イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    比翼連理にはまだ遠いまだ月が出ている
    夜明け前の朝五時。
    喧騒は雪に吸い込まれ、僧院内は冷たく硬い。
    僧院の主であるトゥバン上人は決してそうではないが、エルトナの冬は長く、厳しい。
    規則通りの時間に起き、布団を片付け雨戸を開ける。
    冷たい風を受けながら、朝一番に井戸に水を汲みに行く。
    僧院の生活は決して贅沢でない。
    草履の隙間から入り込む雪が指先を痛めつけるのはもう何度目か。

    静かで、冷たく。
    一人寂しく、痛い。

    それが冬の記憶だった。

    「おいで」

    囲炉裏の前にいるトゥバンが手招きをする。

    「外は大層冷えるでしょう」

    鉄鍋から汁物を器によそい、与える。

    ほうとう。
    寒い日に許された、たった一つの贅沢だった。

    寒い日に燃え盛る火は、暖かい。

    不意に、爆ぜた灰が指先に当たる。
    片手を思わず引っ込めた。
    熱くて、痛い。

    指先の痺れる痛みだけが残った。
    小さな、火傷。

    それが冬の記憶。

    飛び散った火傷の先から広がる体温。
    暖かく。
    ほのかに温もりがあって。

    「ああ、それは、いけない」

    誰かがつぶやいた。

    炎はこの身を温めてくれる。
    炎は恐怖を遠ざけてくれる。

    遥か古代。
    人は炎に救いを見出した。
    人は炎に祈りを見出した。

    寒さから身を守るため。
    恐怖から身を守るため。

    寒く
    痛く
    うすら寂しい冬の記憶。

    「ああ、でも、それはいけない」

    また誰かがつぶやいた。

    炎は人を寒さから守った。
    炎は人を暗闇から守った。
    炎は人を獣から守った。
    炎は人に祈りを伝えた。

    しかし、炎は人に恐ろしさを植え付けるもの。
    内に入り込めばたちまち全てを焼き尽くす。

    暖かな団欒
    暖かな灯り
    暖かな料理

    冬の記憶は、こんなにも暖かったのか。

    「それを受け入れてはいけない」

    雪解けは
    早くても遅くてもいけないから

    こんなにも暖かく
    こんなにも明るく
    こんなにも安堵できるものを

    受け入れるなと。


    いつものように、日が上る前に起きて、水を汲みに行く。
    足取りは、軽かった。
    草履が雪を踏むたび、溶かしていく。

    うすら寂しく凍てつく道のりは一人なのに暖かかった。

    「ああ、それは、いけないことだ」

    何度も何度も語りかける声。

    「炎は全てを焼き尽くす」

    雪の向こうに誰かがいる。

    長髪の。
    自分と違った榛色をした髪。

    「最後の忠告だよ。それはいずれ全てを焼き尽くす。」

    身も
    心も
    在り方も

    今思えば。
    なぜ違和感を抱かなかったのか。

    するりと内に入り込んだ違和感。

    冬の記憶はずっと。
    寒くて寂しくて痛かったのに。

    魔なるもの。
    人に怒りを抱く魔なるものよ。

    我は汝らに愛を与えぬ。
    我は汝らに愛を教えぬ。
    我は汝らを愛さぬ。

    故に
    汝は愛を知ることがない。

    それこそが、我が子を見捨てた女神が背負う罰である。

    愛を知らず
    人を憎み
    故に
    傷つける。

    女神の背負った罰からは逃げられない。


    冬の記憶の暖かさが。
    子供騙しのような歪なものだと気づいてしまった。
    否、子供だったから。暖かさが欲しかったから。歪さから目を逸らした。

    それに気づいたのはわずかな春の記憶。

    大木の桜の木が。
    枝が。
    花が。

    燃えて、落ちる。

    幸せだった主人との春の記憶。

    炎が食い尽くすように、燃えて、飲み込んでいく。

    「僕たちは魔なるもの」

    あの日
    冬の記憶で語りかけてきた声。

    今になってようやく声の主の名前を呼んだ。

    「愛を知らず、愛を教わらず。けれど愛を乞う。女神の背負った罰は人への怒りと共に」

    人を愛すれば傷つけずにはいられない。
    それが魔なるもの。

    「アスバル殿」
    「それでも貴方はそばに置くことを決めた」

    春の記憶を飲み込む炎。
    それは自分の指先まで侵食して。

    「ああ、かわいそうに」

    燃える。
    焼かれる。
    飲み込まれて。
    何か一つは残るだろうか。

    「…残らない」

    炎は全てを焼き尽くす。

    「これが彼なんだ」

    軽蔑した?と言いたげな顔。

    その言葉に首を横に振った。

    それは諦めでも許容でもなく。

    愛してしまったから。
    それでも構わないと。

    指先を侵食する炎が上がってくる。
    爆ぜた灰が指先に当たって。
    内を喰らい尽くして。

    「あまりにもかわいそうだから、なにか残してあげられたら良かったんだけど。無理なんだ」

    コウリンとの思い出も。
    初めての恋も。

    ごめんねと対面で笑うかの魔王の姿が朧げになっていく。

    暖かな炎は
    いずれ全てを焼き尽くす。

    人は炎に安堵を見出し。
    恐怖を見る。

    せめて何かを残したくて足掻いて、かつての主人の名前を呼んだ。
    それを許さないように熱が喉を焼いた。

    こうしてすべて残らなくなる。

    焼いて
    焼き尽くして
    飲み込んで。

    春の記憶から美しい思い出は去っていく。

    まだ。まだ名前は覚えている。
    でもいずれ、それは灰にすらならなくなる。

    それはとても悲しいと思う一方で。
    それをよしと思う自分もいた。

    冬の記憶に暖かさを与え。
    愛を乞うために燃やし尽くす。

    魔なるものが女神と共に背負う罪なら。

    せめて神としてそれを背負いましょう。
    panic_pink Link Message Mute
    2025/05/05 20:16:36

    比翼連理にはまだ遠い

    #DQ10
    #ユシュカ
    #ハクオウ
    #アスバル

    攻めがほとんど出てこない話
    べったーログ

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品