短文ログ集1結局落ちれない(神化前夜/アシュレオ)
回生堂のベッドの上で何気ない話をして。
試練がどうだ。天使がうるさい。英雄について回る伝説が煙ったいなど。
押し倒されて。それから先は何があったかはっきり覚えてない。
昔みたいになし崩しに抱かれたりとか。じゃれあう感覚でそういうことがあったのかもしれない。
けれども、ここへ来てから、与えられる記憶総てがうすぼんやりと食われていく。
愛おしげに頬を撫でられて、そのまま右手を取られた。
恭しく口づけする様子に、どこかの貴族みたいな身分でも経験したのかとからかえば。さあね。と柄にもなくごまかされた。
「勇者ってのは、」
不意に紡がれた言葉。その先の言葉を待つように少し下がった頭を見下ろした。
「欲張りな生き物だよな。地位、名誉、富、国。すべてを手に入れてもまだ欲しがってる。」
お前を。と見つめられた同じ色の目。
熱とともに吐き出された言葉を、薄らくらい感情とともに。
「おなじだよ。」
欲しい。と返された言葉に、勇者が何と言ったか。
此れよりは地獄。此れよりは辺獄。此れよりは煉獄。
己の招き入れたる罪。
欲しいというならば。欲しいと己も思うならば。
その道を最後までともに。
罪悪感に苛まれている(ヒュザアス)
英雄にはいろいろあるというけれども。
人の人生いろいろあるとは言うけれども。
そのすべてを、すべての人が理解できるわけじゃない。
寄り添えるわけじゃない。
例えば、己の劣悪な支配されていた過去だって。
総ての人間が寄り添えたわけではない。
だから、理解をしない、寄り添わない。
求められたら、きっと手を差し伸べるだろうけど。
「英雄に、悲しい顔は似合わないよ。」
でも、わがままを言うなら。
あなたを苛むその傷が羨ましすぎて。いつか触れたいとは思ってしまう。
自分を罪悪感にしたいとおもう(ヒュザアス)
度々、魔と人は対立してきた歴史がある。
大魔王によるアストルティア侵攻もその一部であり、魔界がいくら開かれた場所と言われても、魔と人の間に横たわる憎悪は消えたわけではない。
いつ、人が魔を襲うか。あるいはその逆。
それを起こさせないのが今の俺たちの役目だろうがと、砂漠の魔王はいうけれども。
釦のかけ違いのようなことは、きっと近い内に起こるだろう。
そうしたら君は、僕を殺しに来てくれるのかな。
一度人を葬ったその手で、二度目を。
そうあるならば。
「君の二度目の葬式に、僕を連れて行ってほしい」
はやく してほしい(ヒュザアス)
魔と人は同じ場所にはいられない。
ましてや一緒にいるなどというのは言語道断。それはメネトでの反応でもわかっていた。
1つ。たった1つの間違いで、築き上げたものが崩れてしまう砂上の楼閣。
「だからもう1度いう。深入りするな。俺たちは魔であり、いつ人を害するのかわからん。いや、そういう生き物だ。俺たちは人を害するもの。」
だから人に深入りするな。
砂漠の魔王の忠告に、素直にうなずいた。
そうだね、そんなことはわかっている。
魔と人は相容れぬもの。そうやって世界が作った。
古来よりのシステム。
だからそうなる前に。そうなって傷つかないようにと言ってるのは彼なりのやさしさ。
魔であるくせに。他人が傷つくのは許せないし、自分が傷つけるのも許さない。
「そういうとこ、魔王に向いてないよね。」
茶化すように言えば、図星なのか、うるせえとつぶやかれた。
そうなる日はいつか来る。
それが明日か明後日。あるいは1年後、10年後、100年後。
いつになるのかは、預言者でもない限りわからない。
でもね。そうなったとき。そこにいるのは悲しいなって思う自分じゃなくて。
うれしいなって思う自分がいて。
メネトのあの時みたいに。
魔を侮蔑するあの顔で。剣を振り上げる君がいて。
それはとっても喜ばしい日になる。
今度はちゃんと、魔として僕を殺してくれる君がいる。
「大丈夫。」
そういえば砂漠の魔王は信じられないという顔でこちらを見た。
好きになれなるほど。その最後の日は大きい実りとなるのだから。
双子の日(アシュレオ)
いつものことだと誰かが言った。
それに対して自分はなんとなく、そうなんだろうなという空気で受け入れてて。
今更、あれらのそういう性質がどうであるかとか、論議や忠告をする気は一切ない。
若いころはそんな些細なことでも腹を立てていたが、一度死に、英雄として大成してしまえば、すべては些事。
そうやってどこか遠くで天星郷をみていた自分がいた。
ある日。回生堂に一人の天使が血相を変えて駆け込んできた。
「ごめんなさい!」
入ってくるなり、天使から出たのはその一言。
「落ち着け。謝るだけでは何もわからんだろう。まずは説明をせんか。」
フォスティルと歓談していたラダ・ガートが息を切らした天使に声をかける。
「ご、ごめんなさい…!じつは、」
その天使いわく、レオーネがさらわれたという。
「魔物かな。それとも別の、」
フォスティルが言葉を言い切る前に、天使が1通の手紙をアシュレイの前に出す。
「さらった天使が、アシュレイ様にこれをと、」
こういう場面の手紙というのは散々覚えがある。
密談か、決闘か、脅迫か。
「んだよ、めんどっちい…」
封を開けば、ただ一筆。
『スライム島にてまつ』
「あらまあ、決闘の申し込みでしょうか?勇者様となるとおモテになられて大変うらやましい。」
「相手はレオーネ殿を人質にとる輩、一人で行ったところを闇討ち…なんていうことも、我々も同行しましょうか。」
横からのぞき込んできたハクオウの申し出に首を横に振る。
「勇者がそんな卑怯者に後れを取るはずねえだろ!さっさといってぶっ飛ばしてくるからまっとけよ!」
じゃあな、と出て行ったアシュレイにベンヌールが今日の夕飯はカレーだからねと、子供を見送るように声をかけた。
紺碧の試練場。スライム島。
上空から見ればスライムのよう見える浮島。故にそう名付けられた。
天変地異がそのように浮島を作ったのか。それとも誰かの趣味か。
以前誰かが試練場の管理者に聞いたところ、都合が悪いのか答えは返ってこなかったそう。
「お前がアシュレイか」
スライム島に降り立ったアシュレイの前にいたのは天使。特に見覚えのない。
「おう、俺が初代勇者様のアシュレイだけど。なんだ、サインが欲しけりゃこんなまどろっこしいことしないで言ってくれればするのによ。」
相手はあの、性根の悪い天使という生き物だ。
いつ不意打ちが来てもかまわないように、言葉は軽口をたたきながら剣に手をかける。
「ふ、ふふふふ…」
天使が肩を揺らして笑う。そのリズムに乗るようにスライムが跳ね回る。
「貴様の弟、レオーネはこのおれがスライムにかえてやった!返してほしくばこの有象無象のスライムから弟を見つけ出すがよい!」
「は…」
気が抜けた声。
「無理だろう?無理だろうな!なんせこの俺も無理だ!変化の術は俺の前に連れてきた時点で解ける!」
「あー、はい、そうですか…」
「もし間違えたなら、勇者アシュレイは弟さえ見わけもつかない冷たい野郎だと噂を広げてやる!恥ずかしいだろ!」
ぺらぺらと口数多く話す天使を横目に少し高くなった崖から下を見下ろす。
スライム、スライム、スライム。
そこらの草原にうろつく、何でもない無個性の有象無象。
誰の記憶にも残らない。道端の石ころ。すべてが寸分狂わず同じもの。
「なんだ、たったそれだけかよ。」
1点を見つめたアシュレイは崖から飛び降り、最初から目星をつけていたスライムへまっすぐと。
仲間になじめないはぐれスライムが点々といる中で、一匹をつかんで天使の前に持ってきた。
「こいつだろ。」
「は…?」
次は天使が間抜けな声を出す番だった。
無事にレオーネの変化が解け、犯人である天使は二人の前でヤマカミヌ流反省のしぐさ、正座を1時間くらいさせられていた。
「くそ…なぜだ、」
天使が悔しそうに歯噛みするように言う。
「1時間セイザをしてるのにこいつまだはなせるんだな。」
上から侮蔑の顔でレオーネが見下ろす。
「俺の変化の術は天星郷一だぞ!だれにもみやぶれん!何かミスがあったのか…!」
「あー、それだけどな。」
アシュレイがばつの悪そうに頭をかく。
「あんたさ、勇者のもってる破邪の秘技ってしってるか?そのうちの一つ、真実を見抜く勇者の目。」
「…!」
「主に魔物の幻影に使うんだが、そいつは魂の色ってのも見抜く。」
「流石勇者様ってやつだな。恐れ入る」
隣でレオーネがくくく、と笑いを漏らした。
「そいつを使えば見た目がどんな似ててもまるわかりってやつだ。中身はごまかせないからな。っていうのは、ほかの英雄がそうだった場合の話だ。あんたが出した問題はあのスライムの群れからレオーネを探せ。それを使うまでもない。あまりにも簡単だ。」
「く、くそっ!」
「たった一人の血を分けた大事な弟を、兄が見間違うわけねえだろ。人間をちっとばかし甘く見てたな。まあ、レオも戻ったし、今回の騒動はこれで仕舞い。と、いいんじゃねえか。俺の気が変わってここで首をはねられたくねえだろ。」
笑顔で天使の肩をたたく。天使は決めた、いかなる理由があろうとも、英雄に手出しは禁物だと。
回生堂に傷一つなくもどったレオーネの姿を見て英雄たちは心配し、喜んだ。
その日の夕飯はベンヌールが言った通りのカレーであった。
「そもそも英雄に対して本物を見つけろとか、あまりにも考えがなさすぎんじゃねえの。」
カレーを口に運ぶアシュレイを見て考える。
もし自分が逆なら。何物にもなれなかった。まさしく有象無象のスライムのような自分が。
同じ状況だったら。見つけられたのか。と
「さすが初代勇者様ってとこか。」
「なんだ、まだきにしてたのか。」
カチャカチャとカレーと白飯をかき混ぜる。
「勇者だからそうじゃないっていう前に、家族を見間違えるわけないだろ。レオ。お前だってそうだ。逆であってもお前は俺を見つけて見せる。そう信じてる。」
「………。」
「俺はさ、なにがあってもレオはレオだし、どこにいてもみつける。」
「………。」
「だからさ、」
見抜くように、視線を一つ。
「間違って、迷っても、みつけるから。」
「おまえは、そういうやつだよ。」
スライム型にうまく切り抜かれた人参をみつけてはしゃぐアシュレイを見てレオーネは苦笑いする。
迷って間違って。
それでも見つけてみせるというならば。
あなたは間違う私を見つけて。殺してくれるでしょう。
7.3青枠その後(アシュレオ)
歌はもとよりうまくない。
そもそも英雄の一人に天上の歌声やら吟遊詩人やらいるのだから、それを日常的に聞いている輩があれこれという筋合いもないし、いわれる筋合いもない。
きらきら ひかる。
今日も音の微妙にはずれた歌が聞こえる。
よぞらの ほしよ。
子供に聞かせるような、子守歌。
子守歌にしては音程が外れすぎているというのを言ったのは誰なのか。
「おーい!まだ音痴は治らねえのか!」
カブがからかうように声の主に呼びかけると「勇者様の歌声が聞くに堪えない音痴だっていう不敬者はどいつだー!」と笑う声が返ってくる。
きらきら ひかる
よぞらの ほしよ
まばたき しては
みんなを みてる
「歌というのは、根本的なことを言いますと、歌っている本人が楽しければいいのですよ。」
にこりとリナーシェが笑いかける。
きらきら ひかる
よぞらの ほしよ
「本当、いつ聞いてもへったくそ。」
アシュレイの隣に腰掛けた人物が笑う。
「師匠の稽古に歌なんてねえからしょうがねえだろ。」
きらきら ひかる
よぞらの ほしよ
雪解け(ヒュザアス)
春先に雪が解け。
春を待つ新芽をみつけた。
春先に雪が解け。
見つからない死体を見つけた。
春先の雪解けに
君が見つけるものは
どうか春をまつ美しいものでありますように
ぽらりすひとつゆめあかり(ユシュカ+アスバル)
閉ざされた暗闇で、道を進むのは容易にあらず。
砂漠の夜は前後不覚に陥りやすい。
夜の海は途方もなく暗い。
それでも、己が道を目指すなら
己が前を目指すなら。
夜空に光る星を目指していけ。
「星はなく。」
目は閉ざされた。
「光はなく。」
星窓は降ろされた。
「だから、」
見えるはずもない。星も光も目指す印も。
「言い訳だ。」
差し出された羅針盤。
お前が道を目指すなら。
何を以てしても、それでいいんだといいたいのなら。
「一等星を追いかけろ。」
夜空にきらめく星屑の。
一番に輝く一等星。
北を指し続ける。決して動かぬ導きの光。
羅針盤が指し示す、その先を。
さあ。
目を開けて。
星窓を上げて。
星座を数えて。
「お前には自由がある。」
深き闇を漕ぎ出す。
きっとそれは小さな明かりになるでしょう。