるも反応はなく、鬼丸はこの状況からどうにか逃れられはしないかと、無意識に視線を左右に走らせる。
    「……俺がいつもどう触れているか、いい加減覚えろ」
     耳元で髪を揺らしながら吹き込まれた囁きに、ひくり、と鬼丸の肩が微かに跳ねた。同時に触れてきた指先は器用に胸元のベルトの下に潜り込み、大きな掌が左胸を覆う。
     くっ、と掌全体で軽く押されたかと思えば、柔らかな筋肉の丸みを確かめるように、ゆるり、と撫でられ、若干、脇に逸れた位置から、ぐい、と押し上げられた。
     寄せられた胸筋はベルトに押さえつけられ歪に盛り上がり、窮屈さからか鬼丸の喉奥が、くぅ、と鳴った。
    「おおで……」

     ぷつん、と不意に映像が途絶えた。
     配信機器のトラブルかとざわつく各本丸をよそに、和やかな音楽と共にお花畑が映し出され、テロップが挿入される。

    『倫理規定に抵触したため配信を中断しました』

       ■   ■   ■

     先の部屋では配信は中断されたが成功扱いとなり、大典太と鬼丸は次の部屋へと足を踏み入れた。
    「ひとつこなしたならもういいだろう」とふたりは審神者へ連絡を入れるも、一部屋突破するごとに報酬が上乗せされる仕様で、「どうしても修行道具が欲しい」と懇願され渋々ではあったが了承したのだが、その際「お色気枠として頑張って!」といらぬ激励も貰い、逆にやる気が削がれたのはここだけの話だ。
     こんな体格の良い男ふたりになにを言ってるんだ、と当人達は呆れ返っているが、配信中断に対するクレームが運営本部へいくつか入ったこともここだけの話である。
     窓ひとつ無い白一色の部屋の中央に設置されたテーブルに『指令書』が置かれているのも先の部屋と同じだ。内容を確認し、ふたり顔を見合わせ、再度『指令書』に目を落とす。
    「……一択だな」
    「そうだな」
     今度は大典太がカメラに向かって『指令書』を掲げた。

    『「二人の衣装を交換する」か「十分間相手の好きなところを言い続ける」』

     本丸によって個体差はあるであろうが、このふたりは寡黙な部類に入る。どちらを選択するかは火を見るよりも明らかだ。
     大方の予想通り、ふたり同時に本体をテーブルに置いた。鬼丸は次いで腰の赤い綱を解き、数少ない留められている上着の釦を外すや胴当ての下から、ずるん、と引き抜く。足の装具を外し終えた大典太も上着を脱ぎ、そのままシャツへと移るのかと思いきや、ふたり揃って部屋の隅へと移動していく。
     部屋の天井近く四隅にはカメラが設置されており、どこに移動しようとも生着替え配信は不可避である。刀剣男士の乳首は倫理規定に抵触するか否か、固唾を呑んで見守る審神者達が注目するのはその点だ。
     だが、審神者達は忘れていた。天下五剣はそんなにお安い刀ではないのだと。
     カメラの真下に立った鬼丸が、ちょいちょい、と何事かを手で合図するや、しゃがみ込んだ大典太が鬼丸の足の間に頭を入れ、ぐっ、と立ち上がった。
     二メートル近い刀ふたりで肩車をすれば、余裕でカメラに手が届く。まさかカメラの角度を変えるという力業に出るのか? と戦く審神者達を知ってか知らずか、鬼丸は手にしていた上着をカメラに被せ、しかもずり落ちないようご丁寧に袖を縛りつけている。
     もう一機のカメラも大典太の上着で無効化されたが、もう隠す手立ては無いだろうと残り二機のカメラがふたりを追うも、歩きながら揃ってスラックスのポケットからハンカチを取り出したところで、大半の審神者は「え? 普段戦場にも持って行ってるの?」と違うところが気になってしまった。
     労することなく全てのカメラを無効化し、強制的に音声のみでお送りします状態を作り出したふたりは、微かな金属音と衣擦れの音のみの中、一言も発することなく悠々と着替えを行ったのだった。
     配信を見ている側にとっては大変退屈な時間を経て、ようやっと最初に鬼丸の上着が被せられたカメラが光を取り戻した。
     鬼丸を肩から下ろした大典太が上着に袖を通し、次のカメラへと移動する。クリア条件は『衣装の交換』であって『同じ着こなしをしろ』ではないので、大典太が上着を着ることに何ら問題はないのだ。
     普段は露出の少ない大典太が背中を晒している珍しい姿が拝めるやもしれぬと心密かに期待してた審神者や、いろいろと裏技を駆使され消化不良気味な審神者など知ったことではないと言わんばかりに、大典太と鬼丸はその他の細々とした装具を手早く身につけるや、悠然と部屋を後にしたのだった。
     だがふたりとて、好きでこのような力業に走った訳ではない。お色気枠扱いに反発した訳でもない。
     案内された小部屋で服を脱ぎながら、ふたり揃って安堵の息を漏らす。
    「……さすがに人目に曝すのは憚られるからな」
     黒いシャツを脱いだ鬼丸の胸元や腹に目をやり大典太が、ぽそり、と呟けば、着替えの手を止めた隻眼が、すぅ、と眇められた。
    「だからやたらと跡をつけるなと言ってるだろう」
     普段から背中を露出しているため、見えにくい前面にこれでもかと吸い跡や噛み跡をつけたがる大典太を、鬼丸はことある毎に窘めるが改善される気配はない。
    「だったらあんたも控えてくれ」
     上着を肩から落とし肩口と背中を見せてきた大典太に鬼丸は、うっ、と喉を詰まらせる。つけようと思ってつけた物ではないとはいえ、背面のひっかき傷と肩口の歯形は鬼丸による物だ。
     犬歯が突き刺さり流血沙汰になるため気をつけてはいるのだが、前後不覚に陥るほどに追い立てられては、鬼丸には最早為す術がないのだ。
    「……善処する」
     不可能だとわかっているがそれ以外の返答を持っておらず、鬼丸は苦い顔で言葉を押し出しながら、大典太を拘束している背面のベルトを外すべく手を伸ばしたのだった。

       ■   ■   ■

     その後も『豚骨スープをどちらかが飲む』や『一分間息を止める』だのといったやる意味はあるのかと問いたくなる指令を挟みつつ順調に進んできたが、大典太も鬼丸も正直、心的疲労が大きい。
     元から目立つことを好まず、大典太に至っては普段から人目につかぬよう蔵や私室に籠もりがちなのである。
     五つめの部屋を突破した際、他本丸からの参戦者の途中経過や結果を見てみれば早い段階で相当数が篩に掛けられており、自分たちも早々に脱落するだろうと思っていたのだ。
     そう思っていたのにその後も何故か残り続け、既に大典太の顔は半分死んでいる。
    「……あといくつだ」
    「ふたつだな」
     審神者が所望する修行道具一式は射程圏内に入っているとはいえ、鬼丸も心が死にかけている。
    「みんなで応援してるからね」と笑顔で送り出してくれた乱たちには申し訳ないが、ふたりはもうゴールしてもいいよね……な心境であった。
     室内へ足を踏み入れ『指令書』を手にする。
     いっそ無理難題であってくれと願いながら内容に目を通し、どうにかなりそうな内容にあからさまに眉を寄せた。

    『「相手の格好いいところを叫ぶ」か「エプロンを作る」』

     恒例のお題発表を済ませてから、手元に戻した指令書を指先で、とんとん、と叩き、鬼丸が大典太に伺いを立てる。
    「すぐに終わるのはこっちだが……」
    「……ご免被る」
    「そうだな」
     ぼそぼそ、と言葉を交わし、じゃあこっちか、と大典太は面倒くさそうな顔をしたが、鬼丸は何事か考えているのか指で宙になにかを描いてから、ふむ、と小さく頷いた。
    「ところで質問だが」
     指令書から顔を上げた鬼丸がカメラのひとつを見上げ口を開いた。
    「作った物は持ち帰れるのか?」
     不意の質問に誰がどのように答えるのかと思えば、不意に『ピンポンピンポーン』とクイズ番組などで聞き慣れた正解チャイムが室内に鳴り響いた。不可ならばおそらく不正解ブザーが鳴ったのだろう。
    「……いいんだな」
     一足先に台に置かれていた布を物色していた大典太が確認するように声に出せば、再度チャイムが鳴り響いた。
    「そうか。なら話は別だ」
     何故かやる気を出し並んで布を選び始めた鬼丸を、大典太は不思議そうに見やる。
    「エプロンの形になっていれば文句はないだろう。それに土産にもなって時間も少しだが短縮できる」
     言葉足らずの説明ではあったが鬼丸が選んだ布の色でピンときたか、大典太も手にしていた物を戻し別の色を手に取った。
     小声で交わされた会話はマイクに拾われることはなく、ふたりが選んだ布の色に視聴している審神者達がモニターの向こうで、ざわ、ざわ、とどよめいた。
     だが、色如きで驚くのはまだ早かった。
     長方形を三枚裁断している大典太の隣で、鬼丸は倍以上の枚数をロールカッターで次々と切り出している。
     裁縫に疎い審神者でも大典太が作ろうとしている物は完成型がわかる。前掛け部分に紐を付けたカフェエプロンタイプだろう。
     問題なのは鬼丸の方であった。
     長く切り出した布に黙々とミシンを掛けていたかと思えば、縫い終わったそれの下糸を引きギャザーを寄せていく。完成型はわからぬまでも「フリル……?」「フリルだ……」「フwリwルw」と審神者達の反応は三者三様で、鬼丸とフリルが結びつかず混乱を来している本丸がちらほら見受けられた。
    「……器用だな」
    「この間、乱たちと一緒に少しな……」
     並んでミシンを掛けながら感心したように大典太が呟けば、鬼丸は手を止めずに淡々と返す。
     そうこうしている間に布三枚を組み合わせるだけの大典太は早々に作業を終わらせ、出来上がった物を両手で顔の前に掲げて仕上がりを確認する。だがそれは丈も胴回りも明らかに短く、どう頑張っても太刀ふたりには着用不可能なサイズだ。
    「ポケットをつけてやったらどうだ」
    「そうだな。外であれこれ拾っているようだしな」
     空色の小さなエプロンに追加でポケットをつけ、大典太の作業が今度こそ完了した。
     定点カメラであるため手元がアップになるわけでもなく、ただひたすらに遠目からミシンを掛ける全体図を映すだけの作業動画にもならない退屈な絵面が延々と続き、衣装交換の時とは違った意味で大変空虚な時間を経て、ようやっと鬼丸の作業も完了したのだった。
     完成品が見えやすいようにとカメラの近くまで行き、ふたり並んで頭上に掲げる。
     大典太の物は予想通りカフェエプロンで、鬼丸の物は淡いピンク色をしており肩と裾にフリルの付いた大変可愛らしい仕上がりとなっている。こちらもふたりには着用不可能なサイズだが、万が一サイズが合っていようともどちらがこれを着用するのか、その姿が全く想像できないのだった。
    「……できたぞ」
    「着用までは条件に入っていないだろう?」
     鬼丸の発言に「あっこれ短刀用だ」と気づいた審神者達は、転んでもただでは起きないふたりにまたしても裏技を使われた気分だ。
     運営側の想定していた結果ではないとはいえ条件を満たしている以上認めないわけにもいかず、今回もすり抜けのような感じでふたりは成功扱いとなったのだった。

       ■   ■   ■

    「……戻ったぞ」
    「おー。ふたり共お疲れ~」
     運営本部から報酬の受け渡しについての説明を受けている審神者に頼まれ、疲労困憊で戻ってきたふたりを出迎えた御手杵は「惜しかったなぁ」と少し残念そうに眉尻を下げる。
     あとひとつというところで、ふたりの悪運も尽きたのだ。

    『どちらかが友達の名前を十人言い、もう一人が相手を十分無視しないと出られない』

     社交的な刀であれば、演練で顔を合わせた他本丸の刀と友達になることもあるだろう。だが、この指令を目にした瞬間、「棄権する」と見事なまでにハモり、あっけなく幕は閉じたのだった。
    「腹減ってるなら声掛けてくれって燭台切が言ってた」
    「……いや、飲み食い系があったから平気だ」
    「悪いがこのまま休ませてもらうと伝えてくれ」
     口を開くのも億劫なのか言葉少なにそう告げると、ふたりは身体を引き摺るように廊下の向こうへ消えたのだった。
    「風呂にするか?」
    「……あとでいい」
     とにかく今は倒れたい、と大典太が漏らせば、同感だ、と鬼丸も力なく頷く。ようよう大典太の部屋へと辿り着き、どうにか襖を閉めてから崩れるように畳に伏した大典太の隣に鬼丸も倒れ込む。鬼丸の部屋はもう少し先だが、自分同様気力が尽きた相手にそれを言うほど大典太は狭量ではない。
     暫し身動ぎひとつしなかったが、どちらからともなく腕を伸ばし身を寄せ合う。
    「……疲れたな」
    「……そうだな」
     背に回した手で労うように互いを、ぽんぽん、と柔く叩き、こつり、と額を合わせるや、吸い込まれるように眠りについた。

    2020.11.07
    ガバ判定な出られない部屋 非の打ち所のない見事な土下座を披露する審神者を前に、大典太と鬼丸は渋い顔で互いを見やってから、諦めたかのように深々と息を吐いた。
    「……わかった」
    「だが、次はないぞ」
     頭を上げぬまま、申し訳ない申し訳ない、と繰り返す審神者を見下ろし、ふたりは再度深い深い溜息を吐いた。

     先頃いくつかの本丸の審神者が招集され、それぞれ『極秘任務』が課せられた。それぞれが別室で個別に説明を受けたため、他の本丸にどのような内容が割り振られたのかは当然のことながら不明である。
     この審神者に与えられた任務は、閉鎖された本丸に仕掛けられた『ある部屋』の解除であった。
     聞けばこの閉鎖本丸の審神者は、よその刀剣男士を拐かしては質の悪い仕掛けの施された部屋に閉じこめるという、迷惑極まりない者であったそうだ。既にこの審神者は拘束済み、所属刀剣男士たちは政府預かりとなっている。
     これまでにも複数回、任務として割り振られた他本丸の刀剣男士たちによっていくつもの部屋が解除され、最後のひとつがこの本丸に回ってきたのだった。
     その最後の仕掛けが厄介極まりない物で、冒頭の審神者の土下座へと繋がるのだ。
    「せめてものお詫びにこれを用意しました」
     土下座のまま器用にも背後に腕を回し、紙袋を掴むや、ずい、とふたりの前へと押し出す。茶色の無地の袋は贈り物が入っているにしてはあまりにも質素で、嫌な予感と共に鬼丸が折り畳まれた口を開け中を覗き込めば、今回の任務に相応しいといえば相応しい物がそこにあった。
     うんともすんとも言わぬまま、中身が見えるよう鬼丸が大典太の方へ袋を押しやれば、中身を確認した大典太もなにも言わぬまま、そっ、と袋の口を元通りに折り畳んだ。
    「奮発しました! 乾きにくい、継ぎ足し不要の高粘度最高級ローションです!!」
    「……わざわざ言わなくていい」
    「スキンはご愛用の物があると思うのでそちらは自前でお願いしますッ!」
    「そういうことは言わなくていい」
    「審神者知ってます! ふたりがそういう関係だって知ってます!! だから大丈夫ですッ」
    「なにが大丈夫かわからないが一旦黙ってくれ」
    「いい、放っておけ。行くぞ」
     吼えるように言葉を連ねる審神者に若干ひきながらも大典太は宥めようとしてくれたが、鬼丸は「これ以上なにを聞かされるかわかったものじゃない」と、大典太の肩をひとつ叩いてから足早に退室したのだった。

     ふたりが任務に出立してから三十分。その間、審神者は「やはりローションひとつじゃアレだし、ここは温泉旅行のひとつでもプレゼントするべきか?」とうんうん悩んでいたのだが、部屋の外からかけられた静かな声に、は? と間の抜けた声を上げてしまった。
    「……戻ったぞ」
    「はぇ!? なんで? え? 早くない!?」
     セッ……しないと出られない部屋でしたよねぇぇぇ!? と任務内容の書かれた書類とふたりを交互に見やり、盛大に狼狽えている審神者が次に口走りそうな「そ」から始まる言葉が出る前に、鬼丸が指で作った輪っかに大典太が指を通す品のない手つきをして見せる。
    「これで開いたぞ」
    「うわー……ガバ判定な部屋だぁ……」
     どう報告しよ……、と顔を覆っている審神者を残し、大典太と鬼丸は涼しい顔で自室へと引き上げていった。

       ■   ■   ■

     非の打ち所のない見事な土下座を披露する審神者を前に、大典太と鬼丸は渋い顔で互いを見やってから、またか、と半ば諦めた顔で溜息をついた。
    「先日の質の悪い本丸で隠し部屋が見つかったそうでして」
    「……また俺たちに行けと、そういうことか?」
     大典太の問いに躊躇なく、はい! と声を張った審神者に鬼丸が隠すことなく眉根を寄せる。またいらぬことを捲し立てるのではないかと警戒しているのを知ってか知らずか、審神者は顔を上げぬまま、すぅ、と息を吸い込んだ。
    「いい、なにも言うな。行くぞ」
     機先を制され、ふぐぅ、と奇妙な音を喉奥から漏らした審神者を、ちら、と見下ろし、鬼丸はさっさと腰を上げる。
    「待て。一応、どんな部屋かくらいは聞いて行くべきだろう」
     大典太の正論に鬼丸は廊下に踏み出しかけていた足を渋々止めた。だが、審神者からあっさりと返された「わかりません」に、ぴくり、と片眉を上げる。
    「元凶の審神者がボーナスステージとかなんやよくわからんこと言ってるらしくてですね、どうやらランダムっぽいとしか」
    「つまり、部屋に入らないとわからないと」
    「大正解です! なので、備えあれば憂い無し!! 今回もご用意させていただきましたぁッ!」
    「……行くか」
     審神者が手探りで背後の紙袋を手繰り寄せている間に大典太も腰を上げ、前回よりも大きな袋を受け取る前にふたりは退室したのだった。

     ゆうるり、と浮上してきた意識に大典太は深い息を吐きながら、そろり、と瞼を持ち上げた。目だけで辺りを窺えば、先に目覚めていたと思しき鬼丸が心配そうにこちらを見下ろしている。
    「……目が覚めたか」
     意識を取り戻したと気づくやいつもの調子に戻ってしまった鬼丸を惜しいと思いつつ、大典太は慎重に身を起こし辺りを見回した。
     部屋に踏み込んだ途端、術式が発動したかふたり揃って意識を失ったようだ。だが、それ以外に不審な点はなにもなく、大典太は安堵の息をつく。
    「前回と同じような仕組みなら、部屋を出るための条件があるはずだが……」
    「あれだ」
     先に部屋を調べていたか、鬼丸が淀みなくこの部屋唯一の扉を指し示した。

    『ローターの電池が切れるまで使わないと出られない部屋』

     扉の上に表示された条件に、スン……、と大典太の表情が一瞬で死んだ。
    「これは……また悪趣味な……」
     ケースに入ったままの新品がご丁寧にも用意されており、さてどうしたものかと大典太は躊躇したが、鬼丸は何でもない顔でパッケージをばりばりと開けるや、淀みない動作で付属の乾電池をセットする。
    「使えばいいだけの話だろう?」
     安っぽいプラスチック製の楕円形の物体を手に平然と言ってのけ鬼丸は、ぽかん、としている大典太の手を取った。
     てっきり手渡してくるのかと思いきや、鬼丸はそのまま大典太の掌に丸みを帯びたそれを押し付け、反対の手に握っていたリモコンの目盛りを、ぐい、と回した。
    「ぅぉ……」
     突然の振動に驚きの声を漏らした大典太だが、ぐりぐり、と適度な力で押しつけられているそれが刺激してくる場所が、どうやら人体のツボであるようだと気づく。
    「そういうことに使えという指示はないからな」
     アダルトグッズだからといって性的なことに使わなければいけないという決まりはない。
    「……またガバ判定な部屋か」
     助かった、と肩の力を抜いた大典太に、先は長いけどな、と鬼丸は目盛りを最大まで引き上げた。
    「まぁ、テスト用の電池だからそこまで長持ちはしないだろう」
     楕円を持っている指が痺れだしたか自分の掌を重ね、ふたりの掌で挟むことにした鬼丸の手がずれないよう、大典太が更にその上から掌を重ねる。
    「……足ツボもやってみるか?」
     ふと思いついたか問うてきた大典太に、鬼丸は首を横に振った。
    「くすぐったくて耐えられそうにない」
     掌でこれだけむず痒いんだぞ、と真顔になった鬼丸に、そうだな、と大典太は口端が上がるのを必死に抑えながら頷いて見せた。
     この男が意外とくすぐったがりなのは、大典太しか知らないことだ。

       ■   ■   ■

     ゆうるり、と浮上してきた意識に大典太は深い息を吐きながら、そろり、と瞼を持ち上げた。既視感に眉を寄せつつ、先の部屋でのことを思い出す。
     玩具の音と振動が弱く緩やかになり、ぴたり、と止まった瞬間、目眩のような物に襲われたところまでは覚えている。その後、再び意識を失ったのだろう。
    「なるほど、ボーナスステージか……」
     一回で終わるとは言っていない、ということか。
     くそ、と悪態と共に身を起こせば、先程の部屋ではすぐ傍に居た鬼丸の姿はなく、慌てて部屋を見回せば隅っこで抱えた膝に顔を埋めていた。
    「おい……大丈夫か」
     声を掛けただけで、びくり、と肩が跳ね、これはただ事ではないと急いで傍に寄った拍子になにかを蹴飛ばした。
     壁に当たって跳ね返ったのは栄養ドリンクくらいの大きさの瓶だ。よくよく見れば同じ物がいくつも転がっており、鬼丸の手にも未開封の物が握られている。
    「おい、なにがあった」
     問いかけに顔を上げることはなかったが、のろのろ、と上がった手が、この部屋唯一の扉の上を指さした。

    『媚薬を十本飲まないと出られない部屋』

     はっ、と床に転がる瓶の数を数えれば、優に十本を越えている。それでも閉じこめられたままということは……
    「……目が、覚める前に、飲まされた、らしい……」
     どうやってかは知らんが……、と震える声で状況を説明しながら鬼丸は最後の一本の蓋を捻り、気怠げに顔を上げるや大典太が止める間もなくそれを一気に飲み干した。
    「……くそ、お前が目を……覚ます前に済ませるつもり、だったんだ……」
     上がる息を必死に押さえ込みながら悪態を吐く鬼丸を抱えようと大典太が腕を伸ばすも、触るな、と言葉だけで跳ね除けられてしまった。
    「無茶しやがって……」
    「こうなったら……十本も二十本も、かわらないだろう……?」
     ふたりで喰らう必要はない、という鬼丸の言い分はもっともだが、立ち上がることすら出来ず半ば意識朦朧としている姿を見てしまっては、早く楽にしてやらねばと思うのは必然と言えた。
     だが……
    「ここで、事に及んだら……折るぞ」
     見たことはないが、きっと鬼を前にしたらこうなるのだろうと思わせる凄まじい形相の鬼丸に、大典太は、ヒュッ、と息を飲み黙って頷くしかなかった。

     どう触ってもアウトな鬼丸を扱いあぐねた大典太は、勝手に拝借した布団でぐるぐる巻きの簀巻き状態にしてから担ぎ上げ、急ぎ本丸へと戻り、審神者への報告もそこそこに部屋へと籠もった。
     翌日、大典太の様子から、察し……、となった審神者に「夕べはお楽しみでしたね!」と某ロールプレイングゲームの宿屋の真似をされるも事実である以上否定も出来ず、大典太は死んだ魚の目で改めて一から報告をしたのだった。

    2021.01.02
    茶田智吉 Link Message Mute
    2022/11/25 6:13:19

    【刀剣】○○しないと出られない部屋系

    #刀剣乱舞 #腐向け #典鬼 #大典太光世 #鬼丸国綱 ##刀剣
    使用した診断メーカー
    https://shindanmaker.com/940400
    https://shindanmaker.com/982728
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    お題ガチャ
    https://odaibako.net/gacha/636?share=tw

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