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    親によく似た娘「始まりは、海しかなかった……」
    村長の妻タラが物語を聞かせる。それは母なる島の心が盗まれたときの物語。彼女の迫真の語りで村の子供たちのほとんどは怯えきっていた。一人を除いて。それはタラの息子トゥイだ。シーナはこのときのことをよく覚えている。

    トゥイは幼い頃からよく海を見に行った。サンゴ礁付近から戻ってくる漁師の舟を眺めたり、舟に乗る自分の絵を描いたりしていた。たまに村長の修行の途中に抜け出してしまうこともあった。彼が抜け出すかどうか密かに賭けをする者もいた。

    海に惹かれ、友人を連れていくことも日常茶飯事だった。シーナもよく彼と浜辺で海を眺めた。海を見て、目を輝かせる彼を愛していた。もし自分が海に選ばれなくても、別の選ばれた者を導きたい。そのためにもサンゴ礁の外のことを知りたい。それが村長として自分にできることだ。トゥイはそう話していた。

    ある日のこと、彼は友人と舟に乗ってサンゴ礁を越えようとした。サンゴ礁を越えることには成功した。だが、直後取り返しのつかない犠牲を払うこととなった。それを打ち明けたときのことはよく覚えている。

    島の者たちは彼を気遣った。だが、中には彼を批判する者もいた。無理もない。友人とはいえ、次期村長が自分の都合で島の民を犠牲にしてしまったのだ。

    それ以降、彼はがむしゃらに村長の務めを果たそうと努めた。海には見向きもせず、島の掟を頑なに守ろうとした。それと同じ頃だろうか、彼は母タラとも関係がギクシャクし始めていた。

    そして、彼はとうとう村長の石を積んだ。モトゥヌイが一層高くなったその日、トゥイはシーナに想いを打ち明けた。何があっても守る、と。シーナは彼の真摯な想いを受け入れた。トゥイがタトゥーを入れるときもシーナは彼の手を握って彼を励ました。どんなときも彼を支えよう。彼女の気持ちは揺るがなかった。

    婚姻を果たしてしばらくのこと。シーナは子供を身ごもった。トゥイとシーナは子供のことについて話し合った。父のように島の未来を思いやり、母のように理解のある子供になってほしい。
    「この子も海が好きかもしれないわね」
    お腹を撫でる妻の言葉に夫は苦笑いした。

    生まれてきた娘は両親によく似た。そして両親の予想をはるかに越えて島の者たちも海も愛した。娘は幼い頃から海に惹かれ、祖母の物語に目を輝かせていた。その表情はかつての父親と瓜二つだった。

    何度も海に行こうとする娘を引き止めた。娘を危険な目に遭わせないように。海が攫わないように。それでもなお彼女は海へ向かった。タラは海を見に行くぐらいなら良いんじゃないかと提案した。だが、トゥイは母の言葉に耳を傾けることはなかった。シーナはタラの気持ちにも共感はしたものの、娘を危険な目に遭わせたくない気持ちの方が勝っていた。


    娘が十六歳になってしばらくしたある夜、タラが倒れた。医者に相談している途中、シーナは、タラとモアナが何か話を交わしている様子に気づいた。義母に渡された首飾りをつけてモアナは駆け出していった。

    シーナは家の方向に走るモアナを追いかけた。途中で島にはびこる黒い根が見える。タラの物語を思い出した。あれはおとぎ話ではないのかもしれない。そう思いながら家に辿り着くと、娘が旅の準備をする姿があった。娘は母に気づき目を見開かせた。

    娘は本当に両親に似た。勇気があって頑固者で島の者を愛している。シーナは言葉を呑み込んでモアナの荷物を布に詰めて手渡した。彼女の呑み込んだ言葉は涙となって溢れ出す。娘の目も涙で潤んでいた。

    シーナは娘を抱きしめた。これが別れになるかもしれない。できることなら娘を引き止めてしまいたかった。だが、海に惹かれていた娘にしかできないだろう。娘が選んだことだ。シーナはこれ以上娘を引き止めることができなかった。母なる島の心を返す使命を託し、シーナは娘の後ろ姿を見送った。
    『みんなが驚くようなすごいことをするのよね!』
    幼かった娘に言った言葉が彼女の頭の中で蘇った。あの子ならできる。シーナは自分にそう言い聞かせた。

    そのとき、大きな風が島の木々を揺らした。風が止み、夜の海が鮮やかな青白い光で照らされる。シーナの目にもその光は映った。思わず彼女はその光に祈りを捧げる。夜の海を照らした光は義母のタトゥーの形とよく似ていた。


    娘が旅立って数日。島には黒い根がはびこる一方だった。シーナは義母が村の子供たちに話していた物語を思い出していた。あの物語で目覚めた大地と炎の悪魔の闇がこの島にも侵食しているようであった。村人の不安は募っていき、珊瑚礁を超えるべきだという意見も大きくなっていった。

    それでも夫は、島の者に珊瑚礁の外へ行くことを禁じた。過去に友人、そして母も喪い、娘も珊瑚礁を超えていってしまった。これ以上他の者を失いたくなかったのだ。
    「あの子もあなたと同じ」
    シーナは夫に語りかけた。
    「他の人を失いたくないのよ」
    娘が一人で外へ駆け出した時には珊瑚礁を超える覚悟を決めていたのだろう。島の人々を守るために。
    娘の安否を祈る。海を愛してきたあの子が無事に故郷へ戻れるように。
    同じ頃、娘はというと。
    「私はっ……モトゥヌイのモア……ナッ!?」
    故郷の家族の祈りは通じているのかいないのか、海を愛する娘は半神半人に何度も海へ放り出されていた。海は落ちる彼女を見捨てずに、何度も舟の上に戻した。
    mith0log Link Message Mute
    2018/06/19 5:14:45

    親によく似た娘

    シーナママ視点 ##二次創作 #moana #モアナと伝説の海

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