半神半鶏あの鶏が死んだ。どの命にも終わりは訪れるものだ。どんなに幸運に恵まれようが、その終わりから逃れられることはできない。仕方のないことだ。だが、予想していたより短い命だった。そう思うのは、いつも死に急ごうとするのに死と無縁だったからだろうか。
あの鶏には煩わされた。何度も落っこちては拾う羽目になった。あの二人の旅の妨げになるから仕方なくやっていたことだ。無鉄砲で厄介者な鶏。人間の愛を求めるあまり、テ・フィティの心を盗んだあの子よりも理解しかねる存在だった。
命が生まれる前から存在していたというのに、あんな生き物は初めてだった。どう扱っていいかわからない仔だった。あの仔が浜辺に訪れることはない。もう二度と拾い上げることもないだろう。
海の鶏の記憶が蘇った。思えばあの仔をぞんざいに扱ってきた。生きている間に丁寧に扱うべきだったかもしれない。テ・フィティに心を返してくれたあの子のように、それか神々のもとに送り届けたあの子ぐらいには。
いやどうせ生まれ変わる。それまでが暇になるだけ。……できるなら物分かりのいい生き物になってほしいものだ。そのときはもう少し丁寧に扱おう。海がそう決意したそのときのことだった。
「コケッ」
鳥の鳴き声が聞こえた。聞き慣れた声の方向へと海は意識を向ける。嫌な予感がした。なるべくなら予感が外れてほしい。海のその願いは儚く敗れた。そこには深緑に輝く羽を持つ鶏がいた。体は海を向いているが、変わらず焦点の合わない目をしている。神々は一体何を考えているのか。もう少し期間を空けて構わないというのに。そんなに鶏で煩わせたいのだろうか。懐かしい鶏の姿に海の気は滅入った。
海に寄り添いたいのか、溺れたいのか。鶏は構わず海へと入っていく。そして、いつも通りに深緑に湿って光る体が浮かんできた。泳げないのに、何度も海に入る。はたから見たら入水したくて仕方のない鶏にしか見えない。死にだかりの愚かな鶏だ。
だが海は知っている。この鶏は拾い上げられるのを待っていることを。そして、この鶏が神の身になったことを。
入水しようが溺れ死ぬことも少ないだろう。そもそも生まれ変わる前から何故か生き延びてきた鶏なのだから。不幸なのは生まれ変わったというのに、ものわかりが絶望的に悪いこと。幸いなことは神の身になったこと。
煩わされる頻度は少し減るだろう。海は脚だけ浮かんでいる鶏をあえて放置することにした。そして沖に出ないようにしつつ海面を揺らす。半神半鶏は抵抗せず、ゆらゆらと海を漂い続けた。