スコット受け他まとめ・【診断メーカーのお題のお話】蜘蛛蟻蜘蛛蟻のお話は
「好きって言ったら怒る?」という台詞で始まり「濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた」で終わります。
#こんなお話いかがですか
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「好きって言ったら怒る?」
ピーターがマグカップの中身を見つめながらポツリと落とした言葉に自分の眉尻が下がるのを自覚する。
一回り以上も年下の少年は俺に恋をしているのだと言う。愛の告白を受けた回数はメールも含めて二桁に届いた。
俺はコーヒーを一口飲んでから「怒らないよ」と答えた。
「怒らないけど、困るかな。」
苦笑混じりに続けると少年が弾かれたように顔を上げてこちらを見た。
涙が滲む瞳。それを見る度に胸が痛むから告白するのはやめてほしい。どうしたって俺は彼の気持ちを受け入れるわけにいかないんだから。
ピーターは懸命に笑おうとして、失敗したように顔を歪める。
「もっと動揺したり怒ってくれたらいいのに。そんな風に落ちついていられると……大人と子どもの差を突きつけられたみたいだ。」
バカ野郎、俺の気持ちも知らないで。
頭に浮かんだ本音が喉元まで出かかって、後少しのところで飲み込むことに成功する。
まだ高校生のお前に惹かれてるなんて大人の俺が言えるわけないじゃないか。
そんな俺の気持ちを知らない少年の瞳にはせり上がってきた涙が溜まっている。零れ落ちる瞬間を見せつけられるのは何度目になるんだろう?
俺の目の前でピーターはハラハラと涙を零し、それを恥じるように濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた。
End
・【蜘蛛蟻の別れ話のお話】
「俺たち別れよう」と告げたのは自分からだった。
一緒にいると辛いから別れたいという理由にピーターが必死に涙を堪えているのを見るのが辛くて、情けないけれど視線を逸らすしかなかった。
想いがあれば乗り越えられると信じた年齢の差は想像以上に重かった。
眩しすぎる笑顔を見る度に自分の背後に伸びる影の濃さを思い知らされた。
彼と同じくらいの年齢の恋人たちと擦れ違えば「俺は彼に相応しいのか?」と自問した。
ピーターと想い合うことは幸せだ。それなのにピーターから別れを告げられるかもしれない未来がどうしようもなく怖かった。
「そんな未来は来ない」と笑い飛ばせるだけの余裕がなくて、自分から手を離すと決めたのはそんなに遠い話じゃない。
一方的に別れ話をして「元気でな」と逃げるようにピーターに背を向けた瞬間から胸の痛みが消えてくれない。朝も、昼も、夜も、ジクジクと痛むんだ。
寝る前に「明日は胸の痛みがなくなりますように」と祈る毎日。少しでもマシになっていることを願って目を閉じても、朝になって目を覚ませば真っ先に感じるのが胸の痛みだ。
体を起こして体の向きを変えて、両足を床に着ける。ベッドに腰かけたまま胸に掌を押し当てても痛みは少しも和らいでくれない。
「……大丈夫。大丈夫だって。」
努めて明るい声で呟いて、口の端を持ち上げる。
「明日こそ楽になるさ。いつか、痛くなくなる。」
そうやって自分に言い聞かせて何日経ったんだろう?
そのことに思い至れば作り笑いは一気に崩れた。
*****
ピーターと別れてから一ヶ月が経ったある日、メッセージが来たことを知らせるメロディーが鳴ったので端末を手に取る。そのメッセージの送り主の名前を見て心臓がドクンと跳ねた。
「ピーター・パーカー」と表示された相手からのメッセージの内容は電話をしても問題ないかを確認するものだった。しばらく悩んで、アドレス帳から削除できなかったピーターの登録情報を呼び出して通話ボタンをタップする。
呼び出し音が一回鳴ったところで「もしもし⁉」と慌てた少年の声が聞こえた。
「やあ、ピーター。久しぶり。」
『うん、久しぶり。急にごめんなさい。大丈夫だった?』
「ああ、特に何もしてなかったから。」
久しぶりに聞くピーターの声に頬が緩むのと同時に胸が苦しくなる。彼を忘れようとしても忘れられない現実を突きつけられたみたいだった。
自分のバカさ加減を認めるしかないと悟り、怖気づきそうになる自分の頬を軽く叩いた。
「ピーター、俺ってバカなんだ。臆病だし、お前との未来を信じられないし、自分から振ったのに未練があってさ。」
自分で言ってて情けなくなる。それでも本心を伝えたかった。
「ピーターさえよかったら……友だちからやり直せないか?お前のことが好きなんだ、今でも。」
少しだけ声が震えてしまったけれど伝えたいことを全て言うことができた。
もし拒絶されたら仕方ない。自分から振ったのに「やり直したい」だなんて図々しいのはわかっている。
まるで死刑宣告を待つような気持ちでピーターの答えを待っていると、電話越しに深い溜め息が聞こえた。
『……あの時、すごく傷ついた。僕の気持ちを信じてもらえてないことが悲しくて腹も立った。スコットさんには二度と会わないって思ったよ。』
「うん、当然だ。」
『それなのにさ。……それなのに、スコットさんが泣いてるような気がしてずっと心配だった。だって、僕を振った時のあなたが泣きそうな顔をしてたから。』
そう言われて目頭が熱くなる。あの時の胸の痛みを思い出したからだ。
いや、それは違う。別れを告げた後も胸の痛みは消えなくて、それは今でも続いているんだ。彼を手放した日から胸の痛みは少しも和らいでなんかない。
喉の奥が詰まった感じがして何も言えずにいるとピーターが優しい声で「ねえ、スコットさん」と呼びかけてきた。
『僕もやり直したい。今度は前より時間をかけて、ゆっくり距離を近づけていこうよ。まずは友だちからやり直そう。それからもう一度……僕の恋人になって。』
ああ、自分の大好きな人はこんなにも優しい。
そのことが嬉しくて愛しくて、涙が零れそうになった。
それを堪えて笑みを浮かべてから電話の向こうにいる大切な人に想いを伝える。
「ピーター、嬉しいよ。本当にありがとう。それから──大好きだ。」
End
・【君に捧げるタコス】スコット&ロケット
アベンジャーズの基地は広い。宇宙全体の生命が半分になるまでは広大な敷地内に何百人もの職員がいて、それぞれに仕事をしていたのだろう。
しかし、今は十人しかいない。サノスによる災禍を免れた者たちが集うこの場所はとても静かだ。生き物の鳴き声さえ聞こえないことにサノスの行動の結果を改めて突きつけられたような気がする。
ロケットはそんなことを考えて小さく溜め息を吐いた。つい暗い気分になってしまうが、今は希望がある。消滅した仲間たちを取り戻すために皆で頑張っているのだから落ち込んでいる場合ではない。
ロケットは気持ちを入れ替え、キッチンに持ち込んだ丸椅子の上に立ちながらタコス作りを再開する。
タコスは皆に人気のメニューだ。昼食でも夕食でも出てくる機会が多いためロケットにも馴染みのものになっている。作り方を教えてもらったので自分でも作ることができるが、作りながら「クイルが好きそうな料理だな」と思って落ち込みそうになったことはネビュラには秘密だ。
ロケットは慣れた手付きでタコスを二つ作ると紙で包んで皿に乗せ、皿を持ったまま椅子から降りてキッチンを後にする。
静かな廊下を歩いているとその長さにうんざりしてくる。誰かの肩に乗せてもらいたいところではあるが、そんなことをすれば落とされるのは目に見えているので諦めよう。
ロケットは自分の足で歩いて建物の外を目指した。
*****
建物の外にはあちこちにベンチが置かれている。基地の職員や訪問客が利用していたであろうそれを使うのは今では一人だけ。その唯一の人物こそが今のロケットのお目当てだ。
前方に見えてきたベンチにはスコットが座っている。その手に持っているのはサンドイッチのようで、昼食の最中なのがわかる。彼は空を見上げながら食事をするのが好きなのか外で食事をする時があった。初めて会った時もスコットはベンチでタコスを食べようとしていて、それはロケットとネビュラが乗ってきた宇宙船とローディのスーツによって吹き飛ばされたのだ。
ロケットが「あの時のスコットの顔は面白かった」と思い返しながら近づいていくと、こちらの存在に気づいたスコットが視線を向けてきた。
「ロケットも外でランチ?」
投げかけられた質問に首を縦に振って答えれば、スコットはサンドイッチの乗った皿を移動させてロケットのために隣を空けてくれた。
ロケットは空けてもらったスペースに腰を下ろして皿を隣に置き、タコスを一つ取ってスコットに差し出す。それを見て、スコットはニ回ほど瞬きをして首を傾げた。
「これは?」
「やる。俺は一つで十分だ。」
「え、でも、どうして?」
キョトンとしているスコットを見つめながらロケットは「礼だよ」と理由を話し始める。
「サノスのバカのせいで仲間が消えてから、あいつらはしょぼくれてた。今の俺たちにできることをやってきたけど本当は前向きになんてなれてなかった。なれるわけねぇよな、仲間が消えちまったんだから。……俺も、この五年間で楽しいと思えたことなんて一回もない。」
何をしていても消えた仲間たちの顔が浮かんだ。
相棒が目の前で消えた瞬間を何度も夢に見た。
宇宙船に乗るたびに静けさが胸を抉った。
ロケットの「家族」はサノスによって消滅させられ、二度と戻ってこない。その事実に絶望した回数は数えきれない。
「……でも、まあ、大遅刻してきた奴のおかげで状況が変わった。」
そう言ってロケットはニヤッと笑った。
そして、自分が現れたことで様々なことが大きく変わったのだと自覚していない男に向かって言葉を紡ぐ。
「希望があるってだけであいつらのここは救われた。俺もな。」
そう言ってロケットは自分の胸を親指で指す。
絶望に染まった顔が、諦めの浮かぶ目が、スコットのおかげで希望に彩られた。「みんなを取り戻す」という強い思いが全員の心を生き返らせた。そのことがロケットはとても嬉しかった。
「しょぼくれた顔を見てるのって嫌なもんだぞ。だからお前には感謝してるんだぜ。」
「大したことはしてないと思うけどなぁ。」
「いいから俺の感謝を受け取れって。俺のお手製タコスを食べられるラッキーな人間なんて宇宙を飛び回ってもお前しかいないぞ。」
ロケットが腕を精一杯伸ばして差し出すと、スコットは眉を下げて笑いながら「ありがとう」とタコスを受け取った。それを満足げに見てからロケットは自分のタコスに齧り付く。
いつもと変わらず美味しいタコスを味わっているとスコットから呼ばれる。
「なあ、ロケット。飲み物は?持ってきてないのか?」
「あっ。」
「忘れていた」という言葉がなくともスコットは察したらしい。彼は小さく肩を竦めると自分の紙コップを二人の間に置いた。
ロケットが紙コップを見てからスコットの顔に視線を移せば穏やかに微笑む彼と目が合った。
「まだ一口も飲んでないよ。あんたが良ければ一緒に飲まないか?」
ロケットはスコットを見つめたまま瞬きを繰り返す。
毛むくじゃらの自分とコップを共有するなんて嫌ではないのだろうか?「不潔だ」と感じないのだろうか?自分を見て眉をひそめる奴らは何人もいたのに。
そう思った次の瞬間、ロケットは一つの答えに辿り着く。
(……あー、そっか。こいつはそんな風に考える奴じゃないか)
出会ってから数日しか経っていないが、スコットの人間性はよく知っている。一生懸命で真っ直ぐで、そしてとびっきり優しい奴。それがスコット・ラングという人間だ。
ロケットは紙コップを手にして一口飲むと「旨い」と感想を述べてから元の位置に戻した。
「ジュースでも何でもない水だぞ?」
「うるせぇ、旨い。旨いったら旨い!」
言い返すとスコットは楽しそうに笑い、紙コップを取って水を飲む。
その次は手に持ったタコスをじっくりと観察してから勢い良くかぶりつく。モグモグと口を動かしながら「これ旨い」と目尻を下げたスコットを見てロケットは自然と微笑んでいた。
スコットと過ごす時間を楽しいと思う。そう思えることにも感謝しているのは、やっぱり秘密だ。
END
・【この世界で生きる子どもたちのために】スコット&トニー
ああ、やはり戻ってきてしまった。
トニーは静まり返った基地の中を見回りながら、胸に抱いた思いに苦笑いを浮かべる。
宇宙から帰ってきた後、生き残った人々のために尽くすことを選んだ仲間たちとは対照的に、トニーは愛する人とひっそりと生きる道を選んだ。ペッパーとの二人だけの静かで穏やかな生活は愛娘の誕生と共に賑やかで楽しい生活へと変化した。
愛する妻と娘がいてくれる。それが何よりも尊くて幸せなのだ。それだけで十分ではないか。
そう思う反面、「消えたくない」と願った少年の最後の瞬間が忘れられない。家族三人だけの空間に少年と撮った写真を隠すように置いたのも心のどこかに引っかかるものがあったからなのだろう。
だからこそ「タイム泥棒」の案を聞いた瞬間からアイアンマンとしての自分が再び目覚めてしまった。家族がいるのに危険な戦いへと戻ろうとするのは性分なのかもしれない。
勝算はある。それでも無事は保証できない。だからといって今更引き返すつもりはなかった。消滅した人々を取り戻すのはこの場所に集う全員の望みだ。
トニーは施設内の部屋の一つひとつを見て回り、そのうちの一つの部屋から音が漏れ聞こえてくることに気づいた。それは作業場となっている部屋だ。
誰がいるのかと中を覗き込んでみると、アントマンことスコット・ラングが自分のスーツと向かい合って何やら手を動かしている。ドイツでは対立したためにじっくりと話す機会がなく、今回の件で向こうが訪ねてきたことにより初めてきちんと話をした。それでも長い時間を共有したわけではないが、彼が真っ直ぐな男なのだということはわかった。
スコットと改めてきちんと話をしてみたい。その思いに素直に従うことにしたトニーは部屋に足を踏み入れる。
「修理してるのか?」
声をかけながら部屋に入れば目を丸くしたスコットがこちらを見た。スコットが驚いた表情を見せたのも一瞬のことで、すぐに親しみやすい笑顔に変わる。
「修理ってほどでもない。量子世界から戻ってすぐは余裕がなくてさ、そろそろ手入れしないとまずいと思って。掃除して調整するだけだから一時間くらいで終わる。」
「見学しても構わないかな?」
「ああ、もちろん。」
スコットが頷くのを見て、トニーは近くの椅子を引き寄せて座った。
そして手を動かすスコットとアントマンスーツを観察しながら話しかける。
「お嬢さんの傍にいなくてよかったのか?君にとっては五時間でも彼女にとっては五年だろう?」
「あー、うん。もっと一緒にいてあげたかったけど、キャシーが『早くみんなを元に戻して帰ってきて』って背中を押してくれたんだ。あの子は俺のパートナーみたいなもんだよ。」
「ステキなお嬢さんだ。……スコット、サノスが指を弾く前の時間に戻すという方法じゃなくて本当にいいのか?君は娘の成長を五年分も見逃したんだぞ。親としては辛いはずだ。」
トニーの問いかけにスコットは修理の手を止めて振り返り、「迷いはないよ」と微笑む。その顔には少しの陰りも見当たらない。
「そりゃあ、親としては子どもの成長を五年間も見逃したのは寂しい。でも俺にとって大事なのはあの子が無事で元気にしていること。だから構わない。それに、あんたから娘さんを奪えないよ。」
そう話すスコットはとても優しい表情をしていた。同じ父親としてトニーの気持ちを理解し、尊重しようとしてくれているのだろう。
スコットは再びスーツに向き直ると手を動かしながら「そっちこそいいのか?」と尋ねてきた。
「今回の計画は危険だ。もし戻れなくなれば全てを失う。奥さんと娘さんがいるのに、本当にいいのか?」
そう問われ、トニーは自分の掌に視線を落とした。
この両手は愛する家族に触れて抱きしめるためのもの。大切な彼女たちを掴む手を離すつもりはない。ただ、掴もうとして零れ落ちてしまった存在のことが心にずっと残っている。
トニーは掌を見つめたまま口を開く。
「……ピーターという少年がいた。僕にとって弟子であり、友人であり──息子のように見守ってきた子だ。その子は僕の目の前で塵になった。」
消滅することに混乱して怯えるピーターに対してトニーができることは何もなかった。塵となって消えていく様を見ているしかなかった。今思い出しても歯痒くて仕方ない。
トニーは悔しさを堪えるように拳を握った。
「坊やを取り戻したい。あの子をもう一度抱きしめてやりたいんだ。それだけじゃない、娘のために……モーガンが生きていく世界に希望を取り戻したい。」
サノスの計画が成功した後の世界は前を向こうとしても、どこかで絶望や悲しみを引きずっていた。希望は未だに見つからず、後ろを向いたままの世界。
その世界でこれから生きていくのは子どもたちだ。絶望に染まった世界で子どもたちは生きていかなくてはならない。トニーは我が子が生きるのがそのような世界であってほしくなかった。
視線を上げるとスコットはこちらを見ていて、視線が重なる。
「僕の娘や君のお嬢さんが生きていく世界は希望に満ちているべきだ。もっと素晴らしい世界で彼女たちに生きてほしい。サノスに負けた世界じゃなくてサノスから大切な人たちを取り戻した世界でね。だから僕はやるんだ。」
「……いいね。ますますやる気が出た。」
スコットは嬉しそうに笑うと近くに合った布で手を拭きながら近づいてきた。
そしてトニーの目の前に立つと手を差し出してくる。
「キャシーとモーガンちゃんと、それから坊やのために。子どもたちのためにやり遂げよう、トニー。改めて、よろしくな。」
トニーは差し出された手とスコットの顔を交互に見遣ってから小さく笑みを浮かべる。
アベンジャーズの最初の六人が揃った。頼りになる親友もいる。サノスとの戦いで共に戦った仲間たちは信頼できる者ばかり。そして、希望を携えて現れた彼がいる。今度こそ、大丈夫だ。
トニーは立ち上がって差し出された手をしっかりと握った。他の仲間たちと同様に力強い手だ。
「こっちこそ頼りにしてるぞ、スコット。」
「任せて」と笑顔を見せるスコットに釣られ、トニーも同じように心からの笑顔を浮かべた。
END